コロキウム1

高大接続改革における探究学習の意義を問う

――学びの当事者とともに――

          企画:田中 智輝(山口大学)

          司会:村松 灯(帝京大学)

          報告:小川玲愛(東京大学教育学部附属中等教育学校6年)

             佐藤翔磨(東京大学教育学部附属中等教育学校6年)

             北村豊土(東京大学教育学部附属中等教育学校6年)

             石山綾香(立教大学1年、東大附属卒業生)

             東明さや香(武蔵野美術大学4年、東大附属卒業生)

             小玉 重夫(東京大学)

          指定討論:村松灯(帝京大学)、田中智輝(山口大学)


オンデマンド配信

【概要】

 今日、学校教育全般にわたって探究的な学びの重要性が言われている。とりわけ、高校教育においては「総合的な探究の時間」に加え、「古典探究」「地理探究」「世界史探究」「日本史探究」そして「理数探究」といった科目が新設されるなど、探究的な学びを中核とした改革が進められている。こうした試みは、2015年から本格的な取り組みがなされてきた高大接続改革に位置づくものであり、探究と研究がどのように架橋されうるのかを考えることは、これまでの試みを振り返り、これからを展望するうえで避けられない課題であるように思われる。  以上のような問題意識から、本コロキウムでは、高校生、大学生そして研究者という複数の視点から、高校/大学、探究/研究の関係を問い直すことを試みる。昨年度につづき高校生による報告が議論の土台となるが、加えて、高校で探究的な学びを積んで大学へと進学した大学生の視点からも、探究と研究のつながりと違いについて論じられることになるだろう。高校生、大学生そして大学教育に携わる研究者が共に、従来高等教育を中心に行われてきた知の生産システムのあり方にどのような変容が生じうるのかを議論する場としたい。

【大会を終えて】


2015年以降、本格的に取り組まれることとなった高大接続改革の流れは、アクティブ・ラーニングを中心とした教育方法の転換、共通テストの導入、探究的な学びを中心とした新科目の設置へとつならなり現在も進められている。本コロキウムでは、こうした教育改革のなかで、高校と大学、探究と研究の関係がどのように変容しつつあるのかを、高校生、大学生、そして研究者がそれぞれの視点からを問い直すことを試みたものであった。

報告と議論の様子を視聴いただいた参加者からは、「探究的な学びにおいて「主体性」がどのように経験されているか」という問いに関わる質問を複数頂戴した。具体的には「共に学ぶ「他者」との関係が自らの主体性にどのように関わるのか」といったご質問や、「問いの発見」に関わって、「問いの発見という出来事は、1人で行われるものと捉えられることもあるが、実は他者からの影響を多く受けたり、他者によって条件づけられることによってその発見は可能になっているように思う。…(中略)…問いの発見という出来事に対する当人と他者の関わり方について、報告者の皆様のご見解を伺いたい」といった質問をいただいた。

第2部(特に、小川氏・佐藤氏)の報告のなかでも、他者の意見を「聞く」ことや、共に探究を友達の存在に励まされたりすることが問いの発見(あるいは再発見)や、思考の深化のきっかけとなったということが語られていた。議論を通じて見えてきたのは、探究学習には、「ほかでもない自分自身の問いを、自分自身で深めていく」という側面と、他者との共同性に関わる側面の両方があり、両者がうまく噛み合った時に学びが深まるのではないかということであった。こうした議論を振り返ると、教師もまたそうした「探究を触発する他者」の一人になれるかどうかということが今問われているようにも思われる。

また、東明氏(東大附属卒業生、武蔵野美術大学4年)が報告のなかでふれた「「今ここで学んでいる自分」を俯瞰する」という表現と関わって、稲井智義会員(北海道教育大学)より「探究する子どもの姿をどのような言葉で表現するか?」といった質問も寄せられた。この問いは、質問者(稲井会員)から小川氏・佐藤氏、石山氏、東明氏に向けて投げかけられたものであったが、高大接続改革のなかで探究する者の姿、主体像、主体性をどのように捉えるのかは、教育学において広く問われ、差異や対立も含めて様々に語られてきたように思われる。そうした議論を今一度「学びの当事者」とともに深めていくことが本コロキウムのねらいの一つであったが、いただいた質問のいずれもが報告者の語った言葉に向き合い、その意味を共に深めようとする問いであったこと自体が、探究と研究の架橋のあり方を探る本企画の一つの成果だったようにも感じられる。この場を借りてご視聴いただいた皆様に御礼申し上げたい。

(文責:田中・村松)