日本文学文化学会2023年度大会のご案内

日本文学文化学会 2023年度大会のご案内

以下の要領で今年度大会を開催いたします。

4名の研究発表に加え、庄司 達也先生(横浜市立大学教授)のご講演を予定しております。 

 

【日時】 2023年7月22日(土)13:00より 開催

【会場】東洋大学白山キャンパス 6210教室

*発表要旨、発表に使用するスライドや配付資料等の著作権は、発表者に帰属します。録画、録音、断りのない再配布、二次利用は禁止です。

 

~大会プログラム~

開会の辞●(13:00)会長 東洋大学日本文学文化学科教授 有澤晶子

講演●(13:05)

「芥川龍之介と大阪毎日新聞社―文壇に向き合う青年作家の「野望」」 横浜市立大学 教授 庄司 達也 先生

●研究発表●(14:30)

・図書館と人格、あるいは教養主義のキメラ 満鉄奉天図書館長・衛藤利夫の図書館論   松井 健人(東洋大学文学部日本文学文化学科 助教)

・夢野久作「犬神博士」に見る性的客体化からの回避   谷 美映子(大学院博士後期課程)

・石川淳「雪のイヴ」論―「肉体文学」との比較を通して―   春日 渓太(大学院博士後期課程)

・茨城県古河(こが)地方の書道文化についての考察   印出 隆之(大学院博士前期課程修了)

閉会の辞●(16:50) 東洋大学日本文学文化学科 第1部学科長 信岡 朝子

●総会●(17:00) ※会員の方のみ御出席ください。

 

【研究発表概要】

図書館と人格、あるいは教養主義のキメラ 満鉄奉天図書館長・衛藤利夫の図書館論(松井 健人)

 本発表は、戦前は満鉄奉天図書館長として、戦後は日本図書館協会理事長として活躍した衛藤利夫の図書館論を扱う。とくに衛藤の図書館論の特徴として指摘されることの多かったW・ホーフマンの図書論との関わりに着目した上で、経年的に衛藤の図書論の内実を考察することが本発表の目的である。検討の結果、衛藤のホーフマン受容は相当に断片的なものであったこと。「良書」というカノンが客観的には存在しない、という衛藤の図書館論にひきつけられる形で読みこまれたことが明らかになった。また衛藤の図書館論の総体的な特徴として、①図書館の社会教育機能の重視、②教養・良書というカノンの否定、③図書館利用者の精神的要求の重要性の主張、④図書館と国家との関わりの重視、の四点が判明した。

 

夢野久作「犬神博士」に見る性的客体化からの回避 (谷 美映子)

 夢野久作の新聞連載小説「犬神博士」は、一九三一年九月二三日〜一九三二年一月二六日まで「福岡日日新聞」に連載された。一九三一年内の連載終了予定であったことが推察されるが、連載は一〇八回で打ち切られ、未完となった。
 「犬神博士」は、大神二瓶と名乗る男への取材という枠組みを持つ。主人公のチイは、養い親に連れられ、女装で性的要素の強い踊りを踊らされる。チイは子供なので、誰かの保護下でないと生きられない。そのため、チイは様々な大人のもとを転々とする。この作品は未完のため、チイが成長して、大神二瓶と名乗る理由や、その出自について、本編中で具体的に説明されない。
 本発表の目的は、「犬神博士」と、その続編的要素をもつ連載小説「超人鬚野博士」(一九三六)に共通の、語り手を通じて前景化する脆弱性と性的主客関係を確認したうえで、民衆の体制への抵抗と解釈されてきたチイの踊りを、従来と異なる観点で論ずることである。

 

石川淳「雪のイヴ」論―「肉体文学」との比較を通して― (春日 渓太)

 石川淳の小説「雪のイヴ」は、昭和二十二年六月に発表された。先行研究では野口武彦や本多秋五らが戦後を映し出す「光源」としての聖書物語の見立てを分析し、それを引き継ぐ形で前田愛は「敗戦後の作家が共有していた光学」として「雪のイヴ」と田村泰次郎の「肉体の門」を比較している。この観点から示唆を受け、戦後の「肉体文学」と「雪のイヴ」を比較し、とくに語りの主体である男性の「肉体」がどのように語られているのかを論じる。
 また、近年では狩野啓子や水谷真紀らが当時の女性像について分析しているが、視点人物の肉体性があまりに希薄である点については論じられていない。田村泰次郎の作品では「兵士」という男性ジェンダーが色濃く現れた「肉体」が語られているが、「雪のイヴ」ではむしろ、自身の男性的な「肉体」や〈戦後〉にアクセスすることができない語りが特徴的である。本発表では、「肉体」を通して戦後を語る過程に、〈クィア〉性を仮構するような語りが見出せる点を指摘する。

 

茨城県古河(こが)地方の書道文化についての考察 (印出 隆之)

 本発表は、茨城県の最西端に位置する古河地方における書道文化論の研究である。研究対象とする古河出身の生井(いくい)子(し)華(か)、大久保(おおくぼ)翠(すい)洞(どう)、立石(たていし)光司(みつじ)の3人の書作家は、いずれも日本戦後の書道界を牽引する存在であった。3人の共通点は郷土愛と地元古河の地を活動拠点としたことである。それがもたらしたものは古河書道文化史における黄金期の到来である。書家の存在は「書都・古河」と称されるきっかけとなり、この地方に書文化や篆刻文化を根付かせるものとなった。その象徴的な出来事として古河市に建てられた日本初の「篆刻美術館」平成3年(1991年)の開館が挙げられる。旧城下町の石蔵を改修した大正時代の由緒ある建物を利用している(国の登録有形文化財)。設立提言者は立石であった。今回は、書という文化を考える際に重要と思われる書家としての立石光司の文化的活動、揮毫に対する心構えや書に対する真摯な思い、老荘思想など文化の歴史的背景とその精神性を中心に発表する。発表者は令和3年度古河歴史博物館企画展「墨魂・書人立石光司の仕事―創作から臨書へ―」の企画展示に携わり、地方における書文化の在り方を解き明かす必然性を感じ、その一端をひもとく発表となる。


【講演者紹介】

庄司 達也(しょうじ たつや)先生

横浜市立大学教授、芥川龍之介の〈人〉と〈文学〉を主たる研究テーマとし、出版メディアと作家、読者の関係にも関心を持つ。また、文学者が聴いた音楽を蓄音機とSPレコードで再現するレコード・コンサートを企画・開催するなど、文学と同時代芸術との関係に注目した研究を展開している。編著書に『芥川龍之介ハンドブック』(鼎書房、2015)、『日本文学コレクション 芥川龍之介』(翰林書房、2004)などがある。