この海域において物質の輸送を駆動する原動力は年単位で長期間存在する定在性の渦です。
研究対象海域(図1)の大陸ー沖合間の海氷や海水(水塊)、物質の輸送を駆動する原動力は定在性の渦で(直径約100km)、年単位で長期間存在します。研究対象海域には4つの渦が存在し(図2)、その1つに水温 (T)と塩分(S)センサー、流向流速計などを搭載した時系列物理係留系に溶存酸素(DO)センサーや海洋酸性化の状況を把握するpH/pCO2センサーを搭載した係留系システムを設置し(図3)、日単位で時系列にデータを取得します。また、係留系に設置するセジメントトラップを用いて生物が生産する大型の有機物粒子を週単位で捕捉します。中〜小サイズ粒子、動物プランクトンなど遊泳粒子を捉えるためのイベントベースビジョンセンサー(EVS:SONYの独自開発)も搭載します。係留系周辺にはT、S、DO、pH、硝酸塩、Chl.aのセンサーを搭載した生物地球化学フロート(BGCフロート 図4)を戦略的に展開し、日単位でデータを取得します。係留系とBGCフロートの物理・化学・生物観測データを統合し、渦の物理や栄養塩などの化学環境、食物網の底辺を支える生物生産の実態を時系列で季節や年の特徴を捉えながら把握し、間を結ぶメカニズムの仮説を立てていきます。
粒子の定性・定量的な時系列観測にソニーが開発したインテリジェントセンサー(Event-Based Vision Sensor:EVS)を用いる。1/10000秒の超ハイスピード撮影により、粒子のサイズおよび頻度分布と時空間分布、生物・非生物の分類推定を行います。これまで未測定のサイズの粒子を捉えることが可能となり、セジメントトラップ観測と併せて海洋生物由来の粒子全体量の推定に挑戦します。
令和4年3月 琵琶湖でイベントベースビジョンセンサ(EVS)を用いて測定し解析した動画。大部分の粒子が湖水の流れで画面右上から左下に向かって流される中を、流れに逆らうように上昇していく粒子(生物の可能性が高い)がいくつか観察できる。
個々の粒子別にIDが付番され粒子の移動軌跡と特徴量が算出される。遊泳能力を持つActive粒子と遊泳能力を持たないPassive粒子を解析により区別できる。
COEDOにイベントベースビジョンセンサ(EVS)を搭載し琵琶湖での湖底定点観測を実施。
粒子の移動軌跡を視点を中心にしてレーダーチャート化した図。
琵琶湖内の水流により左下方向にながされるPassive粒子(青線)と自らの泳力によって流れに逆らって移動している6つのActive粒子(赤線)を特徴量から判別。