国際文化コミュニケーション学科講演会 「絵本の世界〜⽇本と中国を⾒る〜」(講師;唐亜明氏〈作家・文学部非常勤講師〉)

唐亜明氏講演「絵本の世界〜日本と中国を見る〜」を開催しました!


テーマ:「絵本の世界〜日本と中国を見る〜」

講師:唐亜明氏(タンヤミン)(作家・編集者・翻訳者・東洋大学非常勤講師)

日時:2023年5月23日(火) 4限 14:45〜16:15

場所:6211教室


本講演では、作家や編集者、翻訳者として活動されている唐亜明氏をお招きして、編集者になった経緯や手がけた絵本の制作背景、翻訳した作品についてお話をしていただきました。本講演には、国際文化コミュニケーション学科の学生だけでなく、他の文学部や社会学部、法学部や国際学部など幅広い学部の方々に参加していただきました。

『鹿よ おれの兄弟よ』作:神沢 利子、絵:G・D・パヴリーシン、福音館書店, 2004

〈編集者になった経緯〉
唐氏は当初絵本や出版関係の職とは違う仕事を行なっており、偶然の重なりから絵本に関わるようになりました。そのきっかけは1983年に日本から北京を訪れた当時福音館書店の社長・松居直氏をはじめとする6人の児童書関係者の通訳を1週間務めたことでした。松居氏は帰国する前に、唐氏に福音館書店で一緒に仕事をしないかと持ちかけ、唐氏は半信半疑でしたが、絵本の出版の仕事に興味を持ち日本に来日しました。そして、海外の方で初めて正社員として福音館書店に入社し、編集者になったと語ってくださいました。

〈『鹿よ、おれの兄弟よ』の制作について〉
編集者として最初手探り状態だった唐氏は、福音館書店の社長・松居直氏に「自分が子どもの頃を思い出してください」とアドバイスを受けたそうです。唐氏は今までの人生を振り返り、中国の文化大革命により北京からシベリアへ派遣された兵士だったころ、シベリアの自然の美しさに魅了されたことを思い出したそうです。そして唐氏の経験から、シベリアの大自然の美しさを子どもたちにも見せたいという思いが込み上げ、制作に取り掛かったことを教えてくださいました。そして、北方領土の樺太で幼少期を過ごした作家・神沢利子氏(1924-)と、シベリア在住の先住民描写を躍動的に描く画家・G. D. パヴリシン氏(1938-)にご依頼をし、人間・自然・動物の関係をみごとに表現しました。

〈中国でも大ヒットした『100万回生きたねこ』〉
日本で何世代にもわたって読み継がれている佐野洋子氏が書いた『100万回生きたねこ』(講談社, 1977)を唐氏が中国語に翻訳し、2004年に翻訳出版されました。その結果、中国でも100万部以上売れ「100万回読んでも飽きることがない本」と称賛されているそうです。その理由として唐氏は、佐野洋子氏が北京で生まれ6年間中国で過ごした経験が反映していると語ってくださいました。そして中国で過ごした背景が作品に反映しているポイントを2点教えてくださいました。1つ目は作品の主人公であるねこです。北京市内には四合院という古い街並みが多く残り、佐野氏は幼少期、四合院のねこを見ていたそうです。四合院で見ていたねこが『100万回生きたねこ』の原型になっています。2つ目はタイトルです。日本では誇張しないことを好む傾向がありますが、中国では誇張した表現を好むそうです。『100万回生きたねこ』の「100万回」という誇張した言い方は、多くの中国の方にも馴染みの深い感覚につながっているそうです。こういった幼少期に培われた生活が『100万回生きたネコ』の根底にあったことを深く理解することができました。


〈唐亜明氏プロフィール〉
1953年中国北京市生まれ。1983年に来日。早稲田大学文学部を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科修了。現在、編集者として出版社勤務のかたわら東洋大学非常勤講師を務める。
主な著書に『ナージャとりゅうおう』(講談社 講談社出版文化賞絵本賞)、『西遊記』(講談社 産経児童出版文化賞)、『森のパンダ』(講談社)など。
講談社コクリコ公式ホームページより引用 (https://cocreco.kodansha.co.jp/author/U4xiN)


主催:文学部国際文化コミュニケーション学科 教授 石田仁志
報告:文学研究科国際文化コミュニケーション専攻 博士前期課程2年 池田奈央