ハイギョの概要

進化:

硬い骨をもつ魚は硬骨魚類と呼ばれ、これには2つの大きなグループがあります。ひとつは大半の魚が含まれている条鰭類(じょうきるい)というグループです。もうひとつは肉質の鰭(ひれ)をもった肉鰭類(にくきるい)です。

ハイギョは約4億年前のデボン紀に現れた肉鰭類(にくきるい)の魚です。

肉鰭類の胸鰭(むなびれ)と腹鰭(はらびれ)は中心に軸となる骨格とそれをとりまく筋肉が発達しているため、まるで手足のようにみえます。実際に肉鰭類の魚から陸上動物が進化し、肉鰭類の胸鰭と腹鰭が私たちの手足に変化したと考えられています。

肉鰭類のうち陸に上がらずに現在も「魚」として生きているグループは、ハイギョとシーラカンスの2者のみです。ハイギョはシーラカンスと共に、わたしたち人類を含む四足類(陸上脊椎動物)の系統進化の歴史だけでなく、わたしたちの体の形や仕組みを知る上で重要な存在であるといえます。

過去に280種近いハイギョが出現しては絶滅していきました。特に約4億年前のデボン紀には数多くのハイギョが世界中の海や湖に生息していました。しかし海に生息するハイギョは、全て絶滅してしまいました。現在のハイギョは全て淡水に生息しています。

南米、アフリカ、オーストラリアの3大陸に、計6種のハイギョがいます。

アフリカハイギョの一種、プロトプテルス・ドロイ

腕のような胸鰭(むなひれ)の上に、外に突き出たエラ(外鰓/がいさい)が見えます

肺:

ハイギョは魚ですが、「肺魚(はいぎょ)」という名前の通り「肺」を持っていて、その肺を使って空気呼吸をします。鰓(えら)も持っているのですが、大人になった肺魚は酸素の吸収を肺に頼って生きています。

鰓(えら)呼吸に依存していないため酸素が不足した状態の水中でも死にません。さらには、水が完全に無くなっても窒息死することはありません。そのため他の魚が死んでしまう何か月も雨の降らない時期「乾期」でも生きのびることができます。

水面で空気呼吸をするアフリカハイギョのプロトプテルス・アネクテンス

アフリカハイギョは、雨期は水中生活をしていますが、乾期には地中で繭(まゆ)と呼ばれる休眠状態に入ります。これを「夏眠(かみん)」と言います。

夏眠中は生きているので、当然その肉はいつまでたっても”腐りません”。輸送に水を必要とせず防腐処理も必要ないことから、将来の宇宙開発の時代にうってつけの魚は、 もしかすると肺魚なのかもしれません。

食:

ハイギョはの主食は肉です。小魚、オタマジャクシ、カエル、エビ、巻貝などさまざまな肉を食べます。しかし時には植物も齧ります。水槽に入れた水草に、ハイギョの歯型が付いていることもあります。ガラスについた苔をはがして食べることもあります。

食欲は旺盛ですが絶食にもよく耐えることが知られています。ラクダのコブのように、尾の部分に脂肪を大量に蓄えることができます。

アフリカハイギョの一種、プロトプテルス・エチオピクス

アフリカハイギョの一種、プロトプテルス・ドロイ



ハイギョの天敵には様々な動物がいますが、その中でも特に有名なのがアフリカに生息するハシビロコウです。アフリカハイギョが呼吸のために水面に上がってきたスキを狙う、待ち伏せタイプの捕食者です。幅が広いくちばしが、ヌメっとした肺魚をしっかりくわえて逃しません。さらに空中からは魚を好んで食べる食性をもつ猛禽類、サンショクウミワシにも狙われています。

肺呼吸は酸欠や乾燥に強いという大きなメリットをもつ一方で、水面近くで捕食者に狙われやすいというデメリットがあるのです。

ハシビロコウはその大きな横幅のあるくちばしで、ウナギのように滑り抜けようとするハイギョをしっかりと挟んで捕えます

人間もハイギョを食べます。世界各地のハイギョの生息地では、昔からハイギョは食用の魚でした。

しかし、オーストラリアハイギョ(豪州肺魚、ネオケラトドゥス)については、19世紀の終わりごろから希少動物として保護されはじめ、絶滅を防ぐために近隣河川へと人為的な移殖が行われるようになり、食用に消費されることも禁止されました。

現在でもオーストラリアハイギョの捕獲と国際取引には、法的な制限があります。

モザンビークにて撮影。ハイギョの串焼き。

乾期には陸地、雨期には水浸しになる「氾濫平原」と呼ばれる地形があります。この氾濫平原にもハイギョは分布しています。氾濫平原には肥沃な土地が多いため、乾期には人が耕して畑として利用する場合が多くあります。畑を耕していると土のなかからコロッと掘り出されることがあるのが夏眠中のハイギョです。

普通の魚であれば冷蔵庫に入れなければすぐに傷んでしまいますが、ハイギョはその日の畑仕事が終わるまで服のすそにしまっておいても全く傷みません。マユの中で元気にすやすや寝ているからです。そのまま村に持ち帰り、たらいの水で「魚」の状態に戻します。

戻した後は茹でるだけでも美味しく食べられますが、市場に出荷する際には保存のために燻製にされます。串焼きにするのは、燻製にする際に取扱い易くするためのもので、そのままかぶりついて食べるわけではありません。

ハイギョは姿こそウナギに似ていますが味は全く違います。臭みも無く、身もしっかりとしているので料理にあわせやすい肉です。特に尾部は夏眠用の脂肪が大量に備蓄されているため、人気の高い部位です。

ただし注意しなければならないのは、魚肉の風味は「餌」に大きく左右されるものなので、観賞魚用の餌で飼育されたハイギョでは味は保証できません。また、水槽で飼育されている個体は野生個体よりも筋肉の発達が悪いため、その点でも食感は異なったものになるものと考えられます。


アフリカには水田にハイギョが生息している地域もあります。農作業中に誤ってハイギョをふんづけてしまうと、足にガブリとかみつきます。


観賞:

ハイギョは日本国内では食用とされることはありません。「観賞魚」として扱われています。メジャーとは言えませんが、全国の熱帯魚店に広く流通しています。「呼吸」「歩行」「捕食」などの様子が独特でユーモラスなことから、根強い人気のある魚です。

ハイギョの顔は両生類の顔に似ているので、両生類顔が好きな人はきっとハイギョも好きになることでしょう。

アフリカハイギョの一種、プロトプテルス・ドロイの食事風景