「間」としての窓 / A window as 'in-between' 


建築の窓は、壁を作ることにより発生する「内」と「外」に穴を空け、光や風、風景といった外部の要素を建築の内部に取り込むものである。その窓は、根源的には石を積み上げたり粘土を練って作られたただの穴だった。

現在も、町屋の坪庭や中庭などはヴォリュームに真上から穴を開けることで突発的に外部が出現する構造を持っており、穴としての感覚を残している。しかし、透明素材の開発や構造の発達による巨大化から、近代の建築の窓は穴としての感覚を失いつつある。窓の根本的な役割の再確認と同時に、拡張した窓の存在を再考することが本作品の目的である。

本作品は建築を抽象化して扱い、建築に穴を空けるという操作とその穴の存在を現代のテクノロジーの介入により、情報を内部に取り込むための感覚器官(メディア)として機能する物であると定義し、窓の拡張を目論むものである。

本作品を設置した場所は「象徴的な外部」と「抽象的な内部」である。「象徴的な外部」とは今回の設置場所である建築の広場である。この広場は円形の舞台のような形状になっており、この建築を象徴する特異な場所である。対して、「抽象的な内部」としたギャラリー空間は、作品の展示といった用途の多様さを問われる場所であり、窓や時計といった外部との接地点になるエレメントもないため、抽象的な空間として定義をした。この二か所は建物の中心を東西に貫く直線であり、建築をハコとして捉え、その真ん中に穴を空ける操作である。

既存の窓は入力と出力の関係が近い場所にあり、窓を介したすぐそばでの関係で成立している。そのため、外部の自然が内部に取り込まれている感覚が薄い。そこで、テクノロジーを介入させることで、入力と出力の場所を引き離した新しい窓の構造を設計する。入力と出力の関係を引き離した場所に設定し、 接続と外部の再現により、窓の役割が外の情報を獲得し、内に取り込む穴であることを再認識する構造を作る。

本作品による接続はニ種類ある。鑑賞者は二つのフレームを鑑賞し、屋内と屋外のフレームをイメージ上で接続するため、離れた地点の物理的な距離のある接続を発生させる。一方、センサーで取得した値はインターネットを介して送受信されるため、値の反映はほぼリアルタイムに行われる。そのため、テクノロジーの介入により距離の無い接続が発生する。この、「距離のある接続」と「距離の無い接続」のニ種類の接続をもつ本作品を、≪「間」としての窓≫と名づけ、「窓的」な作品と位置付けた。

内部のシステムは、加速度センサーを用いて風の強さの値を取得する。取得した値は外部のモジュールから内部のモジュールへ、インターネットを介して送受信される。受信した値を元に、内部でファンを使い、カーテンを揺らす。センシングした外部の風の強さの値の変化が、インターネットを介して離れた場所で布の揺れとして出力される仕組みを作っている。

本作品では、センサーを二か所配置し、各センサーに対応したファンを二台設置している。センサーを二か所設置するため、それぞれ異なる値を取得することができる。そして、得た値をそれぞれ異なる箇所に出力するため、二枚のカーテンの動きをより自然な現象に見えるよう設計を行った。

さらに、二台のファンには風を分散させるカバーを取付けた。扇風機やPCの羽の構造は、羽の向いた方向に向かって、風を点で出力する特徴を持っている。点で出力された風は布を揺らすときに押し出すような、人工的な風であることがわかる動きになる。そのため、点で出力される風を分散させ、より自然の風のような柔らかくランダムな布の動きをデザインした。

本作品によって、近代建築に穴を開け、窓を情報メディアとして捉えることを試みた。

本作品の情報メディアとしての特徴として「間」を持つことを挙げる。この「間」を作ることを実現可能にしたのがインターネットを用いた送受信による外部の再構成であり、仮想での接続である。

さらに、既存の窓が本来感覚器官として定義されていた部分を、屋外からの値を取得し、カーテンを揺らすといったオブジェクトへの変換と、その揺れ方がより自然に近い再現を作り、建築の内側で自然の持つ性質を感じさせるといった点から、視覚的・触覚的な感覚を得る装置としての機能をもった作品でもあると考える。