悪魔憑き 上

西欧のどこかの街。

闇が塗りつぶすような暗い夜。


古びたアパートの一室で男が、自らの両足を鎖に繋いでいた。


男は鎖をつなぎ終えると、振るえる手で携帯電話を操り、電話をかけた。


電話の相手はとある司教だった。


「×××かね?」

司教は男の名を呼ぶ。


「司教様、もう限界です、悪魔に憑りつかれてから一年になります。この一年の間に妻にも逃げられました。妻は私が

殺そうと襲いかかって来たと言います。でもそんな記憶ないんです。」



「落ち着け×××、神に祈るのだ」


司教が再び男の名を呼び、励ます。



「病院に行きましたが、どこも異常なしと言われます。こんなに異常なのにですよ?このままじゃ本当に人を殺してしまいます。悪魔の操られて人殺しになるなんてまっぴらです。その前に自ら死を選びます。」


男の手の届く場所には、拳銃が置かれていた。


「死んではならん、自殺は神の意志に反する。そちらにエクソシストを送った、彼が到着するまで耐えるのだ。」



「前にも悪魔祓いは受けました、でも効果がなくて逆に神父様に大怪我をさせてしまったんです。その神父様を来させないで下さい。殺してしまいます」


男は、拳銃へ手を伸ばす。


「安心しろ、今から来る神父は特別だ。」


男は拳銃を掴んだ。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


男の返事はなかった。


「どうした、×××、大丈夫か?」


「大丈夫かあ?なにを寝ぼけている?ジジイ。この男の心配より、その神父の心配をするんだな」


急に男の声が、しわがれた老人のような声に変った。


「・・・・・・・悪魔か」


「その神父も死ぬ、この男も死ぬ。100人くらい殺した後にな。お前も死ぬ、震えて待ってろ司教様」


「神の子の名において命ずる!サタンよ・・」


グシャ!



電話越しの悪魔祓いを行われる前に、携帯電話はぐしゃぐしゃに握り潰された。


そして、男は足の鎖を引き千切る。



とんでもない力だった。


「バラバラに引きちぎってやる、クソ豚の人間どもめ」


そう言って男はドアを蹴破り、真夜中の街へ繰り出した。