Bieszczady Wolf Project (2004~2006)

ポーランド南東部ビエスチャディ地方(中東欧にまたがるカラパチア山脈の北西部に位置する)においてオオカミの生態把握と保護管理を目的としたポーランド科学アカデミー研究プロジェクト(代表:Dr. R. Gula)に参加しました。

私は、ラジオテレメトリーとスノートラッキングによって当地域に生息するオオカミの活動性(日周活動)、行動圏、環境選択を把握し、オオカミの行動・生態に対する人間活動の影響や生物的・環境的要因との関係について調査を行いました(Theuerkauf et al. 2007;Tsunoda et al. 2009;Eggermann et al. 2009)。自身の修論では、パックサイズが大きく異なる2つの群れのオオカミの追跡結果から、繁殖行動の雌雄差とパックサイズの関係について検討しました(Tsunoda et al. 2009)。

また、現地でさまざまな立場の人々(宅地に住む市民、農家、牧畜家、狩猟者)と出会った中で地域住民のオオカミに対する意識や考え方、オオカミと身近な距離で共存する地域社会の状況を知ることができました(角田2007;井上ほか2008)。

ヨーロッパの他地域に比べて森林分断化率が高く、人口密度の高い当地域において、オオカミと人間の時空間的な住み分けを明らかにし(Theuerkauf et al. 2007)、オオカミと人間が同所的に共存可能であることを示した点は特徴的な成果です。オオカミによる家畜被害の発生状況を明らかにしたうえで、オオカミの食性・行動圏・群れの分布を解明し、地域の環境条件や家畜の飼養状況等を解析することによって、当該地域における家畜被害管理指針が提案されました(Gula 2008a; 2008b)。また、同プロジェクトでは、非侵襲的な手法(糞・尿からのDNA抽出・解析;Hausknecht et al. 2007)によって、高人口密度地域においてもオオカミの分布拡大が起こっていることが明らかにされています(Gula et al. 2009)。 

調査対象のオオカミ

生息地の二次林

ヨーロッパバイソン

調査に携わる中で、私自身がオオカミによる家畜被害や林内での野生オオカミとのニアミスを身をもって経験し、オオカミという動物が持つ性質(人間を怖れ、人間との接触を極力回避する)を知ることができました。この経験は、オオカミと人間との軋轢(家畜被害や人身被害)とそのリスクに対する私の考え方に大きな影響を与えています。