「子どもの貧困」とは18歳未満の子どもが経済的困難と社会生活に必要なものがない状態に置かれ、発達におけるさまざまな機会が奪われた結果、人生全体に影響を与えるほどの多くの不利を負ってしまうことです。人間形成の重要な時期である子ども時代を貧困のうちに過ごすことは成長・発達に大きな影響を及ぼし、進学や就職における選択肢を狭め、自ら望む人生を選び取ることができなくなる恐れがあります。子どもの「いま」を同時に将来をも脅かすもの、それが「子どもの貧困」です。(松本、湯澤、平湯、山野、中嶋 2016、p.12)
絶対的貧困とは「国・地域の生活レベルとは無関係に、生きるうえで必要最低限の生活水準が満たされていない状態」(world vision, n.d.) のことです。つまり食べ物がない、家がないなどという状態のことを指します。一方で相対的貧困とは「その国や地域の水準の中で比較して、大多数よりも貧しい状態」(world vision, n.d.) のことです。簡単に言うとその国や地域の中で平均的な生活レベルよりも著しく低い生活レベルの貧困状態にあることを指します。日本ではこの相対的貧困が問題とされています。
ただし、誤解されがちなのですが「相対的貧困」よりも「絶対的貧困」の方がましという意味ではありません。絶対的貧困は食料や住居などが、相対的貧困ではその社会の一般的な生活ができないなど、どちらの貧困も「必要を欠く」と言う状態にあることは変わりありません。たとえばお金がなく大学の進学を諦めたり、社会参加の機会が奪われてしまい希望を失って心身の健康を損ね、早期の死に至ることだってあるのです。
一見、新しい社会問題と捉えられている日本の子どもの貧困は実は1900年代後半時点ですでに10.9%もあり、決して新しい問題ではないことがわかります。
※相対的貧困率:ある国や地域の大多数よりも貧しい相対的貧困者の全人口に占める比率のこと
7人に1人
日本の子どもの相対貧困率は2019年時点で13.5%もあり、これは7人に1人に値します。世界全体で見るとこの貧困率はG7の中ではアメリカに次ぐ2位であり、先進国でも最悪の水準に達すると言われています。
※G7:アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本の7カ国のこと
2人に1人
また、ひとり親家庭で見てみるとその相対貧困率は2019年時点で50.8%もあり、これは2人に1人を指しています。ひとり親家庭の数自体も増加してきている中で、日本では子育てと仕事の両立が難しい社会環境にあり子どもを育てながら就けるのはパートや臨時雇用である事がこの相対的貧困率増加に影響されていると言われています。
子どもの貧困の原因において、多くの人が経済的影響を思い浮かべると思います。しかし、貧困化の理由は親の仕事・経済状況によるものだけではありません。家庭内暴力や子どもの虐待、精神疾患、家族の自殺なども理由の1つです。それらさまざまな問題が複雑に絡み合って数知れないほどの家庭崩壊が起き、そこから子どもの貧困が生じているのです。
子どもの貧困の怖いところは、子ども期に貧困であることの不利はその子が成長しておとなになってからも持続し、人生に深い爪痕を残してしまうところです。貧困状況に育った子どもは必要な教育を十分に受けることができなくなるリスクが高いことがわかっています。教育を十分に受けることができなけれなければ、進学・就職で不利になり、最終的には安定した職に就けず生活困窮に陥ってしまう可能性があります。すると次の子どもの世代も貧困に陥り、十分な教育を受けることができなくなったりと、貧困の連鎖が続いてしまうというのも恐ろしい点です。そしてこの貧困の連鎖というのは貧困が無くならない1つの理由でもあります。
- 子どもに与える影響
貧困が子どもに与える影響はいくつもあります。
①いじめ被害の増加
実際に10人に1人の貧困状態に陥っている子どもたちが学校でいじめの被害に遭っており、社会や経済における家庭環境の差が子どもの幸福に与える影響が非常に大きいということがわかっています。こういったいじめが貧困と関係する理由として友達が持っているものや、やっていることを共有できないことが考えられます。
②社会関係が狭まる
放課後や学校が休みのときに子ども同士で出かけたりすることで友人関係を構築したり、家族や地域で様々な文化的体験をするこの義務教育期を貧困状態で過ごしてしまうと、友人関係や参加の機会が妨げられていき、学校生活や社会の中で孤立を深めていってしまいます。
③自己肯定感の低下
貧困によって、周りの友達に比べて学習塾や習い事をするチャンスがなかったり、家族で旅行に行くことができなかったり、服を買ってもらえなかったりする経験が積み重なることで、自分には価値がないと考えてしまい、将来への夢や希望を失ってしまう原因になっていることもあります。
- 社会に与える影響
おそらく多くの人が子どもの貧困は自分に影響を及ぼさないと考えていると思います。実際、直接的な影響はないかもしれませんが貧困状態にある子どもの教育機会が失われ、中学卒業や高校卒業が最終学歴となる人が増加すると、おとなになってから生み出す所得が減って経済が縮小し、社会としても社会保障料収入が減少してしまいます。加えて職を失った状態になってしまえば所得はゼロであり税や社会保障料の負担額は少なくなりますが、一方で生活保護などの社会保障給付の増加に繋がります。
つまり簡単にまとめると、子どもの貧困を放置してしまうと社会の支え手が減ると同時に社会に支えられる人が増えてしまうため、他の人がより多くの税金を負担しなければならないか、社会保障や教育インフラといった公的サービスの切り下げを受けなければならなくなってしまいます。
※社会保障:私たちが安心して生活していくために必要な医療、年金、福祉、介護、生活保護などの公的サービスのこと
①教育支援
家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが十分な教育を受けられるよう、国から支援が行われています。
例:給食費や学用品費の費用を負担する就学援助制度、教育相談を受けられるようにスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの配置、地域による学習支援など
②経済支援
貧困世帯に向けての経済支援が行われています。
例:離婚によるひとり親家庭が受けられる手当である児童扶養手当(じどうふようてあて)、母子家庭や父子家庭のひとり親が国から融資を受けられる制度である母子父子寡婦福祉資金(ぼしかふふくししきんかしつけきん)の貸付など
③生活支援
生活支援事業では、貧困層や生活困窮者のために設けられた様々な制度があり、自立のための相談支援や、生活や就労のために必要な住戸の確保を支援しています。
例:家庭の経済状況悪化による住宅の消失を防ぐ住宅セーフティネット制度、一定期間家賃相当額を支給する住宅確保給付金の支給など
④就労支援
就労支援とは、1人親などが就労のために、学習や職業訓練を受けたりできる支援を指します。
例:給食費や学用品費の費用を負担する就学援助制度、教育相談を受けられるようにスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの配置、地域による学習支援など
<Save the Children>
また、インタビューをお受けしてくださったSave the Children様も子どもの貧困解決に取り組んでいます。
「夏休み 子どもの食 応援ボックス」
「セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金 」
「子供の貧困対策に関する大綱」見直しに向け、内閣府に要望書を提出」
「ひとり親家庭向けおしゃべり交流会・ものづくりワークショップを宮城県石巻市で開催」
そのほかにも取り組みをされているのでぜひSave the Children様のホームページからご覧ください。
寄付する
寄付というのはは支援の形としては非常にシンプルでわかりやすい支援のひとつです。集まった寄付は主に子どもたちの貧困対策として居場所の支援、学習の支援、食事の支援などの活動費にあてられているため、直接的な支援ができない方でも子どもたちを助けることができます。
ボランティアに参加する
これは直接自分ができるお手伝いをするというものです。子どもの貧困関連では、主に次のようなボランティアを募集しています。
・食事を作る
・勉強を教える
・心のケアをする
・運営の企画手伝いをする など
子どもの貧困について理解を深める
この問題を解決するためには多くの人の協力が必要になります。子どもの貧困についての認知度を上げることでより多くの人の関心度を引き上げ、それが問題解決への一歩になると考えています。
この「私たちができること」はSave the Children様のインタビューでお聞きした質問なのでぜひそちらもご覧ください。
参照元
・阿部彩(2014).『子どもの貧困Ⅱ』岩波書店
・朝日新聞取材班(2018).『子どもと貧困』朝日新聞
・稲葉茂勝(2017).『子どもの貧困・大人の貧困』株式会社ミネルヴァ書房出版
・中塚久美子(2012).『貧困のなかでおとなになる』かもがわ出版
・松本伊智朗,湯澤直美,平湯真人,山野良一,中嶋哲彦(2016).『子どもの貧困ハンドブック』かもがわ出版
・木村光伸,佐伯奈津子,人見泰弘 (2018). 「外国人・難民問題にどう取り組むか」名古屋学 院総合研究所. 55(1). 9-10. syakai_vol5501_06.pdf (511.73KB).
・公益社団法人 経済同友会(2017).「子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けて」 https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2016/pdf/170330a.pdf.
・厚生労働省(2017).「各種世帯の所得等の状況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf.
・相模原市(n.d.).「SDGS one by one」https://sdgs.city.sagamihara.kanagawa.jp/sdgs-17goal/01_no-proverty/.
・内閣府子供の貧困対策推進室 参事官 牧野 利香 (2019).「日本の子どもの貧困と対策の現状」 https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/forum/h30/pdf/morioka/naikakufu.pdf.
・日本経済新聞(2020).「子どもの貧困率13.5% 7人に1人、改善せず」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61680420X10C20A7CR8000/.
・日本子ども支援協会(n.d.).「日本の子どもたちの課題」https://npojcsa.com/jp_children/poverty.html.
・日本財団 (2019).「日本の子どもの7人に1人が貧困という事実。いま「第三の居場所」がなぜ必要なのか?」
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2019/28194.
・内閣府子供の貧困対策推進室 参事官 牧野 利香 (2019).「日本の子どもの貧困と対策の現状」 https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/forum/h30/pdf/morioka/naikakufu.pdf.
・ベネッセ(n.d.).「相対的貧困とは?相対的貧困が与える生活への5つの影響と私たちにできること」https://benesse.jp/sdgs/article26.html.
・ベネッセ(n.d.).「日本で行われている子どもの貧困対策4つ支援者が知っておくべきこととは?」
https://benesse.jp/sdgs/article23.html.
・Chance for Children (2009).「絶対的貧困と相対的貧困」https://cfc.or.jp/archives/column/2009/11/16/4075/.
・goodo(2019).「教育格差の解決策や実際に行われている取り組みは?私たちにできること」https://gooddo.jp/magazine/poverty/educational_inequality/3593/.
・World Vision (n.d.).「相対的貧困とは?絶対的貧困との違いや相対的貧困率についても学ぼう」https://www.worldvision.jp/children/poverty_18.html.