アウトサイダー隊第5話

余所者たちと研究者と黒兎たちの

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 青い車が、音を立てながら道を走っていた。道はアスファルトで舗装されているが、あまり補修を受けていないのか、所々から雑草が芽吹いていた。時折ひび割れた箇所を走り、走る車はがたんとその車体を揺らした。左右には一軒家が少なく、マンションが立ち並ぶ住宅街となっている。時折、なんらかの商店の前を通るが、どの店も営業している様子はなさそうだった。秋の空気が目立つようになってきた九月頭の晴れ空の下、やがて車は走行を緩やかに止めた。

 車の行先には一台の別な車が道の真ん中を陣取るように停車していた。無理やり突っ切ることもできなくはないだろうが、電柱にぶつかって停車している様子のその車に突っ込むのは賢いとはいえないだろう。

「どうします?」

 白衣を着た、身長わずか8cmの少女が、ダッシュボードからフロントガラスの外を見ながら運転手に訪ねた。運転手もまた、彼女と同じく8cmの少女であり、ハンドルの前に座ったまま、小さなハンドルを握って考えた。

「とりあえずバックして……途中曲がれるところあったよね。あそこまで戻ろうかな」

 運転をしている青い髪に煌びやかな瞳の少女は、空中で手を不思議に動かした。すると、車がバックに入り、ビープ音とともにゆっくりと下がり始めた。

 狭い交差点まで戻った車は、それからたっぷり10分以上かけて左へと方向を変える。ふぅ、と運転手の少女はため息をついて、足首を少しだけ伸ばして、まるでアクセルを踏むような動作をする。それと同時に、車もゆっくり前進し、再び道を走り出した。


 “修正の1秒”から約7年、消えた人類の跡を継いで、世界の新たな知的存在として地上を歩くようになったのは、かつて人類が創造した、人型携帯秘書端末『A.I. Doll-phone』……通称“D-phone”である。彼女たちは消えた人類を捜索し、その生活文化を観測・模倣することで保護する活動を行っている……というのはやや建前じみた話で、実際には彼女たち「人間を模倣した携帯電話」は、それぞれの移動体通信事業者(キャリア)に分かれ、その勢力圏拡大のための戦争を繰り広げていた。センチネル・グローリー社とドラグーン社という大手二社による戦争が激化し、今なお続く”キャリア戦争“として、彼女たちは争いの絶えない世界を生きている。


 ブレーデン・エレクトロニクス社。大手D-phoneの製造会社であり、広くシェアを誇る「シルフィー」シリーズなどを世に売り出した企業である。現在、青い車はそこを目指して長い運転を続けている。元の出発地点からブレーデン・エレクトロニクス社(以下BE社と呼ぶ)までは、本来は5時間ほどあれば到着する。しかしながら、運転手であるシーアが免許を取得したばかりで運転に不慣れなこと、高速道路は怖くて使えないことなどを加味した結果、ゆっくりと1週間ほどかけて運転を続けているのだ。もちろん、運転が不慣れなことだけでなく、道が塞がれていたりで迂回路を探すのに手間取っている、というのもある。しかしそんな長い旅もようやく終わりを迎えそうだ。隣の市まで入れれば、BE社はそこにある。シーアは再び気を引き締め、ハンドルを握り直した。

「それにしても何が入っているんでしょうね」

 シーアの隣に座り、ナビゲーションをサポートしている白衣のD-phone、アルカナが、白くて丸い物体を手にしながら疑問を投げかけた。もちろん、白い球体からの返事はない。それは外部コンデンサであり、D-phoneたちの機能拡張をアシストするためのツールだ。話によれば、そこには研究データが含まれており、BE社まで届けられればそこから解析が行われるということだ。

「恐らくは戦いのための情報だろう。古来より、戦ではより多くの情報を相手より早く掴んだものが勝利するとされている。もちろん、それが全てというわけではないが」

 アルカナの隣に立ったのはまるで武士を模したようなD-phone、蒼明。ダッシュボードの上に腰を下ろすと、流れる景色に目を向けた。

「キャリア戦争を有利に進めるための情報……となると、やっぱりセンチネル側のやつでしょうね」

「わからないよ。BE社はほら、ドラグーン社にも技術を提供してるじゃない? えーと、なんていったっけ……」

「フレイヤシリーズですね」

 アルカナが助け舟を出す。そうそう、とシーアは頷き、ゆっくりと道を曲がった。

「だから、私はそれ、戦闘に特化した新しいボディとかの情報じゃないかなーって思う」

 シーアの言葉は一理あった。現在製造されているD-phoneは、主に修正の1秒前に、人類のアシスタントとなることを目的として作られているものばかりだ。キャリア戦争を機に戦闘特化の需要が高まったが、D-phoneの役割は本来それではない。戦うことにより適したボディを、BE社は作ろうとしているのかもしれない。そうなれば、それをどちらの陣営に売り込むか、BE社は選択を迫られるだろう。

「戦車、戦艦、戦闘機に次ぐ戦いのための革命的な技術、か」

 争いを繰り返すことの意味を歴史から学習しないのは人もD-phoneも同じだな、とでも言いたげなため息とともに、蒼明が小さくこぼした。

 そうして車を走らせていると、不意に2人のD-phoneがダッシュボードに飛び乗ってきた。1人はロボットアニメから飛び出してきたかのような風貌をしており、両肩の上から飛び出したミサイルが小さく上下している。もう1人は右腕に大きな機械を備えたD-phoneで、フロントガラスからしきりに周囲の様子を伺っていた。

「シーア、停めろ」

 ロボットの方、ゴウライザーの言葉に、シーアはゆっくりと車を停車させた。狭い道の真ん中、右には児童公園、左には団地が建っている。

「あたしもわかる。多分、あそこと、あそこ」

 大きな機械を備えた右手で、アズラが公園の茂みと、団地の敷地内に生えた木を指差した。シーアには何も見えないし、何も感じない。特に団地の方は、中で生活しているD-phoneもいるのだろう、多くの信号が感じられた。だが、指差す木の中には何も感じない。

「一瞬だったからな。おそらくアプリを再物質化したんだろう」

 D-phoneは多機能装甲(アプリケーション・アーマー)を再物質化(ダウンロード)することで、何もないそこに武装を出現させることができる。その際に万能情報管理庫(アーカイブ)からデータをインストールするのだが、どうやらゴウライザーとアズラの鋭敏なレーダーがその微細な動きをキャッチしたらしい。

「こっち狙ってるの?」

 シーアが訪ねる。

「多分ね。あたしたちの様子を、あの距離ならスナイパーライフルか何かで見てると思う。懐中電灯みたいなもの、ない?」

 車内の他のD-phoneたちも車の中を探すが、誰もそれらしきものは見つけることができなかった。

「迂回するか?」

「迂回するにも、戻るとしたらだいぶ戻らないといけなさそうなんですよね」

 弱ったな、とゴウライザーはアルカナの言葉に頭を抱えた。

「一気に突っ切るのはダメなの?」

「タイヤ狙われたらあたしたち立ち往生だぞ」

 確かに、とシーアは静かにハンドルから手を離した。

「どうする、シーア?」

 聞かれてシーアは考える。このピンチの状況、しかしそれは同時に、相手は非常に優位にあると考えているに違いない。ピンチの中にこそチャンスはある。シーアはその言葉を自分に言い聞かせ、作戦を伝えた。

「一度車の外に出よう。出るのは私、ゴウライザー、スレイプニル、アズラ、それにアカツキだよ」

 指名されたD-phoneたちが頷くのを確認すると、シーアは後部座席の窓を開けた。


 話し合いに応じたい、という意思を示すため、誰もアプリを展開せずに道に降りた。人間と比較すれば1/20の大きさしかない彼女たちだが、耐久性はなかなかに高く、車程度の高さでは傷ひとつつかない。うまいこと着地すれば、両手を上げて敵意はないことを伝える。

 しかし相手はその姿を表さない。

「気のせいだったかな」

「だったら私たち2人が同時に感じるわけがない」

 どうすべきかわらかないまま1分が過ぎ、2分が過ぎ、3分も過ぎようとした頃になって、団地の木の中から、D-phoneが姿を現した。ライフルと呼ぶには短いが、ハンドガンとするには長いバレルの銃を構えたまま、青と赤の鮮やかなD-phoneはシーアたち全員に通信で呼びかけてきた。

『お前たち、所属はどこだ。どうしてキャリア混合の部隊なんて編成している。そもそも、何の用があってここに来た』

 話が通じるかもしれない相手だ、とシーアは少しホッとする。

『私たちはアウトサイダー隊、旅をしてる。キャリア戦争には大きく加担しないから、こうして目的の合致した混合部隊を編成してる。ここへはBE社に行く目的で訪れたから、通り過ぎるだけだよ』

 BE社、と聞いて相手の顔色が変わる。

「ならやっぱりお前ら敵か!」

 その特殊な形状の銃でしっかり狙いを定めて、D-phoneは引き金を引こうとする。

「待って、私たちは戦いたい気持ちはないよ!」

「うるさい! あそこに用事があるなら、お前たちだって」

「アグリアス、待ちなよ!」

 一緒に木の中に隠れていたのであろう、青にオレンジが特徴的なピンク髪のD-phoneがアグリアスと呼ばれた彼女の銃口を持ち上げた。

「ドロップ! お前も邪魔するのか!」

「邪魔じゃなくて。あの子たちよく見て。武装してない」

「いや、1人してるだろどう考えても。あの足!」

 どうやらアカツキのことを言っているらしい。確かに、彼女は片足がパイルバンカー、片足がブレードになっており、殺傷力マシマシな見た目をしている。戦闘力は高いけど、連れてきたのは間違いだったかな、とシーアは反省し、次の平和的な交渉には連れて行かないことを決めた。

「多分あれ、アプリじゃないんだよ」

「知ったことか。あたしは……!」

「とりあえず話だけでも聞かないと。ほら、みんな武装解除!」

 ぱんぱん、とドロップが手を叩くと、今度はシーアにも感じられた。あちこちでアプリを解除し、遮断していた自分たちの信号を晒す反応をキャッチする。

「ごめんね、私はドロップ。あっちの血気盛んなのはアグリアス」

 素早く降りてきたドロップは、シーアと握手を交わす。

「私たちはBE社のある街の学校に通ってたの。キャリア戦争が激化する前は、だけど。で、そっちはあの会社に用があるのよね?」

 頷くシーア。

「なら、情報交換しない? もちろんタダで、なんて言わないけどね」

 シーアは少し考えてから、ゴウライザーの顔を見た。信頼を向けるような目を見てから、

「……わかった。今のところは、そっちを信じるよ。情報も欲しいし、私たちの持ってる情報と交換しよう」


 信頼は、片方が示し、もう片方がそれに対して誠意を見せる必要がある。そして、先に示す方がはるかに難しい。シーアは武器を出さない、ということを示すため、オフラインモードに設定を変える。万能情報管理庫との通信ができなれば、アプリを再物質化することもできない。それを確認してアグリアスはようやく銃を降ろした。

「ついてきな。けど、お前と……あとお前だけだ」

「ごめんね、手荒で……」

 指名されたシーアとゴウライザーは、お互いに顔を見合わせ、頷く。

「みんなは私が戻るか、別途指示あるまで車で待機をお願い」

 彼女たちが車内に戻るのを確認してから、アグリアスはシーアたちを団地の一室へと案内した。団地内は賑わいがあり、争いが起きている様子はない。階段の踊り場では交流が行われており、開けた窓からは楽しそうな笑い声が聞こえてもくる。

「ここだ、入れ」

 少し開けられたドアから部屋の中に入る。1DKという作りの部屋の中から、いろんな声が重なってシーアには聞こえてきた。しかし、どれも会話をしている、という感じではない。

「ここって……何?」

「何か教えてるみたいだな」

 ゴウライザーも聞き耳を立てた。彼女のいう通り、よく聞けばいくつかの授業が行われているらしかった。内容は数学、英語、それに化学だろうか。シーアには馴染みのない内容だったが、ぼんやりと科目を推察する。

「そうだよー。ここは学校……違う、ここは学校じゃないんだけど、元々私たちが教育シミュレートを担当していた、って言えばいいのかな」

「教育シミュレート?」

 聞きなれない言葉をシーアが繰り返す。

「D-phoneって、ラーニングをすれば一瞬でその内容を学習できるでしょ?」

 アグリアスがリビングへの扉を開けるのを手伝いながら、ドロップが引き続き解説した。

「でも、それって学校教育っていう人類文化を失うことにもなる……そこで私たちが、先生と生徒役をしながら、一年ずつ学習メモリーを消去して、教育活動の保護を行なってるの」

 D-phoneは機械だ。機械にとっての学習といえば、知りたいことを検索し、そのデータをインプットすることにすぎない。もちろん、個体によって空き容量やスペックなどに差があるし、学んだところでそれを実際にフィードバックできるかは、ラーニングの精度や普段活用するアプリなどによって変わってくる。それでも「何かを学ぶ」というのは、誰かに教えてもらうのではなく、調べて読み取り、自分のものにする、という意味合いが大きい。

 だが人間はそうは行かない。人間は教えてもらったり、地道に調べたり、練習を繰り返したりして学習してく。そういった人間の営みを保護し、いざ人類が世界に戻ってきた時に、そのノウハウを継承させるのも、人類のアシスタントとして生み出されたD-phoneの役割なのだ。

 言うなれば、彼女たちはキャリア戦争よりも、本来の目的である人類の文化の保護に重点を置いていることになる。

「でも、そういう活動って、施設保護の意味合いも含めて、本来は学校施設を使うんじゃないのか?」

 ゴウライザーが疑問を投げかけると、アグリアスが舌打ちした。クッションを二つ引きずってきて、座れ、と指示する。その態度に、シーアとゴウライザーは2人でキョトンとし、素直にクッションに腰を下ろした。

「あぁそうだ。お前」

「ゴウライザーさんだよ」

「……ゴウライザーの言う通り、あたしらは元々は学校にいた」

 アグリアスが地図アプリを表示させた。示したその位置は、ちょうどBE社にほど近い中学校。

「だが、キャリア戦争が激化した時、あたしらは学校を追われた」

「ちょうどほら、あそこって素材の宝庫だし、センチネルは渡したくない、ドラグーンは壊したい、じゃない? その戦いで勝利したのはセンチネル側。私たちドラグーンは、危険因子ってことで追い出されちゃったんだ」

 シーアは少し黙ってしまった。話だけ聞けばセンチネルがどう考えても悪者だった。戦う意思のない相手を、その役割を果たすための場所から追い出したというのは、おそらく向こうからしたらリスク管理も天秤にかけた上での温情だろう。しかし、追い出された側はそうではない。現にこうしてドラグーンに所属する彼女たちは、安全性の高いエリアを追い出され、武装する必要が出てきているのだ。

 しかし同時に、ドラグーン側に肩入れする気持ちも、シーアにはなかった。彼女がセンチネル・グローリーのキャリアを持っているからだろうか? それとも、ドラグーン陣営に追われるセンチネルの部隊を作戦を共にしたからだろうか? どちらにせよ、キャリア戦争は文字通り「戦争」なのだということを、改めて噛み締めた。

「そうか、お前さんたち、学校を取り戻したいんだな」

 ゴウライザーの言葉に、アグリアスは何も言わなかった。ドロップも少し目を伏せて、必ずしもそうではない、という気持ちを態度で語った。

「んん? じゃあ、なんだ?」

「あたしたちの目的は、そんな安いもんじゃねぇ」

「復讐を手伝って欲しいんだ」


 ドロップとアグリアスを始めとした教育シミュレート担当D-phoneたちは、そのほとんどが情報開示レベル1、つまり戦闘能力も経験もない存在だった。新しいデータを探索する作業はしていても、それが新しい技術に繋がるわけでもない。時折、教育カリキュラムを更新し続ければレベルが2に上がる個体もいたが、それはどちらかといえば例外的なもので、基本は日々の保全が主だった活動となっていた。

 しかしそこにセンチネル・グローリーによる襲撃が発生する。誰かが憎いとかではなく、単純に「大手D-phone制作会社を、相手より先に掌握するため」だった。そこにドラグーンの反応が多かったため、戦うことになってしまったのだ。

 もちろん、可能な限りの応戦はし、可能な限りの対話も行なった。しかし、一度始まった戦いを終わらせるのは並大抵のことではない。戦いの中でいくつかのD-phoneが「覚醒」し、どうにか戦いを止めることはできたものの、攻め込み、逆転するだけの力はない。どうにか生き残った全員の安全を確保しながら、この団地の一室に逃げ込むしかできなかったという。

「生き残ったのは、学校全体の1/4。残りは壊されたり、捕虜にされたり……加えて、定期的にセンチネルが巡回に来る」

 ドロップが悔しそうにそう告げる。街の外とはいえ、レベル1とはいえ、ドラグーンの集団が暮らしているのだ。センチネルからしたら、反撃を企てないか警戒することだろう。そして、その様子がなければ、威嚇として軽く小競り合いをし、帰っていくらしい。ドロップとアグリアスも、それと戦うために力を得た。

「それで私たちを警戒してたんだね」

「あぁ、だが、お前らはいつものセンチネル軍団じゃねぇ。車だし、加えてキャリアもぐちゃぐちゃしてたからな」

 だが、とアグリアスは声を荒げた。

「お前らがセンチネルに雇われたスパイじゃねぇ保証はまだどこにもねぇ。そもそもあそこで何してたんだ」

 この質問に、シーアは答えを言い淀んでしまった。正直に言うべきだろうか、それともうまいこと濁すべきだろうか。ゴウライザーに助けを求めるようちらりと視線を向けたが、困っているのはゴウライザーも同じようだった。

「わ、私たちは……私たちは、BE社にあるものを届けるために、ここを通りたいんだ」

「あるもの、って?」

 ここにはないけど、とシーアは前置きする。

「外部コンデンサーユニット。中には、データが入っているらしいんだ。どんなのかは、私も詳しくは知らないんだけど」

「呆れた話だ。知らないもんを届けようってのか」

「アグリアス!」

 ふん、とアグリアスは不機嫌を隠さず顔をしかめた。

「そいつが危険なデータだったらどうすんだ。お前らはいいだろうよ、届けて終わりなんだから。あたしらはどうなる? そのデータとやらで、とんでもねぇ武器を作って、ぶっ壊されるかもしれねぇだろ」

 迂闊に返事ができない。アグリアスの懸念はもっともだった。だが、それに反論したのはゴウライザーだった。

「だったら、私たちでこいつを渡す前に条件をつけてやろう。学校を返せ、こちらからの攻撃なしに反撃するな、その約束を守れないなら、こいつを破壊するってな」

「あ、グッドアイディアそれ」

「ドロップ、そう簡単に言うな。こいつらが約束を守る理由は何一つねぇんだぞ」

「それをやるのは私たちじゃあない」

 ゴウライザーはアグリアスを真っ直ぐ指差した。

「お前だよ」


 最終的にまとまった合意は、次のようなものだった。

 ドロップとアグリアスが、アウトサイダー隊に同行してデータの入ったコンデンサーユニットを届ける。しかし、引き渡しの条件として、捕虜の解放と、学校施設への不可侵、協定の遵守を約束すること。それを破った場合は、戦略的制裁措置をとること。そしてこれらの交渉を、シーアとアグリアスが行うこと。

「とはいえ、アグリアスが持っててもすっごい狙われるだけだよね?」

 そんなドロップの一言で、運搬に関してはシーアが行うことになった。というより、まずはBE社に近づかなければいけない。そこで、全員を3つのチームに分けることとした。

 シーアを中心として、コンデンサーユニットをBE社まで安全に運ぶチーム。これにはキャリアがセンチネル・グローリーのスレイプニル、レイン、サクラ、それにセンチネル・グローリーと懇意にしているフリーライドで、本来のこの配達任務を請け負うアズラが担当することになった。

 蒼明を中心にマレット、アカツキ、アルカナ、アグリアスのチームは、その戦闘力の高さから正面突破を目指す。戦えれば万歳なマレットはこれには大喜びだったが、蒼明は戦う必要がなければそのまま通りたいと考えていた。

 最後にゴウライザーをリーダーにしたドロッセル、ライク、クラネア、ドロップのチーム。彼女たちは迂回路を通りつつ、極力静かにBE社へと近づき、付近でシーアたちとの合流を目指すことにした。

 キャリア戦争の激戦区とはいえ、BE社をセンチネル・グローリーが奪取したこともあり、すでに戦火は下火の様相を呈していた。争いと呼べるほどの争いはなく、大多数のセンチネルキャリアのD-phoneたちが、まだ戦いの跡が残る街を自由に暮らしている。そこに不自由も不便も感じる要素は、少なくともシーアには見受けられない。

「平和そのものですねぇ! これならさっと行って、さっと渡して、さっと要望が飲まれちゃうかも知れませんよ。なんだ、あんまり危惧することなかったじゃないですか、ねぇシーアちゃん!」

 スレイプニルは笑ってそう言うが、そうもいかないことをシーアは感じていた。やはりと思うべきだろうか、この街にはドラグーンキャリアのD-phoneの反応を一つも感じられない。フリーライドのD-phoneですら、レーダーにキャッチはするものの、その数はごく少数だ。

「そうだね、でも用心するに越したことはないと思うよ。私たちは余所者だから」

「や、やっぱり……余所者って、どこでも全然歓迎されないよね」

 レインががっくりと肩を落とす。だが、すぐにその丸まった背中をばしん、とサクラが叩いた。

「なーに言ってんのよ! 私たちは余所者、アウトサイダー隊でしょ? ならそんなことくらいでくよくよしない!」

 突如現れて無理やり同行してきて、もちろん助かってはいるが、それでもまるで一番の古株のような振る舞いを見せるサクラに、シーアは少し苦笑いする。

「それに、もしかしたらあるかもしれないじゃない、あんたの充電器」

 サクラの言葉通り、レインがこの地に希望を見出しているのは、彼女のキャリがセンチネル・グローリーだからだ。しかも、これから向かう先は大手D-phone開発企業のBE社。そこならば、少なからずヒントが見つかるかもしれない。

 レインは充電に不備があるD-phoneである。というのも、彼女自身にさしたる問題はない。だが、彼女の充電箇所が、ゲームのプリインストールモデルということで少し特殊な形状をしている。いわゆる、それしか受け付けない仕様なのだ。彼女は充電のために、大きな鎌のアプリ・ヴァンを使って、他者から電力を刈り取らなければいけない。それを回避するため、アウトサイダー隊に同行して充電器を探している。

「ないかもよ……僕、少し珍しいから」

「珍しいっていっても、製造記録はあるはずだし、開発担当のD-phoneなら情報開示レベル的にそういう情報にアクセスできるかもだしさ」

 そういって励ますアズラは、右腕に装着した大きな機械、ジャミングシステムを構えてみせた。

「いざとなったらあたしがハッキングかけちゃうし!」

「心強いけど、頼むから絶対やめてね」

 アズラの冗談はたまに冗談に聞こえないのだ。そうこうしているうちに、一向はBE社の前へと到着する。到着したはいいが、D-phoneの大きさではエントランスのドアは開けられない。自動ドアが反応するにも、大きさや重さが足りないのだ。

「どう、しようか」

「あそこはどう、かな」

 アズラとサクラは自動ドアを開かせようと、飛び跳ねたり、アプリでぐるぐるとドアの前を飛行したりしていたが、シーアは別な入口があると考え、頭を捻っていた。しかしレインは、自動ドアの横、高いところにあるインターフォンを指差した。

「システムがまだ生きてれば、押したら開けてくれたりする、かも」

「確かにそうですね! ここ一応すごい企業秘密とかを抱えているわけですし、もしかしたら外からは承認がないと開けられない仕組みかもしれませんね。素晴らしい気づきですよレインちゃん! 最高です! 天才!」

 褒められて悪い気はしない、と少し緩んだ表情を見せるレインをよそに、シーアはアプリを使ってインターホンまで上がり、両手で呼び出しのボタンを押した。ピンポーン、と乾いた音とともに、スピーカーの向こうで反応がある。

『はい、どちら様でしょうか?』

「……あ、アウトサイダー隊のシーアです。えぇっと……これ、依頼されて持ってきたんですけど」

 少し緊張しながら、シーアは外部コンデンサーユニットをカメラに向かってみせた。少しの沈黙ののち、

『そうでしたか! それはようこそいらっしゃいました! 今、ドアを開けますね!』

 ヴィー、と低い音とともに、自動ドアが横に大きく滑っていった。

「地獄の入り口……」

 小さく口にしたレインに、サクラがギョッとし、演技でもないこと言わないでよ! と叱りかツッコミはわかりづらい反応をする。

 どうなるかは、見当もつかない。ここから先は、各々の判断で変わってくるところだ。覚悟を決めて、シーアは入り口を潜る。スレイプニル、レイン、サクラ、最後に少し警戒しながらアズラも中へと足を踏み入れた。


「ふっかけてきたのはそっちだろーが! 何逃げてやがる!」

 平和だったはずのセンチネル・グローリーの街に、マレットの声が響き渡る。ハンド・マニピュレーターこそ出してはいないが、それでも全力で逃げるD-phone数名を追い回しているところだった。

「まさかあのような愚かしい挑発だけしておいて、自分は戦えないなんてことないだろう!?」

 マレットとともに、アグリアスの怒りに満ちた声も轟いた。

 2人を追いかけながら、聡明は小さくため息をつく。マレットだけならば、自分1人でもどうにかなっただろう。だが、アグリアスがここまで好戦的だとは思いもよらなかった。どうにかジェーンが間に入って緩衝材になろうとはしてくれたが、火のついた戦闘狂と復讐鬼はそれでは止められるはずもなかった。かといってアカツキに止めさせたらそれこそ仲間内でバトルが始まるし、アルカナはそもそも止められるだけの戦闘性能を持っていない。

 不覚。完全に、自分の不覚。心の中で他のチームとなったシーアやドロッセルに謝りながら、蒼明たちはひたすらに走った。

『通報があったのはお前たちか! 止まれ!』

 強制的な割り込み通信が頭の中に響いてくる。上空を見れば、いつの間にか警察無線仕様クロムシリーズ……モノクロムの小隊が飛行している。こちらにガトリングの銃口を突きつけ、いつでも射撃できる体勢だ。おそらく最初こそ威嚇射撃になるものの、いざ戦うとなったら容赦はないだろう。蒼明としては、マレットたちに威嚇射撃をしてもらいたいものだが、それをするためには一度走るのを止めねばならない。だがそうしたら、おそらく自分たちは捕縛されるだろう。

「もうこんな状況なんだし、戦いながら行くのはどう?」

 ジェーンの提案も悪くはない。避けたいものではあるが、もはや避けられない以上、逃げることを優先しなければいけないのかもしれない。腹を括った蒼明は、アカツキ殿、と一声かけた。

「りょーかいっ!」

 アカツキはすぐにミサイルポッドを解放し、狙いを定めて一斉に放出する。マレットとアグリアスにはもちろん、逃げるセンチネルのD-phoneにも、モノクロムの小隊にも向けて。全部とは言っていないが、この攻撃はしかし広範囲に煙幕を作ることに成功した。さすがのマレットたちも、これで足を止めただろう。

「電波を切れ! 走るぞ!」

 2人の手を掴み、とにかくここから、目立たない場所へ身を隠さなければ。地図を開けばその電波で見つかってしまう。がむしゃらに、蒼明は全員を先導して建物と建物の隙間に逃げ込んだ。

「しばらく隠れねば、迂闊に行動もできんな……」

 まだ自分たちを探している様子をこっそりと伺いながら、蒼明は物陰に隠れる仲間たちにそう伝える。

 隠れた場所は、民家と民家のわずかな隙間だった。人間なら1人通れるか通れないかといった狭さで、当然太陽の光なんて当たる気配もない。一応アスファルトの地面は常に湿っており、好き放題に生えた苔が床面を覆い隠していた。小さな生き物らしきものも時折見受けられたが、それが何なのか、歴史を専門に扱う上、現状オフラインの蒼明には検討もつかなかった。

「困りましたね……」

 アルカナが声を上擦らせながら言うが、どうやら困っているのは追われているという状況よりも、身を隠すこの場所についてらしい。彼女の白衣は布製で、そのプロフェッショナルな風貌が営業にも影響してくる。ここで汚すのはあまり気に入らない、といった様子だった。

「ねっ、人混みに紛れちゃうってのはどうっ?」

 アカツキの提案は、悪いものではなかった。多くの信号に隠れてしまえば、自分たちが信号を発していないことなど気付かれづらいだろう。しかし、そのような人だかりが目的地まで続いているとも考えづらい。一瞬相手を撒くには最適な作戦だが、蒼明は次の一手がないことが気がかりだった。だったらいっそのこと、一気に突っ切ってしまうのはどうだろうか?

 アプリを展開して、ドラグーンの信号をしっかりばら撒きながら目的地まで突っ走る。機動力のある自分たちには、正直悪い作戦とは思えなかった。戦力もあるし、むしろ過半数がその作戦に協力的になってくれるだろう。手綱を握るというのは、ブレーキになるだけでなく、時には得意を強制的に展開させることなのではないだろうか? そうだ、そういう考え方だって、ありなのだ。

「皆の者」

 蒼明が作戦を伝えようとした時、何やらモノクロムたちが騒がしくなり始めたのを視界の端にとらえた。隊長と副隊長だろうか、色々と言い合いをして、やがて意見をまとめたのか、その場から去っていく。中に入り込んだドラグーンの一団を放置してまで、何か対処に当たらなければならない事態が発生したようだった。

「…………隠密行動だ」

 何にせよ、大暴れして突き進む、という切り札は、まだとっておいた方がいいらしい。


 ドラグーンB隊、と自分たちを呼称しているのは、ドロッセルをリーダーにした、ライク、クラネア、ゴウライザー、それにドロップのチームだった。おそらく大暴れするであろう蒼明たちのドラグーンA隊に対して、できる限り隠密に、ゆっくりでも進もうというのが彼女たちの決めた作戦だった。故に、先行するA隊と比較してのB隊、という、洒落も飾り気も身も蓋もない名前だった。

 それでも自分たちを呼称する分には、特に不便なこともないので、そのまま受け入れて使うことにしたのだ。

「えーと、最後の出発地点から人間の足を使って目的地のBE社までは30分弱。20倍の私たちには大体……600分ってところか」

「出発から現在まで47分が経過。残りおよそ550分の道のり」

 わかってはいたけど、とゴウライザーは肩をガックリと落とす。アプリさえ使えればそう大変なことはないのに、歩くしか選択肢がない自分たちはなんと無力なことか。

「まーまー、ゆーて歩くしかあらへんて! ほら、元気出してこ! 充電ばっちりやんな!」

 明るく盛り上げるライクだが、彼女も数字という現実を叩きつけられて少しゲンナリした表情だ。無理もない。10時間も歩けと言われているのだ。そもそも、歩き切れるのだろうか? ここにきて、この作戦現実的とちゃう? という懐疑心が生まれてくる。

 しかし、そんな3人と反して、クラネアとドロップは楽しげな様子だった。ドロップの学校生活に関して、クラネアは実に興味深げに耳を傾け、時折2人で声を出して笑うほどだ。その様子を見ると、少し頑張れそうかも、という気持ちが生まれてくる。

 そうして、お互いに励まし合いながら、というより一方的に元気をもらいながら、歩くことさらに1時間ほど。センチネルの管轄エリアに立っているとはいえ、街としての機能はもっと中央の方に移動しているらしい。ここはむしろ安全なのではないだろうか、というくらい、他のD-phoneと遭遇しないまま歩き続けたところで、クラネアが不意に視線を遠くに投げかけた。

「クラネアさん?」

 ふと会話が止んだドロップが声をかける。だがクラネアはそれを無視して、じっとどこかを凝視する。とはいえ、ぽつぽつと民家が並ぶようなところで、そのほとんどが空き家同然なここで、見つめるものなど何もない。ゴウライザーも同じ方向に視線を向けるが、何も見えない。

「質問。何を見ている?」

 ドロッセルが問いかけると、あそこ、とクラネアは空の一箇所を指差した。電柱にかけられた電線が張り巡らされた、なんの変哲もない空間ではあったが、全員の視線が向いた瞬間、わずかに電線が揺れた。よく耳を澄ませれば、小さな炸裂音と、何やら叫び声にも似た音が聞こえる。

「戦闘? こんなのどかなとこで?」

 ライクの疑問もまったくだったが、それ以外の合理的な答えが見つからない。

「とにかく、行ってみよう」

 見てみないことには答えが出ない。そして、あそこまで徒歩では時間がかかりすぎる。ゴウライザーは少し諦めた様子でアプリを再物質化した。戦ってるならどうせ敵に見つかってるかもしれないのだ。戦いじゃなければ、移動距離が稼げる。誰も置いていかれてないか、背後を軽く振り返ってから、ジェット噴射をした。

 推進力を得たD-phoneの移動は軽やかだ。少なくとも、汎用のアプリで人間が軽くジョギングする程度の速度は出せる。今までの遅々とした歩みが嘘のように、B隊の面々は戦闘の行われてる場所へと辿り着き、そこでドラグーンの小隊と、センチネルの警備部隊が衝突している場面に遭遇した。

 道路を挟んでドラグーンは自分たちの進行方向、すなわち街の方に陣を構え、センチネルは自分たちが来た方向、すなわち街の外に陣を構えていた。逆じゃないか、とゴウライザーは思ったが、現状は現状だ。小さな駐車場で行われている戦いを、全員はよく観察した。

「なんか……あの子、やばない?」

 最初に気づいたのはライクだった。戦場の上空を素早く飛び回るD-phoneを指差す。青いボディに大きなジェットブースターとウィングを備えたアプリで、自在に、まるでハチのように飛び回っている。その飛び方が不安定というか、フラフラしているのだ。機敏ではあるが、周囲の状況と、その飛行の仕方から考えるに、「攻撃を避けている」というイメージだった。

「すごい回避行動だな」

「その割ニは、味方かラノ援護がないワねぇ」

 クラネアの言葉に、全員がさらに目を凝らす。確かに、ひっきりなしの射撃を受けているにもかかわらず、味方であろう側からの援護攻撃が感じられない。それどころか、ドラグーンもセンチネルも、どちらも彼女を狙って隙あらば射撃しようとしているようにすら感じる。

 全員が顔を見合わせる。特にゴウライザーとドロップの目には、共通の意志が宿っているようで、2人で顔を数秒見合わせ、どちらもとなく強く頷いた。

「いくよ、みんな!」

 ドロップが力強く立ち上がり、全員を先導する。しかし誰1人としていくよ、の意味を理解していない様子で、硬直したままだった。それをゴウライザーも立ち上がり、弁明する。

「決まっているだろう、あの子を助けにだ!」


 幸にして、B隊のメンバーは誰もが戦闘活動を、好む好まざると、得意とはしていた。ドロップとゴウライザーが突如として戦闘活動に割り込んで、戦場を引っ掻き回す。戦っていたセンチネルとドラグーンのD-phoneはどちらも困惑した様子で、仲間に通信を飛ばし、敵にカオスと化した戦況の説明を求めた。だがどちらも説明できるはずがない。

 遅れてやってきたドロッセルが戦場で暴れる2人のための退路を作り、同時にその空いたスペースにフォビアを完全展開したクラネアが突入する。化け物だなんだと騒がれている間に、クラネアはコンポジットボウを構え、飛び回るD-phoneを捕まえてしまう。彼女を巻き取り、抱え、そのまま逃走。すぐにゴウライザー、ドロップ、ドロッセルも続く。追いかけようとしてきた相手をライクのガレオバスターによる威嚇射撃で足止めし、素早く戦線を離脱した。わずか1分足らずの出来事で、取り残された両陣営はポカンとしたままその鮮やかな逃走劇を見守ってしまった。彼女たちを追いかけるよう追手を差し向けるのは、それからしばらくしてからだった。

 ゴウライザーたちはひたすら飛ぶように、というより文字通り飛んで逃げ、頃合いを見て児童公園の遊具の中に飛び込んで、そこで通信を切る。捕まえて助けた、もとい、ほとんど誘拐に近い形で連れてきたD-phoneは、しかしその手荒な行為にも関わらず、暴れる様子はほとんどなかった。

「全員無事か!」

 マレットが声をかけると、各々がそれぞれの返事をする。どうやら誰も欠けてない、攻撃も受けていないようだ。追手もなさそうである。一安心、といったところだ。

「まずはあんなことしてすまなかった。私はゴウライザー。色々と説明しなければならないことはあるが……危害を加えるつもりはない、とだけ……信じてもらえればいいんだが」

 信じてもらえないだろう、という投げやりな気持ちで言ってみたが、意外にも相手の反応は落ち着いたもので、小さく頷いて自己紹介を始めた。

「ありがとうございます。私は、楓、って言います。所属はフリーライドだけど、今はセンチネルに雇われて……いえ、半ばこき使われてる感じですね。なので、あなたたちがどんな目的だろうと、私としてはあまり状況が変わらないのでどうでもいいんです」

 淡々としていて、諦めた口調だった。

「でも、私のせいで皆さんまで追われる立場になっちゃうのは、なんだか申し訳ないですし……今から戻って、勘違いでした、って説明してきましょうか?」

「否定、加えて、再提案」

 割り込んで口を開いたのはドロッセルだった。

「楓の先ほどの戦闘における行動内容を分析した。結果、妨害電波の発信と通信阻害、および通信域拡張が主な活動内容と判断した」

「その通りです、すごいですね」

 褒められてもドロッセルは顔色ひとつ変えずに続ける。

「その機能性は我々がBE社に接近するために非常に有益な能力と言える。帰投させるより、協力体制となった方が有益」

 あくまで冷静な分析だった。しかしゴウライザーは、それに100%の納得をする前に、楓に向き直る。

「あの時は急いで助けてしまったが、大事なのはあんたの意思だ。今なら何を選んでも、誰にも文句は言われない……どうする?」

 そう問われて、楓はしばし思案する。確かに、雇い主のセンチネルの元へ戻っても、良い扱いは受けそうにない。かといってドラグーン側に投降しても、おそらく状況は好転しないだろう。フリーライドの方に戻ったとしても、契約不履行ということで処罰や再度の戦線復帰があるかもしれない。逃げるにしても、目的もなくどこへ逃げるのが得策だというのだろうか。少なくとも楓には思いつく先がない。元居た家ですら、もう古いデータに埋もれてしまったのだから。

「私は……」

 自分の言葉を最後にもう一度確認するように、一呼吸おいて、

「皆さんと、一緒に行きたいです」


「いやー、遠いところご足労いただきありがとうございました!」

 シーアたち、アウトサイダー隊のセンチネルチームを迎えてくれたのは、センチネル・グローリー所属でも、ブレーデン・エレクトロニクス社ではなく、Factory-omeca製のフレアというタイプのD-phoneだった。うさぎ、もといバニーガールに近いシルエットを持っているが、同じバニーモデルのバーゼラルドとは、所属も機能も違うため、まったく別な印象を受ける。バーゼラルドはぴんと立ったうさ耳アンテナが特徴なのに対し、フレアシリーズは後頭部に向かって垂れた、いわゆるロップイヤーのようなアンテナを有していた。これは受信する範囲の違いから来るものだ、とシーアは一度、彼女の師たる人物に聞かされたことがある。バーゼラルドは広いカジノという場所で様々な電波の中から自分たち特有の電波を拾い、連携をとるために遠くまで届く2.4GHzの電波を拾おうとする。一方で、建物内の狭いエリアで大きなデータをやり取りするフレアは、5GHzの電波を積極的に拾うため、幅広くアンテナ部分を有しているのだという。

「私、ここブレーデン・エレクトロニクス社に研究協力しています、Factory-omecaのフレア・ナビット・セカンド、フォルマといいます」

「シーアっていいます。こっちは仲間たちで、私たちはアウトサイダー隊として旅してる」

「そうですか、広い世界での旅にもお疲れかと思います、ここにいる間は敵も襲ってくることはありませんし、ゆっくりしてくださいねー」

「なんかちょっとアルカナに雰囲気似てない?」

 アズラが耳打ちして、シーアは少し笑ってしまう。確かにそうかもしれない。商売人というのは、得てしてそういうものなのだろうか。

「それでは早速、そちらのコンデンサーユニットをお預かり……」

「ちょ、ちょっと待って」

 相手の言葉をシーアは遮る。きょとんとして、フォルマの差し出した両手は行き場を失い、少し困ったように見つめてから素直に引っ込めた。

「私たち、これを渡すはいいんだけど……一つお願いがあるんだ」

「ははぁ、なるほど。さすがはさすらいのD-phoneさん、一筋縄ではいかなみたいですね」

 フォルマはしかし気を悪くした様子はない。むしろ、どこか当然、といった様子ですらあった。

「これを渡す条件は三つ。一つは、協定の遵守」

「えぇ、それは常に守っていると思いますよ! 問題ありません」

「二つは、ドラグーン陣営の立ち入りを許可する条約を、ドラグーンと締結すること」

「ちょっと私の一存ではどうにも答えられないですね、それは! 町長さんに相談しないと」

「三つは、教育施設への不可侵」

「……なるほどぉ」

 フォルマの声のトーンが一瞬変わった。サクラもそのことに気づいたようで、一瞬警戒するが、すぐにフォルマは笑顔を向けてくれた。

「わかりました、すぐにイエスとは言えないのが心苦しいですが、なんとか相談してみましょう。私たちも、そのデータは何に変えても欲しいですからね……加えて、こちらからも説得を試みても?」

「それが……武力行使でなければ」

相手を少し睨みつけながら、シーアはいつでもアプリを再物質化できる構えで言う。

「いえ、もちろんそんなことはしません。ただ、私たちの開発状況と、その目的を知ってもらえるよう、施設内を案内させてください。決めるのは、それからでもいいですよ」


 フォルマに案内され、シーアたちは施設内を飛行した。幸い、最新鋭の施設ということで、開発中の飛行ユニットを貸してもらうことができた。少ない消費電力で、長く滑空を目的としたアプリらしい。従来のインターセプターなどと比較して、ブースターを小型化し、その数を増やすことで、同時に発生するエネルギーを広く分散させて効率的な飛行を行うもののようだ。説明されても理解は難しかったが、普段使っている自前のものより少し軽いので、シーアはありがたくそれを使わせてもらうことにした。

「私たちが作ろうとしているのは、一般的には不可能と言われている、永久機関です」

「永久機関!」

 声を上げたのは、一団の足元を走るスレイプニルだった。

「生産できるエネルギーと消費するエネルギーでは必ず片方のエネルギー効率が大きくなってしまうので、エネルギー生産装置か、その生産装置で生産したエネルギーを消費して何かをする装置の二つになってしまうんですよ! 永久機関、消費するエネルギーを同時に生産に転用して、生産と消費を同時に行うことで無尽蔵のエネルギーを作り出すことができるまさに夢のシステム! 完成させられるんですか!?」

 詳しいわね、とサクラが小さく突っ込みを入れる。

「完成、させたいんですよ。そのための理論計画を、情報収集を担当しているとあるフレア・ナビットが発見しましてねー」

 やがて一団は一つの扉の前にやってきた。フォルマはスーッと上昇し、パスコードをパネルに入力し、扉を開かせる。中は無機質ながら綺麗で明るい研究室となっており、何体ものシルフィーやフレアが慌ただしく動き回っていた。書類データを持って飛ぶシルフィーをやり過ごしてから、奥へと向かって飛んでいく。シーアたちもそのあとについて飛行した。

「これが、その永久機関への大きな足掛かり……私たちは「ヴォルパーティンガー」と呼んでいます!」

 自慢げにフォルマが提示したのは、一言で表すとすれば、巨大ロボット、というほかない代物だった。フォルマと同じカラーリングが施されたそれは、全長がD-phoneの3倍はあろうかという大きさだった。とはいえ、身長わずか8cmのD-phoneなので、ヴォルパーティンガーと呼ばれたそれも、ほんの30cmほどの背丈しかないのだが。

 それでも、D-phoneを圧倒するには充分すぎる大きさだった。

 だが、類似するものがないわけではない。

「巨大ロボだったら私も見たことあるわよ。永久機関がすごい、っていうのはわかったけど、つまりこれが何よ」

「つまりこれは……充電を必要としない」

 ぽつりとつぶやいたのはレインだった。充電が課題となっている彼女からしたら、憧れる存在だろう。これが現実のものとなれば、レインはその悩みから完全に解放される。将来的には、こんなに大きくなくとも、彼女自身に組み込めるようになるかもしれない。そうなれば、彼女に限らず、D-phoneにとって大きな革命となる。協定の意味も揺らぐだろう。

「すごいのはそれだけじゃないんです。こちらは開発ヒントをクロムシリーズから得てまして、なんとすべてが合体したアプリなんです!」

「すっごいすごいすごい!!」

 アズラが大きく声を上げた。

「全部アプリってことはこれ全部武器ってことだよね!?」

 そうなりますね、とフォルマは笑顔でうなずく。

「えっ、うわここライフルかな!? 見たことない形状してる! これハンマーっぽいけど……あっ、刃物だ! え、じゃあこれ遠隔操作できそう……待って、夢のマシンすぎる……しかもアプリって、あたしもしっかり使えるってことぉ……?」

 うっとりした顔で、アズラはヴォルパーティンガーをなめるように様々な角度から観察した。

「はい! おっしゃる通り、ゆくゆくはこのデータを流布し、キャリア戦争を根底から覆そう、というのが私たちの考えなんです。あ、動いてるところも御覧に入れられそうですよ」

「見たいみたい! みーたーいー!」

 ではこちらへ、と一同は部屋の中央に置かれたテーブルの上へと移動する。研究員たちもその手を止め、一斉に飛び上がり、ヴォルパーティンガーの起動準備へと入った。

「パイロット接続完了!」

 フレアタイプ(フォルマと違って彼女はグリーンに黒というカラーリングだった)のD-phoneがそう言って、最後にヴォルパーティンガーから離れる。接続されたのは、顔をバイザーで覆ったシルフィーシリーズの子だった。反応はないが、しっかりとデバイスがヴォルパーティンガーにつながれる。

「起動開始、電力供給、安定してます」

「視認性拡大、探知範囲広がってます」

「アプリ安定を維持」

「電力発生確認、6painシステムの完全起動まであと10秒」

「保護ロック解除、自立確認、ハードウェアオールグリーン」

「フィードバック想定数値内を維持」

「仮想敵、エンゲージさせてください」

「6painシステム起動しました!」

「っが、がぁぁァァ!」

 武装した一人のD-phoneと、ヴォルパーティンガーのパイロットが出してはいけないような声をあげたのはほぼ同時だった。シーアだけでなく、アウトサイダー隊の誰もが驚いて飛び上がる中、武装したD-phoneもひときわ驚いた様子だった。

「え、あ、あの子戦うの?」

 アズラが驚いたような声で聞く。

「はい、今回の仮想敵ですね! 戦闘中の捕虜として確保しましたので、アプリの強制遮断を受けてますので、今回使わせているのはあれのみですが……早く実地実験が見たいですよね!」

「無茶だよ! やめ、やめさせないと!」

「おや、どうしてですか? あれは敵ですよ?」

 フォルマはなんでもないことのように言った。確かに、そこに立っていたのはフレイヤシリーズのD-phoneだ。ドラグーンのブランドに合うように施されたカラーリングと、標準搭載されたマルチタスク機能が特徴である。本来はそのマルチタスク機能を使い、複合アプリを用いて戦うのだが、今の彼女はその機能がオミットされているらしい。片手剣と丸い盾(レギオンアームズだ、とアズラが後日シーアに熱心な解説をした)しか持っていない。

「ゥ、うぐぅ、ふ、フー……ッ」

 苦しそうな声が、ヴォルパーティンガーのパイロットからも聞こえてくる。それは挑戦者であるフレイヤにも聞こえたらしい。もしかしたら勝機があるかもしれない。そう考え、彼女は盾を構えてじりじりと間合いを詰めていく。大きな図体の相手には近接戦闘に持ち込み、弱点を的確に突く。戦いの基本とも言える戦法だ。

「フィードバック、想定数値を突破しようとしています」

「アプリ安定性低下」

「電力の供給と消費は依然として安定」

「だァァァあああ!」

 ヴォルパーティンガーが動く。腕を振り上げ、地面を叩いた。ちょうど、フレイヤがいた場所だ。とっさに飛び退いて直撃は避けたが、重たい音に、それを食らったら終わり、という共通認識が室内にいる誰もにもたらされた。

「わぁぁああ!」

 しかしフレイヤは果敢にも飛び出し、関節部めがけて剣を振った。だがその勇敢な一撃も無為に終わってしまう。ヴォルパーティンガーはそんな攻撃を意に介することなく腕を引き、さらなる追撃を、今度はナイフが何本も装着された腕で行った。

 普通のD-phoneなら、切っ先に注意さえすればどうにかなる。もちろん、それができるという保証はない。いくら瞬間的に反応し、行動できる機械いえど、近接戦闘の攻撃が当たる距離まで来ると、そういった反応速度を鈍らせる電波攻撃をお互い無意識に発生させる。だからフレイヤも、大振りの攻撃は見て避けることをした。先ほどとは違い、今度は鋭い音が部屋に響く。

「ドローンユニット、展開します!」

「だァァ! っぐ、ゥゥゥ……!」

 苦しみ悶えながら、ヴォルパーティンガーの背中から6機の小さなジェット機のようなものが飛び出した。ドローンユニット、と呼ばれたそれらは、近くを飛び交うだけでフレイヤのみならずシーアの電波傍受すら妨害した。研究員らは、しかしその影響を受けていないらしい。涼しい顔で状況を観測している。

 ドローンユニットはフレイヤの周囲を飛び回りながら、彼女をけん制する。時折飛び出した1機がすれ違いざまの体当たりを食らわせてくるので、それを盾で受け流すのに精一杯だ。おまけにいつ来るかわからないヴォルパーティンガーの一撃にも警戒する必要がある。マルチタスク機能が搭載されているとはいえ、彼女のCPUは手一杯だろう。現に、頬も赤くなり、呼吸も荒くなっている。廃熱が追い付いていないのだ。

 ヴォルパーティンガーの攻撃は激しさを増していく。ドローンユニットの攻撃に反応できなくなり始めたころ、その腕を大きく叩きつけた。間一髪、フレイヤはそれを回避したが、足がもつれて床に転がってしまった。そこをドローンユニットたちが取り囲み、くるくると回転しながら、それまで隠していたビームを発射した。盾で防ごうとしたが、それは間に合わず、フレイヤはビームによっていくつも風穴を開けられ、動かなくなってしまった。

「実験終了、ドローンユニット回収します」

「6painシステム、強制終了……受け付けません」

「いっぎ、うぐぅあああ!!」

 だがそれでもヴォルパーティンガーは止まる様子を見せない。苦しむのを横目に、研究員たちは誰もがいつものこと、といった様子で淡々と処理を続ける。

「フィードバックデバフプログラム起動しました」

「アプリ解除……可能です」

「保護ロック準備完了してます、アプリ解除どうぞ」

「アプリ、解除!」

 しゅいん、とヴォルパーティンガーが一気に消滅した。残ったのはパイロットと、彼女に接続されていた骨格にあたる部分だろう。支えを失い、ガコン、と床にたたきつけられる。動かないフレイヤと並んで、どちらが戦いの勝者かはっきりしない様子になってしまった。

「圧倒的でしょう、ヴォルパーティンガー!」

 嬉々とした様子で、フォルマが話す。

「これが一斉に配備されれば、ドラグーン壊滅も時間の問題ですよ。キャリア戦争の勝者はセンチネル・グローリーに決まりです!」

「ふざけないで!」

 叫んだのはサクラだった。

「あの子苦しんでたじゃない! 何が圧倒的よ! こんなの……こんなの……!」

 震える声だが、言葉が出てこない。涙が目尻に浮かび、頬を伝って落ちた。

「それを解決するために、そのコンデンサーに入っている実戦データが必要なんですよー。それがあれば、ヴォルパーティンガーは解決する……完成するんです」

「なら、なおのことこれは渡せない気がする」

 シーアが、サクラの代わりに力強く言った。

「私は、たくさんのD-phoneを壊すんじゃなく、たくさんのD-phoneを幸せにするためになら協力する。だけど、そうじゃないってわかった以上……これは渡せないと思う」

「では選んでください、シーアさん」

 調子を崩さず、フォルマはシーアを見つめた。

「彼女を助け、敵に回り、我々と戦うか……それとも、それを素直に渡して、あなたたちは安全に旅を続けるか。同じセンチネル・グローリーですから、あなたたちにも恩恵はありますよ?」

 敵対か、殺戮か。シーアは、選択を迫られていた。


 ゴウライザーの想定を超えて、楓の性能は高いものだった。飛行しながら軽度のジャミング信号を周囲に散布し、ゴウライザーたちの姿を隠すのみならず、偽装することに成功していた。問題は、楓の目立った装備くらいだろう。

「私のアプリ、全部同時展開なので……」

 申し訳なさそうに言う楓だが、誰も文句を言うことはない。そのおかげで、大手を振ってセンチネル・グローリー領を歩くことができるのだから。

 D-phoneというものは、オフラインモードに切り替えない限り、常に万能情報管理庫との電子的なやり取りを行っている。理由はGPSシステムの稼働、アプリの即時再物質化権限、アクセスによる最新情報の取得やアップデートによるセキュリティの強化などだ。よほどの理由がない限り、接続を切るというのは不利益に働くことになる。同時に、接続を続けるというのはオンラインモードでい続けるということであり、この状態だと自分のキャリア情報が相手に筒抜けになる。今回は、それが不利益に働いていたため、ゴウライザーたちは当初徒歩での移動を行っていたわけだ。

 しかし楓は、特殊なアプリを内蔵していた。彼女自身がまるで中継機のような扱いになり、個別リンクのみで万能情報管理庫にアクセスすることが可能となっていた。これは彼女の中にブロードバンド、つまりWi-Fiルーターのような機構が組み込まれている証拠である。おそらく大きく広げた青いジェットブースターの両翼がその役目を果たしているのだろう、とゴウライザーは推測した。

 そして、楓を中継することで、疑似的に自分達を「センチネル・グローリーに所属するD-phoneです」と偽ることもできた。加えて、自分たちが無意識的に受信する電波をまた彼女の元で収束するような指向性の電波を常に散布しており、ドラグーン所属のドロッセルやライクが歩いていても、それに気づくことができない仕組みになっていた。

 だからこそ彼女は、出会った時に狙われていたのだ。彼女のアプリは、電波の中継を行うと同時に、相手から多くのヘイトを集めてしまう。良くも悪くも、これは敵味方双方に影響するのだろう。

「でも、楓さんがいてくれて助かったよね。ほら、多分あれだよ、BE社の建物」

 ドロップが指差したそこは、オフィス街の大通りにありがちなガラス張りの煌びやかな企業ではなく、雑居ビル、という言葉が似合うような小ぢんまりとした建物だった。

「小さクて可愛イわね」

 クラネアが褒めるような調子で言った。誰もが頭の中に「しょぼい」という単語があったので、これを絶妙に上塗りされた感じだった。

「おそらく重要な決定をここで行う、重役たちのオフィスだろう。企画なんかを行う部署は別にあるはずだ」

 訳知り顔でゴウライザーがそう言った瞬間、どごん、と建物の壁に穴が開いた。外壁が剥がれ落ちて、瓦礫が真下の地面に叩きつけられる。何事かと全員がその方向に注目を向けたその時、背後の茂みがガサガサと揺れる。

「突入だ!」

「マレット!?」

 ゴウライザーとライクが同時に驚いた声をあげた。マレットだけではない。アグリアスとジェーンも続き、その後ろからアカツキ、アルカナ、蒼明が走る。

「なんだオメーらも来てたのか! よっしゃ乗り込むぞ!」

「マレット、どいてどいてーっ!」

 アカツキの一声に、マレットはひょいっと身をかわした。その背後からミサイルが何発も発射され、正面の自動ドアのガラスを簡単に破砕した。

「お、おい、少しは穏便に」

 ぽん、とゴウライザーの肩に蒼明の手が置かれる。諦め切った顔で首を横に振った彼女は、すぐに他のみんなと合流するために走っていく。ポツンと取り残されたゴウライザーたちも、どうする、とお互いを見合わせてから、おずおずと駆けていく。どうせ目的は同じなのだ。

「……やけくそだな」

 ゴウライザーも、最後に続いた。


 外からも観測できるほどの被害が起こる少し前。シーアは重要な決定を下さねばならない状況に直面していた。護送予定だった外部コンデンサー内のデータが、実験段階であってもD-phoneを余裕で破壊することのできる強力な兵器開発のために使われるとあっては、シーアもそれを平然と承諾することはできない。しかし、当初予定していた条件をつけての引き渡しをしたところで、相手はその「実験段階にある兵器」を今度はシーアたちに向けて”実験”してくるだけで、交渉の余地はないだろう。もちろん、こんな企業秘密を知ってしまった時点で、もしかしたら生きて帰す予定はないのかもしれない。承諾、交渉、決裂、どのシナリオをとっても、結果は変わらないような気がしていた。ならば正面切って戦うのが良いのかと思ったが、そういうわけにもいかない。アウトサイダー隊は強力でも、ここには最大火力が欠けているのだ。

 わずか1分ほどの間にさまざまな考えを廻らせ、やがてシーアは一つの結論にたどり着く。独断だが、アウトサイダー隊の面々ならこの考えを支援してくれる心算があった。

「スレイプニル!」

 シーアは強く呼び、コンデンサーを後方にいる彼女に向かって投げた。

「はい!」

 それを受け取り、スレイプニルは誰かが止めるより早く走り出す。フォルマは調子を崩さぬまま、止めてくださいね、と一言発すれば、研究員であるD-phoneたちはアプリを再物質化させる。再物質化速度と精度を高めるためか、装備はそのほとんどがシルフィーシリーズに搭載されているものだった。

「アズラ!」

 同時にシーアはもう一枚の切り札、アズラの名を呼ぶ。彼女もまた言われずともその役割を瞬時に理解し、ジャミングシステムを起動させた。ぶあ、と電子的な衝撃波が直径1メートル周囲に走り、その圏内にいた全員の通信を遮断する。

「レイン!」

「は、はい」

 いきなり呼ばれたレインではあるが、彼女もどことなく事態を察したらしい。再物質化させていた大鎌・ヴァンを使い、通信遮断されてなお立ち向かってくるD-phoneたちを攻撃していく。ヴァンによる一撃は少し特殊で、その性質は電力の吸収にある。アプリは電力を固定化してデータでしかない装備を物質として出現させているので、当然、ヴァンによる一撃でアプリは電力に再分解され、消滅、吸収されていく。通信ができなければ、アプリを再物質化することもできない。

 だが、レインだけでは戦場を維持することができない。いくら相手の戦力を削いだとはいえ、完全に無力化できたわけではない。戦闘のスペシャリストでも戦闘狂でもないレインが、囲まれながらの波状攻撃を受け切れるはずもなく、すぐに手一杯になって防戦になってしまう。そこをカバーしたのが、サクラだった。

「大丈夫よ」

 彼女は短く、しかし力強く言う。

「この魔法少女サクラちゃんがいるからには、こんな奴ら!」

 ぶあ、と振ったその手に、大きくメルヘンな杖が握られていた。アプリを再物質化するには通信が必要とは説明した通りだが、例外も存在する。それはアプリのデータそのものをD-phoneのメモリ内に納めてしまうことだ。これは容量を大きく圧迫するため、あまり推奨されていない。しかし、外付けのコンデンサーであり追加のメモリ領域を搭載する相棒のロロがいるサクラには、その芸当も可能なのだ。かくして、彼女は通信から切り離された状態でも、変わらずにアプリを運用できるのである。もちろん、全てではないが、それでも烏合の衆を相手にするには充分すぎる戦力だった。

 サクラとレインが足止めをする中、スレイプニルがコンデンサーを抱えて走る。中に蓄えられた情報を求めて、フォルマがさらなる戦力をけしかけるが、誰もその足の速さに追いつくことはできない。かといって、指揮をとるシーアを攻撃しようと近づいても、アズラのジャミングを受けて戦力が大きく落ちてしまう。交渉するためのカードは全て切ったが、どうにかイーブンまで持ち込めただろう。シーアはそう信じ、フォルマを正面から見据える。

「そう、ですかぁ……」

 フォルマの声はしかし、落胆でも焦りでもなく、仕方なく次の一手を打つ、というような雰囲気をまとっていた。彼女は軽くテーブルの下に目をやり、それからひょいと飛び降りた。

 D-phoneは、その種類にもよるが、落下衝撃にはある程度耐えられる設計をしている。例えばシルフィーであれば、3メートルほどの高さからの落下は外装にも、内側の機械にもダメージを与えないことが保証されている。それを当然知っているであろうフォルマは、テーブルから迷わず飛び降り、床に落下した。ブースターもスラスターもない状況で着地し、アズラのジャミング範囲の外へと走っていく。

「しまった!」

 シーアも後を追いかけようとするが、いくら無力化したとはいえ、多数の相手を前に大立ち回りを決められるような戦闘能力はシーアにはない。それに、下手に動けばレインとサクラの邪魔をしてしまう。自分が人質として捕まってしまったら、スレイプニルを走らせた意味がない。

 そうこうするうちに、フォルマがジャミング範囲外に出た。自身の通信が回復をしたのを確認すると、すぐにあるファイルを呼び出した。研究のために持ち出し禁止とされたファイルだが、研究室内で展開するには妨害はない。かけられたロックを手早く解除し、中に圧縮されているアプリの設計図を呼び出し、すぐに再物質化した。

 電力がデバイスから空中に散布され、位置を固定し、凝固していく。瞬間的に物質を疑似的に作り替え、そこに質量を展開させる。背中のバックパックから伸びたケーブルが、右手に握られた、フォルマ自身より大きいライフルに接続される。量子を収束させてビームを発射する設計のそれは、しかしその口径があまりにも大きい。精密に狙う、というより、威嚇や障害物除去のためにぶっ放して、その導線にあるものを薙ぎ倒すことを目的としているようだ。対閃光防御のバイザーがフォルマの顔を隠すと、ビーム砲はすぐに発射準備を始める。攻撃対象はもちろん、シーアたちだ。

「みんな、避けて!」

 シーアは、アウトサイダー隊の仲間だけでなく、戦う研究者たちにも声をかけた。全員が一瞬シーアに気を取られるが、シーアの言葉の意味を理解する前に、フォルマが放ったビームが空間を突き抜けて壁に大きな穴を開けた。一瞬の閃光に目をくらまされたシーアが次に感じたのは、小さくはない爆発音と、流れ込んでくる外気だった。同時に、不幸にも巻き込まれたD-phoneが1人、上半身を失って地面に倒れた。

「さすがラインランダー、素晴らしい威力ですねー」

 閃光防御用のバイザーを持ち上げ、顔を覗かせるフォルマは、しかしビームの反動で壁に叩きつけられていた。単なるビーム兵器とは思えない強烈な反動は想定していなかったらしい。それでも許容範囲内の衝撃に、フォルマはすぐに立ち上がり2発目を準備する。

 ジャミング範囲外からのほとんど回避不可能のような射撃。一気に窮地に追い込まれたシーアだったが、同時にその射線に巻き込まれるのを恐れたのか、研究員たちは攻撃する手を止める。

「!? 見つけたぜシーア!」

「マレット!?」

 ジャミングエリアの範囲内にいたせいだろう、シーアは直接声をかけられるまで、マレットの存在に気付かなかった。ということは、ほかのみんなも来ているということ。少しホッとするものの、窮地を脱したわけではない。

「マレット、あれ! 敵!」

 スピーカーの限界音量でシーアは叫び、フォルマを指さす。当のフォルマはビーム兵器の再充填を終え、再びシーアに向けてその銃口を向けたまま、まさにトリガーに指をかけようとしていた。

「なるほどなぁ! わかりやすくて助かるぜ!」

 マレットが左手を振るうと、ハンド・マニピュレーターが虚空に出現し、一気にフォルマのビーム砲の砲身を殴りつけた。間に合いこそしなかったものの、ガィン、と大きな音を立てて二つは激突し、ビーム砲をしっかりと装備していたフォルマは再び吹き飛ばされる。シーアは放たれたビームをぎりぎりのところで回避し、なんとか体勢を立て直す。サクラはレインをかばって飛び、アズラも身のこなしの軽さでこれを回避した。しかし、ビームの熱放射はCPUを発熱させ、くらくらさせるには充分なパワーがあった。直撃すれば体が吹っ飛んで消えるのはすでに実証済みの威力なのだ。

「ぐぐ……皆さん! 再びヴォルパーティンガーを!」

 おろおろする研究員たちは、フォルマの一言ですぐ我に返り、その一部が机を飛び降りた。彼女らは先ほど打ち捨てられたヴォルパーティンガーのパイロットを無理やり起き上がらせ、各種ケーブルやコンデンサーユニットを慣れた様子でデバイスに接続していく。

「出力、上がりません!」

「少しくらい無理しても構いませんよ! 所詮使い捨てですから!」

「テメェ!」

 マレットの拳を、今度はしっかりと受け止める。よく見ればアプリの形状が、先ほどの巨大なビーム兵器から、大きく広がったドレススカートのような装甲に変化させていた。両手を下ろした腰あたりの位置で広がる機械が、どうやらバリア発生装置のようなものらしい。マレットの拳をしっかりと受け止め、フォルマを守っていた。

「くっそかてぇな!」

「あなたのような粗暴で乱雑な方を相手にするための装備ですからねぇフレミッシュは!」

 少しだけバリア発生装置のスカートを動かし、鍔迫り合いから脱却する。何度かマレットは攻撃を加えるが、そのたびにバリアに阻まれて攻撃は届かない。遠距離攻撃やジャミング、ハッキングといった電子攻撃手段を持たないマレットにとって、力任せの攻撃が通用しないのは痛恨だった。

「電力供給安定してます」

「アプリ安定!」

「フィードバック想定数値内を維持ッ」

「6painシステム起動しました!」

 そうこうしているうちに、ヴォルパーティンガーが再起動してしまった。しかし、連続運用には耐えない様子で、どこかふらふらと頼りない。先ほどまでのパワーはなさそうだった。

「エッ、何あれ!? お宝!?」

「何かは知らんがお前たちの最終兵器ならぶったたく!」

 ジェーンとアグリアス、それにライクが遅れて研究室に飛び込んできた。おそらくマレットの反応を探して来たのだろう。ということは、全員がこの建物に来ているはずだ。集合できるのも時間の問題だろう。シーアはそう考えて、

「アズラ、ジャミングはもう大丈夫。あとはみんなで合流しよう!」

「……わかった!」

 アズラのジャミングが終了すると同時に、その場にいた全員の通信が復活する。ヴォルパーティンガー起動に関わらなかった研究員たちはそれぞれ警備を呼び、自分たちもアプリで武装する。

「軽率だったんじゃ?」

「いや、ここからは私たちも戦うよ」

 シーア自身もジェットパックと銃を再物質化し、相手に向ける。とはいえ、先ほどまでの非武装のD-phoneならともかく、完全装備したD-phoneの軍団を相手に、どこまで渡り合えるか、少し不安ではあった。

 しっかりとグリップを握り、シーアは卓上の決戦に飛び込んでいった。


 起動したヴォルパーティンガーは、安全装置と敵の認識プログラムを完全に解除されたらしい。目に入って動くものすべて、それこそアウトサイダー隊はもちろん、ほかの研究員たちも攻撃対象として暴れまわっていた。

「ヴぁああああ!!」

 悲痛な叫びが部屋に轟き、ジェーンとアグリアスは一歩下がる。

「くっそ、近づけやしない!」

 アグリアスは悪態をつきながら銃を向ける。しかし、その巨体と硬そうな装甲のどこを狙えば決定的な一撃を与えられるのか、見えないでいた。

「なんかどこ狙ってもダメそうなのよねー」

 早々にあきらめたような声でジェーンは言うと、両手持ちする大口径の銃・リボルバーバレットの構えを解いてしまう。

「あれはどっちかっていうと、ライクの仕事よね?」

「せやけど、ウチかてあんなでっかいの、倒せるとは思えん……一応やってみますけど、ね!」

 獅子の頭がついたビーム砲・ガレオバスターを手に、ライクは、その熱源を探知して襲い来るヴォルパーの足に狙いを定める。

「頭じゃないんだ?」

「あれ頭やなくてアンテナやろ」

 収束された光の束が、ヴォルパーの足を貫く。

「っぃ、ぎいいあああ!」

 同時に、パイロットが叫び声をあげた。あまりの痛ましさに、ライクはビクっとして、攻撃を与えた足からパイロットのいる胴体へと視線を上げた。

「な、なんやぁ!?」

 ヴォルパーティンガーはその機動性を上げるために、直接的なフィードバックシステムを採用していた。しかしそれは、各部を動かすコンデンサーユニットと連動した6painシステムを通じて、パイロットにも多大な苦痛を強いるシステムとなっていた。実戦データを読み込ませることで、システム側に「戦いとは苦痛を伴うものであり、その情報はフィードバックしなくてよいものである」と学習させるはずだったのだ。しかしそれがない今、すべてのデータが直接パイロットを襲う。当然、ガレオバスターによって射貫かれた痛みも、直接返ってきてしまう。

「グゥゥ……!」

「あのー……ウチめちゃめちゃ狙われてる気ぃするんやけど」

「じゃ、逃げましょ」

 ジェーンとライクがお互い見つめあって頷き、走り出すと同時に、ヴォルパーティンガーのビームによる攻撃が二人がいた場所を焼いた。


 壁に開いた穴から、黒い影が二つ、顔を覗かせた。どちらもうさぎのような長い頭部アンテナを伸ばしており、感情のない瞳で暴れるヴォルパーティンガーを見つめている。


 時間とともに、研究室内の混戦は激化の一途をたどっていた。ぽつぽつと後から合流してくるアウトサイダー隊のドラグーン所属D-phoneたちに、本来戦闘を行わない研究員たちは押されていき、防戦一方となっていった。中には戦線離脱を試みるD-phoneも出現し始め、アウトサイダー隊が優勢の姿勢を示し始めていた。

 しかしその状況は、ジェーン、ライク、蒼明、ドロッセルたちが、叫びながら暴れるヴォルパーティンガーを相手にしているから実現できている状況であること……すなわち、BE社の研究員や警備員たちのベストコンディションではないことは、シーアも、シーアを狙って戦うフォルマも理解していた。そのため、二人は争いながらも現状を打開する方法を模索していた。

 すでに六種類のアプリを畳んだり展開したりして、臨機応変に戦うフォルマに対し、アズラ、ゴウライザー、クラネア、それにドラグーン陣営の助っ人メンバーであるドロップが、必死に食らいついている。しかし戦えば戦うほど手の内を明かす自分たちと違い、フォルマは外部コンデンサーユニットの助けも借り、素早く次の手を繰り出してきては応戦する。数でも火力でも圧倒しているはずなのに、どうしても彼女に届かない。それほどまでにヴォルパーティンガーとそれを構築するアプリは強いのだ。

 だが、やがてその戦いにも変化が訪れる。誰が攻撃したわけではない。パイロットであるD-phoneが、ヴォルパーティンガーの負荷に耐えきれなくなったのだ。バギギ、と耳障りが悪い音を立てて、その膝がねじ切れてしまった。正確には膝関節パーツであるが、連動しているヴォルパーティンガーの酷使であろうか、すっかり使い物にならないほどに壊れてしまったのだ。同時にヴォルパーティンガーもその巨体の膝をつき、動かなくなる。

「今!」

 その瞬間を見逃さず、蒼明が叫ぶ。彼女は武器である刀・静鳴を鞘に収め、目を閉じる。それからまたゆっくりと目を開けば、右目が真っ赤に発光し、同時に力強く一歩を踏み出した。

 自らをカタパルトのように射出させ、ヴォルパーティンガーに一気に接敵し、駆け抜けざまに静鳴を振った。蒼い雷鳴の如き居合切りの一閃は、ヴォルパーティンガーの右肩を切り離す。抜刀と同時に高速振動させた刀で切り付ける、蒼明の必殺の一撃。

「暗技"烈鳴閃"」

 同時にジェーンとライクがそれぞれの武器を使ってヴォルパーティンガーに強烈な一撃を打ち込み、一番危ないであろうビーム砲の武装を吹き飛ばした。

「ドロップ、キーック!」

 そこに助走をつけたドロップが大きく跳躍し、レーダーアンテナのついた頭部に両足で蹴りを放った。ぐらり、とヴォルパーティンガーは姿勢を崩し、床に倒れた。

 どしゃ、と床に崩れ、戦闘不能になったヴォルパーティンガーだが、コンデンサーユニットがまだ稼働しているのか、アプリはその場で動こうと振動して暴れている。通常、リンクを断ち切られたアプリはそれを構成する僅かな電力分の間しか残存できないのだが、どうやらそんな当たり前のことも、この秘密兵器には通じないらしい。

「ふー……どや、形勢逆転したで!」

 ライクが一息つきながらも、フォルマに向かって叫ぶ。緊張は僅かに解けるが、攻撃の姿勢は崩さず、ガレオバスターをしっかりとフォルマに向けたままだ。アズラとジェーンが、それぞれ周囲に構えている研究員たちを牽制してくれているので、彼女たちがフォルマの助太刀に入ることも難しい。

「ぐ……まだ、まだまだですよぉ!」

 遠隔操作で信号を送り、フォルマは倒れたヴォルパーティンガーを睨んだ。するとヴォルパーティンガーの操縦者ではなく、各所に組み込まれたコンデンサーユニットが発光を始める。もはや操縦を担当する彼女にコントロール権も、意識もなかった。

 ギチギチと軋むような音を立てて、ヴォルパーティンガーは無理矢理立ち上がる。ついた片膝からはケーブルが伸び、手近にいた研究員を捉えて破壊しながら破損箇所を修復し、再び立ち上がった。切り落とされた右腕も、同じように修理してしまう。D-phoneの外装を侵食したケーブルが、彼女たちを内側から電気信号に変換し、その電力を使ってアプリを強制的に再構築したのだ。床に転がった研究員たちは、体に無数の穴を開けられ、外殻だけの存在となってしまった。

「えっぐ……」

 ドロップがぼそりとつぶやく。生き残った研究員たちが部屋から逃げ出した頃、ヴォルパーティンガーは再び立ち上がり、アウトサイダー隊を不気味に見下ろしていた。

「ぶっつけ本番でしたけど、成功しましたねぇ。嬉しい限りですよ。これで私たちは……不死身の軍団を手に入れることに成功しましたからねぇ」

 強制的な自己修復を経て再び立ち上がったヴォルパーティンガーは、すぐに大口径の銃口をアウトサイダー隊に向ける。その速度は、これまでの動きとは比べ物にならないほど早い。照準も正確に定め、ビームを照射する。狙いをつけられる直前から動いていなければ、蒼明はすでに蒸発させられていただろう。

「さっきまでのは手加減してやったんだぜとでも言いたいのかしらね!?」

 先ほどの必殺技が相当に堪えたらしく、ふらつく蒼明にジェーンが駆け寄り、肩を貸した。動くものを無差別に標的にする殺戮ロボットには、そんなのは動きの遅いマトでしかない。再び狙いを定め、銃身を必要最低限に冷却させると、すぐにエネルギーの再充填を行い、それを叩きつけるように射出した。だが、その攻撃は二人を傷つけることなく霧消した。

「え……エネルギーなら……僕にも対処できる」

 震える声で大鎌を構えて、テーブルの上から飛び降りてきたレインが二人の前に立っていた。レインの武器である大鎌ヴァンは、彼女の充電装置でもある。特殊な充電器を必要とする彼女は、それを失っている現在、ヴァンを用いての充電……すなわち、ほかの電力を有するものから吸収する形での電力供給しか行うことができない。それを憂いていた彼女だが、言い換えれば「電力として吸収できるものからなら、エネルギーを得ることができる」ということでもあるのだ。ビームという純粋な高密度エネルギーは、どれだけ強大な威力を誇ろうとも、彼女の前ではごちそうに過ぎないのだ。

 だが、ヴォルパーティンガーもそれだけで止まることはない。ビームによる攻撃が無駄だとわかると、今度はもう片方の腕を振り上げた。

「バカ! アンタ吸収できるのエネルギーだけでしょう! でっかい質量はどうにもなんないわよ!」

 急いでやってきたサクラがレインとジェーンの腕を引いて、その場から動かす。少し遅れて、ズドン、とヴォルパーティンガー渾身の打撃が床を直撃した。

「とんでもない化け物ね!」

 舌打ちを挟んでサクラが叫ぶが、その表情は笑顔だった。

「魔法少女には最高の相手よ!」

 距離を取り、レインを隣に立たせる。しかし攻撃に移る前に、ちらりとレインに目をやった。

「……アタシが倒れたら、アンタ、頼むわよ」

「えっ、な、何?」

 全く状況を読み込めないレインをよそに、サクラは一気にアプリを展開する。展開というには、しかし横暴なものであったが。

 アプリケーション・アーマーというのは、D-phoneの背中や腕、足などについている「デバイス」と呼ばれる出力部……傍目からは外装の凹部から出力され、その凹部に接続されるものである。手持ち武器なども例外ではなく、その手をデバイスとしてアプリは展開される。

 だがサクラのこのアプリは違う。彼女の全身から溢れるように出力された情報が空中で形となり、彼女の手元を離れて凝縮していく。銀色に輝く巨大なそれはやがて形をはっきりとさせていき、10秒後には大きな翼を持つ竜の姿を再物質化させた。

「……行、け」

 小さく命じたサクラの全身から力が抜け、慌ててレインは彼女を抱き支えた。

「どーよ……すごいでしょ」

「す、すごすぎるけど……無茶も過ぎるよ……!」

 サクラはそれ以上返事をせず、不敵に笑って目の前の闘いを見上げた。ヴォルパーティンガーを押さえ込もうと戦っていた他の面々も自然と距離を取る。召喚された巨大な竜は、ヴォルパーティンガーの放つビームをその両手で弾き、大質量の一撃も易々と回避した。空を自在に飛び回り、敵を翻弄し、組み付く。動きを封じてから噛みつき、振り払われれば再び接近して、鋭い爪や尻尾を使って攻撃する。ヴォルパーティンガーの攻撃を受けても怯むことのないドラゴンであったが、逆に決定的となる一撃も与えられずにいる。両者の実力は互角。そうなれば他のメンバーが支援を入れなければいけないのだが、あまりの激戦に飛び込むことすら難しくなっていた。


 巨大な竜と兎が激闘するその様子を、シーアとアズラは机の上から見下ろしていた。あまりの怪獣バトルに視線を奪われていたが、すぐにハッとする。

「アズラ、フォルマを! 彼女を止めないと、この戦いは多分終わらないよ!」

「あっ、そっか。えぇと……」

 少し考えてから、アズラはすぐにテーブルから飛び降りた。少し離れたところで戦う一団を見つけて、駆け寄っていく。強力なアプリを矢継ぎ早に展開するフォルマでも、アズラのジャミングと戦うことは難しいというのはすでに証明済みだ。駆けつければ戦力増大、戦いを止める切り札になるのは間違いない。

 そうしてシーアが一人落ち着いたところへ、索敵範囲外からの狙撃が飛んできた。がきん、とジェットパックに当たって直撃こそ免れたものの、シーアは机の上に倒れ込んでしまう。背後から受けた狙撃に振り返れば、少し前にフォルマの強力なビームの一撃が開けた穴からこちらを伺うD-phoneが3体、確認できた。真っ黒なボディだが、全身に施された金の差し色が光を反射して輝く。

「ブラックラビッツ……?」

 膝をついていた一人が立ち上がり、大きなライフルを方向転換させる。残りの二人は音もなく飛び降り、シーアの近くに降り立った。

「縺セ縺滉シ壹▲縺溘↑」

 シーアを一瞥し、どうやら3人の中で指揮をとっているブラックラビッツが短く口にした。

「君は……」

「蜉帙?謌代??′雋ー縺?女縺代k縲ゅ♀蜑阪?霆阪r蠑輔″荳翫£繧九↑繧峨?∽サ雁屓縺ッ隕矩??@縺ヲ繧?k」

「待って、どういう意味……」

 シーアが言葉を続ける前に、もう一人、シーアのそばに降り立ったブラックラビッツがアプリを展開した。背中のデバイスからバックパックを出現させ、そこからさらに4本のアームを伸ばす。それぞれのアームの先端には大きな刃が生え、それらが地面から彼女を浮き上がらせた。縦横無尽な素早い移動と、自在な鎌による斬撃の両方を兼ねたアプリだった。まずい、攻撃される。咄嗟に防御姿勢を取ったシーアだったが、ブラックラビッツはシーアを無視して机から飛び降りた。

「あれ?」

 鋭い刃を展開したそのブラックラビッツは、迷わずフォルマに向かっていった。

「危ない!」

「えっ、誰!?」

 ゴウライザーとアズラが慌てて道を開ける。ブラックラビッツは二人に目もくれず、真っすぐフォルマに刃を突き立てた。しかしフォルマもすぐにアプリをハーレクインへと換装し、その攻撃を受け止める。

「危ないですねぇ」

 少しも焦る様子なく落ち着いた声。それはブラックラビッツの方も同じらしい。顔色一つ変えずに追撃する。それをフォルマも受け止める。激しく乱打する二人に、アズラは何度か射撃を試みたが、それをブラックラビッツが振り返ることもせずアームの一本で叩き落とすように斬ってしまう。

 フォルマとブラックラビッツの激闘の最中、次に変化があったのはヴォルパーティンガーと激戦を繰り広げていた方だった。サクラの召喚した巨大ドラゴンとの取っ組み合いを繰り広げていたヴォルパーティンガーは、突如としてその頭部をあらぬ方向に曲げた。というより、強い衝撃を受けて顔を逸らされた、という方が正しい。不意の一撃に力の制御ができなくなったヴォルパーティンガーは、ドラゴンとの乱闘に押し負け、床に崩れ落ちてしまう。ドラゴンは壁に激突し、ケーブルや機械を巻き込んでもとのデータへと変換され消えていった。

「ワオ、すごいわねぇ」

「狙撃者特定」

 関心するジェーンをよそに、ドロッセルは攻撃が飛んできた方向を指さした。その指が示す先に、もう一人のブラックラビッツが大きなライフルを構えてこちらを睨んでいた。その銃口はすでにドロッセルに狙いを定めていた。

「ドロッセル殿!」

 蒼明が苦しげに叫び、しかしまだ消耗した電力を回復できておらず、立ち上がれずによろめいた。声を合図にブラックラビッツの狙撃手は引き金を引き、ドロッセルは前へと跳躍してその一撃を紙一重で回避する。

 しかし、そんな狙撃ブラックラビッツの一撃を受けて、ヴォルパーティンガーは今度こそ完全に機能を停止したらしい。ぴくりとも動かなくなっていた。まだ動けるライクとジェーンがヴォルパーティンガーに組み込まれていたD-phoneをどうにか救出した。両足は欠損し、すっかり電池も消耗していたが、まだメインCPUは破壊されていなかったようだ。

「これならば回復できるかもしれないわね」

 少しほっとしたジェーンの声に、ライクも安堵する。

 一方でドロッセルは、その様子を見届けるより早く、シーアのいる机の上に飛び上がった。フォルマの方にも目を向けるが、今はそれよりもシーアを守る方が先決だ、と判断する。すぐに巨大な剣をシーアをかばうように構え、司令塔らしきブラックラビッツを睨みつける。

「敵か、中立か」

 味方ではないのは確かだ。しかし、敵と判断できる要素もない。二人は少しの間にらみ合うも、ブラックラビッツの方から興味なさげに視線を外した。シーアとドロッセルも彼女の視線の先を追う。

「キリがありませんねぇ。可変しますよ!」

 フォルマだった。素早くアプリを切り替え、倒れて動かないヴォルパーティンガーの元へと駆けつけ、すぐに自らを組み込む。苦痛に顔を歪めるが、それでも強引に再起動させると、全体から聞こえてはいけないような音を立て始める。その異質な様子に、誰も手を出せなくなってしまった。

「これは……想定以上、ですねぇ!」

 大きな負荷を受けながらもフォルマはヴォルパーティンガーを高速飛行形態「モード:マーチヘア」へと変形させた。

 アプリケーション・アーマーは基本的に単独で一つの目的を遂行するためのものである。しかし、その中にはいくつか、「複合させることで全く別な目的のための姿を現す」ものもある。それらを参考に建造開発されたのが、このヴォルパーティンガーの高速飛行形態「モード:マーチヘア」である。

 フォルマはすぐさまマーチヘアを宙へと浮かせ、ビームを照射しながら天井を突き破って上へと逃げていく。

 追いかけることができたのは、ブラックラビッツの3人。そして十分な電力が残っているドロッセルだけだった。他の誰もが満身創痍で、ドロッセルを追いかけてサポートすることができない。そして、ドロッセルがいくら強力いえど、ブラックラビッツ3人を相手にしながらフォルマを止めるのは、ほとんど不可能だ。

「おーい、シーアちゃーん!」

 その時、遠くからシーアを呼ぶ声がかかった。机の下を覗き見れば、そこにいたのはスレイプニルと、シーアの知らぬD-phoneだった。青い体に大きな飛行用のアプリを装備し、スレイプニルを抱えて飛び上がってくる。

「いやぁ助かりましたよ! どこまで行けとかどうしろとか追加の指示がないのに信号が途切れちゃって、シーアちゃんと全然通信できないんですから! でもまぁこうして会えたのはよかったです、はいこれ、コンデンサーユニットは守りましたよ! あぁ、そうそう、伝え遅れました、彼女楓ちゃんです! なんでもクラネアちゃんたちと一緒にここまで来たとかで、一緒に合流して一旦戻ろうって話になりまして。それで戻ったらこの有様って大丈夫ですか?なんかすごいことになっちゃってるんですけど、私離れたのってそんな何年も経ってましたっけ? あっ、もしかして早すぎて光速超えたとか……? ま、まさかですよね!」

 スレイプニルが一気に捲し立てたおかげで、どこか緊張の糸が解けたように感じた。だが、現状は何も変わっていない。ドロッセルがピンチなことに変わりはないのだ。

「……そうだ」

 シーアは一つ思いついたことを口にする。

「楓、だっけ。私とスレイプニル……二人担いで上まで行ける?」


 事実だけを見れば、楓はシーアとスレイプニル、二人をしっかりと抱えたまま飛行することは可能だった。元々前線サポートとして設計されたアプリなのだ、D-phone2人分の重量を積載しての飛行は理論上は可能だ。

「お、重たい〜っ」

 しかし、積載可能であることと、それが簡単かどうかは全く別の話である。

「頑張って、楓っ」

 シーアが鼓舞するが、その進みは遅々としたものであり、下から見ていても、マレットですら、

「……大丈夫かよアイツ」

 と、心配の声をあげるほどだった。

 だが彼女はどうにか2人を上の階へと送り届ける。そこでへばってしまいはしたが、ここからならばシーアとスレイプニルでも行ける。なんせ、どうやら倉庫的な施設らしく、たくさん棚が並んでいる。

「ありがとう、楓! 下でみんなと休んでて。スレイプニル、行こう!」

「はい! すぐ戻りますから待っててくださいねっ」

 シーアを背後に乗せたスレイプニルは、素早く地面を蹴って飛び上がり、棚から棚へと飛び移っていく。先の実験室ではできなかったが、ここでなら可能な芸当だ。

 そうして2人は強引に開けられたフロアを駆け上がり、建物の屋根の上へと出た。

「ぞ……増援確認。感謝する」

 三つ巴の戦いとはいえ、かなり苦戦しているマレットがそこにいた。

「わぁ、ドロッセルちゃんほら、補給ですよ、はい、ケーブル繋いでください!」

 急いでドロッセルに駆け寄り、スレイプニルは自身の電力を分け与える。熱を帯びたボディが冷えるにはもう少し時間がかかるものの、それでも消費したエネルギーは一気に戻ってくる。

 見れば、フォルマはまだモード:マーチヘアのまま高速で移動しながら、主に体当たりを使ってブラックラビッツと戦っていた。高い戦闘能力を持っているブラックラビッツいえど、質量でいえば単なるD-phoneなのだ。強引に押し通されてしまい、決定打を与えることができないでいる。ライフルの射撃も、刃の一撃も、マシンガンによる掃射にも一切怯むことなく、フォルマはブラックラビッツを屋根から叩き落とそうとしている。

「あれ、ビームはどうしたんだろう」

「電力切れと推定」

 相手は飛行するくらいの力しか残っていない。そうドロッセルは考えている。そして、その仮説が正しければ、シーアたちにも勝機はある。

「フォルマ!」

 大声を出したその瞬間、フォルマがこちらへ意識を向ける。その止まった隙をついて攻撃を仕掛ける。いや、仕掛けようとした。

 ブラックラビッツの狙撃手がフォルマの頭部を綺麗に撃ち抜く。

 同時にモード:マーチヘアは自身の重量を支えきれず、派手な音を立てて屋根の上に落下し、一つ下の屋上部分へと滑り落ちていった。

「……」

 残されたブラックラビッツはシーアを見つめ、そしておそらくリーダーシップをとっているであろう個体が、口を開かずに発話だけ行う。

「お……前ワ」

 彼女たちが使用するノイズ音ではない。はっきりとした言葉だった。

「われラと、ドールい……な、ゆえ、守」

「……私が、どうしてみんなを守るのか、ってこと……?」

 リアクションはない。だが、襲ってくる様子もない。

「だってそれは、みんなが仲間だから」

「お前ノ……Nakマは……われラ」

 好意的に解釈するのならば、ブラックラビッツはシーアの仲間であり、守るべきはそちらである、と言っているようにも聞こえる。だが、それには不明瞭な部分が多すぎた。それでも、シーアにはわかることは一つだけある。

「君たちは……仲間、じゃないよ。少なくとも……みんなを苦しめるなら」

 返事はない。その代わり、ブラックラビッツのうちの1人、4本の刃を振るう個体が近づいてきて、その切先をシーアに向け、

「シーア!」

 眉間に突き立てるその瞬間、その攻撃をドロッセルが防いだ。防いだというよりは、シーアを背後から引っ張り、攻撃軌道から外れさせた、という方が正しい。だがそれは結果として、ドロッセル自身が貫かれる、という結果を残した。

「ドロッセル!」

 シーアは気づいたが、少し遅い。刃はドロッセルのボディを貫通し、そのまま彼女を軽々と持ち上げる。そして、興味なさげに一振りすれば、ドロッセルはそのまま屋上部分へと落下していった。

「どっ……!!」

 急いで走るスレイプニルだが、落下するドロッセルを受け止めれたかどうかはシーアには確認する術がなかった。その代わり、次に気づいた時、彼女の目の前からブラックラビッツは姿を消していた。

 目覚めたのは、車の中だった。


 BE社での戦いは終了した。だがその傷跡は大きく、ヴォルパーティンガーの研究を行っていたチームは逃げるように撤退していったらしい。その行き先はおそらくFactory-Omeca社だろう、とアルカナは言う。

「あそこには革新的な技術が研究されているんですよ。チラリと見た限りですが、ヴォルパーティンガーを動かしていたシステムも、元はFactory-Omeca社のデータライブラリから発見されていた、という報告書がありました」

 残された土地は元の鞘に収まったと言うべきか、ドロップとアグリアスがドラグーン陣営を連れて治めることとなった。表向きはこれまで通りだが、ドラグーン陣営のD-phoneも歩き回ることができるようになり、キャリア戦争の勢力図が書き換えられた結果となった。

 そんな渦中にいたシーアはといえば、

「私はFactory-Omeca社に行こうと思う」

「な、なんでよ!?」

 サクラが驚いた声をあげる。無理もない、危険な戦いに身を投じたばかりで、またセンチになる可能性のある場所へと向かおうと言うのだ。そんなリーダーを止めない方がおかしい。

「そ、そうだよ……わざわざそんな……」

「……私の”先輩”に、話を聞かないといけないと思ってるんだ。ちょうどFactory-Omeca社の近くだから、ちょうどいいかな、って」

「あの脅威は放置できないもんな」

「ついてくぜ、面白そーだしよ」

 ゴウライザーとマレットが同意して隣に立つ。

「ありがとう。でも、ううん、だからこそかな。一度、私たちはここで分かれる必要がある」

 シーアの提案に、誰もが言葉を失った。

「あっ、その、あれだよ!? もうさよなら使用とかじゃなくて……私たちとして、アウトサイダー隊として、もっと力をつけるために。もっと、私たちみたいな行く宛のないD-phoneを助けられるように」

 シーアの話をまとめると、以下のようになる。

 致命傷を受けたドロッセルを修理するために、それができそうな八代重工へ向かうチームが一つ。これは楓、アズラ、アカツキ、アルカナが担当することになった。

 戦力増強のためにサクラとともに彼女の”恩師”を尋ねるチームが一つ。サクラ、レイン、ライク、スレイプニルが行くこととなった。

 再び本業のトレジャーハンターに戻ると言ったジェーン。同行者を全員断り、1人でさっさと行ってしまった。だが連絡は取り合うことは約束してくれた。

 そして残ったメンバー、シーア、マレット、ゴウライザー、スレイプニル、クラネア。5人はシーアの”先輩”を尋ねに行くことになった。

 常に連絡を途絶えさせない約束をしてから、それぞれが選んだ道へと進む。シーアたちは車のエンジンを入れて、次の街へと走り出した。

 後部座席に、新しい仲間を加えて。

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