感情を言語化することは感情コントロールにつながっていきますが、そもそも感情表現が苦手な子どもには容易ではありません。そこで以下の五つのトレーニングを通して、他者感情の理解から自己感情の理解へと段階的に扱っていくことで、無理なく自分の感情をコントロールできる力を養います。
①この人はどんな気持ち?
自分の感情を表現する前に、他者の感情を見て表現するところから始めることで、感情を表現することへの抵抗感を減らしていきます。
ポイント
ワークシートにあるイラストを見て、その人は「どんな気持ちか?」「いったい何があったのか?」を想像してワークシートに書いてもらい、発表してもらいましょう。
※ワークシートは、宮口幸治『1 日 5 分!教室で使えるコグトレ』(東洋館出版社)より転載。
②この人たちはどんな気持ち?
次は複数の人たちが描かれたイラストを見て、その人たちの関係性やその場の状況を考え、その人たちの気持ちを想像します。
ポイント
ワークシートの中の人たちの視線はどこに向けられているのか、そしてどのような表情をしているのか、まずそこを確かめてから考えてもらいましょう。
③感情のペットボトル
なぜ自分の気持ちを表現する必要があるのかを、体を使って気づいてもらいます。イラストのように、感情のラベルを貼り、水を入れた複数のペットボトルを、袋に入れて担いでもらいます。そして、気持ちをため込むのはしんどいことだと体で感じてもらいます。次にペットボトルを1 本ずつ出していくと、楽になります。感情を表現することで楽になることも知ってもらいます。
ポイント
500mlのペットボトルに感情のラベルを貼り、水を入れます。その際、「怒り」は2l、「うれしい」は空にしておきます。うれしい気持ちはいくらあってもしんどくありませんが、怒りをため込むとしんどいこと、怒りを袋から出すと体が楽になることを実感してもらいましょう。
④違った考えをしよう
自分の思考・情動パターンを知り、否定的な思考を修正して、感情をポジティブに変えていきます。日頃感じた嫌な気持ちを、例のようにワークシートに書き込んでもらいます。次に、その気持ちを下げる考え方について、いくつか考えてもらい、気持ちがどうなったかを記入・発表してもらいましょう。
ポイント
気持ちは、怒り、悲しい、などネガティブな感情を扱いましょう。気持ちの程度(%)は、100%なら行動化している(「怒り 100%」なら殴りかかる等)レベルです。怒りや悲しみの程度が60%以上になる出来事を選んでもらいます。違った考えは、気持ちが 40%以下になるものが出てくるまで考えさせましょう。もし違った考えが出てこなければ、他のみんなにもアイデアを出してもらいましょう。たいてい相手を責めるような他責的な考え方では怒りが下がらず、「自分も悪かったのでは?」といった内省や、他者への思いやりの気持ちで怒りが下がることが多いです。他責的な考え方ばかりのときは、自分にも非がなかったかを振り返られるようなヒントを出してあげましょう。
⑤思いやりトレーニング
友達の困った気持ちに寄り添い、アドバイスすることで、他者への共感力や思いやりの力を養います。これまでの「この人・この人たちはどんな気持ち?」「違った考えをしよう」で学んだことを応用して、その状況を読み取り、怒りや悲しみなどの気持ちを抑えるためにどう思考を変えたらよいかなど、考えてもらいましょう。さらに他者へ適切にアドバイスできるように、より現実的、具体的に考えることで自己の感情コントロールの方法も再確認し、定着できることを目指します。
ポイント
まゆみさんの悩みを読んでもらい、それに対するアドバイスを真ん中の欄に書いてもらいましょう。いかに相手の立場になって考えることができるかがポイントです。そのために自分の似たような体験を思い出してもらい、そのときにはどのようなアドバイスがよかったかなどを書いてもらうとよいでしょう。自分に対してはうまく思いつかなくとも、人へのアドバイスは意外とできるものです。ここでは子どものそんな矛盾に気づいても指摘せず、アドバイスできたことを褒めてあげましょう。