(1)OOHメディアプランニングの現状
私たち生活者は多くの時間を「家の外=OOH」で過ごしている。OOHメディアといえば屋外の看板や駅のポスターを思い浮かべるが、家の外で接するすべてのものがOOHメディアになりうる。屋外に有効な看板がなければ、自社販売店の店頭やベンダーなどをメディア化することも検討する。OOHメディアをプランニングする際には、看板、ポスターといった既存の広告メディアに囚われず、まずは広い視野でターゲットの生活の流れ、購買行動の流れに沿って、考えることが重要となる。
通常我々はこの作業を「生活行動に関わる接点調査データ」(表14)や「購買行動に関わる接点調査データ」と照らし合わせながら行う。前者はターゲットが日常どういった接点(・情報源)に関わりながら生活しているか調査したデータで、性・年齢・職業といったデモグラフィック特性や、ライフスタイル・個性といったサイコグラフィック特性ごとに調査結果を引き出すことが可能になっている。後者は様々な商品カテゴリーについて調査されたデータで、購入銘柄決定に影響を及ぼす接点にどういったものがあるか分析されている。
そして有効な接点がOOHメディアで浮かび上がってきたら、その接点でどういったメッセージを投げかけるか検討する。例えば、同じ三十代男性に向けた車内の中吊り広告でも、平日であれば「ビジネス目線」のメッセージ、土日であれば「レジャーやファミリー目線」のメッセージが想定できる。また、何気なく商品の情報に接している人が見る広告と、複数の商品を具体的に比較検討している人に向けた広告とでは訴求するポイントも変わってくる。気分や状況に合わせた広告デザイン開発が、その接点、そのメディアの重要性を決定づけると言っても過言ではない。
最後にマスメディアとOOHメディアのプランニングで大きく異なる点についてひとつ触れておく。ここでは雑誌メディアのビークル選定を例にあげて比較するが、雑誌メディアではターゲットの閲読率と含有率を考慮して出稿ビークルを選定するケースが多い。含有率は高いが閲読率が低い、閲読率は高いが含有率は低い、というようなビークルが出てきて選別に悩むこともあるが、基本的には同一レベルの物差しで各ビークルを比較し、選定することができる。
OOHメディアにおいても、同様の作業が可能だ。駅や街、電車の利用率や含有率がビークルとごとに算出できる。しかし、ここに大きな相違点が存在する。東京メトロの渋谷プレミアムセットと池袋プレミアムセットは両方ともB0サイズのポスター8枚がセットとなったビークルだが、前述の作業でターゲットの接触効率が良い方のビークルを単純に選定する訳にはいかない事情がある。駅貼りセット(およびOOHメディア全般)は、どういった位置に、どういった見え方で掲出されるのかによってメディアの評価価値が大きく変わってしまう。例に上げた渋谷のセットはホームの中ほどに掲出され、池袋のセットは改札を出て屋外に向かう狭い通路の両側面に掲出される。池袋のセットが数字の対比で渋谷を上回っても、掲出位置や見え方を比較することで、その優先順位は簡単に入れ替わってしまうかもしれない。これが、OOHメディアのプランニングが他と最も大きく異なる点で、「OOHメディアのプランニングで最も重要なのは現場を知ることである」と言われる所以である。
(2)OOHメディアの今後
生活スタイルの多様化と、インターネットの普及に伴う情報流通量の著しい増加が、既存マスメディアの接触量や接触効果を低下させた。そのため我々はマスメディアを介しての画一的なコミュニケーション体系を見直し、生活導線上、購買導線上でより効果的なコミュニケーション接点を見出すよう努めている。そしてその接点を可能な限り有効活用し、より豊かなコミュニケーションを創造するよう心がけている。我々はこれを360度のコミュニケーションプランニングと呼んでいるが、このプランニングでOOHメディアがとても重宝される。マスメディアでカバーしきれない有効なタイミングを捉え、ターゲットに対して多彩なアプローチを検討できるという点が、特に評価されているようだ。かつてはオールドメディアというような例えられ方もしたOOHメディアが、ターゲットに対して新たな切り口で迫るメディアとして注目を集め始めている。
また、今後さらにOOHメディアの価値を高めるものとして、デジタルサイネージに期待が寄せられている。デジタルサイネージとは情報配信サービスソリューションで、特徴としてセンターサーバーでの集中管理、映像や情報のタイムリーな配信が挙げられる。ネットワーク化された複数のディスプレイを介して、時刻や曜日に合わせたコンテンツを放映することが容易にできることから、現在、商業施設で実験が行われたり、電車や駅に実際に設置されるなど本格的な普及が始まっている。その場にいるターゲットに対して焦点を絞ったメッセージを訴求できるのがOOHメディアの強みだが、デジタルサイネージはその強みをローコストで、よりタイムリーに、広域で実現する。