スペインのrewilding siteに見られる農地と低灌木林が混在する景観
1)野生生物保護管理における人口減少問題の影響とその対応策の提案:特に日本版「生態的再野生化」の可能性の模索
人手が減少し、土地の放棄と人間社会の縮小が進むとこれまでは当たり前に行われてきた自然資源管理や生態系管理の方法や体制は通用しなくなる可能性があります。捕獲に頼った野生動物の個体数管理はその典型的な例と言えるでしょう。人口減少が進んだ将来を見据えて生態系管理や生物多様性保全に関して大胆な発想転換が必要ではないかとの問題意識から、人口減少が進んだ将来の社会に適応できる新たな枠組みに関して国際的な先行事例や議論を参考にしつつ、日本に適用可能な生態的再野生化(Ecological Rewilding)の社会的枠組みや技法について議論しています。
キーワード:人口減少、生態的再野生化(ecological rewilding)、土地放棄、国土計画、集約化、粗放的保全・管理、基準推移症候群(shifting baseline syndrome)
2)「超捕食者(Super predator)」としてのヒトの捕食者機能の評価と管理への応用
「オオカミが絶滅した日本では、人間が唯一の捕食者でありその役割・責任を果たすべき」との声がシカ管理の現場ではしばしば繰り返されていますが、オオカミのような頂点捕食者と人間は、生態系機能や生態系プロセスに関して本当に同一視できるのでしょうか?少なくとも海外の研究事例からは、人間による捕獲(狩猟を含む)のみでは頂点捕食者による生態系機能を補完できないと指摘されています。このような問題意識から、捕食リスク効果と行動介在型(形質介在型)栄養カスケードに着目して、人間に対する「恐れ」による対捕食者行動やその波及的効果を科学的に理解し人口減少が進んだ状況において捕獲がもたらす「恐怖の景観(Landscape of fear)」の効果を管理に活用するための方策について検討していきます。特に、野外観察と実験的な手法を組み合わせて、人為攪乱状況の質的・量的な違いと、シカの対捕食者行動の関係や生理的ストレスへの波及効果を明らかにすることを目指しています。
キーワード:形質介在型栄養カスケード、恐怖の景観(Landscape of fear)、捕食リスク、警戒行動(vigilance)