理論編 第3回
道徳とp4c
~道徳科で実践!対話を通して考えを深める p4c ~
川﨑 惣一 KAWASAKI Soichi
宮城教育大学 教授。専攻は哲学。
2013年度より仙台市内の公立小中学校で、主に道徳の時間にp4cを実践。
2024年度より宮城教育大学 上廣倫理教育アカデミー所長。
第3回は「道徳とp4c」についてご紹介します。
小学校では平成30(2018)年度、中学校では平成31(2019)年度から「特別の教科 道徳」が始まり、「考え、議論する道徳」の実践が求められています。
理論編第3回では、道徳科での対話を通して考えを深めるp4cについてご紹介します。
※p4cの始め方についての詳細は、理論編第2回をご覧ください。
「考え、議論する道徳」とは、道徳的諸価値の理解を基盤としつつ、児童生徒がさまざまな道徳的課題を自分自身の問題として捉え、自己を見つめながら、他の児童生徒との議論や対話を通じて、多面的・多角的に考える授業のことです。
その結果、よりよい生き方についての考えを深めていくことが期待されます。
・求められる姿勢
「考え、議論する道徳」の授業では出来合いの「正解」や、非の打ち所のない「きれいごと」で済ませるわけにはいきません。自分や他者の考え・意見について、吟味していく態度が求められます。
・批判的な視点の重要性
道徳的諸価値そのものに対して、批判的な視点を持つことが適切な場合もあります。ここでいう「批判的な視点」は、必ずしも否定的な意味を持つものではなく、さまざまな角度から検討することでその本質を明らかにしようとする態度を指します。
たとえば、「正直」や「友情」といった価値観も、いつでも無条件に尊重されるとは限りません。
(例)
「正直」よりも相手に対する「思いやり」を優先した方がよい場合
「友情」と「規則・きまり」や「公正・公平」とが衝突する場合
児童生徒は、対話を通じてまずは自分なりの意見を持ち、その根拠を明確にしつつ、他者の意見も参考にしながら、共に考えを深めていくことが求められています。
・p4cを活用しよう!
p4cは、上記のように考えを深めていくうえで、非常に効果的な手法です。
道徳科の授業でp4cを実践する方法はさまざまあります。今回は教科書を使用することを想定した具体例を以下にご紹介します。
①子どもたちに問いを立ててもらう
授業の最初に教科書の教材を読み、印象に残った点や不思議に思った点を確認した後、子どもたちに問いを立ててもらい、対話を始めましょう。
ポイント
・問いは「なぜ」「どうして」「もし」といった言葉で始まるものが良い。
・投票で問いを一つに絞り、その問いを立てた子どもに「なぜその問いを思いついたのか」を話してもらうところから対話をスタートさせる。
②教科書の問いを活用する
教科書を読んだ後、子どもたちに問いを立ててもらう代わりに、教科書に記されている問いをそのまま活用して対話をスタートさせましょう。
ポイント
・p4cは子どもたちの問いから出発するのが基本ですが、慣れていない段階では、ファシリテーターである教師の不安を解消するためにも有効。
・対話の経験を積むことに重点を置く。
③内容項目から対話をスタートしよう
「正直」「感謝」「友情」など、内容項目を先に提示し、ある程度対話を進めた後で教科書を読み、対話を再開しましょう。
ポイント
・「正直という言葉で何を思い浮かべますか?」「最近、感謝したり感謝されたりしたことはありますか?」などの問いかけを最初のきっかけとする。
注意点
・最初の対話の流れが教科書の教材とうまくつながらない可能性もありますが、対話が内容項目をめぐってしっかり展開されていれば、教科書を読んでも「こういう場合もあるんだな」と捉えることができ、違和感なく対話を継続できます。
・授業の締めくくり方
対話の締めくくりとして、教師が講話などで明確にまとめる必要はありません。
むしろ、対話をまとめずに余韻を残した方が、児童生徒が考え続けるきっかけになってよいと考えられます。
・対話の振り返り(自己評価)
授業の最後に、対話そのものへの振り返りを行うことも有効です。全員に以下のような問いかけを行い、挙手やハンドサインで自己評価してもらうのが良いでしょう。
(問いかけ例)
• ほかの人の話をしっかり聴くことができましたか。
• 新しい発見がありましたか。
• 自分なりに考えを深めることができましたか。
道徳に p4cを導入すると、授業中の発言を通じて、以下の学習状況が明確になります。
・「多面的・多角的に考える」ことができていたか。
・「道徳的価値を自分ごととして捉える」ことができていたか。
・思考がどのように変化し深まっていったか。
これにより、個々の児童生徒の学習状況や成長の様子を見取ることが容易になります。
さらに、年度の始めと終わりにワークシートに自分の考えを記入してもらうと、より長いスパンでの成長を確認できるはずです。
p4cには「このように進めなければならない」といった厳格な縛りはありません。対話が円滑に進行し、児童生徒の思考が深まるのであれば、進め方をアレンジしてかまいません。
ただし、理論編第2回でご紹介したp4cの進め方は、「通常の授業とは異なる特別な時間」にしてくれるため、児童生徒の集中力が高まり、対話を楽しめるようになるはずです。
これから少しでも多くの方に、p4cによる対話の楽しさを感じ取ってもらえれば幸いです。
次回は、「実践編第1回 小学校低学年編 」についてご紹介します。