タナイス?


タナイスという甲殻類について書いていきます.

まず,タナイスは研究者が少ないからか,はたまた種超分類群(属とか科とか)の設立が盛んで体系が非常に流動的なことが関係してか,色々な情報源に不備があります.

例えば英語版Wikipedia,2018年7月確認時点で,既知種数が940種となっていたり(当時としても少ない),最大の種が120 mmという過去の誤った情報(正確にはGigantapseudes maximus Gamô, 1984の75 mm)が残っていたりします.WoRMSという世界的な海洋生物データベースにも,タナイス研究者が作っているウェブサイト(Tanaidacea Home Page)にも,種の登録漏れを確認しています(どちらもかなり有用ではあります).(20230105追記:Tanaidacea Home Pageは閉鎖されたようです)

なお,日本語版のWikipediaにタナイスのページはありません.これはいい・悪い両面あるので,そのままにしています.(20130930追記:20130927にどなたかが日本語版を作られたようです.内容は確認していません.)

ここでは,タナイス類について分類学を中心にアプローチしている研究者として,できるだけ間違いの無いよう,タナイスについて伝えていけたらと思います.研究の合間にポチポチやるので,なかなか書き進められないかと思いますが,気長にどうぞ.

タナイスって何だろう?

タナイス目(Tanaidacea)という甲殻類の1群に属する生きものです.見た目の特徴としては,

①1対のハサミ*を持つ

②歩行用の脚(歩脚)の生えた体節(自由胸節)は6節

1対の筒状の尾肢を持つ

④頭胸部後側域に鰓室を持つ

これらがわかりやすいものだと思います(写真).

*:亜ハサミ型(subchelate)という,鎌っぽいハサミを持つ種も少数ながら存在します(e.g., Kakui et al. 2019).

エゾナミタナイス Zeuxo ezoensis のメス

体長はほとんどの種類が数ミリメートル.世界最大種はGigantapseudes maximus Gamô, 1984(7.5 cm; Gamô 1984).

タナイスは水の中に住んでいます.少数の淡水産・汽水産種を含みますが,ほとんどが海産種です.世界中の海に住んでいます(極域~赤道域;潮間帯~水深9000m).ほとんどの種は海底の砂の中に潜って生活していますが,海藻上に巣を作って住む種類(Johnson & Attramadal 1982)や,ウミガメやマナティーなどの体表に巣を作る種(Morales-Vela et al. 2008),さらにはヤドカリのように巻貝殻を背負って暮らす種(Kakui 2019)もいます.

1対のハサミを持った姿は,一見するとエビの仲間のように見えますが,ダイオウグソクムシやワラジムシなどに近縁な動物です.ちなみにエビは十脚目,ダイオウグソクムシとワラジムシは等脚目というグループに属します.

タナイス目と等脚目は,メスが体の腹側に子供の保育のための袋(写真)を持つ*点が共通していて,他のいくつかの目とともに,「フクロエビ上目(Peracarida)」というグループにまとめられています.一方,十脚目は保育用の袋は持たず,保育する場合も卵を腹部の肢に付着させます.十脚目は,オキアミ目と共に,「ホンエビ上目(Eucarida)」というグループにまとめられています.

*:袋は保育後に脱落するので,いつも持っているというわけではありません.次の産卵までに脱皮を繰り返し新しい袋を作ります.

よく「タナイスって和名はないのですか?」と聞かれます.「〇〇エビ」とか「ウミケラ」とかよいかもなと思ったこともありますが,エビに間違われたり,昆虫に間違われたり,分かりやすさの反面誤解も招きやすいので,私が年老いるまでに,タナイスという「和名」を定着させるのが一つの野望です.