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アンガーマネジメントとは

はじめに

「毎日イライラして困っています。」

「怒っているのに、うまく伝えられなくて……。」

と、怒りをコントロールできずにいらだったり、怒りを表現できずに苦しんでいたり、子どもから大人まで世代を問わず怒りに関する悩みを抱えている人は多くいます。

 そのうえ、現代社会は大きな困難とストレスを抱えて生きていかなくてはなりません。激変の時代となり、目まぐるしい速さでさまざまなことが移り変わっています。これまでの正解が正解ではなくなり、答えのない時代を生きるこれからの子どもたちは、ストレスに負けない心を持ち、自分の意志で時代を切り開くことを求められています。

 さらに、今後はIT技術やデジタル技術がさらに発展し、さまざまな職業が人工知能に取って代わられる未来が予測されています。しかし、どんなに時代が移り変わっても、人工知能が発達しても、人の心や感情の代わりをすることはできません。ですから、これからの時代を生きていくうえで本当に必要なことは、「自分の感情を理解すること」や「感情とうまく付き合う方法を身に付けること」なのです。

 とりわけ感情の中でも取り扱いが難しいとされている、「怒り」を理解し、上手に扱えるようになることは、「自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養う。」といった道徳教育の目標に通じる、大きな力になるでしょう。現在はオンラインやSNSを通じてコミュニケーションを行うという状況が増え、他者との関係が希薄になりつつある時代だからこそ、円滑なコミュニケーションを図るためにも、自分の気持ちを上手に伝えられるようになることが非常に重要なのです。

 他者の気持ちに目を向け、くみ取ることも大切ですが、まずは自分の感情に目を向けて、なぜ自分は怒りの感情が生まれたのか、本当はどうしてほしかったのか、どう伝えればよかったのかに気づくことにより、自分の感情を理解し、コントロールできるようになります。自分の感情に目を向け、理解することで、人の気持ちとの違いにも目を向けられるようになるのです。

 アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで生まれ、当初は司法分野においての矯正プログラムとして活用されていました。しかし、時代とともに一般化され、欧米を中心にアジアなどにも広がりを見せ、教育分野や一般企業、アスリートのメンタルトレーニング、人間関係のカウンセリング、夫婦(カップル)セラピーなどにも活用されています。

 現在は日本においても、多くの行政機関、教育機関、一般企業が取り入れています。特に教育分野においては、小学校でのキッズワークブックを使った授業や、中高生へのカードゲームを使った授業や講演、教職員や保護者への講演会なども多く実施され、アンガーマネジメントという言葉が知られるようになりました。アンガーマネジメントが広く認知されるようになったのは、怒りに振り回されている人や怒りを我慢して苦しんでいる人が多く、感情のコントロール方法を求めている人が多いからなのです。

 自分の感情を理解し、コントロールしていくために、アンガーマネジメントはこれからの時代を生きていくための必須スキルとなるでしょう。

怒りとは

 「怒り」と聞くと、「悪い」「よくない」という印象を持っている人が多いかもしれませんが、「怒り」は決して悪い感情ではありません。怒りの感情は誰しもが持っているものです。「喜怒哀楽」で表現されるように、うれしい、楽しい、悲しいという感情と同様に、人間が持っている自然な感情の一つです。他の感情が自然に湧き起こるのと同様に、怒りの感情も自然に備わっているものなので、怒りだけを取り払うことはできません。

 しかし、怒りに対する正しい知識や上手な怒り方を知らないと、「怒ることは悪いこと。」「怒りは我慢しなくてはならない。」と思ってしまいます。その結果、怒りやネガティブな感情を持ってはいけないと勘違いし、抑圧し続けた結果、爆発させてしまう子どもも少なくありません。上手な怒り方を知らない子どもたちは、人を傷つけるような怒り方をしたことで友人関係を悪化させ、周りの大人から叱られることがあります。このような経験を繰り返すと「怒りは悪いもの。」という間違った理解をしてしまうのです。決して怒りは悪いものではありません。怒りは自分の身を守ってくれる防衛感情でもあるのです。「嫌なことをされた。」「自分が大切にしているものを害された。」といった、自分が守りたいもの、自分が大切にしたいと思うものを守るという役割や機能があります。ですから、怒ることは自分や自分が大切にしたいものを守るための、大切な感情なのです。

 ただし、怒るときには三つのルールがあります。それは「人を傷つけない」「自分を傷つけない」「物を壊さない」ということです。「人を傷つけない」は暴力行為だけでなく、言葉や無視をするなど、態度で相手を傷つけることも含まれます。「自分を傷つけない」は自傷行為だけでなく、「自分はダメな人間だ」などのように自分を責めたり、感情を抑え込んで我慢したりしてしまうことも含まれます。そして「物を壊さない」は壊すだけでなく、ドアを勢いよく閉めたり、大きな音を立ててパソコンのキーボードを叩いたりなど、物に当たる行為も含まれます。

 これらの三つのルールを守って上手に怒れば、問題はありません。上手に怒るということは人や自分を責めず、物に当たらずに、自分の気持ちを適切に表現し、相手に伝えられるようになること。そのことを正しく理解していれば、怒りの感情と付き合うことは難しくありません。間違った怒り方をすれば、人間関係が悪化したり、後悔をしたりするので、悪い面ばかりが目立つようですが、適切な怒り方をすることで怒りをよい方向へと転換できます。 

 例えば、スポーツの試合に負けたことが悔しくて「さらに練習を頑張って次の試合に勝った。」「自分の手柄を横取りされた怒りをバネに努力して、成功を収めた。」など怒りをエネルギーに変え、自分のモチベーションにすることもできるのです。

 ゆえに、怒りは自分を守ることができる感情であり、それをエネルギーに変えることもできるのです。怒りを感じたときに、怒りをそのままぶつけて人間関係を悪化させるのか、上手に気持ちを伝えて人間関係を良好に変化させ、モチベーションに変えられるのかは、その人次第です。怒りとの付き合い方を知っているか否かで、全く違った結果となります。

おわりに

 心と体が著しく成長する思春期の子どもたちは、精神的に不安定になりやすく、感情コントロールが難しくなる時期でもあります。ときに怒りはパワフルな感情となり、その扱い方を知らなければ、誰かを傷つけてしまったり、怒りの気持ちを表現できずに苦しんだり、上手に怒れないことで自信をなくし、自己否定感にさいなまれたりしてしまうことがあります。自分の怒りを理解し、適切に表現できるようになれば、周囲の人とよい関係を築くことができたり、嫌なことがあっても諦めずに前向きな行動ができたりするようになります。「上手に怒れた。」という成功体験の積み重ねによって、自信や自己肯定感が高まることも期待できます。葛藤の多い思春期の自分に対してポジティブなセルフイメージを持てることは、未来に明るい希望を持ち、主体的に生きていくうえで大切な基盤となります。

 本稿では、子どもたちが怒りを理解し、上手に付き合えるようになるための中高生向け教材「アンガーマネジメントゲーム for teen」の内容から、一部を抜粋した授業を提案します。自分はどれくらいの強さで怒りを感じるのか? 怒りは幅のある感情であること、怒りの強弱は人によって違うこと、その違いは「受け止め方や考え方の違い」が背景にあることなど、対話を通してさまざまな「違い」に気づくことができます。「他者との違い」に気づくことは、自己理解や他者理解を深める機会となり、多様性を尊重し合う土台を育むことにもなるでしょう。次のページでは、怒りの正体について解説していきます。

怒りは幅のある感情

怒りには「欲求」がある

怒りの大きさは、他の気持ちが影響する

怒りを適切に表現する