不定形な場 / undefined field 

従来の建築がもつ主観的な設計からの逸脱を図るアプローチである。

設計という制御性の高いアプローチから、建築以外の生成過程を応用して設計することで他者性を受け入れるアプローチへの変化を目論む。

この設計課題では自然のルールを用いることとそこから生まれる建築がどのよう な機能を持って利用者に働くのかを想定するところまでを考えることに挑戦した。


自然のルールを建築の設計に取り入れるということは、予想外の形を受け入れ、従来の設計方法からの逸脱を図るものであるその一方で、飛躍的な操作 であるため、うまくルールから建築へと昇華することができなかった。

そこでルールと設計物 の間に抽象的なカタチを設定し、[ ルールの選定 ][ 抽象的な形への変換 ][ 機能・素材の追加 ] という三つの過程に手法を分解した。手法の分解により、制作者にとって飛躍の高い操作から 解像度をあげた操作として扱うことを試みた。

このような操作の手順を組み立てたのちに、形とシステムの生成を行った。

まず、ルールの選定において、敷地の調査から「変化」というキーワードと「自然のルール」から、氷が水へと溶ける状態変化[溶ける/凍る]を建築へと転用するルールとして設定した。次に氷から水へと[溶ける/凍る]を繰り返す現象を分子の動きから観察を行った。この観察から、抽象的なカタチを構想する。水の分子構造は105度の角度を持った二等辺三角形に近い形をしており、氷の分子構造は105度の角を対面に二か所持つ六角の分子の形をしている。この形から、三角錐の立体と六角柱の立体を構想した。さらに、できた抽象的なカタチに対して、氷と水の[溶ける/凍る]という現象に存在するもう一つの重要なルールである、水の分子は単独で自由に動き回ることで液体として、氷の分子は互いに連結し、固体となるというルールを付与する。

これらのカタチに対して、機能・素材の追加を行った。

二種類のカタチそれぞれが動産・不動産として機能させることを考え、仮設建築として昇華する。水の分子から構想したカタチは単身用ユニットとして、敷地内で簡単に場所を移動し、水の流動的な動きを残すような、敷地の中を自由に移動・浸食するイメージだ。ここでは絵画や陶芸など制作場所の変化を好むアーティストの活動を想定する。一方、氷の分子から構想したカタチは最小限の生活スペースを確保し、それらが連結することで複数人の長期的な制作期間や、大きなスケールの作品、またギャラリーのような展示会場に対応する機能をイメージしている。

三角のユニットも六角のユニットもそれぞれ主要な部材の長さを2500mmに設定している。主要な部材の長さが統一されていることで、その部材はユニットが解体されるたびに、どちらかのユニットに組み込まれる形で再度機能する。水と氷の関係性のルールが介在することで、仮設建築としての部材の組み換え以上に変形可能な特性を最大限生かす概念的なアプローチであると考えている。