菊池淳子さん/日本工営(株) サステナビリティデザイン室長

「サステナブル」という言葉がない世界

本誌で掲載されているインタビュー記事の一部をご紹介します

近年、SDGsの目標達成への意識の高まりとともに、サステナブルという言葉がようやく一般的になりました。

でも、この言葉が世界からなくなることが理想だと思っています。

私が勤める日本工営株式会社は、人々が安全・安心に暮らせるインフラの整備を推進するコンサルタント会社ですが、社会がサステナビリティに配慮してデザインされるのが当たり前の世の中になれば、あえてサステナブルという言葉を使う必要がなくなるでしょう。

「サステナビリティ・コンサルタント」は、持続可能な社会をつくるための課題に対して、解決策を提案する専門家。

経済開発を進めるなかで、地域住民の持続可能なよりよい生活のために、経済・社会・環境の調和のための具体的な提案をするコンサルタントとして、日々奮闘しています。

「明日が楽しみ」と思える人を増やしたい

大学では植物育種を勉強し、イギリスの大学院では「環境保全と経済開発」の両立について学びました。大学卒業後、自治体で公務員として働いていましたが、25歳のときにふと、自分の生きた証として何を残せるかについて考えた時、「この地球の美しい自然を残したい」という思いに至りました。

一回きりの人生、後悔したくないと思い、仕事を休職してバックパックを背負って南アフリカやオーストラリアへ。現地の国立公園で環境保全のボランティアに参加した経験が、この業界で仕事をする決心につながりました。

「世界を変える」なんて、大それたことは言えません。でも、ひとりでも多くの人が、夜寝るときに明日を楽しみにして眠りにつけるようになったらいい。そのために自分ができることをする。そんな想いを持って仕事をしています。

こう考えるようになったのは、エチオピアで見たある光景がきっかけでした。

冷たい雨が音を立てて降り注ぐ中、60-70歳代の小柄な女性たちがずぶ濡れになって、自分の体よりはるかに大きな薪をたくさん背負って黙々と歩いていました。それを見て、一瞬、胸が締め付けられ、とても切ない気持ちになりましたが、同時に、自分が泣くことでは何も解決しないと感じました。

今の仕事は、どんなに厳しい現実を目の当たりにしても、一時の感情に流されずに、コンサルタントとして自分のできることをとにかく粛々とやり続ける覚悟が必要だと悟りました。

社会に必要とされるものをプロデュースしていく

社会の大きな変革期である今、それぞれの国が政策として環境問題の解決、特に2050年のカーボンニュートラル実現に向けて動き始めています。こうしてすでに起きている大きな変化を、言語化して広めていく必要があるのではないでしょうか。

世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の2021年のテーマは「グレート・リセット」でした。

経済や社会の再構築が必要という議論が行われ、世界はすでにその方向へと動いています。

この変化に気づいていない人たちは、近い将来、マーケットから取り残されてしまうかもしれません。

ここ数年で、学校でSDGs教育も広まり、モノやサービスを選ぶ基準としてほぼ無意識に、環境やカーボンニュートラルへの配慮を気にする人も増えていると思います。その価値観や感性を、そのまま持ち続けてほしいです。ひとりひとりが自分にも環境にも気持ちのよいモノやライフスタイルを選択していく積み重ねが、社会の変革を促進するでしょう。

私たち大人の役割は、そんな若い人たちの瑞々しい感性を守り、可能性を潰さず伸ばすこと。そして、私個人としては「サステナビリティ・コンサルタント」として、さまざまな課題に対する解決策を提案し続け、社会をデザインしていくことに携わりたいと考えています。

そのためにもまずは、サステナブル・デザインという視点やコンセプトを、日本で根付かせるため、一歩ずつ歩みを進めているところです。


世界の政財界を代表するリーダーたちが一堂に会する世界経済フォーラムにおいて、2021年はポストコロナ世界を見据えた社会・経済の再構築が議論された。