「タナイス」の由来は?


タナイス(Tanais)という名前は,ロシアのドン川の旧名に由来するとされることが多いですが(cf. Gove 1981),今のところ,それが正しいのか私は判断できていません.

Latreille (1831: p. 403) は,Tanais属がM. Milne-Edwards により設立されたと記述しています.一方,Sieg (1983: p. 262) は,Audouin & Milne-Edwards (1829)* 内でフランス語地方名として出現したのが始まりで,その後のMilne-Edwards (1830) 内の「Tanais」は無効名(nomen nudum),短い判別文(形の特徴を示した文)も付記したLatreille (1831) を,Tanaisの典拠とみなしているようです.これらの論文には由来に関する記述はないため,Tanaisは設立時に何に由来するのか言われていないことになります.

ここで,ドン川の旧名がタナイスであることについて見てみます.全く詳しくないのですが,ギリシア神話にはポタモイという川の神様たちがいて,そのうちの一人に「Tanais」というのがいるようです(Grant 1960).そしてTanaisは東スキタイ(現在のロシアの一部)の川の神であり,彼の川は今はドンと呼ばれているとのこと(Atsma 2011).

Tanais属設立時に由来が言明されていないこと,ドン川の旧名Tanaisがギリシア神話の川の神の名に由来すること.以上のことから私は今のところ,Tanais属は,川の神の名に由来してつけられたのではないかと考えています.Tanais属とドン川は,それぞれ独立にTanaisという川の神の名前に由来する,というものです.これはギリシア神話の神の名前が使われている分類群が少なくないことからも,そうなんじゃないかなぁと考えています.

まぁ,確証もありませんし,そうだとしてあまり大きく違わないのですが,「もしかしたら」のお話まで.

*: Audouin (1829) としてreferences中には載せてあります.