2016年の会 趣旨

雑草が持つ表現型の多様性は、雑草研究者にとって大きな魅力のひとつであり、大きな悩みの種でもあります。すなわち、ある雑草の特性を明らかにしても、異なる生育環境や地理的に隔離された集団においてその特性が当てはまるか、確信を持つことができません。また、ある防除技術を確立したとしても、その地域では使えるが他地域では使えない場合も出てくるでしょう。

遺伝子型から表現型の多様性を理解・表現するアプローチもあります。しかし従来の分子マーカーの多くは中立な領域の多様性を検出しているため、遺伝子型の多様性と表現型の多様性が一致しないことが多くありました。この原因は、分子マーカーで検出できる情報量が少なく、また、中立な領域をターゲットとするため適応形質に関わる遺伝的多様性を検出できていないことが挙げられます。次世代シーケンサーに代表される近年の技術革新により、雑草のような非モデル植物においてもゲノム情報を活用した研究が現実的なものとなってきました。これにより、適応形質に着目した集団遺伝学的アプローチやケタ違いの情報量を活用した系統地理学的アプローチが可能になりました。

今回の勉強会では、ゲノム情報が雑草の表現型多様性の理解にどのような恩恵をもたらすか、保全遺伝学およびゲノム育種の 2 つの視点からご講演いただきます。

保全遺伝学では、吉田康子さんにサクラソウ野生集団における適応形質の遺伝的多様性についてお話いただきます。

次にゲノム育種では、岩田洋佳さんにゲノミックセレクションを用いた品種改良・表現型予測についてお話しいただきます。

吉田さん・岩田さんのご講演を通して、雑草の表現型多様性を維持する遺伝的多様性とはどんなものなのか、ゲノミックセレクションを雑草研究に応用して雑草の表現型を予測することは可能かなど、ゲノム情報を活用した雑草の表現型研究に関して議論したいと思います。