セルラーゼについて

  1. バイオマス分解に必要な3つのセルラーゼ

一口にセルラーゼといってもその種類はさまざまであるが、主にセルロースのグリコシド結合を加水分解する酵素で、酵素を分類するEC番号では3. 2. 1. -. に属する酵素のことを指す。例えば、セルロースをぶつ切りにするエンド型セルラーゼ(EC 3. 2. 1. 4)、セルロースの端から順番にプツプツと切断していくエキソ型セルラーゼ(還元末端認識はEC 3. 2. 1. 176、非還元末端認識は EC 3. 2. 1. 91)、エキソ型セルラーゼが切り出した二糖(セロビオース)をグルコース2分子に分解するβ-グルコシダーゼ(EC 3. 2. 1. 21)などがある。セルロースを分解してグルコースを作ろうと考えるなら、この3種類の酵素が必要である。


  1. セルラーゼなど糖質加水分解酵素の分類

タンパク質や塩基配列などの生物情報をまとめたデータベースは色々あるが、セルラーゼを含む糖質加水分解酵素をまとめたデータベースも存在する。CAZy ( Carbohydrate-Active enZYmes Database : http://www.cazy.org)は、この分野の第一人者であるフランス人のBernard Henrissat先生 ( ベルナール・アンリサ先生 ) が提唱したもので、1998年から始まり、今もなおセルラーぜの登録数は増え続けている。CAZyには糖質加水分解酵素(Glycoside Hydrolases : GHs )を含めた、糖転移酵素(Glycosyl Transferases : GTs )、多糖リアーゼ( Polysaccharide Lyases : PLs )、糖エステラーゼ( Carbohydrate Esterases : CEs)、補助活性酵素( Auxiliary Activities : AAs )の5つのグループに、多糖を基質とする酵素をまとめている。また、各グループの中では、分類された順、または発見された順位に番号がつけられている。GHだとGH1とか、GH2、GH3…とか。この分野の人なら、番号さえ言えば大体話が通じてしまう。例えば、GH7といえば、「このファミリーはセルラーゼで知られていて、糸状菌Trichoderma resssei由来GH7の一つは還元末端認識のCBHⅠ( TrCel7A )で、プロセッシブ型のセロビオヒドロラーゼである!」となる。逆にキシナラーゼといえばGH11がよくある、キチナーゼといえばGH18・GH19、となる。これは、各ファミリーの酵素がアミノ酸配列の相同性により分類されているからであり、酵素同士によく似た基質特異性をもたらす活性部位などは、高く保存された領域に存在しているからである。そのため、同じファミリーの酵素は基質特異性がよく似ている。ちなみに、触媒活性は持たないが糖質関連酵素の一部としてよく見られる糖質結合モジュール ( Carbohydrate-Binding Module : CBM )もCAZyに登録されている。


  1. 相乗効果が重要

セルロース系バイオマス分解の分野では、よく「相乗効果 (Synergy)」という言葉を使う。簡単に言うと、前述のセルラーゼをそれぞれ合わせ技で使うと、足し合わせた効果以上の効果を発揮する。セルロース分解では酵素を組み合わせ使うと「1 + 1 = 2」ではなく、「1 + 1 > 2」になる。これはエンド型の酵素とエキソ型の酵素の機能の違いから生じる。いくら長ーいロープでもその端は2ヶ所であるのと全く同じことで、セルロース鎖も数千ものグルコースがズラーッと繋がっているのだが、末端という末端は端っこの2ヶ所である。この末端から分解を進めるのがエキソ型のセルラーゼであるが、末端を認識するエキソ型酵素でも、どちらか一方の末端しか認識できず、結局長いセルロース鎖が1本あっても1ヶ所からでしか分解を進められない。長ーいロープを短くしたいのに、一方の端から少しずつちびちび切っていくだけと言ったところだろう。非常に効率が悪い。では、どうすれば効率よく切断できるのか? 長ーいロープをとりあえずぶつぶつと数本に分けて何人かで分担した方が効率が良いはずである。そして、その役割をするのがエンド型のセルラーゼである。エンド型のセルラーゼが1本の長ーいセルロースを切り分けることでエキソ型セルラーゼが分解を開始できる末端の数を増加させる。このように、エンド型とエキソ型の協調的な作用により、セルラーゼの「相乗効果 (Synergy)」が生まれるため、さまざまな種類のセルラーゼについて解析すること、知ること、使ってみることが重要である