障害児の発達を保障するための
発達環境チェックリスト
つくば障害児の発達を考える会編集版
〈チェックリストの意義〉
こどもは乳幼児期から成人にいたる成長過程で、様々な社会環境との係わりを持ちま す。なかでも、障害児が健やかに、かつ自立に向かって人生を豊かに過ごすためには、 その成長発達を助けるための特別な医療、福祉、療育、教育などの社会環境がとても大 切です。
1990年に北海道のダウン症児親の会「北海道小鳩会」では、障害児のための社会環境 の調査を全道に広がる会員の手で行い、レポートを出しました。これは、札幌、旭川な どの大都市から小さな町村まで幅広く網羅して調べられています。
その調査から、障害児を取り巻く環境に関する驚くべき「地域差」が存在することが わかりました。
障害のある子どもや親が必要とする環境が、地域毎に異なっていてよいはずはありま せん。それではなぜ、このような差異が存在するのでしょうか。障害児に対する市町村 レベルでの力の入れ方の差は、その一因でしょう。
しかし、最も大きな原因は、障害児を持つ親自身が、子どもに必要な望ましい社会環 境、地域サービスについての十分な知識や情報を持っていないことなのです。 また、その地域の状況については知っていても、それが十分なものなのか、他の地域 の状況に比較して進んでいるのか遅れているのかを知ることがなかなか難しいのも事実 です。
わが子を育てるための諸環境やサービスが隣町に比べて著しく劣っていることがわか って、満足する親はいないはずなのです。
一方、行政サイドも子どもたちのための環境を故意に低くしようとしているとは思わ れません。行政担当者の知識の不十分さや不勉強が地域格差を生んでいるのです。
私たちが障害のある子どもを育て、育っていく地域の現状を把握することが、親や行 政にとって必要であり、これからの地域環境を考えていくスタートラインであるといえ るのです。
このチェックリストは乳幼児期から成人にいたる過程で地域社会が用意すべき環境を まとめて、親や専門家自身が調べて書き込むようになっております。 また、地域格差の例として北海道における具体的な差異についても収録し、参考にし てもらえるようになっております。(HSKこばと第77号別冊1990年10月より)
〈どのように調べたらよいのでしょうか〉
チェック項目によって一概には言えませんが、まず市町村の障害福祉課、保健所、公 立病院、療育センター、児童相談所に情報はあるでしょう。また、市町村で出している (はずの)「福祉の手引き」なる冊子も参考になるでしょう。幼稚園や学校教育関係に ついては教育委員会が教えてくれるはずです。
【療 育 手 帳】
1.療育手帳の交付年令は?( )
*コメント:1才未満は交付されない、判定が可能になれば交付、病名がつけば 1才未満でも交付、1才半から交付、年令基準はない…など。また、療育手帳について のアドバイスがなく、親が気づかないといつまでももらえない所やもらおうとすると、 児相や通園施設職員に嫌味なことを言われたり、有効な使い方を福祉課で知らせてくれ ないというところもあるそうです。
2.判定基準は? ( )
*コメント:茨城県では、A, A, B, C に判定されます。北海道では、ダウン症児 の判定は、程度により判定する所、他の疾患との合併の場合のみA判定、すべて軽度のB など地域により様々です。
3.判定はどこで行う?( )
*コメント:18才未満は児相、それ以上は市の巡回相談で、保健婦が乳児診断でチ ェックし専門医や児相で判定、遠方の児相につれて行かなければならない所もある。
【医 療 費 補 助】
1. 乳幼児助成で「通院」については何歳まで無料?( 歳まで )
*コメント:1歳の誕生日まで・2・3・4~6歳の誕生日まで、と市町村によって著しく異なっていた。道の制度では1歳までの助成だが市町村の独自の補助によるため。
2. 乳幼児助成で「入院」については何歳まで無料?( 歳まで)
*コメント: 北海道では6歳の誕生月末まで
3. 障害に応じた医療費の助成
重度障害児の通院・入院助成はありますか? ( )
*コメント:道制度により無料。
4. 中度障害児の通院・入院助成はありますか? ( )
*コメント:札幌市ほか多くの市町村では助成は無かったが、函館、室蘭、 苫小牧、名寄市などでは市制度により無料になっている。
5. 軽度障害児の通院・入院助成はありますか? ( )
*コメント:下川町では軽度障害児の通院医療費を1ヶ所の病院小児科におい てのみ無料にしているが、他の市町村は助成なし。
【交 通 費 の 助 成】
*昨年、JRなどで、療育手帳による精神薄弱者交通費助成が行われるようにな りましたが、それ以外の、地域交通網についてお答えください。
1. 重度障害児本人への交通費助成は? ( )
*コメント:市営交通が無料、タクシーチケット配布、タクシー基本料金の助成、 療育施設などの通所・通学の交通費助成、特になし。
2. 重度障害児介護者への交通費助成は? ( )
*コメント:市営交通全額補助・半額補助、全く無いなど様々。
3. 中度障害児本人への交通費助成は? ( )
*コメント:重度児と同じ、IQや歩行障害の程度によって重度児と同じ、全く 無いなど様々。
4. 中度障害児介護者への交通費助成は? ( )
*コメント:重度児と同じ、IQや歩行障害の程度によって重度児と同じ、全く 無いなど様々。
5. 軽度障害児本人への交通費助成は? ( )
*コメント:市営交通5割引、重度児と同じ、全く無いなど様々。
6. 軽度障害児介護者への交通費助成は? ( )
*コメント:全く無い、重度児と同じなど様々。
【療 育・訓 練 の 場】
* 場の有無、近くにあるか、通える頻度、指導員の専門性・レベルなどについてもお答え下さい。
1. 公立の乳幼児期の療育の場がありますか? ( )
*コメント:0才児の赤ちゃん体操、通園施設、児相や保健センター内の教室 など。週何回通えるかも大切なポイントです。
2. 私立の乳幼児期の療育の場がありますか? ( )
*コメント:親の会や法人などで運営する通園施設、教室など。
3. 肢体不自由児に対する訓練の場がありますか? ( )
*コメント:病院、リハビリセンター、通園施設、教室など。
4. 障害別の特別な訓練を受ける場がありますか? ( )
*コメント:例えば、ダウン症児のためのポーテージ協会、こどもの城協会、 ワシントン大学法など。
5. 言語訓練を受ける場がありますか? ( )
*コメント:ことばの教室など。
【保 育 園 と 幼 稚 園】
1. 保育園で障害児を受け入れる場合、入所できる年齢と障害の程度は?
*コメント:札幌市では、軽~中度は3才以上(運用面で1才10ヶ月以上)で した。他の地域では、軽~中度は健常児と同じ6ヶ月から、ケースバイケース、オムツ が取れれば入れる、保育園では受け入れないなど。
2. あなたの住む市町村に、公立・私立保育園はそれぞれ何園あり、そのうち障害児 を受け入れるところは何園ありますか?
*コメント:札幌市では、90年度で公立7園、私立50園、合わせて121人が受 け入れられていました。その他、受け入れ園が特定の2園だけ、全くないなどの地域が ありました。
3. 幼稚園で障害児を受け入れる場合、入園できる年齢と障害の程度は?
*コメント:4~5才、3才以上、受け入れない、言語・情緒・心臓・ダウンに 限って受け入れるなど。
4. 公立・私立幼稚園は何園あり、そのうち障害児を受け入れるところは何園ありま すか?
*コメント:札幌市の場合、90年度で、公立16園中14園114名、私立128園中28 園160名の子ども達が受け入れられていました。他に、公立でのみまたは、私立でのみ受け入れている地域などがありました。
【地 域 療 育 ネ ッ ト ワ ー ク】
あなたの地域には障害の発見から療育訓練、治療、教育など各機関と専門家の連携の とれた「地域療育ネットワーク」があるかどうか確認し、実際にどのように機能が発揮 されているのかを確認して下さい。
【義 務 教 育】
1. 小学校の普通学級で障害児は受け入れられていますか?
2. 小学校は何校あり、どんな障害に対する特殊学級がいくつありますか?
3. 中学校の普通学級で障害児は受け入れられていますか?
4. 中学校は何校あり、どんな障害に対する特殊学級がいくつありますか?
5. どの養護学校(精薄・肢体不自由・病弱養護について)の校区になりますか? また、養護学校に通う場合、スクールバスや他の交通機関の状況はどうでしょうか?
【高 等 部】 1. 普通高校(全日制・定時制)で障害児を受け入れていますか?
2. どの養護学校(精薄・肢体不自由・病弱養護について)の校区になりますか?
高等部の受け入れ状況はどうですか?
*コメント:北海道では、高等部を併設する養護学校は少なく、高等養護学校 としてあったため、中~重度の子ども達には門が閉ざされていました。
高等部に通う場合、交通機関の状況はどうでしょうか?
障害の程度による寄宿舎の受け入れ状況はどうでしょうか?
【社 会 自 立 の 場】
1. あなたの住む市町村に、身体障害者または精神薄弱者のための、次のような通所 または入所施設がありますか? その運営・定員・障害の程度・作業内容・給与・入所 年限・定員の空きなどはどうでしょうか?
2. あなたの住む市町村に、上記のような施設がないか足りない場合、どこの施設を 利用していますか?
3. あなたの住む市町村に、障害者が就職している企業・役所などがありますか?
以上、それぞれの地域で調べるときの参考にして下さい。
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編 集:つくば障害児の発達を考える会
発達を考える会DB