⑨密教
仏教が死後の世界を説く教えではなく、お釈迦様の心の教えであり、煩悩を滅する事で人を苦から解放する宗教であると理解しました。その仏教には密教と呼ぶ宗派があることを知りました。お釈迦様の教えの仏教に対して、密教は宇宙そのものを擬人化した大日如来という仏が教えを説きます。この密教についても科学的な捉え方を試みました。
密教
密教はヒンズー教と仏教が融合して生まれた宗派である。日本では弘法大師空海が真言宗の名前で広め、真言密教と呼ぶ。以下、真言密教を密教と記す。
仏とは悟りによって覚醒した人のことを指し、実在の人物であるお釈迦が仏となられて心の教えを説かれた。一方、密教で教えを説く仏は人ではなく、大日如来と呼ぶ宇宙の真理そのものを擬人化した仏である。このスーパー仏陀、大日如来が私たちに教えを説く。人は宇宙で生まれるので、大日如来の体内で生まれる大日如来の一部である。したがって人は生れながらの仏である。生きているこの今、元来が仏であることを自覚することで幸せを得る。お釈迦様の説く八正道の実践で煩悩を取り去り、悟りを得るのとは別の仏への道なのだ。
密教を科学する
大日如来で表される宇宙の真理とは何か。このことを科学的に考える。自然宇宙には、大きな空間に星々がガンジス川の砂粒のごとく存在する。無数の星々が生まれて輝いて死んでまた生まれる。宇宙は常に活動している。万物は原子で構成され、我々の命も精神を生み出す神経ネットワークも原子で構成される。極大から極小まで人体を貫いて全てが宇宙だ。このような宇宙の中の自分をイメージし、宇宙と一体になることで心が開花する。美しいものを見て、美しいメロディを聴いて、芳しい香りを嗅いで、肉体的交わりを通して、瞑想を通して、…、この世に生を受けた自分を感じることで幸せになる。自分が幸せになれば他人をも幸せにすることができ、他人の幸せが更に自分を幸せにしてくれる。これが科学的に捉えた大日如来の教えだ。
極小世界への旅
人は大日如来から生まれた大日如来の一部である。これは人間の肉体、精神を生む神経ネットワーク、人間の命は宇宙の中で宇宙の構成要素で成り立っていることを表している。それでは自らの身体の中の小さい世界へ瞑想の旅をしてみる。
眼を閉じて自分を意識する。自分を上空から見てみる。自分は宇宙に存在するひとつの命だ。再び降りて自分の中に入って行く。ここからはどんどん小さくなって体の中の極小世界へ向かう。体のどこか一部、例えば今こうやって考えている脳の中を小さな方向に向かって旅する。密集した神経細胞のネットワークの中の一つの神経細胞の中に入る。細胞の大きさは数ミクロン。細胞の中では目まぐるしい化学反応が起きている。細胞の中の細胞核に入る。遺伝子DNAがある。DNAは自分を形作り性格を決めている。その実態は長大な分子の糸である。無数の原子が鎖のように連なって二重螺旋で巻かれている。細胞分裂の際にはDNA螺旋はあちこちでほどけてベルトコンベアのようにRNAを大量合成し、再び二重螺旋に畳まれていく。DNAを構成しているひとつの原子の中に飛び込む。原子の表面は電子が激しく波打つ雲のように中央の原子核を取り巻いている。原子核を10cm程の大きさだとすると原子全体は約100mもの大きさで、この原子の中の空間は量子力学が支配している。原子核は陽子と中性子が強い力でつなぎとめられ激しく活動している。その原子の中にも銀河宇宙がある。自分の体も自分を包み込む宇宙も全て原子から成り立つ。そして再びミクロ世界からマクロ世界に戻る時、宇宙の中の自分を感じとることができる。
もうひとつの仏への道
仏とは覚醒した人間の意味であった。人間は宇宙の一部で、仏もまた宇宙の一部だ。仏の世界、仏が手を差し伸べる世界、全ての世界は大日如来の体内に宿る。すなわち大宇宙の中に数多くの仏の世界がある。曼荼羅は仏の存在する宇宙を説く。自分がこの宇宙に生を得ている事に感涙し、幸せを感じ、他人もまた自分と同じである事を悟り、人類全体を調和に導いて行く。宇宙から喜びを感じ取ることで自分が生まれながらの仏であると自覚し、その自覚によって煩悩を消し去ることができる。それは地上に調和に満ちた世界をもたらします。