現在生きているハイギョは、3属6種に分類されます。
・・・レピドシレン属(ミナミアメリカハイギョ)・・・1種
・・・プロトプテルス属(アフリカハイギョ)・・・4種
・・・ネオケラトドゥス属(オーストラリアハイギョ)・・・1種
レピドシレン・パラドクサの成体(2016年筆者飼育個体)
アマゾン川流域やラプラタ川流域など南米に生息するハイギョです。長細いウナギ型の体型とヒモ状の対鰭など、アフリカハイギョとよく似た姿をしています。繁殖期のオスの腹鰭には細かな繊毛が生じ、卵や稚魚に酸素を供給します。
小さなうちは黒地に黄色い斑点がありますが、これは成長とともに消え、最終的に全体が暗灰色になります。
プロトプテルス・アネクテンス・アネクテンス、成体(2011年、筆者、ガンビアにて撮影)
同上
西アフリカ諸国から東はスーダン周辺国にまで広域に分布する中型のアフリカハイギョです。1748年から1754年までセネガンビア(セネガル・ガンビア地方)に滞在していたアダンソンによって最初の標本が採集され、現地呼称の『トバル』という名で記録されていましたが、その重要性は認識されず、1855年のカステルノの報告によって再評価されました。
アダンソンの標本が再評価されるまえに、1835年にガンビア川中流のマッカーシー島でウィアーが入手したハイギョの標本が、オーウェンによって1837年に報告(1839年に再報告)されたため、最終的にオーウェンの命名した『アネクテンス』と現在呼ばれています。(当初はプロトプテルス・アンギリフォルミス、再報告でレピドシレン・アネクテンスとされました)
アダンソンはリンネ式のラテン語の命名ではなく現地呼称にこだわっていたようです。そのため彼が発見し、命名した様々な動植物の種の名称の多くが、後に別の学者によってリンネ式の命名法で上書きされて消えてしまいました。
著者が2011年にガンビアに旅行した際、地域言語のひとつに当時と同じ『トバル』が肺魚を指す言葉として現在も使用されていることを確認しました。
コンゴ川の上流、現在のコンゴ民主共和国の南部で採集された中型のアフリカハイギョのアネクテンスを、ベルギーの魚類調査をしていたポールが亜種として分類したものです。
その以前から周辺地域(タンザニア南東部、ザンビア、ジンバブエ、モザンビーク)にアネクテンスが分布することが知られているので、それらも同じ亜種に属するものと推測はされるものの、半世紀近く分類学的な研究は行われておらず、アネクテンスの地域ごとの個体群の系統関係は全く分かっていない状況です。
東アフリカ(ケニアやソマリア)に分布する小型のアフリカハイギョです。肺魚の中で、一番太くて短い種類です。
ペータースによってモザンビークのケリマネで発見された「リノクリプティス・アンフィビア」は、それをアネクテンスとする見解や、一部を分けて別の種とする見解などが出されるという複雑な歴史的経緯をたどりました。後に、ケニアで小型の肺魚が発見された際に同一の種であると判断されたため、現在のケニアの小型肺魚がアンフィビウスと呼称されています。アンフィビウスに関する分類学上の問題は未だ解決されていません。
ナイル川上流域(南スーダン、ウガンダ、タンザニアなど)に分布する大型のアフリカハイギョ。
模様が強く出た際、灰色の下地に白く縁取りされた黒い斑点が入る個体が多く見られます。
体長は最大で約2m。現在は大型個体が減少し、最大1.8m程度。
プロトプテルス・エチオピクス・コンギクス(2019年コンゴ民主共和国にて撮影:古明地)
※横にいるのはプロトプテルス・ドロイ
コンゴ水系に分布する大型のアフリカハイギョで、エチオピクスの亜種。
若い個体にくっきりと綺麗な亀甲型(キリン模様)が現れるものが多いとされます。
大きさは最大で1.5m程度で、基亜種のエチオピクス(2m)のサイズには達しないものと考えられています。
コンゴ川最下流地域に分布する大型のアフリカハイギョで、エチオピクスの亜種とされます。
記載論文の図を基に細かな不明瞭な模様が特徴といわれていますが、体色を薄くした状態をスケッチした可能性も考えられるため別の状況下で濃く模様を見せた場合の外見は全く異なる可能性があります。メスメケルシーが実際どんなプロトプテルスなのかは、半世紀近く誰も実態を明らかにすることができていない状況です。
コンゴ川本流には滝が2か所あり、3つの水域に分けることができます。最後の滝を下ったエリアの魚は、他地域の同系統の魚とは異なる形質を持つものが多いことが知られています。エチオピクスの地域ごとの差異にも地理的な隔離が関係しているのかもしれません。
2002
2003
2003
2012
2016
上から、2002年4月、2003年1月。2003年某月90cm水槽に移動。2012年3月。2016年9月。プロトプテルス・ドロイ(筆者自宅にて)同一個体。
コンゴ川、オゴウェ川流域などに分布する細長いアフリカハイギョです。
約90cmに成長します。
現地では食用にされています。筆者が2019年にコンゴ川を中流から下流まで旅行した際、その沿岸の町ではどこでも売られていました。流域の広い地域に分布し、一般的な食用魚として流通している魚であることが感じられました。
他のプロトプテルスと同様に土の中で夏眠をします。
「ネオセラトダス」「ネオセラトーダス」とも。通称「ネオケラ」。
オーストラリアに生息するハイギョです。
大きなウロコと、オール型のヒレが特徴のハイギョです。
絶滅した肺魚のケラトドゥス(セラトダス)に似ています。
ネオケラトドゥスの幼若個体(2017年、自宅にて撮影)
ネオケラトドゥスの成熟個体(2004年、名古屋水族館にて撮影)
オーストラリアでは、希少動物のため保護の対象とされています。商取引に関してもワシントン条約で規制されていますが、養殖されているものについては識別チップを埋め込まれた状態で日本へ輸入されているため、熱帯魚店で購入することができます。
唯一夏眠ができない肺魚ですが、乾燥させなければ水から出しても数週間は生きられることが知られています。汽船の時代にオーストラリアの研究者のオコナーが輸送に関する研究を行い、実際にオーストラリアから船でロンドンまで生きたまま輸送することに成功しています。
デボン紀から現在までにハイギョは約280種いましたが、その大半が絶滅しました。
【デボン紀】
・ディアボレピス Diabolepis
・ウラノロフス Uranolophus
・ディプテルス Dipterus
・ディプノリンクス Dipnorhynchus
・グリフォグナトゥス Griphognathus 口の形がくちばしのような形をしているのが特徴です
・スカウメナキア Scaumenacia 背びれが大きいのが特徴です
カナダ、ケベック州のミグアシャで発見されたデボン紀の肺魚のスカウメナキアは、1881年Whiteavesの論文記載の当初はファネロプレウロン属の新種とされていましたが、背鰭の違いなどからR.H.Traquairが1893年に現在の属に分類し直しました。名称は当地の浜辺の名前Scaumenac Bayに因んだものです。
ミグアシャ国立公園は、幾つものデボン紀の肉鰭類が発見された場所として知られ、現在では世界遺産にも登録されています。化石の産出は既に1842年にゲスナー(A.Gesner)が確認していたのですが、注目されるようになったのは30年以上後の1879年のW.Ellsによる再発見以降です。
ちなみに、ミグアシャで化石を発見したゲスナーは、もともとその周辺のエリアで石炭の探査を行っていました(石炭自体も植物の化石です)。石炭の研究から彼は、ランプ用の油としてケロシン(灯油)を開発・普及させました。後に石油からも製造されるようになり、次第に鯨油にとって代わることとなり、ランプ用の捕鯨が終焉を迎えることとなりました。
1880年夏、2ヶ月半に渡ってA.H.Foordが数多くの化石魚類をミグアシャで発掘し、その標本群はオタワのJ.F.Whiteavesに送られました。1881年のWhiteavesによる報告は、特にユーステノプテロンの記載で著名ですが、肺魚の新種(後の「スカウメナキア」)もこの時に記載されました。
幅広の背びれが特徴です。
・リノディプテルス Rhinodipterus
リノディプテルスの化石(ドイツ産.筆者所蔵)
デボン紀の海に生息していた肺魚です。
【石炭紀】
・ウロネムス Uronemus
【三畳紀~白亜紀】
・ケラトドゥス Ceratodus (英語式には「セラトーダス」「セラトダス」)
ケラトドゥス(セラトダス)の化石(モロッコ産.筆者所蔵)
太い顎の骨の上に分厚い歯板が付いています。
ケラトドゥス(セラトダス)は現在のオーストラリアハイギョ(ネオケラトドゥス)に近い系統です。