03C. 内受容感覚の本質「感性」

ここでは内受容感覚という観点から、感覚情報について考えてみます。

私たちの日々得られる感覚情報の大部分は、視覚情報と聴覚情報で占められています。目で文字を読み、映像を見て、耳でさまざまな話や音を聞く。直接会わなくても、コンピュータ、電話、テレビ、LINE, facetime, Skype, Zoom, Teamsさらに言えば、Youtube, Twitter, Instagram, Facebookがあればもう充分と言うヒトが中にはいるかもしれません。

しかし、得られる情報というのは、さまざまな異なる「周波数」から成り立つことを考えれば、視覚と聴覚に限定された情報だけでは、けして充分であるとは言えません。特に、芸術に関わる、創造性を必要としている人たちにとっては、得られる情報の (quantitativity) と (qualitativity)、特にに関しては、ケタ違いに低いと考えます。

私自身の体験から、一つ例を上げてみます。

NYでの留学時代の話ですが、セントラルパークに隣接するところにメトロポリタン美術館があります。その中にゴッホが描いたという本物の絵画をみたときのことでした。確か「糸杉」という絵画だったと思います。特別に私自身、絵心があるわけではなく、どちらかというと苦手な方なのですが、そんな私でも、非常に驚いた記憶があります。

ゴッホの絵画は、中学・高校の美術の教科書などでもちろん見たことがあるのですが、これは、まさしく、一方向からのカメラワークで撮られた写真からは、けしてわかりえないものでした。

実は、ゴッホの絵画は、立体だったのです!

それは、まさに、絵の具のチューブをそのまま当てて書き出したような、キャンパス上を上下(z軸方向)にうねった大変勢いある絵画。絵の具チューブの量多めという程度ではなく、何十本、いえいえ、何百本というくらいの半端ない絵の具の量、それによる半端ない絵画の分厚さ、そして、その中をえぐり取って描かれたような、立体感うんぬんというレベルではなく、まさに立体の絵画だったのです!また、3次元の中を大きくうねった筆跡に残る、絵の具の色の混ざり具合も絶妙でした。触ってはいませんが、触れるくらいの距離に顔を近づけたり、その間近で斜め横から見たり。そのゴッホの表現したい迫力を、直に感じとることができ、感動したのです。

これは、まさに、感覚器官を総動員することで得られる感動です。

感覚情報 = 異なった周波数情報



このように感覚器官を通じて、ヒトや哺乳類は、5つの感覚、視覚・聴覚・体性感覚・嗅覚・味覚を得ることができます。しかし、生理学的観点から考えると、これらの分類だけでは不十分です。感覚の種類は、さらに感覚受容器および感覚細胞の種類で分類することができます。

体性感覚に関しては、皮膚感覚をさらに触-圧覚、冷覚、温覚、痛覚の4つに分けることができ、それ以外に深部感覚と内臓感覚が存在します。また、耳にある前庭は、平衡感覚という重要な機能を有します。

ここで、感覚情報を別の視点から考えてみると、「異なった周波数情報」として表現することができます。例えば、

1)聴覚:空中を伝播する弾性波を感受すること:20 Hz - 16 kHz (音波の周波数)

2)温覚:遠赤外線(熱線)を感受すること:3 THz - 30 THz (熱線の周波数)

3)視覚:電磁波の可視光線を感受すること:405 THz - 790 THz(可視光の周波数)

となります。

もちろん、周波数として表現できない感覚情報も数多くありますが、例えば、触-圧覚や深部感覚は、空気の振動や接触による振動を感受することであり、低い周波数情報を捉えていると言うことができます。


感受範囲の周波数ギャップ


さて、上記の3つの周波数情報において、一つ、気がつくことがあります。それは、3つの感覚の感受範囲との間に、それぞれ周波数のギャップが存在することです。

この「周波数ギャップ」は、いったいどういうことでしょうか?

身体に備わった感覚器管は、あらゆる周波数範囲を網羅することで、さまざまな情報を洩れることなく獲得しているのではないのでしょうか。

あるいは、これはヒトに備わっていない能力の限界でしょうか。それとも、現在のサイエンスでは、まだわかっていないだけなのでしょうか。それらの周波数ギャップの情報感受については、実際には行われているのでしょうか。もし行われていない場合、視覚、聴覚、温覚における感受範囲の拡張は可能でしょうか。

わからないことだらけです。

聴覚と温覚の感受範囲のギャップを埋める周波数として上げられるのは、

超音波:20 kHz - 1 GHz

ミリ波:30 GHz - 300 GHz

テラヘルツ波:300 GHz - 3 THz

です。

ご存じでしょうが、この範囲の周波数ギャップを一部、埋めている動物がいます。それは、コウモリ、イルカ、一部のげっ歯類です。彼らは、超音波を発振したり感受する感覚器官を有しています。

一方、ミリ波やテラヘルツ波に関しては、感覚器官に関することは一切わかっていません。しかしながら、工学的応用が著しく、外見ではわからない封筒の中身の水分量(例えば、麻薬の水分量)を、テラヘルツ波照射によって検出できます。この観点から考えると、水分子のなんらかの変化(例えば、水分子の振動など)を感知できるような感覚器官が人体に、もし存在すれば、テラヘルツ波を感知するのも不可能ではないと言えるかもしれません。

このように周波数ギャップについて考えてみると、なぜヒトでは、進化の過程で、超音波を発し感受することができなくなった(または、もともとできない)のでしょうか。それは、特殊なトレーニングを積めば、超音波を感受できるようになるのでしょうか。例えば、イルカの調教師において、超音波領域の感度は高くなっているのでしょうか。

また、超音波に限らず、他の周波数ギャップにおいても、本当に退化しているのか、それとも、ただ我々の理解が至っていないだけなのでしょうか。さらに言えば、周波数ギャップに限らず、他の確認されていない感覚情報においても、本当に感受できていないのか、たとえ感受できていないとしても、訓練を積むことで、感受できるようになるのでしょうか。


感性を磨くこと、感性を知ること


では、ここで話を戻します。

内臓反応もしくは内受容感覚に注目するもう一つの理由とは何でしょうか。

芸術や創造性を必要とする分野、スポーツの分野、我々の科学研究の分野でもそうですが、これらのさまざまな分野の先人たちは、「感性」や「気づき」というものが大変重要であると言います。

私の尊敬する武術の師、岩間統正先生(太気拳7段教士、少林流空手最高師範、囲碁8段)は、武術の戦いは、最終的には「感性の勝負」になるとおっしゃっていました。

となりますと、感性を磨くことが大変重要となります。

では、感性を磨くとは、どういうことでしょうか。

例えば、何か透明な原石で作られた窓ガラスがあるとします。最初は汚れもあり表面も揃っていないのであまりよく透き通っていませんが、毎日毎日きれいに磨くことで、次第と外界と部屋に境目がないと感じるくらい透き通るようになる。そしてその部屋から、例えば赤外線照射、レーザー照射、テラヘルツ波照射とそれに対応するセンサーを用いることで、これまではほとんど検出できなかった特定周波数の検出ができるようになり、ただ単に目で見る視覚情報の「量」が増えるだけでなく、異なった次元からの「質」に関する情報が得られるようになり、これが識別する能力を向上させることになると言えます。

識別する能力、識別能の重要性については、こちら、情報の脳内での処理の原理原則については、こちらになります。

感性を磨くとは、すでに備わっている感覚器(透明な原石など)の感度、すなわち空間分解能と時間分解能を上げていくことです。これは感覚情報の周波数範囲を広げていくことに繋がり、これこそが、入力情報に対する識別能のレベルアップとなるものではないでしょうか。周波数範囲を広げることとは、 (qualitativity) を高めることと言い換えることができるわけです。

内臓反応と認知機能のクロストークとは、部屋(主)と外界(客)という見方をさらに発展させ、部屋の中での主客(体の中での主客)という観点に基づいたものです。このようなクロストークを理解することは、我々のもつ新しい感性の存在に気づくきっかけとなります。なぜならば、内臓反応の認知機能への効果を新しく知るとは、それを知ること自体が、すでに「情報の感受すなわち感性の範囲を拡張させていること」となるからです。知っているか知らないか、例えば、あるレストランのおいしい味を知っているか知らないか、つまり1と0とでは、話が全然違ってくるというわけです。

以上より、これらの私たちの研究は、感性という観点から考えても、大変意義のあるものであると考えます。



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