調査内容
巣の見回り
繁殖期に巣を定期的に見回ることで、それぞれの巣における初卵日、卵数、孵化日、雛数、巣立ち雛数、などの記録を行っています。
子育てのすべての記録を行っているということです。
生物は子孫を(より正確には遺伝子を)残していくことで進化をしていきます。
個体がどれだけ子孫を(より正確には遺伝子を)を残せるかは、その個体の「適応度」と呼ばれています。
ゆえに、進化を扱う学問である生態学では各個体の適応度はとても重要なものになります。
巣の見回りで得られる繁殖のデータは各個体がどれだけ子孫を残していくか、つまり適応度に関するデータになります。
したがって、巣の見回りは私たちにとってもっとも重要な調査と言えます。
巣立ち雛の三きょうだい(平仮名で書いたのは性別は不明のため)。巣立ってすぐの頃はくっついていることが多くてとてもかわいいです。
捕獲
私たちのリュウキュウコノハズクの研究は、単純に個体数を数えたり声を録音するだけの調査ではなく一個体一個体の様々な違いに着目した研究です。
(どういう個体が「多くの子孫を残すのか」、つまり「適応度が高いのか」に興味があるからです。)
そのために環境省の許可のもと捕獲調査を実施しています。
足環標識
個体レベルの調査を行うために捕獲した個体には足環をつけています。
個体がわかるようにした「名札」のようなものです。
足環標識の意義については見出しを改めて説明します。
形態計測
捕獲した個体はすべて体の大きさを測ります。
基本の項目は、体重、ふしょ長(足の骨の1つ)、嘴峰長(くちばしの長さ)、嘴高(くちばしの高さ)、嘴幅(くちばしの幅)、全頭長(頭の長さ)、尾長(尾羽の長さ)、自然翼長(初列風切という翼の羽の伸ばさず自然な状態での長さ)、平圧翼長(初列風切という翼の羽の伸ばした状態での長さ)、の9項目です。
こうした形態計測データは、体の大きさや健康状態の指標として研究の様々な場面で利用される基礎データです。
例えば、
・体が大きいと低い声でなくか?
・体重が重いほうが長生きか?
などの疑問に答えるために用いられます。
電子ノギスを用いて嘴幅をはかっているところ
採血
捕獲した個体はすべて採血を行います。
野外調査期間終了後、大学などの研究機関に帰ってからこの血液を分子生物学的に処理・解析することで遺伝子の情報を得ることが出来ます。
鳥の赤血球は核を持っているので、血液からDNAを抽出することが出来ます。
少し難しいと思いますので、より丁寧な説明はこちらからどうぞ。
採取した血液はエタノールに入れて保存します。
写真撮影
捕獲した個体はすべて体の写真を撮ります。
顔、腹、翼、尾、全体を撮影します。
羽の状態(傷み具合)、羽の色(濃淡など)、換羽状況(羽の生え代わり)、各種の症状(禿げてるとか眼がおかしいとか)、などの言葉での表現がz難しいもを写真として記録します。
このとき色の見本を映しこむことで後々、個体の間での色の比較ができるようにしています。
まだ着手していないものの羽の色や模様の研究に使う予定です。
カラーチャートと一緒に写真撮影を行います。
足環標識の意義
個体を捕獲し足環で標識することで、一羽一羽の区別がつくようにしています。
私たちは毎年島の全域を対象にした調査を行っているので、すべての標識個体が再捕獲(または再視認)の対象となります。
こうした個体識別により得られる情報は莫大なものです。
例えば、次のようなことを調べられるようになります。
・島にどれくらいの個体数がいるのか?
・どれくらい生きるのか?
・どのような個体が餌を捕るのが上手か?
・どのように配偶者を選んでいるのか?
・巣立った雛はその後どのように移動するか?
・縄張りの大きさはどれくらいか?
・どのような個体が交通事故にあいやすいか?
などなど。
足環に様々な配色の反射テープをつけることで個体識別します。普段私たちは右足の上から下、左脚の上から下に向けての色の順番で個体を呼んでいます。例えばこの個体はBRB-YRBと呼ばれます。B=青、R=赤、Y=黄、G=緑です。初めは片脚1色で始めたものの、これまでに数千羽を調査してきたのでいまでは両脚に3色を使っています。双眼鏡でこの色を読むのも一苦労です。
こうした情報は基礎研究として重要であるだけでなく、保護策の立案といった応用面でも重要です。
例えば、南大東島のダイトウコノハズクは2002年から続くこうした個体識別をした長期の調査データにより、①巣内のメスがネコによく捕食されること、②近年個体数が減っていること、③メスの生存率の低下は個体数を減少させうること、が明らかになりました。
これにより南大東島ではネコによる捕食被害を防ぎメスの生存率を向上させることが重要である、という今後の保護の指針を立てることが出来ました。
また、熱帯域や島に暮らすフクロウの多くは基礎的な生態すらわかっていないものも多いです。
特定の地域に固有の種や亜種も多く存在します。
フクロウ類は樹洞を巣に使うので森林減少の悪影響を受けやすく、人知れずに絶滅の危機に瀕している可能性があります。
南大東島のダイトウコノハズク調査は、こうした地域のフクロウ調査で参考にされるモデルケースとなり、世界のフクロウの保護に貢献します。
2019年にある巣で捕食被害にあった巣立ち目前のヒナ。翼をもがれてしまっている。
また、南大東島では地域の方々が鳥の交通事故死体を見つけた際に、私たちや島の鳥獣保護員に連絡をしてくださいます。
足環のついたダイトウコノハズクの交通事故死体も数多く回収されてきました。
毎年複数個体の死体が回収されます。
鳥は年齢や性別、時期によって行動が変わるものなので、もしかしたら交通事故にあいやすい個体の特徴が見出せるかもしれません。
回収した死体は計測や写真撮影など必要なデータを撮ったのち、山階鳥類研究所に送ります。
送られた死体は標本として保管されて他の研究に用いられます。
私の最初の研究であるCTスキャンを用いた形態に関する研究も、こうした博物館標本を用いた研究です。
2021年4月29日に島の方が発見回収したダイトウコノハズクの交通事故死体。飛び出しているのは消化管の一部のようで、直前に食べたと思われるムカデやゴキブが見えていました。この個体は2020に捕獲された個体でした。南大東島内でも特にダイトウコノハズクの交通事故が頻発する「事故多発地帯」で回収されました。
縄張り調査
毎日、基本的に雨の日以外は夜間に島の林の周りを歩きます。
その主な目的は縄張り個体と縄張り範囲の確認です。
南大東島では林が帯状につらなっていてほとんどの林縁に道があるため、鳴き声をききつつ林縁を歩くことで縄張りのデータを得ることが出来ます。
ヘッドライトと双眼鏡を使って茂みの中のリュウキュウコノハズクで探します。
縄張り個体は可能な限り探しだして足環の有無を確認し、足環があればその配色を記録し、なければ今後の捕獲対象として居場所を記録します。
研究室の後輩がリュウキュウコノハズクを探しています
録音
各個体の鳴き声を録音しています。
リュウキュウコノハズクは一羽一羽が違う声を持っているので、私たちはその違いについても研究しています。
録音にはオーディオレコーダーとそれにつないだガンマイクを用います。
夜の林に行き、鳴き声のする方にマイクを向け動きを止めて録音をします。
録音に合わせて足環を確認することで、誰の声を録ったのかを明らかにします。
追跡
成鳥やヒナに小さな機械を装着し、行動追跡をします。
かつてはラジオテレメトリー法といって小型発信器を鳥に背負わせ、その信号をアンテナで受信することで個体の移動を追跡したり縄張り範囲の推定したりしていました。
小型発信器の特徴は、リアルタイムの位置をその場で特定出来る点と、機器が比較的安価な点です。ただし位置の特定は同時に三方向から信号の聞こえる方角を記録して3角形を描く方法によるものなので、精度は低いです。
ですが、今は小型のGPSデータロガーが開発されているので、近年はこれを鳥に背負わせて、鳥の行動を追跡しています。
GPSデータロガーは、指定したタイミングや時刻で位置情報を記録し、その情報を蓄積保存していきます。
データの精度はテレメトリーよりも高いうえに、3方向から記録を行うような調査も不要なのでデータの収集がはかどります。
ラジオテレメトリー法による行動圏推定の結果は公益財団法人自然保護助成基金さまの成果報告書(日本語)で出されているものがありますのでそちらもご覧ください。
以前使われていた小型発信器を装着したリュウキュウコノハズク。背中に見える小さな黒い部分が発信機の本体で尾羽のあたり飛び出して見えるのがアンテナ。
ラジオテレメトリー法による位置特定の原理。3か所(A、B、C)から発信機の信号が受信できる方角をアンテナを用いて特定します。それらの地点と方角を地図上に記録することで三角形を描きその中心(重心P)をもって発信源、つまり発信器をつけた個体の居場所とします。
GPSデータロガーによる調査結果の1つで、子育て中のあるつがいの行動圏を示したもの。青い部分がオスの行動圏で、赤い部分がメスの行動圏、黄色い部分がつがいで共有している行動圏。東京動物園協会野生生物保全基金さまでの成果報告により詳しい説明があります。
採餌
巣箱に小型のCCDカメラやドライブレコーダーを装着して親がヒナに与える餌の内容を記録しています。
親鳥が持ってくる餌の種類と量には、例えば
・親の餌を捕る能力の高さ
・餌の好み
・その年やその縄張り内の環境条件の善し悪し
・その日の天気が餌の探索に与える影響
・つがいの間での餌やりという仕事をどう分担するか
などのさまざまな情報が含まれます。
私たちは餌の記録を南大東島での調査が始まった初期から継続的に行ない、さまざまな研究にそのデータを活用しています。
タッパーに撮影機材を入れて巣の下に置きます
撮影機材につながったCCDカメラを、巣の入り口が写るように巣の壁面の穴にセットします
親鳥の給餌内容がこのように撮影されます。ここに写っている餌はゴキブリです。
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