市場分析部門(優秀論文)2編
「企業の環境配慮への取り組みと信用リスク」(慶應義塾大学柳瀬典由ゼミナール2班)★『損害保険研究』への推薦
「busy directorsが企業業績に与える影響」(慶應義塾大学柳瀬典由ゼミナール3班)★『生命保険論集』への推薦
問題解決部門(優秀論文)4編
「高齢者雇用の活用が企業に与える影響」(明治大学中林真理子ゼミナール2班)★『生命保険論集』への推薦
「組み込み型保険の現状分析と新保険の提案について」(明治大学中林真理子ゼミナール3班)
「女性の社会復帰プログラム ~就職氷河期世代を対象として~」(同志社女子大学大倉真人ゼミナール1班)
「出生率向上計画~子どもが欲しくなる社会へ~」(同志社女子大学大倉真人ゼミナール2班)
「企業の環境配慮への取り組みと信用リスク」
(慶應義塾大学柳瀬典由ゼミナール2班)
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
企業の環境配慮活動に対する投資家の評価についての研究は多数存在するのに対して、債権者の評価についての研究は少ない。環境配慮活動が信用リスクに与える影響について実証的に研究した本論文は意欲的な研究であり、問題意識は明確である。
研究方法については、標準的な実証分析の手法に基づいているが、実務家への質問など定性分析により補完している。着実かつ真摯な研究姿勢は模範的である。
最後に、環境配慮活動はコスト増となるため信用リスクが大きくなる可能性があるが、実証分析の結果、「環境配慮活動に積極的な企業は、気候関連財務情報タスクフォース(TCFD)の開示により、信用リスクが小さくなる」という仮説は支持された。とりわけ、CO2排出量が多い業種については TCFDの開示が短期的な信用リスクの低減に寄与していることが明らかになった。信用リスクの低減は将来の環境リスクの抑制をもたらす可能性があり、結論は妥当である。
本論文はコーポレート・ファイナンス研究への貢献だけでなく、環境政策の定量分析を通じてその意義や課題を明らかにしており、環境政策についても興味深い示唆を与える点で優れている。
以上、本論文は上記3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ損害保険に関連するテーマであることから、『損害保険研究』へ推薦する。掲載に向けていくつか修正すべき点が存在するが、ゼミナール担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
「高齢者雇用の活用が企業に与える影響」
(明治大学中林真理子ゼミナール2班)
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
「高齢者雇用の拡大が若年層の雇用機会を減少させる可能性があるのではないか」との問いを立て、新規学卒採用者と高齢者雇用の関係について分析・考察を行っている。問題意識は明確である。また、高齢化と人手不足が進行するなかでの研究は、時機にかなっている。
研究方法については、若年者雇用と高齢者雇用の関係を代替と補完に分け、それぞれの先行研究を整理したうえで、仮説検証型の研究を行っている。しかし、入手可能なデータの制約から、両者の間には相関が見られなかった。そこで、事例研究と企業インタビューによる定性的な分析を行っており、研究方法は適切である。
研究から導出された結論は2つある。1つは、若年者雇用と高齢者雇用は代替関係ではなく、互いのスキルや価値観の交換による世代間の相乗効果を期待する補完関係である。企業にとって望ましい方向性を示しており、妥当であると評価できる。また、企業は高齢者、若年者で分けるのではなく、個人のスキルや価値観を重要視しているというもう1つの結論は、本研究の問いに対して新たな論点を提示しており、興味深い。
少子高齢化が進むなかで、若年者雇用と高齢者雇用に課題を抱えている企業にとって、本研究が指摘する戦略的雇用の重要性は示唆に富む。
以上、本論文は上記3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ生命保険に関連するテーマであることから、『生命保険論集』へ推薦する。掲載に向けていくつか修正すべき点が存在するが、ゼミナール担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
「busy directorsが企業業績に与える影響」
(慶應義塾大学柳瀬典由ゼミナール3班)
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
2021 年 6 月のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、3社以上の社外役員を兼務する取締役 (busy directors)が企業業績に与える影響を検証した本研究は、問題意識が明確であるとともに、海外では多くの研究が存在するものの、日本ではあまり多くないため、有意義な研究である。
研究方法については、有価証券報告書により、社外取締役・監査役の兼任状況を抽出し、また多くの海外学術論文を調査して、企業業績に正負それぞれの影響に与える研究を整理したうえで仮説を導出し、標準的な手順に従って実証分析が行われている。研究方法は適切であるだけでなく、着実で丁寧な研究姿勢は大いに評価すべきである。
実証分析の結果、 busy directors比率が大きくなると企業業績に正の影響を与えるが、 busy directors の平均年齢が高くなると負の影響を与えることが明らかになった。これは社外役員の豊富な経験と専門知識が業績の向上に貢献する一方、高齢により兼任の負担が大きくなり経営者に対するモニタリング機能が弱まり業績が低下することを表しており、妥当な結論である。この結論をふまえて、多数兼任している高齢の社外取締役の定年制を導入したり、当該取締役の業務遂行に対するチェックを強化したりすべきとの提言は説得力がある。
以上、本論文は上記3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ生命保険に関連するテーマであることから、『生命保険論集』へ推薦する。掲載に向けていくつか修正すべき点が存在するが、ゼミナール担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
審査委員長 岡田太 (日本大学)
鴻上喜芳 (長崎県立大学)
根本篤司 (九州産業大学)
石井昌宏(上智大学)
諏澤吉彦(京都産業大学)
「農畜産物の価格変動リスクとリスク管理主体としての JA」
(慶應義塾大学柳瀬典由ゼミナール1班)
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
営農と組合員の生活を守るための組織として、JA(農業協同組合)は生産資材の共同購入や農畜産物の共同販売などの事業を実施している。農業経営に大きな影響を与える農畜産物の価格変動リスクについてもJAはリスク管理を行い、価格の安定に貢献しているのだろうか。本論文はこれまであまり研究されていない価格リスク管理におけるJAの役割に着目し、定性的・定量的な調査を通じて、リスク管理の主体を明らかにする意欲的な研究であり、問題意識は明確である。
研究方法についての特徴は、先行研究の文献調査、北海道十勝帯広地区で行った実地調査と定量的な分析を組み合わせて取り組んでいる点である。先行研究が少ないため、フィールドワークを積極的な行い、3つの仮説を導出している。さらに、データベースも独自に作成している。研究方法・手続き自体は標準的であり適切であると考えられるが、真摯に取り組む研究姿勢は高く評価すべきである。
最後に、「JAの影響度が大きくなるほど、農畜産物の価格変動幅が小さくなる」という仮説について、一部の品目(野菜と果実)についてはJAが積極的に価格変動リスクを管理していることが実証され、他の品目については輸入依存度や政府の価格政策になどにより価格変動の影響を受けることが確認されており、結論は妥当である。
これまで政府の農畜産物の価格政策が一定の役割を果たしてきたことは知られているが、本論文は定量分析を通じて明らかにした点に大きな意義があり、政府の価格政策にも示唆を与える点でも優れている。
以上、本論文は上記3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ損害保険に関連するテーマであることから、『損害保険研究』へ推薦する。掲載に向けていくつか修正すべき点が存在するが、ゼミナール担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
審査委員長 岡田太 (日本大学)
鴻上喜芳 (長崎県立大学)
根本篤司 (九州産業大学)
石井昌宏(上智大学)
諏澤吉彦(京都産業大学)
「企業のリスクとBCPの策定要因」
(慶應義塾大学柳瀬典由ゼミナール2班)
『生命保険論集』第223号(2023年6月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
近年大規模自然災害等の脅威が高まっているにもかかわらず、政府の目標と比べて企業の事業継続計画(BCP)の導入が遅れているのはなぜか。BCP策定企業は、災害からの復旧期間が短くなる傾向がみられることから、BCPの普及は重要な課題である。慶應大柳瀬ゼミの論文はこれらの企業の特徴を明らかにし、それをふまえてBCP普及に向けての有効な施策を提言するもので、問題意識は明確である。
次に、研究方法は標準的な分析研究の手続きに沿って丁寧に進められており、適切である。具体的には、「企業規模」「収益性」「成長機会」「コーポレートガバナンス」がBCPの策定に影響を与えるかについて重回帰分析により検証した。これらのうち「収益性」を除く3つについてBCPの策定との間に有意な正の相関があった。さらに、「ガバナンス」については「機関投資家持株比率」と「社外取締役比率」の交差項を説明変数とする独自の仮説検証を試みた。その結果、両方の比率が高い企業ほど、BCPを策定する傾向が強いことを明らかにした。さらに、企業のリスクマネジャーにインタビュー調査を行い、定量分析を補完している点も評価できる。
最後に、結論について実証分析とその解釈は妥当である。また、それをふまえて、「金融機関によるリスクマネジメント支援サービスの拡充」と「リスクマネジメント(コスト)に関する情報開示の充実・義務化」を提言している。前者は中小企業への支援、後者は外部のモニタリング機能の強化である。
以上、本論文は上記の3つの基準をすべて満たしていると判断する。現在、ESG投資に代表されるようにガバナンスは企業とそのステークホルダーとの関係形成においても重要諸課題の一つに挙げられる。ガバナンスとBCPとの関連性を分析した点に大きな特徴がある本論文が、主要な機関投資家の代表である生命保険会社関係者の目に触れることには意義があると考えられる。その意味で、本論文は生命保険に関連するテーマと位置づけ、『生命保険論集』へ推薦する。なお、投稿にあたってはゼミナール担当教員が責任をもって掲載に向けて指導を行うことを付記する。
「それってあなたの思い込みですよね? ~リスク認知を用いた情報セキュリティ対策~」
(明治大学藤井陽一朗ゼミナール2班)
『損害保険研究』第85巻第2号(2023年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
近年日本企業へのサイバー攻撃が急増し、情報セキュリティ対策への関心が高まっている。それにもかかわらず、日本のサイバー保険加入率は米国と比べて極めて低い。情報漏洩の原因の7割近くがヒューマンエラーで占められていることから、情報セキュリティへの意識が低いことが大きな原因であると考えられる。明治大藤井ゼミの論文は、リスク認知の歪みに注目、実験を通じてそのゆがみを修正することで、情報セキュリティへの意識が向上することを明らかにするものであり、問題意識は明確である。
研究方法についての特徴は、実験経済学の手法を取り入れて効果測定を行っている点である。具体的には、リスク認知を歪めるまたは過少評価する要因として「楽観性(気楽さ)」について、情報セキュリティインシデントの確率を伝える教育動画を視聴した場合のほうがそうでない動画を視聴した場合と比較して「気楽さ」の程度が減少し、情報セキュリティへの意識が向上したことが確認された。これらの結果を導く研究方法・手続きは適切であると考えられる。
最後に、結論について実証分析の結果は妥当である。また、これらのエビデンスをふまえ、サイバー保険加入率を高めるための提言を行っている。1つは、情報セキュリティ教育への取り組みに対する保険料の割引である。もう1つは、情報セキュリティ教育への積極的な参加に対する福利厚生の拡充である。企業と従業員に対してインセンティブを与える保険制度の構築が求められている。
以上、本論文は上記3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ損害保険に関連するテーマであることから、『損害保険研究』へ推薦する。なお、ゼミナール担当教員が責任をもって掲載に向けて指導を行うことを付記する。
審査委員長 岡田太 (日本大学)
鴻上喜芳 (長崎県立大学)
根本篤司 (九州産業大学)
石井昌宏(上智大学)
諏澤吉彦(京都産業大学)
「生命保険会社の資産運用ポートフォリオへ影響を与える諸要因」
(上智大学石井昌宏ゼミナール)
『生命保険論集』第220号(2022年9月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
上智大石井ゼミ論文は、経営者の属性や経歴が企業の経営戦略に影響を与えるとの先行研究をふまえ、経営者の属性が生命保険会社の資産運用ポートフォリオにどのような影響を与えるのか解明することを目的としている。保険業の特性から導かれる資産運用の特徴を明確にしたうえで、実証研究を通じて仮説検証を行い、在任期間が長期化すると経営者は株式リスクを適切な水準よりも増加させる傾向があること、また内部昇任の経営者と比較すると外部招聘の経営者はよりクレジットリスクを増加させる傾向があることを明らかにした。これらの要因として、前者はエントレンチメントコストの拡大、後者は内部昇進経営者のリスクテイクの慎重さであるとしている。
以上、本論文は上記の3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ生命保険に関連するテーマであることから、『生命保険論集』へ推薦する。なお、ゼミナール担当教員が責任をもって掲載に向けて指導を行うことを付記する。
「社外取締役は企業の収益性に好ましい影響を与えるのか?~研究開発規模に着目した実証分析~」
(慶應義塾大学柳瀬典由ゼミナール1班)
『損害保険研究』第84巻第2号(2022年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点から行った。
慶應大柳瀬ゼミ論文は、コーポレートガバナンス・コードの再改訂にみられるような取締役会のモニタリング機能強化が、ガバナンス改革の目的である企業の中長期的な収益力の強化に貢献するものなのかを明らかにするために、標準的な実証研究の手順に従い、丁寧に分析と考察を行い、企業特殊的な情報が重要となるR&D活動を活発に行う企業においては社外取締役比率が高いと負の収益性を与える可能性を明らかにした。これはモニタリング機能を強化し過ぎると、ガバナンス改革本来の目的と矛盾する結果をもたらすことを示唆し、ガバナンス改革のあり方に一石を投じるものである。実証研究においても、研究開発費率と社外取締役比率の交差項の係数に注目した分析も新規性がある。
以上、本論文は上記3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ損害保険に関連するテーマであることから、『損害保険研究』へ推薦する。なお、ゼミナール担当教員が責任をもって掲載に向けて指導を行うことを付記する。
審査委員長 岡田太 (日本大学)
鴻上喜芳 (長崎県立大学)
根本篤司 (九州産業大学)
藤井陽一朗 (明治大学)
「みら iDeCo まらないために(未来で困らないために)」
(明治大学 商学部 藤井陽一朗 ゼミナール 第3班)
『生命保険論集』第215号(2021年6月発行)に掲載
「企業のリスクテイクとコーポレートガバナンス―新規セグメント情報を用いた実証分析 -」
(慶應義塾大学 商学部 柳瀬典由 ゼミナール 第2班)
『生命保険論集』第215号(2021年6月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
明治大学藤井ゼミ3班の論文「みら iDeCo まらないために(未来で困らないために)」は、加入状況が低い水準にとどまっているiDeCoの普及を推進するために、環境工学分野で広く取り入れられているフューチャー・デザインの手法を適用し、実験経済学による定量的な効果測定を行った結果、フューチャー・デザインを応用した動画のほうが既存の講義型の動画よりも高い教育効果が得られた。また、性別によるリスク認知の違いも明らかにし、行動変容を促すために実効性のある具体的な提案を行っている。
慶應義塾大学柳瀬ゼミ第2班の論文「企業のリスクテイクとコーポレートガバナンス―新規セグメント情報を用いた実証分析 -」は、諸外国と比べて低水準にあるとされる日本企業のリスクテイクを促すためにコーポレートガバナンス改革が進められているが、両者の関係について実証分析を行っている。その結果、「コーポレートガバナンスが強い企業ほど、リスクテイクに消極的である」という仮説がおおむね支持され、先行研究とは異なる結論に至ったが、近年のコーポレートガバナンス政策を批判的な立場から議論するための示唆を与えている。
以上、両論文とも3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ生命保険に関連するテーマであることから、『生命保険論集』へ推薦する。なお、ゼミナール担当教員が責任をもって掲載に向けて指導を行うことを付記する。
(上智大学 経済学部 石井昌宏 ゼミナール)
『損害保険研究』第83巻第2号(2021年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
上智大学石井ゼミの論文「地震保険に対する需要の決定要因」は、地震保険需要に影響を与える諸要因を明確にするために、5つの要因に着目し、地震保険加入率を被説明変数とする重回帰分析を行っている。結果として、持ち家率、リスク認知の代理変数としての地震発生意識などが地震保険加入率つまり地震保険需要に影響を与えていることが示された。
以上、石井ゼミ論文は3つの基準をすべて満たしていると判断し、かつ損害保険に関連するテーマであることから、『損害保険研究』へ推薦する。なお、ゼミナール担当教員が責任をもって掲載に向けて指導を行うことを付記する。
審査委員長 岡田太 (日本大学)
鴻上喜芳 (長崎県立大学)
根本篤司 (九州産業大学)
藤井陽一朗 (明治大学)
宮地朋果 (拓殖大学)
(関西大学 政策創造学部 石田成則 ゼミナール 第1班)
『生命保険論集』 第211号(2020年6月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
本論文は、「女性が活躍する社会」の構築に向けた企業主導型保育所の活性化施策について具体的に提案することに主眼が置かれており、「問題意識の明確性」について十分な水準に達していると判断できる。また本論文では、最初に既存の統計データ等を使っての現象観察を行い、次にそれを基礎としたフィールドワークを展開し、最後にアンケートを用いた分析を行っている。このような研究の進め方は適当なものであると理解できることから、「研究方法の適切性」について問題ないと判断できる。さらに本論文では「新しい機関(社会福祉協議会等)による監査体制の再構築」や「認定マークを作ること」を結論として掲げているが、これらの結論は、企業主導型保育事業への具体的な提案であると理解でき、この点から「結論の妥当性」は担保されていると評価できる。
各所に課題は残されているものの、上記論文は基準3点を満たし、さらに生命保険業界および貴誌に寄与する内容と判断したため、上記論文を『生命保険論集』へ推薦する。なお、掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
(慶応義塾大学 商学部 柳瀬典由 ゼミナール 第1班)
『損害保険研究』 第82巻2号(2020年8月発行)に掲載
(東洋大学 経営学部 佐々木寿記 ゼミナール)
『損害保険研究』 第82巻2号(2020年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
慶應義塾大学柳瀬ゼミ1班「大規模震災前後のリスクコストファイナンス分析―借入コストに注目して-」は、震災発生前後の借入コストを比較したものであり、「問題意識の明確性」について十分な水準に達していると判断できる。また本論文では実証研究が展開されているが、データの取り扱いやその手法は流儀に則したものとなっており「研究方法の適切性」は確保されていると評価できる。さらに、導出された借入コストにかかる結論についても、十分な「結論の妥当性」を有していると理解できる。
東洋大学佐々木ゼミ「同族企業経営と倒産リスクの関係」は、同族企業であるかどうかと倒産リスクとの関連性について検討した研究であり、「問題意識の明確性」について十分な水準に達していると判断できる。また本論文では実証研究が展開されているが、データの取り扱いやその手法は流儀に則したものとなっており「研究方法の適切性」は確保されていると評価できる。さらに、「同族企業は非同族企業よりも倒産リスクが低い」という結論についても、十分な「結論の妥当性」を有していると理解できる。
各所に課題は残されているものの、上記2論文は基準3点を満たし、さらに損害保険業界および貴誌に寄与する内容と判断したため、上記2論文を『損害保険研究』へ推薦する。なお、掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
審査委員長 大倉真人 (同志社女子大学)
石田成則 (関西大学)
徳常泰之 (関西大学)
上野雄史 (静岡県立大学)
石井昌宏 (上智大学)
「近年のコーポレートガバナンス改革と機関投資家としての保険会社」
(東京理科大学 経営学部 柳瀬典由 ゼミナール 第2班)
『生命保険論集』 第210号(2020年3月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
本論文では、わが国で導入されたコーポレートガバナンスコードによって、機関投資家の行動がどのように変化したかについて検証したものであり、機関投資家としての保険会社の役割変化の解明についても実施している。これらの観点から、「問題意識の明確性」については十分な水準に達していると判断できる。
次に「研究方法の適切性」の観点についても、データ検証による標準的な実証分析を丁寧に行っていることに加えて、実証分析に至るまでの現象の観察、文献レビュー(特に小林毅(2007)「機関投資家としての生命保険会社とコーポレートガバナンス」『生命保険論集』第160 号、 pp.75-88のレビュー)、仮説の設定、データの収集が時間をかけて丁寧に実施されていることなどから、十分に担保されていると評価できる。
さらに本研究における実証分析の結果として、コーポレートガバナンス改革後、保険会社による投資先企業に対するコーポレートガバナンスの効果が変容している可能性、具体的には、投資先企業の効率性への影響が確認されている。この結論は、理論的な予想とも一定程度の整合的を有していると言え、その意味において「結論の妥当性」は確保されていると言える。
各所に課題は残されているものの、上記論文は基準3点を満たし、さらに生命保険業界および貴誌に寄与する内容と判断したため、上記論文を『生命保険論集』へ推薦する。なお、掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
(東京理科大学 経営学部 柳瀬典由 ゼミナール 第1班)
『損害保険研究』 第81巻2号(2019年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
本論文は、損害保険会社における再保険需要について検討を行ったものであり、より具体的には、日本の損害保険会社の再保険の利用度に大きな差が見られる点を議論の出発点としている。このことから、「問題意識の明確性」は確保されていると理解できる。
次に、本論文では実証分析の手法が採用されているが、その手法の用い方は、以下の理由より「研究方法の適切性」を満たしていると評価できる。第1に、各種データの出所明記に不備がなく、その取扱いについて明示的に説明されている点である。第2に、使用している変数についての説明を論文の中で明示している点である。第3に、回帰方程式を論文中に示した上で、記述統計量、相関係数、実証分析結果を示すという、実証分析の正しい流儀に従った方法が展開されている点である。
本論文における結論は、(1)損害保険会社の規模が再保険需要に大きな影響を与えていること、(2)財務健全性の乏しい損害保険会社ほど再保険需要が高いこと、(3)外資系損害保険会社の方が再保険需要が高いこと、の3つである。これらの結論の多くは、再保険が「保険会社におけるリスク移転機能」を有していることを鑑みた場合、直観に合致するものであると言え、その意味において「結論の妥当性」は確保されていると評価できる。
各所に課題は残されているものの、上記論文は基準3点を満たし、さらに損害保険業界および貴誌に寄与する内容と判断したため、上記論文を『損害保険研究』へ推薦する。なお、掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
審査委員長 大倉真人 (同志社女子大学)
石田成則 (関西大学)
徳常泰之 (関西大学)
上野雄史 (静岡県立大学)
石井昌宏 (上智大学)
(上智大学 経済学部 石井昌宏 ゼミナール)
『生命保険論集』 第203号(2018年6月発行)に掲載
「イノベーションを促進する企業の健康経営~従業員の健康に配慮した職場づくりの必要性~」
(東京経済大学 経営学部 柳瀬典由ゼミナール)
『生命保険論集』 第205号(2018年12月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
上智大学石井ゼミナールの論文は、そのタイトルのとおり、生命保険需要に影響を与える諸要因について解明することを目的としたものであり、「問題意識の明確性」については十分な水準に達していると判断できる。また論文内では回帰分析が用いられており、仮説の樹立方法や変数の選択についても適当であり、「研究方法の適切性」についても問題ないと判断できる。さらに、入手可能なデータを用いての実証分析の結果、「プロモーション仮説」と「ヒューマンリソース仮説」が成立することを示しており、この点からも「結論の妥当性」は担保されていると評価できる。
東京経済大学柳瀬ゼミの論文は、企業における「従業員の多様性」「職場環境の保険的機能」がイノベーションに与える影響について分析したものであり、「問題意識の明確性」は問題ないと判断できる。また、先行研究のレビューを行った上で、問題ないデータによる回帰分析が展開されていることから、「研究方法の適切性」についても問題ないと判断できる。さらに、実証分析によって上に掲げた2つの要因がイノベーションに正の影響を与えていることを検証しているが、この実証結果は「結論の妥当性」を十分に有するものと評価できる。
各所に課題は残されているものの、上記2論文は基準3点を満たし、さらに生命保険業界および貴誌に寄与する内容と判断したため、上記2論文を『生命保険論集』へ推薦する。なお、掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
「複数の気象条件を原変数とするデリバティブとそのリスクへの適用」
(上智大学 経済学部 石井昌宏 ゼミナール)
『損害保険研究』 第80巻2号(2018年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は、「問題意識の明確性」「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
上記論文は、気象変動の影響を受けやすい米農家の収入リスク低減に寄与する天候デリバティブの開発を行うことを試みたものであり、「問題意識の明確性」については十分な水準に達していると判断できる。また本論文では、デリバティブの価格評価の方法、ペイオフの設計、収入リスク管理などのフレームワークに沿って、数ある要因の中で気温、降水量、日照時間が米の生産量に影響を与えるという分析結果から、2つの変数によって定められるペイオフを設計することを試みている。このような議論の流れを概観した場合、「研究方法の適切性」については確保されていると評価できる。さらに、導出された結論である「気温と日照時間両方をペイオフに持つ天候デリバティブを導入した方が、両指標において収入リスクを減少させることができる」という主張についても、十分な「結論の妥当性」を有していると理解することができる。
各所に課題は残されているものの、上記論文は基準3点を満たし、さらに損害保険業界および貴誌に寄与する内容と判断したため、上記論文を『損害保険研究』へ推薦する。なお、掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
審査委員長 大倉真人 (同志社女子大学)
石田成則 (関西大学)
徳常泰之 (関西大学)
上野雄史 (静岡県立大学)
中林真理子 (明治大学)
(上智大学 経済学部 石井昌宏 ゼミナール)
『生命保険論集』 第199号(2017年6月発行)に掲載
「企業の現金保有が株主価値へ与える影響 ~「保険」としての現金保有かエージェンシーコストか?~」
(東京経済大学 経営学部 柳瀬典由ゼミナール)
『生命保険論集』 第199号(2017年6月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は,「問題意識の明確性」,「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
上智大石井ゼミ論文は,保険会社の投資リスクが異なる要因を明らかにすることを目的として,既存研究を踏まえた上で,仮説検証を行っている。分析においては,主たる利害関係者である債権者,株主および経営者が及ぼす影響を探るべく,いくつかの工夫が凝らされ,また保険会社CEOのナルシスト度というユニークな視点も盛り込まれている。実務への直接的な貢献にはまだ更なる検討が必要であるが,標準的かつ適切な手法で導かれた結論には妥当性があり,業界にとっても非常に興味深い示唆を与えるものと考えられる。
東経大柳瀬ゼミ論文は,企業の現金保有の多寡によりM&Aが株価に与える影響が異なるか否かを明らかにすることを目的として,既存研究と考察を踏まえた上で,適切な手順によりデータ分析を行っている。近年,企業の現金保有が増加傾向にある現象を背景に,現金保有の理論上での意義(保険としての役割)や問題(非効率な投資)に加え,M&Aも絡めており,豊富な内容と言えよう。また,得られた結果が直近の先行研究結果と正反対であることも興味深い。
各所に課題は残されているものの,上記2論文は基準3点を満たし,さらに生命保険業界および貴誌に寄与する内容と判断したため,上記2論文を『生命保険論集』へ推薦する。なお,掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
(関西大学 政策創造学部 石田成則 ゼミナール)
『損害保険研究』 第79巻2号(2016年8月発行)に掲載
(上智大学 経済学部 竹内明香 ゼミナール)
『損害保険研究』 第79巻2号(2016年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は,「問題意識の明確性」,「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
関西大石田ゼミ論文は,自然災害が多発するわが国における効率的な支援体制の構築を目的として,まず熊本県内でのフィールドワークを行い,問題を洗い出した。そしてそれらを踏まえて,官民ネットワークをキーワードに迅速かつ具体的な支援体制を提案している。これら対策を現実に運用するためには更なる検討が必要であるが,組織や情報の問題に正面から取り組み,可能な対策を模索する姿勢は評価できる。時宜を得ている本テーマは,損害保険業界のみならず社会全体から要請されているものと考えられる。
上智大竹内ゼミ論文は,企業の買収防衛策の非継続という現象を踏まえて,市場からの評価および非継続の要因を明らかにすることを目的として,関連する先行研究を整理し,仮説検証を行っている。防衛策の非継続企業に対する市場評価の分析に加え,要因分析も行っていることから,研究内容に厚みと説得性を与えていると思われる。さらに,一連の分析は,仮説設定から考察まで適切かつ丁寧に行われており,先行研究では指摘されていなかった点も見出している。
各所に課題は残されているものの,上記2論文は基準3点を満たしていると判断したため,上記2論文を『損害保険研究』へ推薦する。なお,掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
審査委員長 石坂元一 (福岡大学)
徳常泰之 (関西大学)
大倉真人 (同志社女子大学)
諏澤吉彦 (京都産業大学)
岡田 太 (日本大学)
「保険会社の資産運用~社債が投資ポートフォリオに与える影響の検証~」
(上智大学 経済学部 石井昌宏 ゼミナール)
『生命保険論集』 第195号(2016年6月発行)に掲載
(東京経済大学 経営学部 柳瀬典由ゼミナール)
『生命保険論集』 第195号(2016年6月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は,「問題意識の明確性」,「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
上智大石井ゼミ論文は,2009年以降大手保険会社が社債投資比率を減じている要因を解明することを目的とし,仮説を立て,それらを公表データやシミュレーションによって検証している。このシミュレーションは生命保険会社を対象として実行されており,とりわけ社債比率減少と保険金支払可能性を関連付ける考察は,今後の生命保険会社の投資決定にも有益な示唆を与えている。
東経大柳瀬ゼミ論文は,M&Aの際に相互会社と株式会社間で情報開示の程度に重要な差異が認められるか否かを明らかにすることを目的とし,制度的・理論的考察を踏まえた上で,適切な手順によりデータ分析を行っている。近年の保険業界におけるM&Aそして会社形態の差異は,生命保険業界にとって関心の高い研究といえる。また,相互会社の経営者はより自己規律が必要であるとの結論は,ある程度の妥当性が認められ,業界への寄与もあろう。
各所に課題は残されているものの,上記2論文は基準3点を満たしていると判断したため,上記2本の論文を『生命保険論集』へ推薦する。なお,掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
(関西大学 政策創造学部 石田成則 ゼミナール)
『損害保険研究』 第78巻2号(2016年8月発行)に掲載
「日本の自動車保険のテレマティクス化~リスク細分型保険の是非~」
(明治大学 商学部 中林真理子 ゼミナール)
『損害保険研究』 第78巻2号(2016年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は,「問題意識の明確性」,「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
関西大石田ゼミ論文は, 地域住民の相互扶助は暮らしやすさを向上させるか否かを明らかにすることを目的とした,保険業界にとっても,また社会的にも非常に関心の高いテーマを取り上げている。この論文の検証過程においても,統計データの利用に加えて,自らがアンケート調査を実施し,実証分析を行っている。現代社会における喫緊のテーマを取り上げ,適切な枠組みで問題に取り組み,具体的な提言に至っている点で評価できる。
明治大中林ゼミ論文は, 近年,導入が相次ぐテレマティクス保険をとりあげ,今後の展開を探ることを目的とした,時宜に適った研究であるといえる。一連の検証過程においては,公表された統計データの利用に加えて,実際の走行実験を行い,保険料設定の是非に言及するなど意欲的な試みも見られる。自動車保険のあり方を大きく変える可能性のある新規保険の課題を洗い出し,可能性を明らかにしている点で評価できる。
各所に課題は残されているものの,上記2論文は基準3点を満たしていると判断したため,上記2本の論文を『損害保険研究』へ推薦する。なお,掲載に至るまでゼミ担当教員が責任をもって指導を行うことを付記する。
審査委員長 石坂元一 (福岡大学)
上野雄史 (静岡県立大学)
大倉真人 (同志社女子大学)
諏澤吉彦 (京都産業大学)
岡田 太 (日本大学)
(明治大学 商学部 中林真理子ゼミナール)
『損害保険研究』第77巻第2号(2015年8月発行)に掲載
「企業のリスクマネジメントと経営者の在任期間-「経営者リスク」とエントレンチメントコストの観点からの検証 -」
(東京経済大学 経営学部 柳瀬典由ゼミナール) - 優秀論文審査委員特別枠 -
『損害保険研究』第77巻第2号(2015年8月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は,「問題意識の明確性」,「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。
【明治大中林ゼミ】LCC(Low Cost Carrier)ビジネスがさらされている遅延リスクなどに対処するための保険のあり方を検討する,という明確な問題意識に基づく研究である。また,近年の航空業界においてはLCCの存在感は増している一方で,遅延のリスクはしばしば取りざたされ,問題意識は時宜に適っている。当該論文では,まずLCCの特徴を捉えた後に,遅延リスクの顕在化を確認し,補償保険の概要を述べている。これらを踏まえて,アンケート調査や聞き取り調査を実施し,問題意識に沿った一定の結論を得ようと試みており,方法として適切性に問題はないと考えられる。結論として,LCCの遅延リスクに対処するための遅延補償付き保険の販売だけでなく,包括契約方式を具体的に提案しており,一連の流れの中でのその妥当性は得られているとものと理解できる。保険商品化に付随する問題点がやや手薄であるなどの課題は見られるものの,基準3点を満たしていると判断したため,当該論文を『損害保険研究』へ推薦する。
【東経大柳瀬ゼミ】問題意識は,経営者の在任期間が企業業績にどのような影響を及ぼしているかを探ることにあり,極めて明確である。経営者のマネジメント能力が重要であることは明らかである一方,業績との関連性を実証的にとらえることには多くの困難が伴う。この意味で,当該論文は着眼点が鋭く,かつ目新しいと言える。そして,問題意識に基づき,適切な方法と採り,手順を踏んでいる。すなわち,背景,先行研究のレビュー,当該論文で扱われる在任期間についての整理,仮説の設定,分析方法とデータの紹介,分析結果,考察といった一定の満たすべき手順を踏んでいる。問題設定とそれに適った方法を採っている一連の流れ中での結論も適切と考えられる。再考を要する点も見られるなど課題は残しつつも,基準3点を満たしているものと判断したため,当該論文を『損害保険研究』へ推薦する。
「株主優待制度の実施動機 : 機関投資家から個人株主へ安定株主の変化」
(東京経済大学 経営学部 柳瀬典由ゼミナール)
『生命保険論集』 第191号(2015年6月発行)に掲載
<推薦理由>
審査は,「問題意識の明確性」,「研究方法の適切性」および「結論の妥当性」の3点を基準として行った。問題意識は,標題のとおり,なぜ株主優待制度が積極的に実施されているのかを探ることにあり,極めて明確である。当該論文は,この問題意識を基に展開され,満たすべき一定の研究手順を踏んでいると評価できる。すなわち,背景,いくつかの先行研究のレビュー,データや事例からの整理,仮説の設定,データ分析方法の紹介,検証結果,考察といった標準的な流れを採っている。ここでの仮説は「現経営陣の株主制度実施動機の一つに敵対的買収防衛策がある」と設定され,信頼できるソースからのデータを用いて,適切な手法を適用している。データ分析の結果から,株主優待と買収リスクに関係があると解釈することは自然であり,株主優待実施の経営的目的を買収防衛であると結論付けることも妥当である。各所に課題はあるものの,基準3点を満たしていると判断したため,当該論文を『生命保険論集』へ推薦する。
審査委員長 石坂元一 (福岡大学)
石田成則 (山口大学)
大倉真人 (長崎大学)
諏澤吉彦 (京都産業大学)
徳常泰之 (関西大学)