第18回教育思想史学会奨励賞の募集は、2020年11月30日に締め切られ、奨励賞特別選考委員会および理事会において厳正に審査した結果、受賞者が決定しました。
以下に、教育思想史学会奨励賞特別選考委員会からの報告を掲載いたします。
【受賞者】吉野 敦(早稲田大学大学院)
【受賞論文】「フランスにおける最初期ペスタロッチ受容の思想的基盤――マルク=アントワーヌ・ジュリアン以前の動向に着目して――」(『教育哲学研究』第121号、2020年5月)
【授賞理由】
本論文は、ジュリアン以前の19世紀初頭に着目しながら、フランスにおける独自なペスタロッチ受容史を明らかにしつつ、その背景にあるイデオローグたちの思想圏と「メトーデ」解釈を通して映しだされる受容と抵抗の様相を浮き彫りにしようとするものである。特に、18世紀のフランス啓蒙思想やその流れをくむコンディヤックの感覚論的哲学原理とその批判をめぐる思想状況にペスタロッチ受容を位置づけることによって、教育思想史における近代性がはらむ相剋を明らかにした点は、本学会に大きな学術的貢献をなし得るものであると高く評価された。
また、イデオローグの思想圏がドイツ語からフランス語へと翻訳する際の思想的媒体として機能したことが解明されることによって、思想史を単一言語圏の文脈から解放し、間文化的に影響し合う空間のなかに思想史を位置づけ直す可能性を開いた点も、本論文の学術的意義として確認された。
審査に際しては、現代的な議論の文脈とのつながりが見えにくいため、本論文で示されたペスタロッチ受容をめぐる議論がいかなる教育思想的意味をもつのかという点で、さらなる検討課題を残しているという点も指摘された。しかしながら、ある思想を受容することそのものを教育思想史の対象とすることによって、現代のわれわれの思想受容という営みを反省する契機を本論文が提供しているのだと考えれば、上記の課題は、今後、本論文によって展開された議論をもとに、筆者および私たち自身によって引き取り、展開されるべきものであるといえる。
以上により、特別選考委員会および選考委員会は本論文に奨励賞を授与するものである。
選考委員会委員長 小玉重夫
第17回、第18回奨励賞授賞式(動画)