現在、日本において博士号を取得する人の数は1970 年代後半以降一貫して増加を続けており、2001 年度の学位授与数は 1 万6,183件に達しています。*1
博士号取得者が増加した背景として、例として文部科学省では以下のような点を挙げています。
「大学院に対する期待は、近年の学術研究の進展や急速な技術革新、社会・経済の高度化・複雑化、国際化、情報化等の変化等に伴いますます大きなものとなってい る。これらの時代の要請にこたえ学術研究の新しい流れを創造していくためには、大学院の質・量両面にわたる飛躍的な整備充実が最大の課題となってい る。」*2
こうした流れを受けた結果、大学院重点化が進められて博士号取得者の数は増えましたが、その「質」に関しては議論が生じています。これは、博士課程の設立目的である
「博士課程は、専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする。」*3
(下線部引用者)
ことが実際の現場では達成されていないことがその一因です。大学院での教育は、同分野の研究者として学生を育成することに主眼が置かれており、学生のアカデミアにおける研究職志向の強さとも相まって博士号取得者のキャリアパスは現在のところ、極めて限られています。
し かし、高度な知識社会が到来している中で、専門性の高い知識・技術を有する人材が社会において果たしうる・果たすべき役割についてはその重要性が増すこと はあっても、失われることはないと考えられます。実際、博士課程を卒業した後に自分の考えに基づいて違う角度から専門性を活かしてこられた方も散見されま す。高度な専門性を有した人材が自立したキャリアパスを歩むことは、社会の硬直化を防ぎ、多様性と活力を生み出す原動力の一つになると考えます。専門性と はもともと、全体に通じる普遍性を見出すための細分化の過程で生じたと考えるならば、専門性は専門性のためだけにあるのではなく、その特殊性を通して普遍 的な文脈を見抜く試みにより、更なる価値を発揮するはずです。
本サイトでは、博士課程における経験を活かしてキャリアを構築され ている方を対象にインタビューを行っています。同じ分野で研究を続けるためのロールモデルは大学院の研究室に所属していれば容易に見つかることが多くあり ます。しかし、大学院生にとって博士課程卒業後の進路に関しては、既に確立されているキャリアパス以外、普段詳しく見聞きする機会は少ない状態です。そう した方を始めとして、何らかの形で本サイトが訪問者の方にとって参考になれば幸いです。
*1:「科学技術指標―日本の科学技術の体系的分析―平成16年版」(文部科学省科学技術政策研究所、平成16年度4月)
*2: 「平成7年度我が国の文教施策」(文部科学省、平成7年)
*3:「大学院設置基準」(平成18年3月31日文部科学省令第11号)
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