三浦真理さんJICA(独立行政法人国際協力機構)

野生のコーヒー豆でエチオピアの森林を保全

本誌で掲載されているインタビュー記事の一部をご紹介します

「森林コーヒープロジェクト」は、エチオピアで深刻化する天然林の森林破壊を防ぐために、2003年からJICAがUCC上島珈琲株式会社の協力支援を得てエチオピアで進めているプロジェクトです。



エチオピアはコーヒーの原産地としても有名で、コーヒー豆は最大の輸出品目です。その中の1割程度を占めるのが「森林コーヒー」と呼ばれる野生のコーヒーです。


森林は、地域の人びとにとって社会活動の基盤であり、日々の暮らしに必要な「財とサービス」。

森林の恵みというと一般的には食料や薪など地産地消のものが多いのですが、コーヒー豆は国際マーケットで勝負できるという利点を生かしたプロジェクトです。


森林コーヒーは自生しているため、コーヒー豆生産のために森林を伐採して農地にする必要がなく、むしろ森林を残さなければなりません。また、森林コーヒーの希少性が価値につながり、地産地消の野菜などよりもより多くの収入が得られます。このメカニズムを活用して、住民の現金収入に役立ててきました。


少し前まで道もなかったような地域で、そこに暮らす人びとが採取した森林コーヒーを、私たちが日本で楽しむ。そんな世界の結びつきは想像力を広げてくれるのではないでしょうか。この仕事の醍醐味は、そのストーリーを肌で感じられることです。


正式名称は「ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画」、「付加価値型森林コーヒー生産・販売促進プロジェクト」

「ここにあった木々が、いつのまにかなくなっている」


アフリカ大陸全体を見ても、森林面積は減少しています。その大きな原因は、農地転用による森林伐採と、薪(まき)の採取です。エチオピアもかつては国土面積の35%が森林だったと言われていますが、現在は15%程度と減少しています。


もともと森林率の低いニジェールでは、頻発する干ばつや自然資源の過度な利用などによって、砂漠化が深刻です。

「この前までここにあった木々が、いつのまにかなくなっている」という住民の言葉を聞き、なんとかしなければならないという気持ちがさらに強くなりました。


生活の糧(かて)を得るために遠くの森や草地に行かなければならない状況下では、子どもや女性の労働負担が大きくなります。また、砂漠化による貧困や食料不足によって若者が職を得られず、暴力的過激主義と呼ばれる組織への加入や、国内外への移民を生むことにつながるかもしれません。


砂漠化や森林減少の問題は、社会のさまざまな問題につながっているのです。


アフリカの人口増加や近年の開発スピードと森林減少は比例しています。このカーブを少しでも緩やかにするためには「持続可能な森林管理」のサイクルを回す必要があります。

森林保全は「日本らしい国際協力」のひとつ


持続可能な森林管理を模索する中で「森林保全と地域住民のよりよい暮らしの両立」のギャップに直面することがあります。

森林コーヒーは、管理に手間がかかります。そのため地域住民から、生産性のより高い改良種のコーヒー栽培に移行したいという声が上がることがあるのも事実です。


人がよりよい暮らしを求めるのは当然のこと。この声に応えるためには、認証取得を通じたブランディングなどにより、さらに森林コーヒーの価値を高めることが必要だと感じます。



実は、日本は森林大国ということをご存知でしょうか。先進国の中ではフィンランド、スウェーデンに次いで世界第3位の森林面積を持っています。江戸時代には、日本の森林率は5割まで減ったのですが、植林などで森林率を7割まで戻し、現在まで維持しているという歴史があります。


現在、アフリカをはじめ世界で展開しているJICAの森林保全支援活動は、日本の知見や経験、技術を生かせる日本らしい国際協力といえるのではないでしょうか。


現在は、JICAバングラデシュ事務所で、社会開発班として環境、農業、ガバナンスなどのセクターを担当しています。地球環境部では、地球環境や宇宙といった大きなイシューを扱いつつ、事業を行う上では、地域の人々の生活や福祉といった視点を常に意識することが重要だと感じていました。


バングラデシュでも、どのセクタ―の仕事であっても、常に現地に住む人々ひとりひとりを思い描きながら、プロジェクトを作り、運営していくことが大事だと改めて実感しています。


これからも、人と自然の持続可能な共生の道を探っていきたいと思います。