日本文学文化学会2022年度大会のご案内
日本文学文化学会2022年度大会のご案内
以下の要領で今年度大会を開催いたします。
3名の研究発表に加え、日本経済新聞社用語幹事 小林肇氏のご講演を予定しております。
また、今年度は感染防止対策の一環により、オンラインにて開催いたします。
【日時】 2022年7月23日(土)13:00より 開催
【会場】 オンライン開催 (Cisco Webex Meetings)
【参加方法】
ToyoNet-ACE日本文学文化学科(1-4年)コースのコンテンツトップページにミーティングリンクをアップします。当日はそちらからご参加ください。
~大会プログラム~
●開会の辞●(13:00)会長 東洋大学日本文学文化学科教授 有澤晶子
●講演●(13:05)
「ことばに魅せられて~校閲記者の30年~」 日本経済新聞社用語幹事 小林 肇 氏
●研究発表●(14:30)
・本歌取論 ―『新古今和歌集』を中心に― 田中舞衣(大学院博士前期課程)
・謡曲『道成寺』考 ―道成寺説話の生成と展開― 本間柚映(大学院博士前期課程修了)
・日本近代詩の“臨床実験”としての鷗外『うた日記』 松井潤(大学院博士後期課程)
●閉会の辞●(16:35) 東洋大学日本文学文化学科 第2部学科長 野呂 芳信
●総会●(16:45) ※会員の方のみ御出席ください。
【研究発表概要】
本歌取論 ―『新古今和歌集』を中心に― (田中舞衣)
本歌取は古典和歌の代表的なレトリックの一つで、藤原定家によって規範化され、『新古今和歌集』で優れた達成を遂げたと言われている。この技法は新歌に古歌の面影を重層させる意図で用いられるとされ、その文学史的意義や効果については多くの先行研究によって論じられている。和歌集の注釈書においても、本歌の内容を踏まえた注釈がなされているものが多い。しかし、本歌取研究の現状の問題点として、研究者によってその定義がばらばらである点、本歌の過剰な意識により新歌に対して飛躍した解釈を行っている場合がある点が挙げられる。実際に、『新古今和歌集』の注釈書の本歌認定は各注釈書によって差異が大きい。
そこで本発表では、藤原定家の基準に立ち返り、歌論書や歌合判にみえる定家の記述を分析することで、定家が考えていた本歌取技法の本質を検討する。その上で、『新古今和歌集』の恋部に入集した和歌に着目し、本歌取技法の観点から新たな解釈案を提示する。このことによって、現在の本歌取技法についての認識を見直したい。
謡曲『道成寺』考 ―道成寺説話の生成と展開― (本間柚映)
謡曲『道成寺』は、和歌山県日高川郡日高川町鐘巻に位置する天台宗の寺院・道成寺が舞台となる能楽の演目である。
道成寺で起こった僧侶と女の愛憎劇は、今日一般に道成寺説話と呼ばれている。道成寺説話の源流は法華経の霊験譚を集成した『大日本法華験記』にあり、その後仏教説話集の『今昔物語集』、道成寺の寺社縁起を描く『道成寺縁起』『日高川草紙』『賢学草子』へと発展した題材である。本発表では謡曲『道成寺』が成立したとみられる室町時代頃までを対象に、道成寺説話の受容や内容の変化を考察する。
また謡曲『道成寺』は現在は廃曲となった謡曲『鐘巻』を改作した作品である。同じ謡曲でも『道成寺』への改作時に寺社創建説話の削除、乱拍子の挿入等大幅な変更が行われている。改作時の変更点を中心に仏教説話・寺社縁起としての道成寺説話や謡曲『鐘巻』と比較することで、謡曲『道成寺』が一連の道成寺説話の潮流にもたらした影響を考える。
日本近代詩の“臨床実験”としての鷗外『うた日記』 (松井潤)
森鷗外らによる訳詩集『於母影』(明治22年)では、近代日本の詩の成立に向けて、詩形だけでなく全体の構成においても果敢な実験が試みられた。だが、鷗外にとっての新たな「国詩」への挑戦は、この訳詩集に留まらず、最晩年の『奈良五十首』(大正11年)に至るまでライフワークとして続けられることになる。
本発表では『於母影』から18年後、主に、鷗外が日露戦争に従軍した際に作った詩歌を集めた『うた日記』(明治40年)に焦点をあてる。この詩歌集では『於母影』の“目玉”ともいえる漢詩体は影を潜め、代りに、長歌をはじめ様々な形式の長詩、三十一字詩(短歌)、十七字詩(俳句)など、多彩な詩形がふんだんに盛り込まれている。さらには、万葉集ならではの語句が多用され、長歌に反歌を付す万葉集に似たスタイルも随所にみられる。『うた日記』の特徴的な詩歌を新たな角度から見つめ直し、詩人・鷗外の真価に迫りたい。
【講演者紹介】
小林 肇(こばやし はじめ)氏
日本経済新聞社用語幹事。専修大学国際コミュニケーション学部協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える!用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。ウェブサイトで「新聞漢字あれこれ」(日本漢字能力検定協会)、「ニュースを読む新四字熟語辞典」(三省堂)を連載中。