ブルガリア中央部に生息する中・大型食肉目の生態や食肉目のギルド内の生物間相互作用の解明と保護管理に向けた人間活動の影響評価が研究テーマです。本研究プロジェクトは東京農工大学農学部とトラキア大学農学部の姉妹校提携によって実施しています。
バルカン山脈から望むトラキア平原
ブルガリアにおける食肉目ギルドの種間相互作用の解明
食肉目ギルドでは、特に大型種との直接競争(攻撃・捕殺)が小型種の主要な死亡原因となり、その個体群動態に影響を及ぼします。もし競争排除則に従うならば、競合する複数種が同所に生息できないことになります。しかし現実には、世界中の多くの地域で様々な分類群、体サイズ、機能群の食肉目動物が同所的に共存しています。このことから、資源分割等によって種間競争を回避し、多種共存を可能とするメカニズムが存在していると考えられます。
特にキンイロジャッカルのメソプレデターとしての役割や最上位捕食者のオオカミ在・不在の影響などに着目して、食肉目ギルド内における多層的な種間競争関係(あるいは捕食者カスケード、Predator cascades)を明らかにすることを目的としています。また、人為的干渉が種間競争に与える影響についても研究対象としています。
キーワード:種間競争、干渉型競争、ニッチ分割、ギルド内関係、捕食者カスケード、食肉目、イヌ科
1.キンイロジャッカルを含む食肉目ギルド内のニッチ分割
食性分析とカメラトラップ法を用いてブルガリアの様々な環境にて食肉目ギルドを研究しています。中型食肉目5種(キンイロジャッカル、ヨーロッパアナグマ、アカギツネ、ムナジロテン、ヨーロッパヤマネコ)の栄養・時間・空間的ニッチ分割を、体サイズ、栄養ニッチの重複度、餌資源の季節性との関係から検証しました。食肉目ギルドの多種共存において直接競争(干渉型競争)を避けるために時間・空間ニッチの分割が重要であること、その規定要因が体サイズ差と食物資源であることを示唆しました。
関連する研究業績:Tsunoda et al. (2017) J Zool 303; Tsunoda et al. (2018) Zool Ecol 28; Tsunoda et al. (2019) Mamm St 44; Tsunoda et al. (2020) Zool 44; Tsunoda et al. (2025) Diversity 17
キンイロジャッカル
2.キンイロジャッカルの資源利用による食物連鎖を介した波及効果
胃内容物や糞内容物の分析による現地での食性調査、ユーラシア全域を対象としたメタ解析、被食者との時間的・空間的行動パターンの解析などのアプローチから、キンイロジャッカルの栄養生態ニッチと捕食・採食戦略を明らかにし、捕食や死肉食(Scavinging)等による食物連鎖を介した波及効果の解明を目的としています。
関連する研究業績:Raichev et al. (2013) Mamm St 38; Tsunoda et al. (2019) Mamm St 44; Raichev et al. (2020) Acta Zool Bul 72; Tsunoda & Saito (2020) J Vertebr Biol 72
3.オオカミやノイヌ等の大型捕食者と中型食肉目ギルドの関係
このプロジェクトでは2015年からカメラトラップ法を取り入れて、様々な景観や地形の場所で調査を行ってきました。約50地点、1.4万カメラ日によるブルガリア中部の広域カメラトラップ調査から、食肉目ギルドの分布パターンや日周活動を分析し、オオカミやヒグマなど人を避けて山林に生息する種とジャッカルやアナグマのように人里付近でも生息可能な種があることを明らかにしました。
また、都市近郊においてノイヌ・ジャッカル・キツネ3種間の時間・空間ニッチについて調査し、バルカン山脈のノイヌ不在地域と比較した結果、ノイヌの存在がジャッカル・キツネ間の時間・空間ニッチの関係に影響を与える可能性が明らかになりました。
関連する研究業績:Tsunoda et al. (2022) J Vertebr Biol 71; Tsunoda et al. (2024) Food Webs 39; Tsunoda et al. (2025) Diversity 17