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イベントについて-


このイベントは7月23日に情報科学芸術大学院大学で行われたオープンハウスのイベントにおいて開催した「なぜか!?アンフラマンス」というトークイベント内で発表したものである。イベントに向けて、発表者四人がそれぞれinframince」について解釈を深め、発表を行うイベントであった。

https://www.iamas.ac.jp/report/iamasopenhouse2020-01/




-デュシャンとアンフラマンス  Duchamp&Inframince-


1887年7月28日-1968年10月2日

フランス生まれの美術家で1955年にアメリカ国籍を取得。1912年頃まで絵画を表現の主体としていたが、代表作「泉」をはじめとした既製品を扱ったレディメイド作品を散発的に発表。「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」通称大ガラスと呼ばれるガラスを使った作品を集大成として取り組むも、完成前に制作をやめ30代以降はチェスに没頭しほとんど芸術家としての活動を見ることができない。また、ニューヨーク・ダダの中心的な人物で、コンセプチュアルアートなどを生み出した現代美術の先駆者であり、20世紀に最も影響を与えた作家のひとりである。


アンフラマンスはデュシャンによる造語でフランス語でinfra(下部の)とmince(薄い)という意味からなる。

初めてアンフラマンスという言葉が出てきたのはView magazineに 「Quand la fumée de tabac sent aussi de la bouche qui l'exhale lesdeux odeurs s'épousent par infra-mince」(タバコの煙がその煙を出す口からもにおうときふたつのにおいはアンフラマンスによって結びつく) -View magazine Vol.5 , No.1 (March 1945)より- 

「マルセル・デュシャン、≪viewの表紙より」 http://www.eonet.ne.jp/~kyosyuu/view.html


という形で出てくる。このアンフラマンスを美術批評家家東野芳明氏は「極薄」という訳をつけている。今回はこの「アンフラマンス」という概念を生前に残した46個のメモから再解釈していくことでデュシャンが作品を通して提示した世界の一端を見ていきたいと考える。 

-分離と接合 Séparation & Syndicat-


「可能なものは極薄である―いく本かの絵具チューブが一点のスーラになる可能性は、極薄としての可能なものの具体的な〝説明〟である」

    ―メモ1番


「人が立ったばかりの座席のぬくもりはアンフラマンスである」

    ―メモ4番


「タバコの煙がその煙を出す口からにおうときふたつのにおいはアンフラマンスによって結びつく」

 ―メモ


この二つのメモの共通点はAとBの間を差すということである。このAとBの関係性は単純なAとBを分断する境界としての存在を差すのではなく、互いに接離し合い、完全な境界線を引けない関係である。デュシャンのアンフラマンスは度々何かと何かの間を指す言葉として用いられ、それは常にこの様な有か無かではなく、極小のその間を常に考えていたのではないか。



-効果 Effet-


「極薄(形容詞)名詞ではない ―決して実詞にしないこと眼は極薄の現象を定着する」

   メモ


今回上記のメモから「効果」という言葉を抽出した。この言葉は遺作論以後で東野芳明氏が紫外線、赤外線を例に出した際に用いた言葉である。実詞の対義語である虚詞は目に見えない、実体のないものを指す。これらはアンフラマンスを読解する上で特に重要な要素である。虚詞であるということは、質量のあるものではない。なのでここでは物体のことを指しているのではない。東野芳明氏は紫外線、赤外線を例に出しているが、ドップラー効果やストロボ効果なども同じような意味を持っていると考えられる。目に直接的に映るものではなく、その物体の残像や雰囲気、香りが周辺に漂うようないわゆる「効果」が本来の世界に存在するモノの正体であり、そういった幾つもの正体が世界を構成している。しかし、日常で行為の触発は行われない為この「効果」に人が気づくことはほとんどない。デュシャンの作品に置き換えると作品本体ではなく、その作品の効果によって鑑賞者の「見る」「聞く」「触る」などの行為を触発する。そこで触発された行為こそが世界の正体を掴んでいることになる。

この効果という言葉をもってアンフラマンスを見ると、デュシャンの世界の正体を見ようとすることがデュシャンの創作活動であり、常に思考したものではないかと考える。



-建築とアンフラマンス Architecture&Inframince-


建築の主な表現方法の一つとして図面を挙げることができる。表現だけではなく設計と施工のコミュニケーションツールとしても使われている。この図「面」という言葉から察するにやはり建築は常に「面」のことを考えてきた文化であると考えることができる。近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの代表作であるファンズワース邸は、床から細い柱で屋根を支えるシルエットが特徴的である。同じく近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトやル・コルビュジェもレベル差のある水平な屋根や近代建築の五原則である自由な平面、自由な立面といった「面」に意図的でありながら建築家として潜在的に言及することがあったと考える。

少々無理なこじつけだったかもしれないが、やはり「面」を考える事こそが建築であったことは間違いない。そこでその「面」という概念からの脱却を図る際に、このアンフラマンスという概念は非常に有用な概念ではないかと考えた。そこで、「建築におけるアンフラマンス」を47個目のメモとして提案することを考えた。

ここから「線」という概念を用いたい。究極に「面」を薄くしていくと何が生まれるのか。そこには「線」が生まれるのではないかと考える。デュシャンのメモ風にいうなれば「面と線の関係性はアンフラマンスに成り立つ」といったところか。単純に面の変わりに線を使うということは実際難しい。どのように建築的「線」を生むことができるか、今後の作品を考える際に、頭の隅に置き続けたいと思う。

IAMAS OPEN HOUSE 2020

「なぜか!? アンフラマンス」開催Discordより