理論編 第2回
p4c(子どものための哲学)の始め方!
~コミュニティづくりと対話を深めるツール「WRAITEC」~
川﨑 惣一 KAWASAKI Soichi
宮城教育大学 教授。専攻は哲学。
2013年度より仙台市内の公立小中学校で、主に道徳の時間にp4cを実践。
2024年度より宮城教育大学 上廣倫理教育アカデミー所長。
第2回は「p4cの始め方」についてご紹介します。
p4cは、子どもたちがお互いの発言に耳を傾けることのできる対話の場をつくることから始まります。今回はp4cを始めるための具体的なステップと、思考と対話を深めるツールについてご紹介します。
※p4cについての詳細は、理論編第1回をご覧ください。
p4cを始める上で最も大切なのは、参加者全員が対等な立場で対話できる場(コミュニティ)をつくることです。
・輪になって座る
参加者全員がお互いの顔をよく見られるように、輪になって座ります。
・ファシリテーターの役割
教師はファシリテーターとして輪の中に入り、対話に参加します。教科書を使う場合を除き、基本的には何も持たずに、対話が円滑に進むように発問や問いかけを行いましょう。
必要に応じて黒板やホワイトボードを活用してもよいでしょう。
・「知的なセーフティ」の確保
何を言っても笑われたり馬鹿にされたりしない、安心感のある空間をつくり出すことが重要です。
写真提供:宮城教育大学 上廣倫理教育アカデミー
コミュニティボールはp4cの対話における重要なシンボルで、対話をスムーズにする役割も果たします。
・コミュニティボールとは?
毛糸の束を束ねて作ったボールのことで、対話を行うコミュニティのシンボルでありp4cの時間を特別なものに感じさせてくれるメリットがあります。
既存のボールを使うこともできますが、年度の初回にクラス全員で手作りすると、よりいっそう愛着がわくでしょう。コミュニティボールはp4cの時間以外でも活用できます。
ポイント①:「聴き合う関係」づくり
ボールを持っていない人は、持っている人の発言に耳を傾けます。話したい場合は、ボールを持っている人が話し終えるのを待ってから手を挙げてボールを渡してもらいます。
これにより、誰が話す番なのかが一目瞭然になり、話し手は「発言を遮られない」という安心感を得られます。この積み重ねが「聴き合う関係」の実現につながります。
ポイント②:緊張緩和効果
ボールの感触が話し手の心を落ち着かせたり、ほかの子どもたちの視点が話し手の顔ではなくボールに集中することで、話し手の緊張感が和らいだりする効果も期待できます。
コミュニティボールができたら、このボールを使ったアクティビティを取り入れてみるとよいでしょう。例として以下のようなアクティビティを取り入れてみましょう。
コミュニティボールの取り扱いになれる:「スピードボール」
ボールをスムーズに回す練習として行います。
全員が立ち上がり、誰かからボールをスタートさせて、受け取ったら次の人にボールを回して座ります。全員が座ったら終了です。ストップウォッチで時間を測ると盛り上がります。
対話をスムーズに進行させるためのアイスブレイクを行う:「問いに答える練習」
順番にボールを回しながら、簡単な自己紹介や「好きな動物は?」「好きな色は?」「好きな季節は?」といったすぐに答えられる質問をします。
質問の答えだけでなく、その理由も言ってもらうようにすると、「発言するときは理由も話す」という習慣が身につきます。理由は「かわいいからです」といった単純なもので構いません。
慣れてきたら「好きな教科・科目は何ですか?」「学校の中で好きな場所はどこですか?」のように、少しずつ高度な質問に移行させていくことができます。
子どもたちの発言をより深く掘り下げるために、p4cハワイで開発された「WRAITEC(ライテック)」というツールキットが非常に効果的です。これは7つの問いかけの頭文字をとったもので、子どもたちの思考を整理し、説得力のある発言を促します。
WRAITECの各問いかけ
①W:どういう意味?言いたいことは何?
(What do you mean...?)
⇒子どもの発言の意味や趣旨を明確にする。
②R:理由は?どうしてそう思うの?
(Reasons)
⇒子どもの発言の理由や根拠をはっきりさせる。
③A:その考えにはどういう前提があるのかな?
(Assumptions)
⇒子どもの発言に潜む暗黙の前提に気づかせ、明確にする。
④I:もしそうだとすれば、どういうことになる?
(Inferences/If~,then~)
⇒子どもの発言の通りだと仮定した場合、どうなるかを想像してもらう。
⑤T:それって本当かな?
(True/Truth)
⇒子どもの発言の真偽を確認したり、真偽を明らかにする方法を考えさせたりする。
⑥E:例えば?どんな根拠があるのかな?
(Example/Evidence)
⇒子どもの発言に対して具体的な例や説明を促す。
⑦C:当てはまらない例はないかな?
(Counter-Examples)
⇒子どもの発言について例外がないかを考えてもらう。
・柔軟な使い方
問いかけの具体的な言葉遣いは、意味合いが変わらなければアレンジして構いません。
また、7つすべてを使う必要はなく、子どもたちの発言や対話の進み具合に応じて臨機応変に使いましょう。特に「W」「R」「E」は使いやすいと思います。
・「単なるおしゃべり」にしない
これらの問いかけを意識的に取り入れることで、対話が「単なるおしゃべり」に終わるのを防ぎ、思考を深めることができます。
・慣れるまでの工夫を
最初は子どもたちを問い詰めているように感じられるかもしれませんが、言い回しを工夫し、「これがp4cのスタイルだよ」というふうに導入していくことで、子どもたちは徐々に慣れていくはずです。
p4cでは、コミュニティボールを使ったルールとWRAITECのようなツールを導入することで、子どもたちがお互いの発言に耳を傾け、自分の考えを明確にするという習慣を育みます。
毎回対話の始めに「p4cのルール」を確認するといいでしょう。子どもたちも教師(ファシリテーター)もある程度の経験が必要ですが、慣れてくると子どもたち同士で「ボールを持っている人だけが話せるんだよ」「理由も言わないとね」と声を掛け合うようになります。
p4cでの対話を積み重ねることで、「聴き合う関係」が少しずつ出来上がっていくはずです。ぜひ子どもたちといっしょにp4cの世界に飛び込んで、豊かな対話の時間を体験してみてください!
コミュニティボールの作り方
(宮城教育大学上廣倫理教育アカデミーYoutube)
次回は、「道徳とp4c」についてご紹介します。