外来肉食魚の生態的影響の解明とその管理

● オオクチバスが在来魚類の群集構造に与える影響:捕食影響は魚種や水域の環境条件によって異なる

1.オオクチバスの侵入影響は池ごとにも魚種ごとにも異なる (角田ら,2008,環境情報科学論文集22,191-196)

バスが侵入した池と侵入していない池の魚類相を比較したところ出現種数に差はないものの、バスが侵入した池では止水性のコイ科小型種やハゼ科魚類の個体数が少ない傾向が見られました。また、成魚が比較的大きく成長するフナ類は、稚魚・若魚クラスの個体が捕獲されませんでした。これはバスの捕食対象が口のサイズで制限される(gape-limitation)ためと考えられます。その一方で、ドジョウなどはバスの侵入後であっても捕獲数には大きな変化が見られず、バスと共存していました。


2.在来種に対するオオクチバスの捕食影響は池の環境条件との複合影響で変化する (Tsunoda & Mitsuo, 2012, Aquat Living Resour 25, 163-171)

魚類群集に対するオオクチバスの捕食影響の水域間の差異とその関連要因を明らかにするために、岩手県のオオクチバスが侵入した14か所のため池において比較調査をしました。出現魚種数はオオクチバスの相対個体数と強い負の相関関係を示しました。また、止水性コイ科魚類(モツゴ、タイリクバラタナゴ、フナ類)各種の相対個体数もオオクチバスの相対個体数と強い負の相関関係を示しました。ため池の魚種数はため池の環境条件のうち、特に透視度や水生植物被度と関連があることが示唆されました(水が濁っており、水生植物が少ない池ほど魚種数は豊富であった)。これらの環境条件はオオクチバスの捕食能力に影響を与える要因であるため、ため池の魚種数と関連したと考えられます。


3.野生下でもオオクチバスの魚食効率には水草の多寡が関連する(Tsunoda & Mitsuo, 2018, Limnology 19, 271-276)

オオクチバスの魚食性に対して池の環境要因が影響しうるのか、影響するとすればどういった要因が主に関連するのかを明らかにするために、15か所の池で採集したオオクチバスの胃内容物、餌魚の豊富さ、水質や植生、護岸率、池の規模などとの関係を調べました。その結果、オオクチバスの魚食率は餌魚が豊富な場所では高く、水草が多い場所では低くなる傾向が見られました。この結果は、餌魚の隠れ場所となる水中の物理構造(=水草)が捕食効率の低下に役立つ可能性を示し、水槽実験による既往研究成果を支持しました。一方、既往研究で捕食効率に影響するとされてきた透明度については関連性は見られませんでした。しかし先行研究では、透明度の低下によって底生の餌種に対する捕食効率はむしろ高まる可能性が示唆されています。今回の調査地ではオオクチバスの餌種はヨシノボリ類が多くを占めていたため、透明度の影響があまりなかったと考えられます。 

調査対象ため池1

調査対象ため池2

● オオクチバスの効果的な防除対策

1. 駆除の効果測定:在来魚類相の回復には順応的管理が不可欠!(Tsunoda et al., 2010, Aquat Conserv Mar Freshw Ecosyst 20, 710-716)

外来魚オオクチバスの駆除による魚類群集の回復効果を評価する目的で、同一の灌漑水系内のため池の魚類相モニタリング調査しました。調査対象ため池をバス生息池(3箇所)、駆除池(3か所)、未侵入池(5か所)に区分して魚類相の比較を行いました。バス生息池では魚種数や種多様度は5年間で減少傾向を示した一方で駆除池では増加傾向となりました。また、駆除池ではモツゴやヨシノボリ類の個体数の回復が確認されましたが、バス生息池ではそれらの種は減少し続け調査期間中の5年内に対象地から消失しました。オオクチバスの駆除は在来魚類相の回復に非常に有効であることが示されましたが、その一方である駆除池では外来魚のタイリクバラタナゴがバス駆除後に侵入・大増殖してしまう生態的開放が観察されました。外来種の根絶事業において在来生物相の回復を成功させ、また他の外来種の侵入という望まざる結果を避けるためには、駆除後の定期的なモニタリングと順応的な管理が必要であることを明示しました。

 

2. オオクチバスの違法放流予測とポテンシャルマップの作成 (Tsunoda et al., 2015, Ecol Res 30, 15-24)

2005年に施行された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」によってオオクチバスは特定外来生物に指定され、移殖放流が禁止されています。しかし、法律の施行以降も違法放流が続いています。奥州市のため池群においても調査を実施した2008~2009年の2年間で計4件の違法な移殖放流が確認されました(角田ら,2011,保全生態学研究16, 243-268)。

外来種防除において侵入防止はもっとも費用対効果が高い基本的な取り組みです。そこで、釣り人の放流行動やオオクチバスの定着可能性も考慮したうえで、オオクチバスが放流された場所の環境的・景観的要素を解析し違法放流の予測モデルを構築しました。一般化線形モデルによる解析の結果、オオクチバスの放流された池の特徴は、面積が比較的大きく、都市中心部から近く、コンクリートで護岸された池でした。これらの特徴は、地図上で発見しやすく、放流者(バス釣り人)の居住地に近く、放流の際に立ち入りやすい場所であったと考えられました。放流予測モデルはオオクチバスが放流されていない池や駆除行われた池における、将来的な違法放流リスクの評価に応用できると考えられます。

● コイ科魚食魚ハスの生活史特性の解明と保全生態学

 ハス(近畿地方での通称はケタバス)はアムール地方、中国からインドネシア北部までの東アジア地域に広く分布しており、日本に生息するのは固有亜種です。日本における自然分布域は琵琶湖・淀川水系と福井県の三方湖に限られていましたが、琵琶湖産アユ等の放流の際の随伴移入によって日本全国の河川や湖沼に導入されています。そして、日本産コイ科魚類の中でハスはほぼ唯一の魚食魚です。主な研究目的は、(1)ハスと外来肉食魚のオオクチバスの餌資源等を巡る種間相互作用やハス在来個体群に対するオオクチバスの侵入影響の解明(2)ハスの非在来個体群の生活史特性の解明、に取り組んでいます

河口湖産の国内外来個体

琵琶湖産の在来個体

1.国内外来魚ハスと国外外来魚オオクチバスの食性:河口湖の事例 (浦野ら,2014,陸水生物学報29,39-49)

 国外外来種のオオクチバスと国内外来種のハスが同所的に生息する河口湖において、両種の餌資源を巡る種間相互作用を調査しました。その結果、両種が利用する餌は大きく異なっていました。オオクチバスは主に大型甲殻類(特にテナガエビ)を捕食し、ハスは魚類と水面に落下した陸生昆虫を多く捕食していました。また、ハスは成魚であるにも関わらず動物プランクトンを大量に捕食する個体も観察できました。両種の食性の違いは採食行動と関連すると考えられます。


2.琵琶湖へのバスの侵入は在来魚類相の衰退を通してハスの生活史を変化させた可能性がある (Tsunoda et al., 2015, Ann Limnol- Int J Limnol 51, 273-280;角田ら,2016,野生生物と社会3(2),29-39)

 琵琶湖に生息するハスとオオクチバスとの餌を巡る種間相互作用を明らかにするために、両種の食性の比較と重複度解析を行いました。ハスはアユを中心とした魚類を捕食しており、水面に落下したと考えられる陸生昆虫を副次的に利用していました。一方、オオクチバスは魚類(ハゼ類など)と大型甲殻類(エビ類)を同程度に捕食していました。両種の食性の有意な重複は見られず、餌資源を巡る直接的な競合は見られませんでした。しかし、オオクチバス侵入以前(1960年代)の先行研究と比べて、ハス食性中のハゼ科魚類は極めて少なくなっており、コイ科魚類は全く観察できませんでした。また、オオクチバスが琵琶湖に侵入する以前と現在のハスの成長を比較したところ、3歳以上の個体で雌雄ともに体サイズが小型化しており、また1〜2歳時の相対成長率の低下が見られました。

 かつてハスが捕食していたハゼ科魚類やコイ科魚類はオオクチバスの捕食影響に脆弱であり、琵琶湖ではオオクチバス侵入後に減少・消失したことが報告されています。過去のオオクチバスの捕食による餌資源の減耗(餌資源を巡る消費型競争)が現在のハスの餌資源利用に影響を及ぼし、食性の変化や成長の低下が起こった可能性があります。

※以上の一連の研究成果は2018年12月12日付読売新聞滋賀県版に掲載されました。


3.日本各地のハス個体群の生活史特性やその多様性 (Tsunoda, 2023, Ecol Res 38, 700-707)

 ハスの生態は1950~70年代に原産地の琵琶湖・淀川水系と三方湖を中心に研究が行われ、最近では国内外来魚として注目され九州地方を中心に生活史に関する研究が行われています。これらの文献データを使って、特にハスの成長率に対する生息地サイズ(流域面積)および在来・非在来個体群の違いに着目をしてメタ解析を行いました。その結果、ハスの成長率は生息地サイズが大きいほど大きく、また在来個体群のほうが非在来個体群よりも成長率が良いことを明らかにしました。しかし、さらに詳しく検討すると、生息地サイズよりも在来・非在来の違いがより影響が大きいことが示唆されたため、原産地の環境条件に適応した生活史の進化の可能性を議論しました。


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