SCJ 2024 公開シンポジウム

日本学術会議 公開シンポジウム「科学の再現性と人間の本性」
心理学の再現性と一般化可能性:それが低いのはなぜなのか

発表者

平石界 (慶應義塾大学)

要旨

現代の心理学研究は一般化可能性の低さという問題に陥っており、これこそが2010年代初頭からの再現性危機の根本的な原因であることを指摘する。

人間行動という複雑な現象を、少数の心理構成概念の効果の線形結合という単純なモデルで記述しようとしてきたのが、現代心理学の主流派アプローチである。単純なモデルを複雑なデータにフィットさせようとすれば、モデルの構成要素(心理構成概念)や要素間の関係(モデル設定)を、サンプルごとに柔軟に調整する必要が出てくる。それによって各サンプルの持つ複雑さを統制する一方で、サンプル間の多様性を吸収するのである。言い換えれば、そうした柔軟さを研究者が自由に行使することによって、あらゆるデータを単純なモデルで説明してきたのが主流派の心理学であった。

こうして出来上がったモデルは一見したところ高い一般化可能性を持つが、柔軟性を排した時には、一転して一般化可能性は低下する。再現性危機とは、柔軟さを許さない厳密な追試によって、心理学モデルの抱える一般化可能性問題が露呈した事件と整理できる。

他方で、個々の再現性の高い現象に合うように心理構成概念の定義を調整することによって、頑健な知見が集まるほど、肝心の構成概念の定義が不明瞭になることもある。研究者の使う構成概念の意味と、人々が生活の場で使うそれとが乖離し、つまり生態学的妥当性が失われる。

本報告では、心理学界で2010年代半ばから進められてきた信頼性革命の結果を概観することを通じ、これらの主張を検討する。そして本質的に複雑な現象である人間行動を扱うためには、関係する要因全てをカバーする巨大データが必要であり、それこそが生態学的に妥当なデータであることを指摘する。そして大規模深層学習モデルが、そうした生態学的に妥当なデータをモデル化する上で有効であることを論じる。

日時

202年 1月21日 ()  1:10~1:05

会場

オンライン 開催 (Zoom)

参加申込み

事前登録が必要です。1月19日までに下記問い合わせ先にメールで申し込んでください。当日のアクセス先 URL 等の情報が送られます。

問合せ先 tsujik[at]agr.u-ryukyu.ac.jp(琉球大学:辻 和希先生):([at]を@に変換し送信ください)

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本企画の実施にあたって慶應義塾大学学事振興基金, 科学研究費(19H01750)の助成を受けています。