肺魚の話題
読者の方からのご質問や、その他ハイギョに関するさまざまな話題をとりあげました。
タンザニア
肺魚の歩行
メアリー川のダム建設と反対運動
ヴィクトリア湖の水銀汚染
BBCのプロトプテルス映像
NHKのレピドシレン映像とプロトプテルス映像
ナショナルジオグラフィックのプロトプテルス映像
アニマルプラネットのプロトプテルス映像
最大のケラトドゥス
肺魚を題材にした作品
・ タンザニア
魚類から四足類への進化を考えるの上で重要な地位を占めるハイギョとシーラカンスとポリプテルスの3者の全てが生息する国はタンザニアとケニアのみです。
また、アフリカ大地溝帯の3大湖、ヴィクトリア湖、タンガニーカ湖、ニャサ湖(マラウイ湖)の全てに面している国はタンザニアだけです。
それらの湖を水源の一つとして、アフリカ四大河川のうちの3つ(ナイル川、コンゴ川、ザンベジ川)があり、それぞれアフリカ大陸を囲む別々の海洋、すなわち地中海、大西洋、インド洋へと注いでいます。(ちなみに四大河川のうちタンザニアに接続していないのはニジェール川です。)
・肺魚の歩行
肺魚は水底を二本の腹鰭(はらびれ)で、直立二足歩行ならぬ「腹這い二足歩行」をします。この肺魚の歩行に関して、2011年12月にPNASに掲載された論文(http://t.co/b7QHSDBK)があり、ニュース媒体でも取り上げられました。
上の論文では足の運びがプロットされています。これが足跡化石になった場合にどのようになるかという古生物学的な視点の観察であったことが読みとれます。
しかし、歩行の持つ四足類への進化を考えるの上での意義の部分が強調され過ぎたためか、ニュース媒体では「肺魚が歩くこと自体」があたかも新発見であるかのように誤解されてしまったようです。そんな「歩く魚」自体が、新たに発見されたものであると誤解する人も生じかねないと感じました。
歩行もしくは陸上動物のそれに類似する腹鰭の運用それ自体は、19世紀から知られていた事実で、それ以降の21世紀の今日現在までに肺魚に接したしてきた数多くの人々にとっても周知の事実です。
例えば1888年夏にガンビアから繭の状態で生きたまま輸送された肺魚を、フライブルク大学の解剖学教室のR.Wiedersheim教授(人体の痕跡器官について記した事で著名)が入手し、彼の協力の下、W. N. Parkerが詳細の観察・分析を1892年のThe Transactions of the Royal Irish Academyに載せています。この報告の中でも、歩行に類似する肺魚の腹鰭のはこびについて既に言及しています。この該当部分は化石肺魚研究の一里塚である1895年のルイ・ドローによる『肺魚の系統』にも丸ごと引用されているなど、関心を集めた報告であることが伺い知れます。
*ちなみに、このParkerの報告には各器官の解剖学的理解のほか飼育環境や習性、ケリマネ標本の一部を再度新種(アンフィビウス)とするシュナイデルへの異議も載せており、当時の肺魚に関する知識や現在までも続く課題点が見てとれます。また、1888年は独領東アフリカやザンジバルで活動したシュトゥールマンがモザンビークのケリマネに滞在を開始した年でもあります。翌年にかけて周辺地域の野生のアフリカハイギョを観察するとともに、プールで飼育して観察するなどの研究を行い、ハイギョに関する知識を増加させました。
・メアリー川のダム建設と反対運動
ネオケラトドゥス(オーストラリアハイギョ)は、オーストラリアのクイーンズランド州のバーネット川とメアリー川に主に生息しています(ほか、幾つかの近隣の河川)。このメアリー川に2006年、ダムの建設が計画され(トラヴェストン・ダム)、堤防部の建設が進みました。生物への影響を訴える反対派に配慮して魚道が設置されたものの、魚道を肺魚が通るのか、また、固有種のカメが水門に挟まれて甲羅を割られてしまうなどの報告が相次ぎ、数年に及ぶ反対運動や議論が続いた結果、連邦議会が計画中止を可決し、2009年には最終的な計画中止の決定がなされました(*1)。
*1:反対運動を主導した団体のサイト(www.savethemaryriver.com)やウィキペディア(http://en.wikipedia.org/wiki/Traveston_Crossing_Dam)に経緯が記述されています。
2011年1月、この地域は数十年ぶりの大洪水に遭いました。今後、再び治水重視に舵が切られる可能性もあります。
・ヴィクトリア湖の水銀汚染
現生種最大の肺魚であるプロトプテルス・エチオピクスの生息するヴィクトリア湖は、その南部にあたるタンザニアに金鉱脈があり、現在も金の採掘がおこなわれています。小規模な違法操業者がここで金の抽出のために水銀を使用しまうため、周辺や下流域のヴィクトリア湖では、水銀汚染が懸念されています。
過去には、水俣病研究の経験を生かす形で日本の研究チームがヴィクトリア湖の複数の魚種における組織別の水銀濃度の調査も行いました。
・BBCのプロトプテルス映像
(当時)BBCのデイビット・アッテンボローの「Life on Earth」(1979年,BBC)(日本ではNHKが邦題「地球に生きる」として放送)の中で、アフリカハイギョが繭から泳ぎ出る様子が放送されています。現在の地球の動植物を紹介しつつ進化の歴史を辿る番組です。Life on Earth (ウィキペディア項目リンク)
YouTubeのBBC Earth チャンネル(http://www.youtube.com/user/BBCEarth#p/search)の「動画」から、lungfishで検索すると、肺魚の動画がみられます(注:ハシビロコウに捕食されるシーンを含む)。
(数年前のBBCのコンゴ特集の際にバングウェル湿地のハイギョに関して放送された際の映像のようにも見えますが、タイトルはナイルとなっています。映像を流用している可能性やそもそもが再現映像である可能性もあるため、検証が必要かもしれません。)
また、BBC Worldwide チャンネル(http://www.youtube.com/user/BBCWorldwide#p/u)の「動画」から、lungfishで検索すると、雨の日に壁のレンガから次々と肺魚が飛びだす、有名な映像を見ることができます。
(ただしこの逸話に関してはその詳細は不明です。実際に現地で起きている現象を取材して撮影したのではなく、入念にセッティングされた再現映像である可能性もあります。)
・NHKのレピドシレン映像と、プロトプテルス(ハシビロコウによる捕食)映像
NHKスペシャル「地球大進化」(2004,NHK)の第3回「大海からの離脱 そして手が生まれた」の中で、南米肺魚(レピドシレン・パラドクサ)の映像が放送されています。
番組関連図書の「NHKスペシャル地球大進化 3 大海からの離脱」(NHK出版,2004)の中では、撮影に関するお話が紹介されています。これによると、マナウスで撮影されたとのことなので、この映像のレピドシレン・パラドクサは歴史的にはかつて一旦はレピドシレン・ギグリオリナと呼ばれたことのある集団に相当すると考えられます。
また、ハシビロコウがハイギョ(プロトプテルス・エチオピクス)を捕食する映像(ヴィクトリア湖北岸のウガンダのマバンバ湿地)は、NHKのHP(http://www.nhk.or.jp/)が提供する映像素材という形で公開されています。
・ナショナルジオグラフィックのプロトプテルス(ハシビロコウによる捕食)映像
ナショナルジオグラフィック日本語公式サイト(http://www.nationalgeographic.co.jp/)でも、ハシビロコウがハイギョを捕食する映像が公開されています。サイト内の検索欄で、「ハイギョ」と検索すると、見ることができます。
・アニマルプラネットのプロトプテルス・ドロイの映像
世界の怪物のような巨大魚を釣って紹介する、ジェレミー・ウェイドJeremy Wadeの番組に、肺魚が登場しています。「River Monsters」シーズン2の第11回(初回放送2010年5月9日) の中で、短時間ですがコンゴのドロイ(Protopterus dolloi)の成魚の映像が登場しました。これほど大きく成長したドロイは世界中どの水族館に行っても見る事はできないと思います。日付は確認できませんでしたが日本でも翻訳版が放送されていました。
→アニマルプラネット(http://animal.discovery.com/)
→Wikipedia項目「River Monsters」
※Wikipediaの一覧表ではエチオピクス(Marbled lungfish)と記入されていますが、映像からはドロイであることがわかります。
・BSジャパン『瑛太が挑む世界最長の大河ナイル』
第三回、ケニア西部バリンゴ湖のオルコクア島のシーンで「アフリカハイギョ」の字幕付きで肺魚エチオピクスが紹介されていました。見たところ1.5mを超えていそうです。
第四回、ウガンダ中部のキョーガ湖の浮き島のシーンでは、丸ごと燻製にされているティラピアの他に、開いて燻製にされているハイギョも映っていました。テロップや解説はありませんでしたが、尾鰭、腹鰭の形状や模様などからハイギョであることが特定できます。
公式ページ(http://www.bs-j.co.jp/nile/)
・最大のケラトドゥス
2010年、アメリカの博物館の収蔵標本の中から、島田准教授が、通常の約2倍のケラトドゥス歯板化石の標本を見出しました(日本の新聞でも報道されたそうです)。歯が2倍ということは、現生種が約2mなので、その2倍、つまり約4mの体長があった可能性があるとの話です。
下の写真は、筆者の所有する標準的なサイズのケラトドゥス類の歯板化石です。これと、今回発表されたものの写真とを比較して見ると、その異常なまでの大きさが理解できると思います。是非比較してみてください。
標準的なサイズ
・ハイギョを題材とした作品
◆漫画、アニメ
・「ハイギョのマヒマヒ」(1999年,とりやまあきら)
漫画家の鳥山明氏による読切漫画です。週刊少年ジャンプに特別読切”鳥山どーぶつ記”として掲載されました。
・「部長ハシビロ耕作」(2006年,蛙男商会)
サラリーマン肺魚「青山修平」の物語です。「蛙男商会アンソロジー」(2008,蛙男商会/DLE)のDVDに全13話が収録されています。
・映画「崖の上のポニョ」(宮崎駿:2008)(公式サイトhttp://www.ghibli.jp/ponyo/)
泳いでいるデボン紀の魚のうちの一つが、絶滅したハイギョ のディプノリンクスです。公式サイトの、「作品の内容の解説」の中に、画像と解説が掲載されています。(メニューからHTMLサイトに入って、目次>キーワード、でも同じ解説と画像が掲載されています。)
また、この映画のサウンドトラック、「ディプノリンクスの海へ」は、サウンドトラックCD(Joe Hisaishi, 久石譲&ワンダーシティ・オーケストラ)の23番に収録されています。
◆音楽
・「Kamongo(カモンゴ)」
タンザニアのマサイの歌手、ミスター・エッボ(Mr.Ebbo)のヒット曲。カモンゴはスワヒリ語で「肺魚」の意味です。この曲がヒットしたことにより、ハイギョ生息地以外でも「カモンゴ」の名前だけは知っているという人もいます。2011年末に亡くなりました。
◆テレビCM
学校法人 西沢学園(http://www.nishizawa.ac.jp/)のCMとして、肺魚編30sec【TVCM】、肺魚編15sec【TVCM】の動画がYouTube上に公開されています。(ユーザー2438gakuen、2012/02/03アップロード)
“空気を吸うのは人間だけじゃない。”という文字とともに、水槽のプロトプテルス・アンフィビウスが水面まで泳いで、空気を吸飲する様子が映し出されています。
◆小説
・「肺魚楼の夜」(谺健二,光文社,2008)。ミステリー小説。“壁から肺魚”の逸話を題材としているそうです。
・「悲劇週間SWMANA TRAGICA」
(矢作俊彦,短期集中連載第8回,2005)(新潮8,新潮社,2005)メキシコ革命関連の歴史小説です。話の中で“壁から肺魚”の逸話と“肺魚を薬とする”ことが出てきます。ただし、この小説描写されている肺魚に関する記述は架空のものです。
◆造形
・「立体図鑑リアルフィギュアボックス フォッシルフィッシュ (古代魚)」(カロラータ株式会社):ネオケラトドゥスのフィギュアがセットに含まれています(ほか、シーラカンスやピラルクなど)。
・「立体鑑賞図鑑シリーズ・鳥羽水族館立体コレクションPart2 ~古代の海・ジャングルワールド編~」:鳥羽水族館の監修。ネオケラトドゥスのフィギュアがセットに含まれています(ほか、ガー、オウムガイなど)。
・ハイギョのぬいぐるみ(製造:A-SHOW JAPAN,意匠:ティーエスティーアドバンス株式会社):野生型とアルビノの2種類があります。筆者は数年前に「アクア・トト・ぎふ」の売店で購入しました。
同じくティーエスティーアドバンス株式会社から、デボン紀の絶滅種のハイギョ「ディプノリンクス」のぬいぐるみが販売されています。(→ぬいぐるみ専門店、LoveJourneyのサイトから、「古代生物」のシリーズの項目にあります。)
◆切手
・タンザニアの切手:”Fishes of Lake Victoria”,Amak Nabola,Cartor Security Printing (France)。ヴィクトリア湖の魚の、学名とスワヒリ語名が書かれている切手です。ハイギョもいます。
ダルエスサラーム郵便局の裏にある郵政局で販売されていました。現在も在庫があるかどうかは不明です。
1枚紙:Oreochromis niloticus (Sato)
4枚バラ:Labeo victorianus (Ningu), Lates niloticus (Sangara), Pundamilia nyererei (Furu), Brycinus sadleri (Soga)
6枚紙・左:Haplochromis sharpsnout (Furu), Mormyrus kannume (Surasura), Synodontis afrofischen (Ngere)
6枚紙・右:Haplochromis chilotes (Furu), Clarias fariepinus (Kambale), Protopterus aethiopicus (Kambale mamba)
このほか、ウガンダ、ルワンダ、ガーナ、コートジボアールなどでも、ハイギョの切手が発行されています。