体の大きさの性差

Sawada A, Iwasaki T, and Takagi M (2020) Reversed sexual size dimorphism in the Ryukyu Scops Owl Otus elegans on Minami-daito Island. Ornithological Science, 20, 15 - 26 論文

ある動物のオスとメスに違いがあるとき、その動物には性的二型があるといいます

一般的に猛禽類ではメスがオスよりも体が大きいことが知られています。

これは人間を含めてオスがメスよりも体が大きい動物とは「逆」のパターンなので、

この現象は性的二型の逆転reversed sexual dimorphism (RSD)と呼ばれています。

これまで猛禽類のRSDの度合い(メスがオスよりどれくらい大きいか)は種や個体群に対して報告されることが多く、RSDの度合いが個体群内でも変化することにはほとんど着目されてきませんでした。

体サイズは様々な選択圧を受けていているので、性的二型の度合いの経年変化に着目することで、

性的二型を生じさせる要因に関する手掛かりが得られる可能性があります。

この論文では、そうした研究目標の第1段階として南大東島のリュウキュウコノハズクの2002年から2019年のデータを用いてRSDの度合いが経年変化することを示しました。

目次

体サイズ

動物の体の大きさは動物にとっていろいろな意味を持ちます。

たとえば体が大きいほうが餌を上手に取れるかもしれませんし、体が小さいほうが必要なエネルギーが少ない分飢えに強いかもしれません。

私たちは体の大きさを通して動物の生態のあらゆる側面を見ることができます

選択圧

大きさでも色でも鳴き方でも何でも、生物の性質や特徴のことを形質と言います。

ある形質についてどのような個体が生存競争において有利かを左右する要因を、その形質に対する選択圧といいます。例えば、

・体の大きい個体は、餌が少なくなると必要なエネルギーをまかなえずに死んでしまうかもしれませんが、

体の小さい個体は、餌が少なくなっても必要なエネルギーをまかなえるので生き残るかもしれません。

これは、餌量(要因)が体の大きさ(形質)に対する選択圧になっている例です。

明らかに、選択圧はその形質の進化の道筋に影響します。

上の例で言えば、「餌量が少なくなれば体の小さい個体ばかり生き残るので、体が小さくなるように進化する」と考えられます。

体の大きさは、さまざまな生態に関わっている分、さまざまな選択圧にさらされています。

餌量が体の大きさに対する選択圧になる例としての、大陸から島に定着したフクロウの体の大きさの変化。大陸には豊富な餌があるが、島は餌資源が乏しいので、島では小さい個体しか生き残れず、体が小さくなる方向に進化するかもしれない。

性的二型の逆転

ある形質が性別によって異なるとき、その形質には性的二型があるといいます。

オスは派手な姿をしているけど、メスは地味な姿をしている、というのは性的二型の典型例です。

オスの体が大きくて、メスの体が小さい、というのも性的二型です。

このような体の大きさの性差は特に「体サイズの性的二型」といい、

種や分類群によって1)どちらの性が大きい体をもつのかとか、2)どの程度大きさに差があるのか、に違いがあります。

一般的に猛禽類ではメスの方がオスよりも体が大きいことが知られています。

これは人間を含めてオスが大きい動物とは「逆」のパターンなので性的二型の逆転(reversed sexual dimorphism; RSD)と呼ばれています。

性的二型の指標 Dimorphism Index

性的二型の度合いはオスのサイズとメスのサイズの差とることで測ることができます。

しかし、性的二型の度合いを種間で比較しようとするときは単純な差は役に立ちません

例えば、ライオンとハエでどちらが顕著な体サイズの性的二型をもつかを調べたいとします。

明らかに、ライオンの雌雄の体長の差(数十cm?)はハエの雌雄の体長の差(数mm?)よりもはるかに大きくなります。

つまり、雌雄の差そのものは種によってそもそもの体サイズが違いすぎるので、

性的二型の度合いの種間で比較する際には用いることができない、ということです。

そこで以下のDimorphism Index (直訳すると「二型指標」)というものがStorer (1966)により考案されました。

Dimorphism index 

= 100 × (メスのサイズの平均 – オスのサイズの平均) / (オスとメスのサイズの平均) 

= 100 × (オスとメスのサイズの差) / (平均的なサイズ)

要するに、Dimorphism Indexは、その動物の平均的なサイズに対して、オスとメスのサイズの差の占める割合(%)です。


Storer, R. (1966). Sexual dimorphism and food habits in three north American Accipiters. The Auk, 83(3), 423-436. https://doi.org/10.2307/4083053

結果:南大東島のリュウキュウコノハズクの性的二型

2002年から2019年に捕獲された770個体の形態計測値をもとに南大東島のリュウキュウコノハズクの性的二型を記述しました。

重要な点は二つあります。

1.性的二型の向きや形質によって異なっていた

体重、全嘴峰長、嘴高、嘴幅、尾羽、翼長ではメスがオスよりも大きく、フショ長、全頭長ではオスがメスよりも大きいことがわかりました。

この結果は、メスの体がオスの体を単純に拡大して得られる形をしているわけではないことを意味しています。

特に、体全体の「メスがオスよりも大きい」という傾向とは逆の「メスがオスよりも小さい」という傾向を示す部位(フショ長と全頭長)には、何らかの機能的な理由が隠されている可能性があります。

2.繁殖期と非繁殖期で性的二型の度合いが変化していた

繁殖期の体重の性的二型は、非繁殖期の体重の性的二型よりも大きいことがわかりました。

鳥のメスは繁殖期と非繁殖期で体重が変動することがよく知られているので、両方の時期での体重のデータを残すことは大切です。

図からあきらかなように体重のDimorphism indexは、他の形質のDimorphism indexよりも大きくなっていましたが、これには注意が必要です。

なぜなら、体重は、体積つまり「長さの3乗」に依存する値で、他の形質はすべて、「長さ」そのものに依存する値なので、

必然的に体重ではオスとメスのサイズの違いがより大きな値で出るからです。

例えば、メスの体長がオスの体長の「2倍」になると、メスの体重はオスの体重のおよそ「2の3乗=8倍」になるので、オスとメスの差が強調されるわけです。

結果:南大東島のリュウキュウコノハズクの性的二型の経年変化

体重、フショ長、嘴高、翼長では性的二型の度合いが年によって異なることも明らかになりました。

ここでは体重の結果のみを示します。

このような性的二型の年変動をもたらす要因を探るのはこれからの課題になります。

たとえば体重が大きい個体と小さい個体の年ごと生存率の違いをオスとメスのそれぞれで求めてみると、こうした性的二型の年変動を説明できるかもしれません。

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