LPMOの再分類
2000年代後半から2010年代の初め頃、彗星の如く現れたのは「溶解性多糖モノオキシゲナーゼ : LPMO (Lytic Polysaccharide Monooxygenase)」で、セルロース系バイオマスの分解を促進する!と騒がれた。しかし、突然現れた訳ではなく、実はLPMOも働いていた!と言うことが明らかになったと言うのがその経緯で、LPMOと再分類されるまではセルラーゼの仲間、加水分解酵素の一つであった。しかし、詳細な解析により、活性中心に銅分子を持つ酸化還元酵素であることがわかったのである。LPMOはCAZyデータベースのAAグループに属しており、現在までのところ、AA9、10、11、13、14、15、16、17の8つのファミリーに分類されている。主に多く研究されているLPMOは、糸状菌由来( 真核由来 )のAA9であり、すでに市販酵素にも含まれていて、バイオマス分解に大きく貢献している。細菌由来のLPMOはAA10に属しており、まだまだその知見は少ない。実はこのAA9とAA10は昔の名前があり、LPMOに再分類されるまでは、それぞれ、AA9はGH61、AA10はCBM33としてCAZyデータベースに登録されていた。つまり、AA9はエンド型セルラーゼとして、AA10はCBMとして間違えて認識されていた。でも、LPMOのセルラーゼともCBMとも捉えることができる性質こそ、LPMOの有能な点だと考えている。
セルロース分解におけるLPMOの働き
セルロース分解におけるLPMOの働きは意外と地味であるが、しかし、とても重要である。意外と地味、と言うのは、LPMO単独で、劇的に分解を進めるという訳ではないからである。LPMOはセルラーゼと同時に添加した時に、その本来の働きが機能する。「セルラーゼについて 3. 相乗効果」で言及したように、エキソ型とエンド型の相乗効果が起こるときに分解が促進される。ではなぜ、LPMOはセルロースの分解を促進するかというと、LPMOはエンド型セルラーゼと同じ役割をしてエキソ型酵素とともに相乗効果を生み出すからである(図)。つまり、長ーいセルロース鎖にプツプツと「ひっかき傷」をつけて末端を増やすのである。このような性質があるため、LPMOが過去に、エンド型セルラーゼ( GH61 )と間違えられていた経緯も説明がつく。
LPMOに期待すること
LPMOは新しく分類された酵素であり、新しく発見された酵素ではない。つまり、セルロース系バイオマスをよく分解する微生物、例えば、糸状菌のTrichoderma resseiなどはすでにLPMOを使って分解をしていて、たまたまその発見が10年前だったといわけだが。LPMOの発見以降、有名な酵素剤にはLPMOが早速添加され、その分解力を向上させた。つまり今まで、セルラーゼのみ(エンド型、エキソ型やβ-グルコシダーゼ)でセルロース系バイオマスを分解しようとしていたところにLPMOを入れる。そうすることで、分解が格段に効率よくなるかもしれない。つまり、セルロース系バイオマスの分解に関する分野は、LPMOの登場により、新たなステージへと進んだ。セルラーゼとLPMOの協調性というものを考えることができるようになった。これからも、セルロース系バイオマスの分解に関する分野は、LPMOを含む色々な酵素に期待できる。
図
(上) 末端認識セルラーゼは末端からしか分解を開始できない。
(中)LPMOがセルロース鎖に末端を作り出す。
(下)LPMOが作り出した末端からも分解が始まる。