私たちの研究で提唱した和名の由来


和名の提唱には特に決まりごとがなく,例えば由来を提示すべきといった方針もありません.私はこれまで特に理由はないのですが,提唱した和名の由来を記してきていません.ただ,なぜこんな和名なのか?と気になって眠れなくなる人が将来出てこないとも限りません.そのような不眠の民を生まぬため,私たちの研究で提唱した和名の由来や着想に至った背景などを以下に記します(50音順)(作成中)

アシナガアプセウデス科

Sphyrapodidaeに対してKakui & Kajihara (2011) にて提唱.本科は非常に発達した第1歩脚を持っています.このびよーんと長い脚と胸部から腹部にかけての雰囲気が,アシナガバチを彷彿させたので,所属上科(アプセウデス上科)の名前と合わせてアシナガアプセウデス科としました.


アシナシチヂミタナイス属

Haimormusに対してKakui & Fujita (2018) にて提唱.本属を除くチヂミタナイス科の2属は腹肢を1対持っているものの,本属は1対も持っていないことから,足無しのチヂミタナイス科の属,ということでアシナシチヂミタナイス属としました.


ウラシマタナイス属・ウラシマタナイス

HexapleomeraHexapleomera urashimaに対してTanabe et al. (2017) にて提唱.アカウミガメの甲羅の上から見つかることを昔話の浦島太郎に見立ててウラシマタナイスとしました.


エゾナミタナイス

Zeuxo ezoensisに対してOkamoto et al. (2020) にて提唱.北海道沿岸から報告されるナミタナイス属の構成種であることから,北海道の古称である蝦夷(えぞ)とあわせてエゾナミタナイスとしました.


エダスアシナガアプセウデス属・エダスアシナガアプセウデス

KudinopasternakiaKudinopasternakia balanorostrataに対してKakui & Kajihara (2011) にて提唱.エダスとは釣りの仕掛けの枝ハリスの略称で,本属の第2触角から偽鱗節という構造が生えている様が,ハリスと枝ハリスの関係に思えたことに因み,所属科(アシナガアプセウデス科)と合わせてエダスアシナガアプセウデスとしました.


エンピツナミタナイス

Zeuxo molybiに対してOkamoto and Kakui (2021) にて提唱.主著者提案の和名です.背甲の模様がエンピツの先に見えるナミタナイス属の構成種であることから,エンピツナミタナイスとしました.


オオガマワレカラドロノミ

Capropodocerus kamaitachiに対してMatsumoto et al. (2023b) にて提唱.主著者提案の和名です.大きな第2咬脚から大きな鎌を連想し,この和名にしました.


カイゾクワレカラドロノミ

Capropodocerus tagamaruに対してMatsumoto et al. (2023b) にて提唱.主著者提案の和名です.種小名の由来である多娥丸が海賊でもあることから,この和名にしました.


カギシッポタナイス

Neoleptochelia japonicaに対してSato et al. (2023) にて提唱.主著者提案の和名です.本種は短い尾肢を持つホソツメタナイス科になります.猫において短く丸まった尻尾のことを「かぎしっぽ」というらしく,それに因んだ和名です.


カッパアシタラズウミナナフシ

Cruranthura viridisに対してShiraki & Kakui (2024) にて提唱.主著者提案の和名です.苔色の体色と尖った口から河童を,他のウミナナフシ類より歩脚が1対少ないことからアシタラズを和名に含めました.


ガチャポンダルマミジンコ

Sphaeronella uyenoiに対してKakui & Munakata (2023)にて提唱.カイミジンコの二枚貝様の殻の内側に潜むダルマミジンコ属の一種という関係を,ガチャポンのカプセルとプライズの関係に見立て,ガチャポン+ダルマミジンコとして本和名としました.


カマキリタナイス亜科

Konariinaeに対してKakui et al. (2019a) にて提唱.本亜科のオスは,ハサミ型ではなく,鎌のような形の鋏脚をもつことから,カマキリタナイス亜科としました.


カマグチカマクラムシ科・ガマグチカマクラムシ属

固着性繊毛虫のLagenophryidaeとLagenophrysに対して角井 (2022) にて提唱.このグループの繊毛虫は,がま口のような閉口装置とかまくらのような形のロリカをもつことから,がま口+かまくら+虫としました.


キタタナイス属・キタタナイス

ArctotanaisArctotanais alascensisに対して角井ら (2014) にて提唱.Arctotanaisはアリューシャン列島をタイプ産地とするA. alascensis1種のみを含む属で,日本からは北海道沿岸と岩手県沿岸という北日本のみから報告されていることから,所属科(タナイス科)の名前とあわせてキタタナイスとしました.


ブクレハボウキ属

多毛類であるFlabegravieraに対してJimi et al. (2017)にて提唱.私が提案したものを主著者に採用していただきました.分厚い寒天質の被囊をまとった姿を,南極という極寒の地で着膨れている様子に見立て,着膨れたハボウキゴカイ科ということでキブクレハボウキ属としました.


キホシクラヤミタナイス

Hamatipeda kohtsukaiに対してKakui & Hiruta (2022) にて提唱.本種が生時,黄色い星のような模様のある美しい姿をしていることから,所属科(クラヤミタナイス科)の名前とあわせてキホシクラヤミタナイスとしました.が,記載後に,Hamatipeda属をタイプ属としたHamatipedidaeという科が立てられることになりまして,上記の由来がやや変な感じになりました.科をキホシクラヤミタナイス科にすればよいだろうか...悩み中です.


クビカザリウミナナフシ

Expanathura monileに対してShiraki et al. (2021) にて提唱.主著者提案の和名です.メスの頭胸部背面の模様が首飾りに見えたことに因む種小名をもとにした和名です.


クビレタナイス科・クビレタナイス属

Agathotanaidae,Agathotanaisに対してKakui & Kohtsuka (2015) にて提唱.メスの腹部が腹部の前後に位置する胸部・腹尾節よりも幅が狭い,つまりくびれたような形をしていることに因みます.


クラヤミタナイス科

Typhlotanaidaeに対してKakui & Hiruta (2022) にて提唱.学名のTyphlo-(盲目の)を少しひねって暗闇としました.


シノビウラシマタナイス

Hexapleomera sasukeに対してTanabe & Kakui (2019a) にて提唱.提案は私だったか主著者だったか記憶が曖昧です.水族館の水槽内に人知れず忍び込んでいるウラシマタナイス属の種ということでシノビウラシマタナイスといました.


バレドウクツカイミジンコ

Cavernocypris hokkaiensisに対してMunakata et al. (2022) にて提唱.亜高山帯を流れる冷たーい沢から採集されたことから,方言の「しばれる」(凍てつく寒さ)と属の和名を合わせてシバレ+ドウクツカイミジンコとしました.


シモジアプセウデス

Paradoxapseudes shimojiensisに対してKakui & Fujita (2020) にて提唱.宮古群島下地(しもじ)島をタイプ産地とするアプセウデス科の構成種ということで,シモジアプセウデスとしました.


シモジチヂミタナイス

Haimormus shimojiensisに対してKakui & Fujita (2018) にて提唱.宮古群島下地(しもじ)島をタイプ産地とするチヂミタナイス科の構成種ということで,シモジチヂミタナイスとしました.


タマゴハラナガウミナナフシ

Kupellonura tamagoに対してShiraki et al. (2022b) にて提唱.主著者提案の和名です.尾肢外肢が卵型に見えたことに因んだ種小名をそのまま使っています.


ダルマミジンコ属

Sphaeronellaに対してKakui & Munakata (2023)にて提唱.メスの体型がダルマのように見える微小な生き物,ということで本和名としました.


チヂミタナイス科

Pseudozeuxidaeに対してKakui & Fujita (2018) にて提唱.腹部が前後軸方向に強く縮んでいる(腹部が短い)ことからチヂミタナイスとしました.


ツツソデタナイス

Chondrochelia sublitoralisに対してSato et al. (2023) にて提唱.主著者提案の和名です.鋏脚の腕節が,遠位方向に向かって広がらず,筒のようになっている様に因んでいます.


ドウクツスイクチウミグモ

Pantopipetta hosodaiに対してKakui & Fujita (2023) にて提唱.海底洞窟から見つかったスイクチウミグモ科のウミグモということで,この和名にしました.


トフシスイクチウミグモ

Pantopipetta lenisに対してHosoda & Kakui (2020) にて提唱.担卵肢が10節からなるスイクチウミグモ科の構成種(厳密には10節の担卵肢という特徴はPantopipetta属全種が備えた特徴ですがということで,この和名にしました.


トヨシオクビレタナイス

Agathotanais toyoshioaeに対してKakui & Kohtsuka (2015) にて提唱.広島大学の練習船「豊潮丸(とよしおまる)」に献名したクビレタナイス科の構成種ということで,トヨシオクビレタナイスとしました.


トンガリアシナガアプセウデス

Pseudosphyrapus cuspidigerに対してKakui & Kajihara (2011) にて提唱.額角や腹部側板が尖っているアシナガアプセウデス科ということで,この和名にしました.


ナミタナイス属

Zeuxoに対して角井ら (2014) にて提唱.南西諸島などを除く日本の沿岸域において最も普通に採集されるグループということで並(なみ)に採集されるタナイス科ということでナミタナイス属としました.


ハリダシカマキリタナイス属・ハリダシカマキリタナイス

ParakonarusParakonarus kajiiに対してKakui et al. (2019a) にて提唱.ハサミの一部に大きな張り出しがあるカマキリタナイス類ということでこのように名付けました.


ヒゲアシナガアプセウデス亜科・ヒゲアシナガアプセウデス属

Pseudosphyrapodinae,Pseudosphyrapusに対してKakui & Kajihara (2011) にて提唱.Pseudosphyrapodinaeを他の亜科から区別する特徴として大顎に大顎鬚がある,というものがあることから,ヒゲのあるアシナガアプセウデス科ということでこの和名にしました.


ホソツメタナイス属

Leptocheliaに対して角井ら (2014) にて提唱.学名の和訳ですね.


マダラタナイス科・マダラタナイス属・マダラタナイス

Teleotanaidae,TeleotanaisTeleotanais madaraに対してTanabe & Kakui (2019b) にて提唱.パラタナイス上科のタナイスは体に模様があること自体稀な中,本科(Teleotanaisのみから構成される)の構成種は体全体にまだら模様を持つことから,マダラタナイスとしました.


ミサキクビレタナイス

Agathotanais misakiensisに対してKakui & Kohtsuka (2015) にて提唱.三崎で得られたクビレタナイス科の構成種ということで,この和名にしました.


ミノフクロムシ科・ミノフクロムシ属

Mycetomophidae,Mycetomorphaに対してKakui (2024) にて提唱.ふさふさした葉片を多数まとったフクロムシであり,その姿がミノウミウシを彷彿とさせたことから,ミノフクロムシとしました.


メイフノミノフクロムシ

Mycetomorpha abyssalisに対してKakui (2024) にて提唱.メイフノキジンエビSclerocrangon zenkevitchiに寄生するミノフクロムシということで,この和名にしました.


メラボシサンゴ

Hemicorallium meraboshiに対してNonaka et al. (2023) にて提唱.主著者提案の和名です.種小名をそのまま使った和名です.


ワレカラドロノミ

Capropodocerusに対してMatsumoto et al. (2023b) にて提唱.ワレカラ+ドロノミみたいな姿から,この和名にしました(学名の和訳です).