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怒りの正体

怒りは幅のある感情

 アンガーマネジメントでは、「怒ったときには自分の気持ちを落ち着かせましょう。」と伝えています。なぜなら、怒りに任せて行動することで、状況がよくなるどころか悪化してしまうことが多くあるからです。気持ちを落ち着かせたうえで、どう考え、行動するかを考える必要があります。

 そのためにできる方法の一つに、怒りを感じたら、その場で怒りのレベルを10段階で考えていく「怒りの温度計」というものがあります。

 怒りは、「怒っている」「怒っていない」の2択ではありません。幅のある感情です。その幅を数値化することで、客観的に自分の怒りを捉えることができます。

 中高生向けにアンガーマネジメントを伝えるプログラムでは、「アンガーマネジメントゲーム for teen」を使用し、怒りに温度を付け、レベル感があることを学びます。

 このゲームは、回答者の怒りの温度を他のプレイヤーが当てるゲームです。

 このゲームを通して、多様な考え方があること、受け止め方によって怒りの温度が違うということに気づくことができます。

 実際に授業で行った際、

「出来事カード」例

と書かれている出来事カードを引いたグループがありました。

 プレイヤーのBさんは回答者のAさんに対して、「自分は、進路が決まっていて、あまり気にならないから1度だけど、Aさんはこれから進路が決まるから温度を高めに3度。」と予想しました。回答者のAさんは「進路に関わるだいじなテストだから。」と8度を選び、同じ出来事でも人によって温度が違うことに、お互いが気づきました。

「怒りの温度計カード」例

 また、意見を出し合う場面では、「同級生同士でも、立場や状況で考え方が違うことを知った。」「テスト中は声を出さないように気をつけようと思った。」「自分と友達では、怒りの温度が違うと分かった。」などの活発なディスカッションがありました。

 このようにゲームを通して、怒りには幅があることや、今までとは違う考え方や行動があることを知ることができ、今後の選択肢を増やすことにもつながります。

怒りには「欲求」がある

 怒りを感じたとき、私たちはその原因を「誰か」や「出来事」のせいと考えてしまいがちです。

 例えば、授業中に話している生徒がいて、怒りを感じたとして、その怒りの原因を考えると、何だったでしょうか? それは、特定の生徒だったでしょうか? または、出来事だったでしょうか? もし、特定の生徒に対して怒りを感じるのであれば、その生徒がいるときは常に怒りを感じることになりますが、一概にそうとも言えません。

 「授業中に話していた。」という、出来事に対して怒りを感じるのであれば、授業中のディスカッションすら怒りの対象になってしまうかもしれません。

 私たちは、怒っているときに「特定の誰か」や「出来事」など自分以外の何かに原因があると考えがちですが、実はそうではありません。

 私たちを怒らせるものの正体は、自分の中にある「べき」です。自分の持っている「○○するべき。」「○○するべきでない。」が目の前で裏切られたときに、怒りが湧いてきます。

 これをもう少し深く考えてみると、自分の中にある理想や欲求が裏切られたときに怒りを感じることになります。

 先ほどの授業中の会話の出来事を考えてみると、「生徒に話しているときは、静かに聞いてほしかった。」「授業中に関係ない話はしてほしくなかった。」などの欲求が裏切られたときに怒りが発生します。

 このように、怒りを感じたとき、その原因は自分の中にあります。怒りの原因が自分の中にあるということは、自分で怒るか怒らないかを決めることができるということです。

 では、出来事からすぐに怒りになるでしょうか? 実は出来事があったとき、すぐに怒りになるわけではありません。怒りが発生するまでに段階を経て、怒りにつながっていきます。

 下の絵のように、第1段階の出来事からすぐに怒りにつながるのではなく、怒りになる前に、第2段階で出来事についての意味を考えています。

 生徒の気持ちになって考えてみたいと思います。

 この場面では、「返事がなかった。」という出来事が第1段階となり、第2段階で瞬時に意味を考えています。

 Aさんは「返事をするべき!」「無視するべきではない。」という考えを持ったため、怒りにつながりました。Bさんは「もしかして聞こえなかったのかな。」「イヤホンで音楽でも聴いていたのかな。」と考えることで、怒りにはつながりませんでした。

 このように、同じ出来事でも怒る人と怒らない人がいるのは、考え方が異なるからです。つまり、自分の考え方によって、怒りが生まれたり、生まれなかったりするということです。

 では、自分の怒りと上手に付き合うにはどうしたらよいでしょうか。それには、自分にはどのような「べき」があるかを知ることが第一歩となります。

など、自分の中にある欲求を確認していくと、さまざまな「べき」を持っていることに気がつきます。

 自分の中にどのような欲求があるか気づくことで、感情的に怒りをぶつけずに済むことができるようになってきます。

 また、確認をしていくと、そこまでこだわることではないと感じる「べき」も出てきます。その場合は、その「べき」を手放すことで、裏切られる回数が減るため、無駄にイライラしないことにもつながります。

怒りの大きさは、他の気持ちが影響する

 同じ出来事に対して、強く怒ってしまう場合もあれば、そうでもないときもあります。それは、他の気持ちが影響しているからです。これをマイナス感情といいます。

マイナス感情

例:不安/苦しい/嫌だ/心配/困る…怖い・失望・焦り

 傷ついた/罪悪感/後悔/恥ずかしい…むなしい・孤独感 など

 皆さんは、遅刻をしてきた生徒に怒りを感じたり、「何時だと思っているんだ!」と怒鳴ったりしたことはありますか? 怒鳴った経験のある先生に、このマイナス感情の話をしたとき、「事故や事件に遭っていないか不安があり、心配でたまらなかった。」という思いが自分の中にあることに気がついたようです。その先生は、「「事故や事件に遭っていないか心配していた。何をしていたのか教えてほしい。」と聞けば、あんなに強く怒らなくても済んだ。」と振り返っていました。

 このようにマイナス感情に気がつくことで、相手に対し攻撃的に怒りをぶつけなくてもよいことが分かります。

 そのためにも自分自身に、どのようなマイナス感情があるのかに気づくことが必要です。

怒りを適切に表現する

 自分の欲求やマイナス感情を理解したら、怒るときの三つのルール(人を傷つけない・自分を傷つけない・物を壊さない)を守ったうえで伝えていきます。

 相手に何が嫌だったか、どうしてほしかったかを冷静に伝えることで、関係性を悪化させずに、今の状況を変えたり、自分の気持ちを相手に理解してもらえたりします。伝え方の中から、効果的な方法を二つご紹介します。

具体的にどうしてほしいかを、未来に目を向けて伝える。

 過去に目を向けたり決めつけたりすると、「この前も〇〇だったよね。」「いつも〇〇だ。」と相手を責める言い方になりがちです。「次からは〇〇してね。」と未来に向けた具体的なリクエストを伝えることで、建設的に伝えることができます。

何が嫌だったか、感情的にならずに伝える。

 感情的に伝えても相手は戸惑ってしまいます。相手の怒りを招くことも考えられます。「私」を主語にして、何が嫌だったのか、「欲求」や「マイナス感情」を冷静に伝えていきます。

 これらのことを続ける中で、だんだんと怒りを適切に表現できるようになります。

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