第5回 「リスザルのくらしを語る ~飼育・野生・半野生~」


日時:2020年8月23日(日)13:30~14:20

講師:田中ちぐさ(日本モンキーセンター)、武真祈子(京都大学霊長類研究所)


内容について、こちらから動画をご覧いただけます。


オンライン講座での質問に対する講師からの回答は以下のとおりです。


Q1:タマリンはなぜ昆虫を食べないのですか?

A1:初期の新世界ザルは体重1kg程度(つまりリスザルやヨザルぐらいの大きさ)だったと言われています (Ford and Davis 1992)。タマリンやマーモセットの仲間は進化の過程で小型化していったサルです。つまり「小型の昆虫食者から大型の葉食者へ」という、一般的な法則にはそもそも当てはまりません。マーモセット科に特徴的な食性として「樹液食」がありますが、樹液のタンパク質含有量は葉と同程度とされています(Norconk et al. 2009)。マーモセット科のサルは、必要なタンパク質を昆虫からだけでなく樹液からも摂取しているのでしょう。新世界ザルの中でマーモセット科のサルだけが鉤爪(かぎづめ)を持つのも、太い幹の側面で樹液を食べることと関係していると考えられています。


Q2:リスザルは生きた昆虫ではないと食べないのでしょうか?

A2:比較的手に入れやすい冷凍コオロギや冷凍イナゴを解凍して与えたことはあります。食べることは食べますが、個体によって好き嫌いが激しく、また食べる個体も美味しそうには食べません。やはり活きの良い虫が好きなようです。


Q3:インパの動物たちに上下関係はありますか?

A3:INPAのサル種間で直接的な争いはほとんど見られず、一緒に遊ぶこともあるので、上下関係はないと思います。ただし、個体数には差があるので(リスザル50~60頭、サキ22頭、タマリン3頭)、リスザルが給餌台に押し寄せているタイミングではタマリンがエサをとりに来られない、といった状況は見られます。


Q4:モップくんは、なぜ種子を食べないの?

A4:「種子食者」と言われるサキですが、いつも必ず種子を食べるわけではありません。果肉を食べるか、種子を食べるかは、その果実の種類や熟度によります。モップ君に与えられるフルーツは人間用に品種改良されており、果肉が厚く種子は小さいものが多いですよね。そういうフルーツであれば野生のサキでも果肉だけを食べると思います。このあたりは「サキのくらしを語る」機会があれば詳しくお話したいと思います。


Q5:リスザルは人を利用するとのことですが、霊長類のなかでは頭が良いほうなのでしょうか

A5:人間に近寄ってくるのは頭が良いからというよりは、好奇心やチャレンジ精神の強いサルだ、ということだと思います。こうした性質は、テリトリーを広げたり新しい資源を見つけたりするときには役立ちますが、危険も伴います。たとえば密猟者がいるような環境であれば、サキのように、危険を冒さずひっそりと隠れている性質のほうが「頭が良い」ということになるかもしれません。


Q6:環境への適応能力が種間によって違うかも?というお話がありましたが,INPAのように種間の距離が密な環境では,相対的に体サイズの小さい(弱い?)個体が適応をせざるを得ない,という可能性はないでしょうか?例えば,サキよりも大きい種がいれば,サキが行動変容せざるを得ないとか…直接検証できないことではありますが,いかがお考えでしょうか。

A6:サキとリスザルが直接的に争うことはほとんどなく、一緒に遊ぶこともあります。まれにケンカらしいものが観察された場合でも、リスザルの方がむしろ強気で、サキは及び腰だったりします。体サイズの違いによってサキのほうが強くリスザルが弱いといったことはなさそうです。



Q7:モンキーセンターでは他の動物たちのエリアに立ち入ることはないんですか?

A7:各自、担当するエリアが分かれているので、基本的には自分の担当エリア以外にいくことはほとんどありません。ただ、施設の修繕や人手のかかる作業で他の担当エリアに入ることはあります。また、リスザルの島やWaoランドのように、接客を伴うところについては、スタッフが交代制で入ります。

その他に、担当エリアが替わることもあります。


Q8:個体識別できることによって可能になる食性の研究にはどんなものがありますか?

A8:ライブで回答済み


Q9:睡眠時間は?

A9:モンキーセンターのリスザルは日の入りとともに寝て、日の出とともに起きているのかなと思います。今の季節で大体12時間ぐらいでしょうか。朝スタッフが行くときには起きています。

INPAでも同様です。赤道直下のアマゾンでは1年通じて日の長さがほとんど変わらないので、季節に関わらず18時過ぎには休み、翌日6時前ごろに動き出します。ただし、ここで言っているのは「休んでいる(移動しない)」という意味であり、実際にどのくらい「眠っている」のかはわかりません。


Q10:リスザルの食性に昆虫が占める割合がそれ程高いというのは、驚きました。昆虫食という意味では、ショウガラゴやメガネザルのように、お話にもありましたがもっとサイズが小さく、跳躍移動に長けていて、かつ夜行性の方が適していると思われ、中途半端な大きさで昼行性のリスザルの昆虫食は2次的な適応ではないかと感じました。ご専門が違うかも知れませんが、この点の先行研究等、何かご存じでしょうか?

A10:ライブで回答済み

補足:ライブではご質問の意味を理解できておらずすみません。講演中ではリスザルの特徴として昆虫食を強調しましたが、これは他の新世界ザルと比較した場合の相対的な特徴であり、系統や生息環境の異なるショウガラゴやメガネザルの昆虫食と同列に語れるものではありません。また、講演では通年の食性だけを紹介しましたが、季節ごとに見ると、リスザルは果実の多い時期には採食時間割合にして80%近く果実を食べることもあります(Lima and Ferrari 2003)。昆虫食だけに特化するのではなく、昆虫と果実を季節変化に応じてうまく組み合わせることがリスザルの採食戦略なのだと思います。


Q11:コモンリスザルは雄優位、ボリビアリスザルは雌優位とありましたが、どのような行動から優位を判別しますか?

A11:優位な方は採食場所にゆっくり居座って食べたり、劣位な方を追い払ったりします。劣位な方は優位な方が近づくと場所を譲ったり逃げたりします。そういった観察を積み重ねて判断します。


Q12:インパのような施設を日本で作るのは可能と思われますか?

A12:資金さえあれば可能だと思いますが、日本には冬があるので、その対策(温室?)なども考えるとかなりお金がかかりそうです。モンキーセンターのリスザルの島は、ケージではなく自然植生の中で放し飼いになっているという点でかなり近いと思います。


Q13:先行研究にあったような野生リスザルは他のどのような新世界ザル種と生息域が重なっているのでしょうか。

A13:例えば、東アマゾンで野生コモンリスザルの食性を調べたPinheiro and Ferrari (2013)によれば、アザラヨザル(Aotus azarae), アカテホエザル (Alouatta belzebul), フサオマキザル(Sapajus apella),クロテタマリン (Saguinus niger) , ダスキーティティ(Callicebus moloch) ,ウタヒックヒゲサキ(Chiropotes utahickae)がリスザルと同所的に生息していたようです。アマゾンでは大体どの地域にも5種~10種ほどの霊長類がいます。冒頭のビデオでお見せしたように、マナウス周辺では野生のキンガオサキもリスザルと同じ場所に暮らしています。


Q14:リスザルやほかの昆虫食のサルで、種によっての昆虫の好みはありますか?

A14:ライブで回答済み


Q15:INPAにはヒゲサキはいますか

A15:ヒゲサキはいません。


Q16:リスザルを追いかけながら研究者は何を食べているのですか?追いかけながら食べているのでしようか?

A16:ライブで回答済み


Q17:サキが熟していない果実を食べる傾向があるというのは、体内の共生細菌の種類による酵素の種類の違いが関係しているという可能性はあるのでしょうか?

A17:ありえます。サキは他の霊長類に比べて種子を多く食べます。種子食という特殊な食性進化の過程で、一般的な果実食者とは異なる消化システムを獲得した可能性はあると思います。


Q18:一年間でinpaでのサルの天敵は?

A18:捕食されるのを見たことはありませんが、一番の天敵は空から襲ってくる猛禽類だと考えられます。また、ボア・コンストリクターという大型のヘビが生息しており、このヘビが野生のホエザルのコドモをとらえて食べた例があるようなので、INPAでもサルが食べられている可能性はあります。


Q19:オスが子育てに参加することはありますか?

A19:モンキーセンターでは昨年のハーゲンという個体の子育てを見ている限り、オスが抱っこしているところは確認できていません。2~3歳ぐらいになってくると、オスがこどもと積極的においかけっこやレスリングなどをして遊んでいるので、乳離れしたときがオスの腕の見せ所なのかもしれません。

野生下でも、リスザルのオスは子育てに参加しません。


Q20:インパでは野生に近づけるような工夫をしていますか?

A20:研究者らは、サルたちが近隣の森と行き来できるように「緑の橋」を作りたいという話をしていますが、今のところ具体的な動きはありません。


Q21:INPAに生えている樹木は、自然植生ですか?

A21:ライブで回答済み


Q22:リスザルが何をどれだけ食べたかはどうやって観察して調べているのですか。特に半野生の場合

A22:ライブで回答済み


Q23:昆虫以外に小型爬虫類、両生類、魚類、甲殻類、貝類を食べることはありますか。

A23:ライブで回答済み

補足:魚類、甲殻類、貝類を食べたという報告は私の知る限りありません。基本的に水辺に近寄らないので水生生物は食べないのではないかと思います。


Q24:・野生と半野生では、リスザルの体重や健康状態に差はあるのでしょうか?

・INPAのリスザルは遺伝子の多様性の低下は起きているのでしょうか?

A24:ライブで回答済み

補足:遺伝的多様性の低下が起きている可能性は十分ありますが、きちんと調べるにはDNA解析が必要です。


Q25:INPAでは、密猟や事故の問題は生じてないのですか?

A25:ライブで回答済み

補足:ヒトとサル(特にリスザル)の距離が近いため、双方向に感染症のリスクがあります。INPAでも「ソーシャルディスタンス」を徹底していく必要があります。


参考文献


Ford, Susan M., and Lesa C. Davis. "Systematics and body size: implications for feeding adaptations in New World monkeys." American Journal of Physical Anthropology 88.4 (1992): 415-468.

Lima, Eldianne M., and Stephen F. Ferrari. "Diet of a free-ranging group of squirrel monkeys (Saimiri sciureus) in eastern Brazilian Amazonia." Folia Primatologica 74.3 (2003): 150-158.

Norconk, Marilyn A., et al. "Mechanical and nutritional properties of food as factors in platyrrhine dietary adaptations." South american primates. Springer, New York, NY, (2009): 279-319.

Pinheiro, Tatyana, Stephen F. Ferrari, and Maria Aparecida Lopes. "Activity budget, diet, and use of space by two groups of squirrel monkeys (Saimiri sciureus) in eastern Amazonia." Primates 54.3 (2013): 301-308.