遺伝子解析

野外調査期間以外は研究機関に戻り、遺伝子の解析がメインの仕事になります

目次

DNA抽出

野外でとってきた血液からDNAを抽出します。

鳥の赤血球は核があるので、血液から容易にDNAを抽出することが出来ます。

これで抽出したDNAをもとに遺伝子解析を行います

※核:DNAは生き物の細胞の中にある核(よく細胞の絵でかかれるなかの「点」の部分)のなかに入っています。人間の赤血球は作られる過程で核がなくなるので(脱核という)、よく描かれる中央がへこんだ円板状になっているわけです

※DNAと遺伝子:DNAは塩基(A, T, G, Cの4種類ある)という分子がいくつも連なって作られるらせん状の長い分子です。私たちの体はこのDNAに並んでいる塩基(A, T, G, C)の順番をもとにして、タンパク質を作り体を作ります。長いDNAのらせんの中の特定の部分が特定のタンパク質の設計図というように対応がついています。こうしたDNA分子の「設計図」の部分を遺伝子というわけです。

北大の研究室でDNA抽出作業を行っていたところ

性判定

多くの鳥は外見上ではオスとメスの区別がつきません

ほとんどの種類が外部生殖器もないので生殖器をもとにした判断(オスのペニスがあるかどうか)もできません。

そこで鳥の性判定には遺伝子をもとにした方法が良く用いられます。

Fridolfsson & Ellegren (1998)さんが開発したPCRと電気泳動を用いた方法です。

ある遺伝子のPCR産物を電気泳動に掛けたときにバンドが2本ならばメス、1本ならばオスという判断ができます。

※PCR:コロナのおかげで説明があまりいりませんね。もともとあるDNAをもとにして、人工的に特定のDNAを大量に複製する方法です。鳥の性判定のためのPCRでは、鳥の性染色体であるZ染色体にあるCHD1Zと、もう一つの性染色体であるW染色体にあるCHD1Wという遺伝子を同時に大量に複製します。オスはZ染色体しかもたないのでPCRで複製されるものはCHD1ZのDNAのみです。メスはZ染色体とW染色体の両方をもつのでPCRで複製されるものはCHD1ZとCHD1Wの両方のDNAです。

※電気泳動:アガロース(寒天)などのゲル中に様々な長さのDNAやタンパク質をおき、その状態で電圧をかけることで長さをもとにそれら分子を分離する方法です。CHD1ZとCHD1Wはどちらも長いDNAの分子ですがその長さが異なります。性判定のPCRで複製したそれらのCHD1ZとCHD1Wに由来するDNAを電気泳動に掛けると、オスならばCHD1Zに由来するDNAのみが検出され、メスならばCHD1ZとCHD1Wの両方のDNAが検出されることで、オスとメスの判断が可能になります。

リュウキュウコノハズクのヒナ16個体の性判定結果。写真はPCRで増やしたCHD1ZとCHD1WのDNA断片をアガロースゲル電気泳動にかけたもの。結果は縦方向に見ていく。例えば、個体IDが4番の個体の性判定結果は、図中のオレンジ色で示した部分に対応する。この個体はバンド(明るくなっている部分)が二つあるのでメスと判定される。

マイクロサテライト

マイクロサテライトとは生物のゲノム上にある繰り返し配列のことです。

その繰り返し数は個体によってさまざまに異なりマイクロサテライトは基本的にメンデルの法に従って親から子へ受け継がれす。

その性質をもとに、親子判定や集団の交流の解析などいろいろな研究に用いられます。

上半分:私たちを含め生き物の体はたくさんの細胞でつくられています。その一つ一つの細胞の中には核とよばれる部分があり、その中には染色体というものが入っています。染色体は長いらせん状のDNA分子が複雑に寄り集まってできたものです。DNAで作られた染色体のすべての遺伝に関する情報はゲノムと呼ばれます。

下半分:らせん状のDNA分子はA, T, G, Cの4種類の塩基と呼ばれる分子がいくつもつながる形で構成されていて、その順番によって遺伝子の情報が記されています。この長い塩基の連なり(塩基配列)のなかには同じ塩基の組み合わせが何度も繰り返す領域があります。そこがマイクロサテライトと呼ばれています(図中の赤枠)。多くの動物は同じDNA分子を2本持っているので、DNA上にあるマイクロサテライトも2つあります。ポイントは同じ場所のマイクロサテライトでも2本は必ずしも繰り返し数が同じではないという点です。上の図では1つ目のDNA分子はATを4回繰り返し、2つ目のDNA分子はATを6回繰り返しています。この繰り返し数の違いは個体によってさまざまで、その繰り返し数の違いの情報を様々な研究に用いることになります。そのとき、私たちはこのマイクロサテライトの長さを書き記すために「4|6」などのように繰り返し数を用います。こうして書かれたその個体のマイクロサテライトの繰り返し数の組み合わせを遺伝子型と言います。

マイクロサテライトはDNA分子の一部であり、遺伝子と同じように親から子へ受け継がれていきます。母親から1つと父親から1つのマイクロサテライトが組み合わされて子供のマイクロサテライトの遺伝子型が決定します。それなので、親のマイクロサテライトの遺伝子型がわかっていれば、図のようにどのような遺伝子型の子供が生まれうるかは予測することが出来ます。

親子判定

DNA解析の技術が発達したことで、鳥はつがい関係にある相手以外の子供(つまり浮気相手との子)を育てていることがしばしばあることが知られるようになりました。

リュウキュウコノハズクも少ないとはいえそういう事例があることが知られています。

なぜつがい外の相手との子を作るのか、自身の子ではない子がいるときに親はどのようにふるまうのか、などの疑問は行動生態学でよく研究されている課題です。


以下では、マイクロサテライトによる親子判定の原理を説明します。

まず再確認ですが、父親と母親はそれぞれマイクロサテライトを2個ずつ持っていて、両親はそれぞれ各1個のマイクロサテライトを提供して、子供がもつ2個のマイクロサテライトを作り出します。

この仕組みを利用することで次のような原理での親子判定が可能になります。

・子供の持っているマイクロサテライトが、両親持っているマイクロサテライトと食い違わない⇒その子供はその親の子供である

・子供の持っているマイクロサテライトが、両親の持っているマイクロサテライトと食い違う⇒その子供はその親の子供ではない

人間の場合、血液型で父親が違うことがわかるという話がありますが、原理はそれと同じです。

マイクロサテライトによる親子判定はそれよりも強力な方法と言えます。

手順1でまず対象の親子のマイクロサテライトの遺伝子型を決定します。遺伝子型の決定自体はPCRや電気泳動の応用手法を用いて行われます。遺伝子型が決定したら、手順2として、親子で食い違う遺伝子型を探します。図の場合は真ん中のヒナがつがい外の子という判定結果になります。

全ゲノム解読

2021年冬から行っています。これから解説を作っていきます。

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