色々なタナイスの生時の写真
タナイスの生時の写真を載せていきます.産地は示しませんが,主として日本近海産になります.ぼちぼち作っていきます.
タナイスの生時の写真を載せていきます.産地は示しませんが,主として日本近海産になります.ぼちぼち作っていきます.
Superfamily Apseudoidea
Family Apseudidae
Apseudes nipponicus Shiino, 1937
和名:ニッポンアプセウデス
備考:日本で初めて記載されたタナイス.体長が1 cmを超える比較的大型の種.原記載以降あまり報告が無いが,時に人工環境に多産する(Kakui et al. 2017a).やや嫌気的な,撹乱の少ない泥場を好む種だと考えられる.同時的雌雄同体性種(Kakui & Hiruta 2023).
一時期 A. spectabilis Studer, 1883 の新参異名として扱われたり(cf. Lang 1973),Androgynella という属に移されたりしたが(Guţu 2006),Larsen & Shimomura (2006) により改めて有効種だと判断され,Larsen et al. (2011) により Androgynella が Apseudes の新参異名とされたことで,現在はもともとの Apseudes nipponicus として扱われている.
Apseudes ranma Matsushima and Kakui, 2024
和名:ランマアプセウデス
備考:名古屋港水族館の水槽内から発見された種.野外からの報告は2024年時点で存在しない.エビやカニなどが含まれる甲殻類最大のグループである軟甲綱において,2024年時点で知られる唯一の自家受精可能な同時的雌雄同体性種(Kakui & Hiruta 2013).左右の鋏脚の基節内側に筒状突起と隆起列から構成される領域を持ち,摩擦音器として用いている可能性が示唆されている(Matsushima & Kakui 2024).
Carpoapseudes spinigena Bamber, 2007
和名:なし
備考:Carpoapseudesは構成種の全種が深海生の属である.本種は背甲の側部中程に棘状突起を有する数少ない種の一つ.
マルチプルコアサンプラーで偶然得られた生体の観察から,本種は海底にトンネルを作成する生活様式を採っていることが明らかとなった(Kakui et al. 2020).またマンカ幼体から成体に至るまで遊泳に適した特徴は持たないことから,遊泳能力は非常に限定的だと考えられる.
上記の生活様式と分散に関わる特徴を有するにもかかわらず,北海道南東沖とベーリング海南東域という,直線距離で4000 km弱離れた2地点で採集され,さらに2集団間で遺伝的分化がほぼ見られないという奇妙な状況が確認されている(Kakui et al. 2020).今後さらなる分布および遺伝的多様性に関する情報の蓄積が必要だが,深海流によりベーリング海から北海道沖に個体が輸送された可能性が示唆される.
Family Parapseudidae
Parapseudes algicola Shiino, 1951
和名:なし
備考:属の特徴の一つに,腹肢が4対であることが挙げられる.体長は5 mmを超えるくらい.本州において,コンブ類の仮根部の隙間などからよく見つかる.時に人工環境に多産する(角井 未発表).
Parapseudes latifrons (Grube, 1864) の新参異名とされたことがあるが(Lang 1966),P. latifrons のタイプ産地がユーゴスラビアであること,いくつかの形態的相違点が指摘されていること,浮遊幼生期を欠くタナイス類では単一種の分布域が狭いと考えられていることなどから,Larsen & Shimomura (2008) は同種ではないと指摘,Guţu (2008) でP. latifronsとは別種とされた.
単純なトンネルを作成しその中で生活する種だろうと長らく考えられていたが,実は体の最後部の節である腹尾節内に消化管に接続する分泌腺を持っており,肛門を開口部として粘液を分泌,棲管を作成する種であることが,2017年の研究により明らかにされた(Kakui & Hiruta 2017).
2022年6月,田中正敦博士により,本種の原記載論文は長年そうだと思われていたShiino (1952)ではなく,Shiino (1951b)であることが明らかにされ,Tanaka & Kakui (2023) にて公表された.
Family Sphyrapodidae(アシナガアプセウデス科)
Kudinopasternaki balanorostrata Kakui, Kajihara, and Mawatari, 2007
和名:エダスアシナガアプセウデス
備考:属の特徴の一つに,偽鱗節(pseudosquama)が第2触角から生えることが挙げられる.和名のエダスは釣りの仕掛けの枝ハリスの略称で,偽鱗節と第2触角の関係を枝ハリスとハリスの関係に見立てたものである.
水深650メートル以深から知られるが,比較的個体数が得られているのは水深1000メートル以深からである(角井 未発表).同科別属に属する種の飼育観察結果から強大な第1歩脚で泥を掘ってトンネルを掘り生活をしていると予想されるが(cf. Kakui 2016),実際の生態については全く未知である.
Superfamily Tanaidoidea
Family Tanaididae(タナイス科)
Arctotanais alascensis (Richardson, 1899)
和名:キタタナイス
備考:アリューシャン列島キスカ島をタイプ産地とする北方種.各胸節にある2本の縞模様により,日本国内の他のタナイス科から容易に区別できる.体長が9 mm近くになる比較的大型のタナイス.Kakui et al. (2012) で再記載,和名提唱は角井ら (2014) で行った.Kakui & Kano (2021) によりタナイス目で初となるミトコンドリアゲノム全長配列が決定された種である.
これまで北海道内の採集記録は春と秋に限られ,抱卵個体が得られていないことから,国内で繁殖しているかどうかには疑問がある(角井ら 2014).北海道以外では,岩手県大槌から採集されたことがある(石丸信一 私信).
糸で棲管を作成する種だが,飼育下では活発に泳ぎ回る姿が見られる(角井 未発表).
Sinelobus kisui Hirano and Kakui, 2022
和名:キスイタナイス
備考:山口県萩市をタイプ産地とする.香川県坂出市,大阪府大阪市における分布も確認されている(Hirano & Kakui 2022).写真は左がメス,右がオス.和名提唱は有山・大谷 (1990) にて行われた(和名提唱が記載年に先んじるのは,以下のとおり記載まではS. stanfordiと同定されていたことに起因する).
名前の通り河口などの汽水域から採集される.スジアオノリなどの棒状の緑藻類を洗い出すことで時に大量に得られるほか,河口域に沈んだ古いロープなどの洗い出しでもしばしば得られる.キスイタナイス属Sinelobusと同定されたタナイスは日本各地から得られているが,少なくとも高知からS. kisuiではないと考えられる種が得られているため(Kakui et al. 2011),各地のキスイタナイス類の種実体については今後の詳細な研究が必要である.
Stephensen (1936) が国後島からSinelobus stanfordiを報告していたことにおそらく起因して,日本産のキスイタナイス属のタナイスはS. stanfordiと同定されることが多かったが,同種は東太平洋のメキシコ沖に位置するClipperton島をタイプ産地とする種であるため,日本産種がS. stanfordiである可能性は低いと考えられる.
Kaji et al. (2016)により,本種(論文公開時はSinelobus sp.として)の胸節腺型の糸分泌機構の三次元超微形態が明らかにされている.
Zeuxo ezoensis Okamoto, Oya, and Kakui, 2020
和名:エゾナミタナイス
備考:北海道忍路湾をタイプ産地とする.礼文島,利尻島,奥尻島の分布も確認されている(Okamoto et al. 2020).背甲は全体的に黒っぽいが,V字型の模様の薄い部分がある.写真は左がオス,右がメス.
ホンダワラ類やフジマツモなどの藻体上に管状の巣を作って住んでいる.海藻上の微環境利用については,Hayakawa & Kakui (2022) が飼育個体に関する知見を供している.左記のような環境を利用しているが,正の走光性を示す(Okamoto & Kakui 2023).捕食者としてアゴハゼ(角井 2015),アサガオクラゲ (角井 2022),ヤマトウミナナフシ(Shiraki & Kakui 2022)などが知られる(後2者は飼育下での観察結果に基づく).忍路の個体群は繁殖期があり,抱卵個体の出現は5月から10月までに限られる(Kakui et al. 2017).
巣の作成には,第1-3歩脚先端から分泌する糸が用いられる.Kakui et al. (2021) は,本種の糸がカイコのフィブロイン様タンパクとトビケラのフィブロイン様タンパクを主成分とする親水性のものであることを明らかにした.
国内で得られたナミタナイス属のタナイスは,しばしば「ノルマンタナイス」と同定されているが,同和名に対応するZeuxo normaniはアメリカ西岸にタイプ産地を持つ種であり,おそらく日本には分布していないものと思われる.
Zeuxo molybi Okamoto and Kakui, 2022
和名:エンピツナミタナイス
備考:千葉県鴨川市小湊をタイプ産地とする.潮間帯の岩盤上に溜まった泥の中から採集される.負の走光性を示す(Okamoto & Kakui 2023).背甲の背面の模様がエンピツの先に見えたことから,エンピツを意味するギリシャ語molybiを種小名とした.写真は左がメス,右がオス.
日本各地から同様の背甲模様の個体が採集されている(たとえばShiino 1951a:Anatanais normaniとして)が,同種かどうかは不明.
Superfamily Paratanaoidea
Family Agathotanaidae(クビレタナイス科)
Agathotanais toyoshioae Kakui and Kohtsuka, 2015
和名:トヨシオクビレタナイス
備考:クビレタナイス科はハサミが頭胸部の腹側に接続する数少ないParatanaoideaの科である.多くの種(のメス)は第6胸節の幅より明らかに細い腹部を有する(「クビレ」の由来).クビレタナイス属Agathotanaisは,第2触角が”退化的”(1節(稀に2節)のみからなる)である点で,他のクビレタナイス科の属から区別できる.
本種は玄界灘をタイプ産地とする種である.オスはまだ報告されていない.オーストラリア東岸から記載されたA. spinipoda Larsen, 1999 に非常によく似るが,歩脚の装飾の違いなどで区別できる(Kakui & Kohtsuka 2015).
原記載論文中では言及していないが,論文出版後に得られた複数個体の観察結果からは,第1,5腹節が第2, 3, 4腹節より幅広であることも,本種の安定した形態的特徴であると考えられる(角井 未発表).
多くの同属他種が深海性(最深はA. hadalis Larsen, 2007 の水深5733 m)であるなか,本種は水深100 m以浅より採集される比較的浅海性の種である.
Family Tanaopsidae
Tanaopsis japonica Kakui and Shimada, 2017
和名:なし
備考:Tanaopsidaeは1属(Tanaopsis)のみからなる.本科はメスが第1歩脚の底節に前方突起を持つこと,ハサミの固定指に二叉型突起を持つことで特徴づけられる.
本種は北海道沿岸の浅海域より記載された.潮間帯のスガモ類の根元から採集されるが,あまり個体数は多くない.もう少し深い潮下帯が主たる生息水深である可能性がある.
走査型電子顕微鏡を用いた研究により,本種の第1触角,第2触角,ハサミの上には,複数の隆起列が確認されている.他の動物群との比較から,摩擦音器の可能性や,掘削行動に関係する形態である可能性が提唱されているが(Kakui & Shimada 2017),正確な機能についてはまだわかっていない.
Family Leptocheliidae(ホソツメタナイス科)
Chondrochelia sublitoralis Sato, Arakawa, and Kakui, 2023
和名:ツツソデタナイス
備考:ホソツメタナイス科は浅海域に多産する一群で,国内だと特に南日本でよく採集される.しかし分類は一部グループを除き非常に難しい.その要因として性転換に起因したオス多型の存在,メスの種間形態差の小ささなどが挙げられる.
本種は熊野灘の113–185 mより記載された.Chondrocheliaに属する種としてはかなり深い場所から得られる種である.熊野灘の同水深帯には複数種のホソツメタナイス類が出現するが(角井 未発表),比較的大型で長い触角を持つ種は本種と考えて良い.メスは第1触角の節数に種内変異がある(大型個体で1節増える)(Sato et al. 2023).和名のツツソデは,本種の鋏脚腕節が筒状を呈することに由来する.写真は左がオス,右がメス.
寄生性カイアシ類のRhizorhina ohtsukai Kakui, 2016(二コテ科)の宿主である(Kakui 2016; 当時はLeptochelia sp.と同定されている).
Makassaritanais itoi (Ishimaru, 1985)
和名:イトウホソツメタナイス
備考:本種は北海道忍路湾から記載された.メスからオスへの性転換を行う雌性先熟型の隣接的雌雄同体種(Ishimaru 1985; Kakui 2025).右の写真は,飼育下で単離飼育を行ったメス(左)が性転換したオス(右),つまり同一個体の写真である.砂の中に棲管を形成してその中で生活する(Kakui 2025).