島内の血縁関係(編集中)

Sawada A, Iwasaki T, and Takagi M (2018) Fine-scale spatial genetic structure in the Minami-daito Island population of the Ryukyu scops owl Otus elegans. Journal of Zoology, 307, 159-166 論文

ダイトウコノハズクは南大東島の中で一生を過ごす留鳥ですが、島の中を常に自由に飛び回っているわけではありません。

縄張りをもっているうえに、生まれた雛の分散距離(つまり、移動距離)には性差があります。

このような状況では仮に小さな島のなかの留鳥だとしても、空間的に集団内に遺伝的違い(空間的遺伝構造)が生じている可能性があります。

2016年の227個体のマイクロサテライト解析をしたところ、たしかに南大東島内に空間的遺伝構造があることが確かめられました。

目次

遺伝構造

集団レベルでの遺伝的な違いを集団の遺伝構造といいます。

それが空間的に生じている場合、空間的な遺伝構造といいます。

進化は集団の遺伝子頻度の変化として表現されるので、進化研究の対象種における遺伝構造の把握はその種で進化の議論を進めるうえでの基礎となります。

マイクロサテライト

この研究では遺伝構造を調べるためにマイクロサテライトマーカーを用いました。

マイクロサテライトとはゲノム上にある繰り返し配列のことです(説明はこちら)。

その繰り返し数が個体によってさまざまに異なるうえ、その繰り返し数の違いは基本的にメンデルの法則で親から子へ伝わっていきます。

それなので、マイクロサテライトは集団内の個体間の遺伝子の違いを捉えるのによく用いられてきました。

sPCA

集団内の空間的な遺伝構造を記述するために、この研究ではspatial Principal Component Analysis (sPCA)を用いました。

sPCAは主成分分析の派生で、地理的な座標データを伴う多変量データから、空間自己相関が正に大きくかつ分散の大きい変数と、空間自己相関が負に大きくかつ分散が大きい成分を取り出すような方法です。

つまり、近くにいるもの同士でよく似ている特徴や、近くにいるもの同士で全然似ていない特徴を見つけ出す方法とも言えます

sPCAの結果、地理的に近くの者が遺伝的に似ているという空間構造が見出されました。

そしてその構造はメスよりもオスで顕著にみられました。


sPCAがとらえたオスの空間的遺伝構造を示した図

sPC1とsPC2はそれぞれ異なる遺伝的特徴を表す変数です。一つ一つの点が個体を表しており、色と大きさの似た点同士であるほどそれらの個体は、その変数に関して似た遺伝的特徴を持つと言えます。

DAPC

必ずしも空間的に生じているわけではない集団内の遺伝構造を記述するために、この研究ではDiscriminant Analysis of Principal Component (DAPC)を用いました。

DAPCは多変量データをいったん主成分分析にかけて無相関の変数の多変量データに変換したのちに、それらを用いて判別分析を行うような手法です。

この手法を用いれば、遺伝的特徴が似たもの同士を見つけ出してグループ分けができます。

DAPCの結果、2016年の227羽のサンプルは6つのグループに分けられることがわかりました。

DAPCによるグループ分けを示した図

各個体が1本1本の棒で表現され、その棒の色がその個体がどのグループに帰属するかを表しています。6個のグループは6段階で濃さの異なる緑色で表現されています。例えば一番左の個体は全体が最も濃い緑なのでグループ①に帰属しますが、左から31番目の個体は最も濃い緑と最も薄い緑がそれぞれ棒の半分くらいを占めているので半分ずつくらいの確率でグループ①と⑥に帰属しているといえます。

分散距離との関連

空間構造はメスよりもオスで顕著にみられました。

これはメスの方がオスよりも出生地から遠くに定着する傾向があることが原因と考えられます。

ダイトウコノハズクのオスのヒナは巣立った巣から成鳥になったときに構える縄張りまでの距離の平均がXXmですが、メスのヒナはそれよりも遠いXXmです。

メスは遠くまで移動して「よく遺伝子を運ぶ」ので、遺伝子が「広く拡散されて」、空間的な遺伝構造ができにくいと考えられます。

近親交配回避との関連

この研究では、近くの者が遺伝的に似ているという空間構造が見出されました。

Isolation by distanceとも呼ばれる構造です。

このような状況では血縁者が比較的近くに縄張りを構えており、血縁者同士の出会いが起きやすい状況です。

それなので、近親交配を避けるようなメカニズムがあるかもしれません。

それを検証したのがこの論文の次に発表したこちらの論文になります。

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