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娘が多年旅行に携行していたスーツケースのキャスターローラーのゴムに剥離が出始めました。重量制限一杯の荷物を詰め込んで頻繁に旅行するため経年疲労でゴムの劣化が始まった様子です。
調べてみると8個のローラーのうちゴムが割れてホイールから剥離したものから、ゴムが欠けてひび割れたものまでまちまちですが、剥離部分をゴム接着剤で修復してもゴムの劣化程度から見て一時的な修理となってしまいそうです。
キャスターには直径60mmのローラーが2個対で付いており、キャスター4個でローラー総数は8個。キャスターとローラーの取付は大変しっかりしていて軸のガタつきもなく、僅かにローラーと軸間にガタが見られる程度なので表面のゴムのみ交換できるようならそれでも十分に継続使用可能な作りをしていますが、調べてみてもゴムのみは手に入らない様子で、ローラー8個をそっくり交換するか、キャスターそのものを4個交換するかどちらかの修理となりそうです。
スーツケースのキャスターに限らず、メンテナンス可能な交換修理部品の多くが中華通販のサイトで販売されており安価に入手できるので幾つか通販サイトを当ってみましたが同等のキャスターを販売している所はない模様で結局8個の車輪部分を交換することに決めました。
キャスターのホイール部はホイールキャップを取り外せば車軸の軸端にアクセスできます。外して確認すると軸端を叩き潰してホイールを抑えているワッシャーを止めて車輪が抜けないようにしてある様子です。
左写真はヘキサゴンレンチの合いを刻んだ軸端。右写真、反対側は先端部を押し広げてワッシャを加締めているからヘキサゴンネジの意味はないのだがビス止めするためネジ切すると軸の強度が低下するので加締めに仕様変更したものか。
車軸の片側の先端にはヘキサゴンレンチの合いが切られていてネジ止めを念頭に設計された様子ですが逆側はピンの先端を押し広げて圧接によりワッシャ部を抜けなくしてあります。
軸端をディスクグラインダーで削り飛ばせはホイールが抜け、車軸にも簡単にアクセスできそうなのでキャスター部を1個取り外して軸端を擦り飛ばしキャスターの軸受けから軸を抜き出しました。
軸は黒染めした鋼材製でスリーブとの嵌め合いも硬く大変しっかりした造り。車輪は内径8mmで軸との摺動部には硬質の素材が埋め込まれている模様。
軸は黒染めした鋼製で6mmに8mmの段付き加工された本体軸と6mm軸に嵌る外径8mmのスリーブ部からなり、中心6mm、両側8mmに段付き加工された軸受け部を両側から挟み込んでガタつかないように固定する構造です。
このような構造なら車軸の8mm段付き部がキャスターの軸受けの段付きを両側からしっかり挟み込み車軸のガタを抑えることが出来ます。外径8mm長さ約15mmの車軸とスリーブ部に内径8mm厚み約12mmの車輪が嵌りますが上の図には車輪の部分は描いていません。
車軸と軸受けの構造が分かったので、カーボン筺体のケースの丈夫さに見合う車輪を通販サイトで物色し、中華通販ではなくアマゾンにあがっていた車輪のセットを頼むことにしました。
仕様が大きく異なるのはベアリングを装置しているため車輪の内径が6mmで交換用に6mm外径長さ50mmの交換用の軸4本が入っていることです。既設のキャスター軸受け部は先に図示したように内径8mmの部分が内径6mm部の両端に3.5mm程存在するためこの部分を埋める内径6mm外径8mmのスリーブが8個必要になります。
この車輪は硬質のウレタンゴム製で軸受け部は608Z相当のベアリング玉が埋め込まれているようですが、正規の608ベアリングが装置されているわけではないのでその強度については怪しいところがありますが既存のタイヤよりは丈夫ではないかとの判断です。
先ずは取り外した一個目のキャスターの車輪を交換してみました。タイヤの幅が12mmであった既設の軸受けでは長さが足りないため商品に添付されていた50mm長の車軸と交換します。
キャスター軸受けの8mm部分を埋めるには、添付されていたスリーブは内径6.5mmもあって軸がガタつくため8mm直径の磨き鋼材に6mmの穴を開けてガタのない3.5mm長のスリーブを作りました。
軸はベアリング内輪と一体化させ添付の5mmビスで締め付けてガタの無いようにするためスリーブ長で調整するか、ワッシャで軸長に合うように調整すれば完成です。
このキャスターはいとも簡単に交換できたので2個目のキャスターの車輪を取り外しに掛かりましたが此処で思わぬ事態に陥りました。残りの3個のキャスターの軸受け部は先に書いた段付きの車軸とスリーブで車輪が固定されているものではなく、軸受けに8mm径の鋼製軸が埋め込まれて抜き出すことが不可能な構造であったのです。
切断時の発熱を抑えるため切断能力の高いステンレス用ディスクで軸端の加締め部分をグラインダーで擦り飛ばし、押さえワッシャを取り外すと車輪は外れるものの8mm径の車軸は軸受け材に固着させてあり抜けない構造でした。
確かにこのような軸構造の方が一つ目のキャスターよりも機械強度も高いし部品製作も容易で経費も節約できて一石二鳥では有ります。しかし軸が抜けないとなると、もとより8mmの車軸に内径6mmの車輪を付ける訳に行きませんから取り換え予定はすっかり狂ってしまいました。
このキャスターは外径8mmの通し軸で、軸はキャスターの軸受け部分に溶着されていた。軸が抜けないので軸を6mmに減径もできない。
誠に厄介なことになったもので軸を無理に抜けば固着している硬質プラスチックの軸受け材を破損することは目に見えているし、軸受け部分の内径も8mmではゴソゴソになるでしょうからより外径の大きな軸受けスリーブを削りだして軸受け材に接着せねばなりません。
この状態で8mm軸を無理に抜かず6mm内径の車輪を取り付けるためには、軸受けに固着している8mm軸の中芯に6mmの穴を旋削して6mm外径の軸を通す以外に道はなさそうです。
幸い軸受けの両端に8mm外径の軸が14mm程出ているのでこの部分をバイスチャックで挟みフライスで軸芯に6mm径の穴を穿ちました。心出しは8mm径のフライスビットをチャッキングして8mm軸と一直線になる様に位置決めしてテーブルを固定し、軸芯をずらさない様に1.8mm・3mm・5.7mm・6mmとドリルビットの径を上げて行き最後に6mmで穿孔します。
ビットの径を小まめに替えたのは旋削時の発熱を抑えてプラスティックの軸受け部に与える熱的ダメージを少しでも抑えるためです。注油しながらの作業ですが、よほど品質の良いビットを使わない限り旋削時にはある程度の摩擦熱の発生が伴います。
ただし一方向から貫通させると芯ずれする可能性があるため、軸受けの中心を過ぎる辺り迄旋削したら軸を逆向きにして反対側から穴を開け最後に6mmビットで貫通穴を開きます。
6mm孔が貫通したら、バイスに挟んだ状態で飛び出している8mm軸を軸受けの基部から1.5mm程残した位置で切断しますが2/3程切ったら反対側の軸に挟みかえて反対の軸を切り落としてから、最後に先に切った軸の残り1/3を切り飛ばし最後に両方の切断部を研磨ディスクで平滑に仕上げます。
切断時には樹脂の軸受け部分で固定せず、可能な限り軸部分を固定して切らないと、切削時のトルクと発熱で軸が軸受けの樹脂から剥離して軸受けの変形を招く可能性があります。切断整形が終われば後は車軸に車輪を通し、固定ネジにネジロックを塗って締め付ければようやく終わりです。
最後にすべてのキャスターをスーツケース本体にネジ止めしたら、ネジの突出部に緩衝用のクッションテープを張り付けて完成です。
4個のキャスターのうち1個だけが異なった車軸の構造をしているという厄介な事態に出会いましたが、幸い我が家にはそれなりの工具や工作機械があったため、何とか無理やりすべてのキャスターの車輪を交換することが出来ました。
部品加工の設備が乏しい一般家庭であれば正直このような状態に直面して自力でキャスターの交換を行うことは難しいのではないかと思われます。ことにキャスターの取り換え説明図にある様に8mm外径の通し軸を手作業で切断するのは決して楽な作業ではないし、切断しても軸が抜けない状態では途方に暮れてしまうでしょう。
この種のメンテナンス作業は対象の構造を十分につかんでいないと大きな落とし穴がある好例ではないかと思いました。