「古代魚(こだいぎょ)」は学術的に厳密に定義された用語ではありませんが、古い時代に栄えた魚類の特徴を現在に色濃く残した魚を指す言葉です。いわば『生きた化石』や『遺存種』と呼ばれる生物のうち「魚」であるものを「古代魚」と呼びます。
肉鰭類の魚のハイギョやシーラカンスに限らず、条鰭類の魚類の古い系統(ポリプテルス、アミア、チョウザメ、ガーなど)も「古代魚」に含めます。
現在、世界中で大いに繁栄している真骨類(一般的な魚)や板鰓類(サメやエイ)の大半の種については、通常は「古代魚」と呼ばれませんが、真骨類のなかでも最も古いとされるアロワナ類の系統は「古代魚」と呼ばれることも多々あります。
:ハイギョ、シーラカンス
このうちポリプテルスを除いた3者(チョウザメ、ガー、アミア)は単系統であるとの説もあります。
:ポリプテルス、チョウザメ、ガー、アミア
:アロワナ、ヘテロティス、ピラルク、ムーンアイ、モルミルス、ナイフフィシュ等
(モルミルス類は約200種います。現在の種類が多く、繁栄しているため、「古代魚」から除外されることもあります)
*ちなみに「古代魚」に相当する英語の1つは「Archaic Fishes」です。南米肺魚の研究で著名なグラハム・カーの1932年の論文に“Archaic Fishes - Lepidosiren, Protopterus Polypterus - and Their Bearing Upon Problems of Vertebrate Morphology”があり、「古代魚」としてレピドシレン、プロトプテルス、ポリプテルスが掲げられています。
◆external gill filaments(”鰓外線維”)を持つものがある。
内鰓から糸状に伸び、体外へと展開した物。サメの胚に見られる酸素・栄養吸収のための器官。硬骨魚では、チョウザメ、ヘテロティス、ジムナーカスでのみ確認されている。
※過去、ポリプテルス、チョウザメ、ガー、アミアが「硬鱗魚類」(ガノイドフィッシュ)として分類されていた。
アミアは肺呼吸をすることができます。ガーやチョウザメと共に、条鰭類の中ではポリプテルスに次いで古い系統とされています。北米に生息する一属一種のみの魚です。A・ガーデンは英国の北米植民地(後のアメリカ合衆国)に暮らし、数多くの北米の動植物標本を収集し、欧州へと送りました。その1つに分類学の父リンネに送った“mudfish”があり、1766年の『自然の体系』12版にアミア・カルヴァとして記載されました。
※ちなみに肺魚のことも“mudfish”として呼称した時代もあるため、注意が必要です。
北米・中米に生息する、ワニのような口が特徴的な古代魚です。ガーも肺呼吸をすることができる魚です。1758年の『自然の体系』第10版に、リンネがロングノーズガー(現在 Lepisosteus osseus )を Esox osseus として記載しました。当初これを北米と“アジア”に生息するとしており(実際にはアジアにガーはいない)、明らかにパイク(カワカマス)との混同が見られました。分類上も当時はパイクとガーが共に Esox属 とされていました。後に両者は別物であることが明らかとなり、ガーに関しては Lepisosteus として分離されました。「ガーパイク」という通称は、その外見がパイクと類似していることによります。現在はアトラクトステウス属に3種、レピソステウス属に4種として、まとめられています。
【アロワナ上目】
アロワナ目
・・・・・アロワナ科(ヘテロティス亜科、アロワナ亜科)
・・・・・ナギナタナマズ科
・・・・・ギムナルクス科
・・・・・モルミルス科
ヒオドン目
・・・・・ヒオドン科
ヘテロティス(ナイルアロワナ)
2011年、ガンビアのバンサング(ガンビア川中流)の市場で撮影
成長すると約1mになります。南米のピラルク Arapaima gigas (Schinz, 1822)と近縁。元々は、東アフリカのナイル流域から西アフリカのセネガル地方にかけて東西に広く分布していたましたが、人為的に中央アフリカ地域へも導入された結果、さらに南方へと分布が拡大しました。プランクトン食。ジムナーカスやチョウザメと共に、硬骨魚の中で幼生がexternal gill filaments(”鰓外線維”)を持つ数少ない例です。
1829年にドイツ人の探検家で自然史学者のルペル(ルッペル)Rüppell がナイル探検で得た標本を Sudis niloticus として報告し、また、キュヴィエ(Cuvier)がセネガル標本を Sudis adansonii として報告しました。1847年には、S. adansonii は H. adansoni として、新種 H. ehrenbergii とともに新属 Heterotis属へと再分類されました。
Heterotis adansoni Valenciennes, 1847
Heterotis ehrenbergii Valenciennes, 1847
(Cuvier, G. and A. Valenciennes, 1847.Histoire naturelle des poissons. Tome dix-neuvième. P. Bertrand, Paris. 544 p.)
後に東・西アフリカの各種は、全て単一種の H. niloticus とされました。
Heterotis niloticus (Cuvier, 1829)
※ルペル(Rüppell, W. P. E. S., 1829-35)は、1822年に、近代の欧州人の探検家として初めてアカバ湾に到達した人物です。翌年にはナイル上流を探検し、1825年カイロに帰還しました。1827年に欧州に戻った後、再びアフリカ探検に向かい、欧州の自然史学者として初めてエチオピアに到達しました。
“ジムナーカス”は英語式の読み方です。ラテン式の読み方で“ギムナルクス”とも呼ばれています。アロワナ目ギムナルクス科。微弱な電流を発生させ、周囲の様子を把握することができます。
Gymnarchus niloticus Cuvier, 1829
ヘテロティスやチョウザメと共に、硬骨魚の中で幼生がexternal gill filaments(”鰓外線維”)を持つ数少ない例です。
モルミルス科は約200種を含み、現在大いに繁栄しているグループのため、アロワナ目にもかかわらず「古代魚」として扱われないこともあります。微弱な電流を発生させ、周囲の様子を把握することができます。
食用魚として売られているモルミルスの仲間
2015年、タンザニアのモロゴロ近郊の漁村で撮影
北米に分布するアロワナ上目ヒオドン目(1科1属2種)の淡水魚。
ムーンアイ
Hiodon tergisus Lesueur, 1818
ゴールドアイ
Hiodon alosoides (Rafinesque, 1819)
ファレオダス
Phareodus encaustus (Cope, 1871)
ワイオミング州グリーンリバー層(始新世)