肺魚には、歯板、肉鰭、肺、外鰓、螺旋腸などの、特徴的な体の構造が見られます。
ハイギョの持つ特徴のひとつが板状の歯の「歯板」です。しかし同じ歯板とはいっても、レピドシレン類とケラトドゥス類では形状が全く異なります。
レピドシレン科の歯板は、鋭く、カミソリのような形状です。獲物を噛み切ることができます。
すばやく吸いつくような噛みつき攻撃で獲物を捕らえます。獲物を口に捕えたあとは、もぐもぐと咀嚼しながらゆっくりと口の外へ出してゆきます。その結果、獲物は鋭い歯板でミンチ状にされます。獲物が貝類場合、その貝殻はこの時に細かく砕かれます。そして一旦吐き出された獲物は、最後に一気に飲み込まれます。
大型のプロトプテルスは人の指でさえも噛み切るといわれています。
歯板はなめらかに顎の骨の延長上に形成されます。
※ちなみにこれは過去に指摘された節頸類”ディニクチス”(ダンクルオステウス)と類似する形質の一つなのですが、現在では、これらの類似は相同ではなく相似だとされています。(しかし本当に他人の空似なのでしょうか、、、)
上下の「上歯板」「下歯板」の突出した部分は、互いにうまくかみ合わせができる形になっています。「上歯板」については「翼状骨歯板」とも呼ばれ、口縁ではなく口蓋に形成される歯(口蓋歯)です。
ちなみに上あごの前方に、とても小さな円錐状の歯が2本だけ生えています。これは構造上明らかに咀嚼の役には立っていないため、感覚器官として利用している可能性があります。
エチオピクスのアゴと歯板(前関節骨に下歯板、翼状骨に上歯板)。
典型的な”板”と呼ぶのにふさわしいタイプの歯板で、多くの絶滅種にも見られます。現生種のネオケラトドゥスもこのタイプの歯板を持っています。数条の、うね状の構造が特徴です。
ハイギョの体の中で最も丈夫な部分で、同時にそれは化石として最も残りやすい事を意味します。そのため、歯板のみの化石で、種を記載されているものもあります。
ケラトドゥス類の歯板(白亜紀、モロッコ産)
絶滅種には、現生種にも見られるような歯板の構造が発達した肺魚の他に、小歯構造の発達した肺魚の一群もあります。
これに基づいて、化石肺魚は大きく2つの種類、「歯板肺魚」と「小歯肺魚」に分けられています。
レピドシレン類は2室、ケラトドゥス類は1室の肺を持ちます。体腔内の背中がわに、前後に細長く伸びています。
プロトプテルス・アンフィビウスが空気呼吸する様子(2004年、筆者、自宅にて撮影)
アフリカハイギョと南米肺魚の頭の両側には、ヒモ状の「外鰓」が発達します。
成長するにしたがって縮小あるいは消失しますが、種類によっては成長してからも残ります。
アンフィビウスが水面から顔を出したところ。
胸鰭の上に3本の外鰓が見える。
プロトプテルス・エチオピクス(幼体)の外鰓
この外鰓は水生の両生類に一般的に見られるほか、条鰭類の系統の基部に位置するポリプテルスの稚魚にもあります。内鰓(通常の魚のエラ)と共に、肺が充分に機能していない時期の呼吸を担います。
肺魚は陸上脊椎動物と同様に、鼻腔の後端が体内に開口部を持ちます。これを「内鼻孔」といいます。鼻腔の前端の体外への開口部を「外鼻孔」といいます。
※一方、多くの魚は鼻腔が体外へのみ開口しています。前方の開口部を前外鼻孔、後方の開口部を後外鼻孔といいます。
内鼻孔の進化の起源を後外鼻孔に求める説も、両者が全く別物の起源であるとの説もあります。
肺魚類と陸上脊椎動物はこの体内へと開口する鼻孔「内鼻孔」をもっているため、歴史的に「内鼻孔類」という名称が使用されてきました。
※過去、ハイギョよりシーラカンスが陸上脊椎動物に近縁だとされていた時期もあり、「内鼻孔類」にシーラカンス(内鼻孔を持たない)が含まれた時期もありました。現在ではシーラカンスを除外して1つのグループとしているものの、過去の用例との混同を避けるために内鼻孔類という用語を避ける傾向もあるようです。その場合、単純に肺魚と四足類を並べて「肺魚四足類」などと呼ばれます。
ハイギョの外鼻孔は頭部の一番先端の腹側に開いているので外から見えますが、内鼻孔は口腔内に開口しているので口を閉じていると外からは見えません。
内鼻孔は上顎を成す翼状骨のすぐ外側(口縁部と歯板の間、歯板のすぐ脇)に左右それぞれ開口します。
鼻腔はつぶれないように軟骨質の鼻殻で囲まれています。
水槽に餌を入れるとのどを小さく繰り返し膨らませて、鼻の中に水を誘導しながら嗅ぎ回る様子が観察できます。同時に、左右の胸鰭で周囲をペタペタと「手探り」して餌の存在を感知します。視界の悪い泥水でも困らないような仕組みなのかもしれません。
また、水中だけでなく空気中の臭いも感知します。繭(まゆ)を作って休眠状態にあるハイギョに対して、臭いの刺激で覚醒させる実験が知られています。
臭いで起きるなんて寝覚めが悪そうですね。
プロトプテルス・ドロイの吻端(腹側)に左右1対の外鼻孔が見えます
内鼻孔は口の中にあるので、外からは見えません
私たちの手足に相当する、筋肉を伴った骨格のある鰭(ひれ)が四つあります。
足に相当する2本の腹鰭(はらびれ)は、人が歩くときと同じように左右交互に繰り出します。
特にレピドシレンとプロトプテルスの腹鰭はいわゆる魚のヒレっぽい形ではなく、まさに「足」と呼びたくなる形をしています。素早く動く際は体全体をくねらせて尾鰭で推進力を生み出しますが、こっそりと動く際はこの腹鰭だけで体を前に進めることができます。土の中のトンネルを進むときも、この「足」を使います。一見すると根元から先まで均一なヒモの形に見えますが、根元の後方部分は筋肉が発達すると盛り上がってふくらはぎのようになります。
胸鰭(むなびれ)は周囲を手探りするのにつかいます。移動にはあまり役立っていません。餌の匂いを感知すると、体の周囲を手探りし始めます。餌に「手」が触れた瞬間、さっと頭を向けて捕食します。体が傾いたときにバランスをとる際にも使われています。
両生類と同様に背鰭・尾鰭・臀鰭は分離せず、一枚の「尾」を形成しています。アホロートル(通称ウーパールーパー)の尾部と同じです。
この「尾」の部分に乾期の夏眠に備えて大量の脂肪を備蓄していて、ラクダのコブのような貯蔵器官としての役目を担っています。泳ぐ際には体全体をくねらせる動作とともに、推進力の発生を担っています。
ハイギョの腸は表面積を増大させるためにヒダで仕切られ、食物が螺旋状に通るようになっています。フンは垂れ流しではなく、ある一定期間は腸の中に保持されます。フンをため込む習性は、「巣穴」や「縄張り」を持つ習性と関係があるかもしれません。そして溜まったフンは「螺旋型」「葉巻型」のフンとしていっぺんに排出されます。
飼育されているハイギョは水換え直後にたまったフンをする事例も多いのですが、フンを溜めたり排泄したりする鍵が何なのかは不明です。
レピドシレン科(レピドシレンとプロトプテルス)のハイギョの左右の腰帯の要素(骨盤のうち背骨以外のところに相当)は分かれておらず中央で一体化して前後に伸びているため、その間を腸が通る構造はとれず、左右のどちらかに総排出孔が開いています。
一方、ネオケラトドゥスの総排出孔は正中線上にあります。
ハイギョは陸上で刺激を受けると「キュ」「ギュ」というような音を発します。
鰓(えら)や胸鰭(むなびれ)のある位置の腹側、見た目のイメージとしては”喉元”のあたりに心臓があります。全体を白い丈夫な膜で包まれています。2心前房、1心房、1心室の構造をとっています。ただし心室の中央にヒダがあり、左右をゆるく分けています。肺循環と体循環を分ける構造の原型だと考えられています。
腸壁に埋没した形で存在しています。
腹腔後半の背側の左右に、前後に長い腎臓をもっています。
腹腔の前半分の空間は大きな肝臓で占められています。(後ろ半分は螺旋腸が占めています。)
暗赤色の肝臓の表面に、黒い腹巻か帯のように見える部分が胆嚢です。
螺旋腸よりすぐ前方の位置で腸を包む膜に埋まって存在する、黒っぽい球状の器官です。