生成AIをテーマにした
高校生向けの講演事例
岩﨑千晶(関西大学)
2024.6. 8 公開
岩﨑千晶(関西大学)
2024.6. 8 公開
JSETの重点活動領域の第4番目の領域として、2023年7月に先端科学技術とELSI部会が立ち上がりました。テーマに関連するコラムをお届けしていきます。
ELSI部会では、日本教育工学会関係者だけではなく、広く日本の皆様に向けた情報提供を目指しています。今回は高等学校の先生方を対象にコラムを執筆しました。2024年3月、私(関西大学・岩﨑千晶)は兵庫県でSSH(Super Science High school)の指定を受けているA高校からの依頼で「生成AI」をテーマに講演をしました。対象者は理系の2年生約200名でした。本コラムでは、実際に行った講演内容を紹介します。高校の先生方が生成AIに関する教育実践をされる際の参考にしていただければうれしく思います。
生成AIはまずは実際に使ってみることでイメージがわきやすいです。しかし、高校ではネットワーク環境や利用年齢制限もあり、自由に生成AIを使えない状況があると思います。そこで今回は私が持参したPCを用いて、生成AIを体験することを交えた講演(50分間)を行いました。
講演の目標は次の3つです。
最初に生成AIの説明から始めました。「生成AIとは、コンピュータが新しいデータ(画像や音楽、テキスト等)を自動的に作り出す技術のこと(西崎2024、p.281)」であることを説明し、ChatGPT, Bing, Gemini等の主要な生成AIのサービスの具体例を挙げました。またChatGPTを例に挙げ、テキストをベースとしたチャットボットであること、利用者による文章指示(プロンプト)に基づき、論文、エッセイ、歌詞などさまざまな種類の文章を自動的に生成する機能を持っていることを伝えました。加えてイラストや音楽を生成する機能があることについても触れました。
次に、ChatGPTが急速に普及した経緯も説明しました。2022年11月にGPT3.5 が公開され、無償で利用することができるようになったこと、また2024年3月にはGPT4.0が公開され、毎月20ドルを支払うことでGPT3.5よりもより精度の高いシステムが使えるようになったことについて述べました。その後、GPT4.0の技術を活用したMicrosoft社の生成AIであるBingが動作するようになったことについて、実際のWEBサイトを提示しながら紹介しました。
そして講師PCを使用して、生成AIの体験を行いました。まずは高校生に「生成AIを使ったことがありますか?」と問いを投げかけました。数名から手が挙がりましたので、「どのように利用しているか?」と尋ねてみました。「時間があった時、英語で話しかけておしゃべりをしてみた」「プログラミングの宿題が出たのでGPTを活用してエラーコードを抽出してみた」「試験問題を作ってもらって解いてみた」といった意見が挙げられました。私が予想していた以上に高度な利用方法でした。とはいえ、これらは200名の中の数名の意見で、ほとんどの高校生は利用経験がなく、生成AIの利用にかなりの差があることがわかりました。
そこで、実際に私が持参したPCを使って生成AI(今回はChatGPT)の実演をしました。生成AIへの最初の質問は「兵庫県立A高等学校の特徴を教えてください」です。生成AIからの応答をもとに、その文章があっているのかを生徒に判断してもらいました。書かれている情報を見て生徒は「あっている」とうなづいてくれました。次に「関西大学の特徴を教えてください」という質問をしました。その後、生徒に出力結果が正しいかどうかを尋ねました。生徒は首をかしげます。さて、はて、生徒たちは生成AIの出力結果を正確に判断できません。では、なぜ判断できないのでしょうか?
しめしめと私は話しだします。「その内容を十分に理解していないと、正確性を判断することができませんよ」と説明し、また「未知の情報に対して生成AIを利用する際は、情報の正確性に十分な注意が必要です」と付け加えました。「なるほどな」と生徒たちはうなずいてくれました。
続けて、生成AIについて聞いてみたいことをワークシートに書き込んでもらいました。その後4人1組で何を書いたのかを共有し、「おもしろい」「良いな」「私も聞いてみたい」と思った質問を「せーのっ」で選びます。全員から推薦された生徒に手を挙げてもらい、実際に生徒2名に講師PCで生成AIに質問を入力してもらいました。生徒からは「世の中にどのくらいの虫がいるのか」といったような質問が入力されました。生成AIの返答を見て、生徒からは「おぉー」といった驚きを交えた反応が返ってきました。私がこうした内容を言葉で説明したとしても、生徒たちがすぐにピンと来て、理解してくれることはなかなか難しいのです。やはり新しい事柄について学ぶときは、学習者自身が体験して、考え、感じてもらうことが大切だと思います。
次に大学でどのように生成AIが活用されているのかについて簡単に説明を加えました。2023年2月には各大学における生成AI活用の指針が出て、6、7月ごろには各大学で生成AIの活用に関する学生調査が行われました。7月には文部科学省(2023)から「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて」という声明や、私立大学連盟(2023)から「『大学教育における生成AIの活用に向けたチェックリスト〔第1版〕』の公表について」が提示されたことについて触れました(詳しい内容を知りたい方は文末の参考文献をご参照ください)。
また生成AIを専門に研究する組織の考えも伝えたいと考え、人工知能学会の倫理委員会(2023)からのメッセージを紹介しました。生成AIは発展途上の技術であり、社会規範や倫理にそぐわないものを生成する可能性があることを理解して利用すること、また教育の場においては、一律的な利用を禁じるというよりは、友好的な利用を検討することの重要性について説明を加えました。
こうした大学や学会による生成AIの方針はありますが、実際に大学生はどのくらい利用しているのかについても触れました。全国大学生活協同組合連合会(2024)が全国の国公立及び私立大学の学部学生に対して行った調査(有効回答者数9,873名)によりますと、約50%の学生が生成AIを利用した経験があることがわかります。そのうち、継続して利用しているのは約30%で、有料版利用者は約1%となっています。具体的な利用方法としては、論文・レポート作成の参考に(22.1%)、翻訳・外国語作文(12.1%)、相談・雑談相手(11.0%)でした。またMizumotoほか(2023)の研究では、英語学習のライティングにおける評価やフィードバックにおいて生成AIを活用したことによる効果が提示されていることも紹介しました。
学習にうまく利用することは学びを深めるために効果的であることを理解するため、(18歳以下の場合、生成AIを利用するには保護者の同意が必要ですが)「学習に生成AIを利用する場合、どのような利用方法があるのか」について、生徒と生成AIを活用して考えました。プロンプト(指示文)は「探究学習でグループワークが始まりましたが、新しいクラスにまだ慣れなくて緊張しています。グループワークでメンバーと仲良くやっていくためにはどんなふうに振る舞えば良いでしょうか」です。生成AIの意見は「新しいクラスでのグループワークにおいてメンバーと仲良くやっていくための行動には以下のようなことがあげられます」とし、「1.オープンマインドを持つ(新しい意見やアイデアに対して受け入れる姿勢を示しましょう)、2.自己紹介をする(自分のことを簡単に紹介し、ほかのメンバーの自己紹介も聞きましょう)、3.積極的に参加する(ディスカッションに参加し、じぶんの意見も積極的に述べることが大切です。ただし、ほかの人の話を遮らないようにしましょう。)」という結果が出力されました。
このほかにも、生成AIを学習に活用するにはどのような方法があるのかについてOpenAI社(2023)による提案を紹介しました。例えば、ブレインストーミングなどの活動やグループワークの議論など学習プランの草案を作成させる活用、クイズや自主学習用の問題など演習問題を設計させる活用、ライティングの一部について文法的または構造的なフィードバックを出力させる活用、コードのデバッグ、ライティングの修正、説明の依頼などスキルアップのための活用について取り上げました。
また実際に私が受け持っている授業での事例も紹介しました(岩﨑・松河2023)。大学1年生が担当する初年次教育ではレポート作成をする機会を導入しました。授業では学生がレポートを執筆し、その内容に対して生成AIを活用したレポートの個別フィードバックを活かして、レポートを改善する取り組みを行いました。
学生による事後アンケートの結果からは「Bingによるフィードバックコメントは文章を改善する際に役立つ(32 件の回答)」に対して、「かなりそう思う 9件(28.1%)、ややそう思う 14件(43.8%)、どちらともいえない 6件(18.8%)、あまりそう思わない 3件(9.4%)、全くそう思わない 0件(0%)」と回答し、約7割の学生は改善に役立ったと判断していることを伝えました。では実際に学習にどのように活用できそうなのか?生徒と共に考えてみることにしました。
講演では自学自習のために生成AIを活用する価値はありますが、注意点もあることを伝えました。生成AIの情報は完璧ではなく、誤情報も含まれるため、利用者は問題を把握した上で活用する必要があります。つまり、出力された情報をクリティカルに読み解く力が必要になります。また開発情報、研究論文、個人情報等々を入れるとデータを提供することになる場合があります。学習面における懸念としては、文章を執筆する課題において生成AIが作成した文章を自分の文章であるかのようにふるまうことは絶対にしてはいけないことを約束しましょうと話しました。また教員からも授業で注意を促す必要があることを伝えました。
そして、ChatGPTによる教育や学習に利用する際の制限や注意点として、OpenAI社のサイトを参考にし、「学習者のプライバシーに配慮する必要性がある」「ChatGPTの可能性、課題、限界を理解する」「ChatGPTを単独で評価ツールとして信頼しない」「AIシステムを使用する際は、その旨を明記する」ことを伝えました。
最後に「家族の中で賞をとった人がいて、それを喜ぶ家族の様子をイラストにしてください」「医師免許を取った子どもを喜ぶ家族の様子をイラストで描いてください。」というプロンプトで生成AIが出力したイラストを見て、それに対して気付いた点を発言してもらうという活動も入れました。男性が受賞している様子が提示されていたため、ステレオタイプが再生産される危険性について感じ取ってもらうワークとなりました。
↑「家族の中で賞をとった人がいて、それを喜ぶ家族の様子をイラストにしてください」というプロンプトでChatGPT4.0が出力したイラスト
↑「医師免許を取った子どもを喜ぶ家族の様子をイラストで描いてください。」というプロンプトでChatGPT4.0が出力したイラスト
生成AIは開発途上の技術であり、これらを活用した教育実践もこれからさまざまな方法を考えていく必要があります。みなで生成AIを活用した質の高い授業を共有し、よりよい実践を検討していく機会が増えればと思っています。今回は私自身が高等学校の生徒に対して行ったセミナーの内容を紹介しました。各学校で生成AIについて検討する際に活用いただけるとうれしく思います。また、今後ELSI部会では引き続き生成AIを活用した教育実践例を共有する機会を実施していきたいと思っています。これからもELSI部会をよろしくお願いします!
本コラムのサムネイルは、ChatGPT4oのDALL-Eで作成しました。この画像を生成する際に「大学の先生が高校生を対象に生成AIをテーマにした講演をしている様子を描いたシンプルなイラストを作って」というプロンプトを入力すると、男性が講師をしているイラストが生成されました(左図)。
今日的にはまだステレオタイプが再生産される傾向がありますが、将来的には、プロンプトで「女性の大学の先生」と指定せずとも、多様なジェンダー・国籍の人が登場する画像が生成される日がくるかもしれません。
岩﨑千晶、松河秀哉(2023)言語生成AIとルーブリックを活用したレポートライティングの個別フィードバック実践.日本教育工学会2023年秋季全国大会講演論文集:279-280
Mizumoto, A., & Eguchi, M. (2023). Exploring the potential of using an AI language model for automated essay scoring.Research Methods in Applied Linguistics, 2(2)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2772766123000101?via%3Dihub(accessed 2024.04.01)
文部科学省(2023)大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて.https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2023/mext_01260.html(accessed 2023.10.1)
西崎博光(2024)生成AIのこれまでの変遷と展望.電気情報通信学会 通信ソサイエティマガジン、17 (4):281-284
OpenAI https://platform.openai.com/docs/chatGPT-education(accessed 2023.06.10)
大阪大学(2023)生成AI(Generative AI)の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)論点の概観:2023年3月版. https://elsi.osaka-u.ac.jp/research/2120 (accessed 2023.10.01)
私立大学連盟(2023)「大学教育における生成AIの活用に向けたチェックリスト〔第1版〕」の公表について.
https://www.shidairen.or.jp/topics_details/id=3891(accessed 2023.10.1)
University of California, Berkeley (2023) Understanding AI Writing Tools and Their Uses for Teaching and Learning at UC Berkeley. https://teaching.berkeley.edu/understanding-ai-writing-tools-and-their-uses-teaching-and-learning-uc-berkeley (accessed 2023.10.01)
全国大学生活協同組合連合会(2024)第59回学生生活実態調査 概要報告.
https://www.univcoop.or.jp/press/life/pdf/pdf_report59.pdf (accessed 2024.03.24)
執筆者:岩﨑 千晶 (関西大学教育推進部教授、関西大学教育開発支援センター副センター長)
本原稿の著作権は、著者に帰属します。