12V/24Vバッテリー自動充電器修理 以下のリンクをクリックすると修理項目へ飛びます
しばらく放置してあった自動車用バッテリーの自動充電器が全く使えなくなっていました。充電の開始当初に入力側の電圧を検知する回路を備えており、バッテリーの極性や12Vもしくは24Vの電圧を判定して自動で電圧調整して充電する装置 です。
状態
電源スイッチを入れても電源の受電ランプは点灯するものの、一切の操作に反応しません。装置の仕様は上のようなものです。
対応策
一般的に充電器の電子回路は簡単なものが多く回路調査して不良部品を特定して交換すれば復旧できるかと考えて内部を確認しバラして基板を取り出しましたが、これが思いの外複雑で、回路設計もしっかりしており充電器と言えども侮れません。
写真で分かるように、基盤は3ブロックに別れ、電源回路のEMIフィルターなど、π型フィルターを3段カスケードしたもので、国産品ではなかなかお目にかかれないほどに立派な作りです。
回路構成は上の写真・左端EMIフィルター、中央下~中央左下1次側直流高電圧コンバーター(HV-DC CONV) 中央上~中央左上2次側直流降圧コンバーター(DC-DOWN CONV) 右は出力側整流回路及び充電ケーブルにバッテリーを接続した際のバッテリー電圧・極性判別回路となっている。高効率化を図るため一次側高圧コンバーターの出力は380Vあり、EUや中国の動力電圧にも匹敵する。
市販充電器では、100Vの整流回路の後に直流降圧コンバーターを据えて充電電圧を得るものが多いが、このような一般品に比べて回路は数倍複雑であるため、基盤の目視点検で破損や焼けが見られないと不良箇所の特定が簡単に行えない。まずは調査しやすいように基板に接続された配線を外し基板の写真撮影を行う。
片面基板なので回路探査は比較的楽そうなので、まず分かりやすいAC100V電源の入力ラインからテスターによる導通チェックを行うが受電点からヒューズ以降、整流回路まで問題はなさそうだ。
100Vを整流した後には高圧スイッチング用IGBT G20N60Cが2本パラ接続されてDC-DCコンバーターを形成しているが、降圧回路と思いきや、出力側コンデンサは470μ400V耐圧で昇圧コンバーター
写真上、左側がπ型EMIフイルター、中央部HV-DC CONV(直流昇圧高電圧コンバーター)、右DC-DOWN CONV(直流降圧コンバーター)
通電しても発熱や焼けの発生などの問題はないため、100Vを給電してテスターで電圧チェックを行う。100V整流回路及びその次段にあるHV-DC CONV(直流昇圧高電圧コンバーター)部は正常に作動しており高圧直流整流用470μ400WVケミコンの両端には380V近い昇圧出力が発生している。
しかしこの出力を受けて低圧の直流を発生するDC-DOWN CONV(直流降圧コンバーター) は全く動作せずスイッチング回路が動作している様子もない。HV-CONV以降、DOWN CONV部若しくは入力判定回路に何らかの異常があると見られるが、回路の詳細が分からず手立てがない。
大手メーカーの製品でもなし、製品型番も無いためネットにも回路図は上がっておらず回路パターンをたどりながら回路を起こしてゆく以外に方法がなさそうだ。
やむなく撮影基板から、回路図を起こしながら不良箇所の特定を行うことにする。基板は両面を撮影しどちらかの画像を左右反転して基板上のパーツの種類を特定して回路図に起こしてゆく。
回路はパーツの作成・貼付けが自由に出来るエクセル等のソフトを使って基板上に実体回路を再現して、別図で回路図を構成する。一見手間がかかるが、適当に思いつきでやるよりも最終的には回路修理の時間が短縮されることが多い。
上はEMIフィルターから整流回路に至る部分。電源側の交換可能なヒューズFUの他にも直流回路に基盤埋め込みのサーキットプロテクタが入っている。
パーツの大きいEMIフィルターや整流回路、スイッチング用IGBT G20N60Cなどは割と楽に回路を拾えるがコンバーターの制御回路は集積化しているので面倒だ。
上はG20N60C高圧スイッチングFET(Vds600V.Vgs±30V.Id45A)の並列駆動によるHV-DC CONV部。この部分は正常に働いているためPWMドライブ回路の詳細は未調査で省いてある。またIGBTはトランジスタ記号で代用している。
左側央の8pin ICがUC3844B
回路詳細は不明だがスイッチングパルスの発生は専用のPWMコントローラーIC UC2844Bによって行っており、Vrefの電圧とフィードバック回路の電圧Vfbkを突き合わせることによりスイッチング出力を一定値に制御できる。
次が問題となるDC-DOWN CONV部。スイッチングには前段と同じくIGBT G20N60Cを使用しており前段の400V近い高圧を受けて2個のIGBTによる差動スイッチング回路となっている。
スイッチング阻止時の逆電圧は2個のフライホイールダイオードによって電源側へ還流させ高圧ケミコンを充電する。
スイッチングパルスの発生は、この部分も専用のPWMコントローラーIC UC2844Bのサブのモジュール基板によって行っており、Vrefの電圧とフィードバック回路の電圧Vfbkを突き合わせることによりスイッチング出力を設定値に制御できる。
この回路を眺めていて気づくことは、IGBTのスイッチングパルスを発生するPWM CONTROLLER 周辺回路がDC24V駆動なのだが、肝心のDC24Vは、IGBTのスイッチング出力を整流して作っているため、スイッチング動作がなければ発生しない。
この問題を回避するためDC24V発生回路にはR25 100KΩの抵抗を通してDC380Vからある程度の電圧を印加してスイッチング回路が始動出来るようにしてある。
制御用のDC24Vを直接この部分に加えてやればUC3844Bは発振すると見られるので、ドライブ回路は正常に働くものか、定電圧電源より24VZennerの両端に電源を加えてみることにした。
果たしてDC18V程の電圧を加えるとUC3844Bは正常に発振出力を出すことがわかる。ではなぜ高圧が掛かっているのに出力が出ないのか。降圧用のR25が正常なら当然働くべきだが、働かない以上R25が断線しているのか。
左下端の抵抗がR25 100KΩ 黒く焼損しているように見えるのは単なる基板の汚れ。右側中央はUC2844Bを乗せたIGBTのスイッチングパルスを発生するPWM CONTROLLER モジュール
そこでこの抵抗値を測定すると断線状態、始動時の低圧直流の供給が無いため降圧コンバーターが動作せず低圧出力が発生しなかったようだ。
電源回路に100V通電状態でこの24Vを測定してみると予想通り0V、ここに至って多分故障原因はR25 100KΩの断線に因るものと判断する。
400V近い高圧を分圧するので容量アップして保護スリーブを入れた5W100kと交換する。上写真中央下部が断線したR25・100kΩ 目視では抵抗の焼損は確認できない。
基板を組み込みバッテリーに接続して充電動作が正常なことを確認して修理完了とする。
回路図の作成を行い手間は掛かったが、回路動作を踏まえたうえで不良箇所の特定に至ったので修理の質も高く、次回にまた何らかのトラブルが発生しても対応が楽だろうと思える。
電子回路の修理は、故障箇所がすぐに想像出来る場合以外は、当てずっぽうでむやみに部品を調べてもなかなか原因を特定できるものではない。
私の経験から実装密度の低い回路では、手間でも地道に回路を追い、回路図を作成して回路動作を確認しながら修理を進めるほうが早い復旧につながることが多いといえます。